36話 魔法練習
若干長いです。
4人が前菜に、何かサーモンらしき物を混ぜたディップに野菜をつけて食べるなか、俺はひよこ豆のスープを口に運ぶ。
今日の俺のメニューはひよこ豆のスープ、ソーセージ、マッシュポテト、少し硬いパンとかなり庶民寄り。
親しみのある王になるべく、印象に残りやすい様にわざとやっていることではあるが、実を言うと下級貴族は基本こんな感じの食事だったりする。
学園では見栄を張るために豪勢な食事を頼んでいる者も、家では節制していたりする。
そして上級貴族と下級貴族ではその数は3倍以上違う。もちろん下級貴族の方が多い。
まぁ、下級貴族の方が発言力は圧倒的に弱いのだが……。
「何が狙いだ?」
兄上が端的に聞いて来た。
俺は笑顔で返す。
「私は皆さんと親しくなりたいと思っただけですよ。ただ強いて言えばモラレス君にお願いがあって来ました」
「私に??」
イバンはその黒い瞳が零れ落ちそうなほどに瞼を広げた。
「モラレス君は水の魔力だが俺と同じ様な魔法を使うだろう?それを習得した方法と経緯を教えて欲しい、もっと言うと魔法の指導をしてほしいんだ」
一応、兄上、聖女、ケビン皇太子には敬語を使うがそれ以外の生徒には普通に話す。
きょとんと俺を見た後にイバンが何かを答えようとしたところを兄上が遮った。
「却下だ。イバンは暇じゃない、ポンコツに構っている暇は無いんだ」
「お言葉ですが兄上、ポンコツはもう居ません。愛しいセイランが俺の中のポンコツを倒してくれたのでここに居るのはカイゼル・ハイドラントというグラス王国の第二王子、ただそれだけです」
「ハッ!魔法一つろくに出来ないポンコツがよく言うな!昨日の授業はなんだ??あれは私達を笑わせるためにわざとやったとでも言うのか??」
勝ち誇った様に兄上は俺を見下してくる。
でも俺はそれを良い傾向だと思ってしまう。
数年前会った兄上はここまで性格が悪くなかった。
誰にでも寛大で、完璧で、俺のことを不出来なことが羨ましいと言うことはあったが、ここまではっきりとポンコツ呼ばわりしなかった。
それはつまり、俺を敵として見ていなかったということ。
今は自分の地位を揺るがす存在として見ているからこそ蔑み、嘲る。
もしかしたら、隣の聖女が男好きなことも関係しているのかもしれない。
「わざとではなくあれが私の実力ですよ。私はそれを受け入れ、変わろうとしています。
それを兄上はポンコツと呼ぶのでしょうか?
愛しいセイランは一度の失敗で折れる者を弱者、立ち上がり、成功を収める者を強者と言っていました。
誰にでも欠点や出来ないことはあります、その事実のみでポンコツと呼ばれるならば、我々が守り慈しむべき民もそのほとんどがポンコツとなってしまいます、違いますか?」
隣のケビン皇太子がククッと笑った。
「カイゼル殿下も随分と言う様になったじゃないか、夜会であった時はセイランが子守をしているようにしか見えなかったがやっと一人歩き出来るようになったな?」
「おかげさまで、と言っておきます。それと私のことはカイゼルと呼んでください。こちらも良ければ名前でお呼びしたいのですが?」
「構わん、敬語も抜きにしてやる。その方がお前にとって都合が良いのだろう?」
ニヤニヤと尊大な笑顔で俺を試すように言ってくる。
そう、ケビン皇太子と仲の良い印象を与えれば彼に認められた者としてケビン皇太子の名声に乗っかることが出来る。ただ……。
何を考えているんだ?
