35話 彼が欲しい
「偽聖女に偽婚約、偽処刑‼偽ばっかだな!しかもセイラン様ヤベェ‼何か剣振り回すのが様になってると思ったけど騎士団の入団試験首席合格⁉
小隊長にもドラゴンにも剣一本で勝つ⁉」
放課後、俺はミックを自室に連れてドミニク以外の人払いをして、お茶をしながら今までに起こった俺が今日に至るまでを話した。
ライナスの闇魔法のことだけは彼に話す許可をもらっていないし、彼の個人的な秘密のため言っていない。
「いやスゲェ‼確証無く墓を暴くとかちょっとカイゼルのこと尊敬するわ」
「何でもいいからこれからどうするかを考えよう。時間が無いんだ」
「そうさなぁ、まず問題点は3つ。一つ目、カイゼルが魔法を使えないこと、二つ目、カイゼルの信用が無いこと、そして三つ目、セイラン様が敵になるかもしれないこと、だな」
一本ずつ指を立ててミックは俺に問題点を示していくが三本目で俺は目を剥いた。
「……セイランが敵に??そんなことあるわけない」
「本当にそう思うか?」
じっとミックは俺を無表情に見つめてくる。
「ケビン皇太子居るだろ?俺、あの人が留学に来た目的がよく分かんなかったんだ。グラス王国の王立学園は元々パース帝国の学園を模して造られた。
だから学園うんぬんを見るのは意味が無いし、王国にしたって帝国には色々劣っている、本当は留学に来る理由が無いんだ。
しばらく見ていたけど普通に交友関係を広げている様にしか見えねぇ。んで、そこに破壊の役目を持つセイラン様、しかも皇太子は運命を感じたって言ったんだろ?だったら」
「初めから破壊の役目を持つ者を探すことが目的だった?」
俺が引き継いだ言葉にミックがこくりと頷き、その後を続ける。
「目的は既に達成しているから、あとは不自然に見えないように普通に学園生活を送ってる。そうすりゃ、綺麗に収まる」
ザワザワとした不安が募っていき、背中を嫌な汗がつたう。
俺は今まで、ケビン皇太子がセイランを好きだと思っていた。
だから、連れて行っても妃にしたいなら無理に何かをすることはしないだろうと、ライナスも居るから安全は保障されているとどこか高を括っていた。
でもそれよりも、利用することを優先したら?
心臓が早く強く動き、俺を急きたてる。
いや待て、違う。
「ミックの考えはおかしくないか?
グラス王国はパース帝国に次ぐ国力をもっているが、それでも敵対するよりこのまま同盟を継続させた方がお互いに利がある、そんなことは誰だって分かる。
それに役目って何だ?そんなもの誰が決めている?」
ミックは俺から視線を逸らし、何かを考える様に顎に当てた指を動かし、チラッとドミニクを見た。
「そいつ、カイゼルが下がらせねぇってことは信用出来んの?」
「あ、あぁ、ドミニクにも今までの経緯を聞いてもらいたいと思って同席してもらったんだ。信用出来るよ」
何せ心が読めるライナスのおすすめの護衛だ。
「……分かった、今から言うことは絶対誰にも言うなよ?俺、知り合いに商人みたいなヤツが居るんだけどさ、そいつが酒を飲んだ時一回だけおかしなことを言ってたんだ」
ミックが言うには、国を転々としながら物を売りさばくことを生業としている男を屋敷に招いて食事をした際、彼は強盗に合った時の話しをしてくれたらしい。
そしてミックがどうやって強盗を捕まえたのかを聞いた時、男は軽く手を振り上げて。
『そんなもん、俺の……』
続きを言おうとした瞬間彼は真っ青になり、そのまま腕を振り上げてそんなに出ていない力こぶを見せてくれたと。
この強靭な肉体で捕まえたのだと、話しを締めくくったらしいが男の様子に違和感をもち、通って来た経路を聞くとこれまたおかしい。
「日数が合わないんだ。国と国をまたぐのにはスゲェ面倒な手続きが山ほどある、だから一つの国に一年は滞在する予定になるはずなのに、そいつこの3年で十か国以上周って来たって言うんだぜ?」
「嘘を吐いていたのか?」
ミックは首を振った。
「んや、そんな感じじゃねぇんだよなぁ。
何より日記に行った国の人間にメッセージを書いてもらうのを趣味にしていてさ、持っている商品も、メッセージもそいつが国を周って来たことを証明している。
全部でたらめだとすると、何のためにそんなことをする?俺も親父もお飾りの爵位以外何もねぇ男爵家だし理由が無い」
「ミックの言っていることがよく分からない、だから何だって言うんだ??その男がちょっとおかしいだけじゃないのか?」
「……そいつ、見るからに平民で元下級層の出だと思うんだけど