かねてよりの友人の兄上を蔑ろにする言動に不信感をもってしまう。
「……ありがとう、ケビン」
「あ、あの!私も敬語は要らないです!それと私の事もリリアンって呼んでください、カイゼルって呼んでも良いですか??」
手を口元に当て、甘えたように上目遣いで見られて思わず寒気がしてしまった。
これ、もしかしてケビン皇太子が横に居なかったら闇の魔法にかかっていたのかな。
ケビン皇太子のことは好きにはなれないがその光の魔力だけはありがたいと思う。
「聖女様には恐れ入りますが今まで通りとさせていただきます。セイランに申し訳ないので」
セイランを連れて戻って来たときに余計な疑いをかけられそうなことは絶対にしない。
聖女の提案を撃沈させ、俺はイバンに向き直った。
「それでモラレス君、魔法の指導を引き受けてもらえないだろうか。私の指導をするということは私の内情を探れる、それを包み隠さずに兄上に話しても構わない。
そうすれば双方に利があるだろう?ねぇ?兄上?」
兄上は俺をじっと睨んでくるが、アスラン騎士団長に睨まれた方が数倍、いや数百倍怖い、それに比べれば兄上の睨みなどへでもない。
俺はにっこりと笑顔で返した。
「……イバンに任せよう」
兄上がポツリと言い、全員の視線がイバンにいく。
彼は無表情のままじっと俺と兄上を見比べた。
「…………承知致しました。お引き受けいたします」
「ありがとう‼‼よろしく頼むよ先生‼」
握手を求めるとイバンは渋々握手に応じてきた。
「先生は止めてください」
「じゃあ、イバンと呼んでも良いかな?私のことはカイゼルと呼んでくれ!」
「…………承知致しました」
よしよし、良い感じだな‼‼
そして放課後。
俺、イバン、ミックは校舎裏の空き地で魔法の練習をしていた。
俺が地面に手を当ててゆっくりと魔力を流し入れると土がポッコリと浮き上がる。
誰も整備していない固い土だからかボコボコと音をたてて人の形を模していき、完成する前にその体を勢いをつけて俺に追突させてきた。
「痛っ‼あークソッ!」
打ち付けられた腹が痛いし、追突された衝撃で尻餅をついてしまった。
ミックが手を差し伸ばしてくれる。
「やっぱカイゼル下手なー、魔法が合ってねぇんじゃねぇの?」
魔力の質によって使える魔法陣、合う魔法陣というのがある。
普通はその中から一番扱いやすいものを探して魔法陣を抜いて練習をするのが一般的だが。
「これが合っていないというか、他の魔法陣は全く反応しなくてコレしか出来なかったんだ」
「代替動作は加えないのですか?」
終始無言で俺の様子を見ていたイバンが言った。
「「代替動作?」」
「魔法陣を抜くときにする別の簡単な動作です、例えば……」
イバンは近くに置いていたバケツの水を指さし、軽く振った。
するとみるみるバケツから水は飛び出て小人の形になり、俺の周りを軽快に踊り始める。
「この様に簡単な動作と一緒に憶えて、魔法陣を抜くのが一般的です。ご存じ無かったので?」
無表情なイバンからは想像できない程に水の小人は楽しく、自由に踊り周る。
その様子は一人でも楽しそうだが、俺を踊りに誘っている様にも見える。
「いや、知ってはいるんだがそういう名前とは知らなかった。というかイバンの魔法は楽しいな!俺と同じ様なと言ったが全然違う!もっと独創的だ‼」
褒めるとイバンは無表情で指を弾き、水の小人を壊した。
溶けた水が土に染み込んでいく。
「……本当は何が目的なのです?私に媚びてもウィリアム殿下の情報は話しませんよ」
「んー、魔法の練習をしたいのは本当だ、俺は再来月の魔法大会で兄上に勝ちたい。それとイバンを指名したのは兄上と俺を比べて欲しいと思ったから、かな。
俺の方が王に相応しいと思うなら将来俺の側近になって欲しい」
「おい!カイゼル‼」
包み隠さずに言う俺にミックが窘める様に声を荒げるが知ったことではない。
元々こちら側に引き入れようとしている相手に、俺は駆け引きや嘘を吐くのはなんか嫌だ。
俺の、兄上に勝つという言葉にイバンは嫌悪感あらわに眉間に眉を寄せた。
「そうですか、不可能でしょうが頑張ってください」
「あぁそうする、それで俺の悪いところはどこだと思う?イバンの代替動作はどうやって作ったんだ?」
皮肉に平然と返すと彼の眉がピクリと跳ね上がった。
次の瞬間にはいつもの無表情に戻る。
「……悪いところはそこのミック・ヒンクリーの言うように魔法が合ってない様に思いますが、他が駄目なら仕方が無いでしょう。代替動作は私は何となく作りました」
「俺は行商人の奇術をするときの真似だな!」
ミックがパチン‼と指を鳴らすと視界に白いもやがかかっていき、やがて真っ白になり自分の手すら見えなくなった。
「霧!ミックも水の魔力か‼」
「そ!宰相子息様と一緒な‼」
もう一度パチンと聞こえると霧は消え、ミックが笑顔で笑いかけているのにイバンは無表情のままだ。
この二人、同じ水の魔力なのに仲良くしている姿が想像出来ないな。
イバンの代替動作もミックの代替動作も真似してやってみたがどうにもしっくり来ないし、他の動作を作ってみても上手くいかなかった。
いくつもの痣を作って帰ると、ドミニクには目を剥いたがハンナとメリーはいつものこととして俺の汚れた制服を静かに洗ってくれた。
帰ってから、オスカー小隊長が紹介してくれた騎士団を辞めた元騎士とも会った。
俺が帰るのを待っていてくれたらしく、だいぶ待たせただろうに嫌な顔一つせずに笑顔で挨拶をしてくれるオレンジ色の髪の毛に金色の瞳の青年、名をベルトルド。
平民で魔法は使えないが剣の実力は強く、何と今年の騎士団入団試験の首席合格者らしい。
本人の希望もあり、来週から護衛についてもらうことになった。
勉強も昨日今日の授業で分からないところはほとんど無く、あっても家庭教師に聞けばすぐに分かる程度。
これなら満点も狙えるのではないかという勢いだった。
あの怒涛の三か月が身になっているようで本当にありがたい。
それはいい、いいんだが……。
「う~~~~~ん」
翌朝の早朝、俺は早起きをして辞書を片手に魔法陣を書きなぐっていた。
本日は学園が休みということもあり、朝からみっちり魔法の練習をするつもりでまずは念のため土の属性を持つ魔法陣を色々と描いているが上手くいかない。
どれだけ書き散らしてもしっくりくるものがない。
というか、ゴーレムの魔法陣以外発動すらしない。
試しに別の属性の物もやってみたが、発動しない。
「おはようございます。寝ていないのですか?」
既にドミニクの出勤時間になっていたらしく、俺が書きなぐった魔法陣と試しに使った土を整理してくれている。
「寝てはいるんだけど……んー、魔法が上手く出来なくて……」
ドミニクは平民で魔法は使えない。
魔法のことに関して言っても仕方が無いし、セイランのこともあり魔法が使えない人間の前では俺は魔法の話しはしないようにしていた。
どの魔法陣を使ってもしっくりこないというのは最早危機的状況ではないだろうか。
それにゴーレムを普通に作れるようになっても兄上のドラゴンに勝てる気がしない。
魔法陣……。
そういえば、夜会で見た魔法陣は初めて目にするものだった。
そもそも魔法陣を使ったということは人為的に魔物をあそこに送ったということ。
セイランが犯人とされたことで誰も捜査せずにそのままになってしまっているが、あの魔物はケビン皇太子か?
この国の秘密を壊すために送り込んだとか?
彼はあの日、思い返しても落ち着き過ぎていたように思う。
だとすると、陛下はなぜ本腰を入れてあの魔物を調査しないのだろう?
セイランが魔法を使えないことは知っていて、俺への当てつけで処刑したはずだ。
アスラン騎士団長にしたっておかしい、セイランの無実を証明するならあの夜会のことは調査が必須。
それなのに、不思議な程に人々の話題にあの夜会の魔物は出てこない。
セイランの処刑の方に話しを持っていかれてそれっきりになってしまっている。
陛下が誘導した?何のために??
いや、そうじゃない今は魔法陣だ。
夜会の件はもう一ヵ月以上経っていてどうすることも出来ない。
魔法陣、あの複雑な魔法陣か……。
「あ~~~~‼せめてあの夜会の魔法陣をもっとしっかり見ておけば‼‼」
同じ芸当が出来るとは思わないが、それでも今は魔法に関する情報が欲しい。
辞書に載っていない魔法陣があるなら他にもあるかもしれないし、何か俺の手助けになる物があるかもしれない。
「描きましょうか?」
「ん?」
サマンサと共に朝食を運んでくれたドミニクが普通に聞いてきた。
「ですから、夜会の時に出た魔法陣です。あの時私は室内警備の任についていました。セイラン様のお力になれなかったのは大変心苦しく思っていますが、魔法陣を描くぐらいは出来ます」
魔法陣は円一つの様な簡単な物ではない。
特にあの魔法陣は複雑で、普通に描き写しても完璧に移すには一時間はかかるんじゃないかという出来だった。
俺が目を丸くしてドミニクを見ているとドミニクはまた平然と答える。
「私は一度見たものは忘れません。ですから魔法陣、描き写せますよ」
「よ、よろしくお願いします‼‼」
思わず敬語になり、ペンと紙を差し出すとドミニクはちょっと困ったように頭を下げてきた。
ライナスおすすめの騎士、舐めていた。
とんでもない置き土産をありがとう‼ライナス‼‼‼
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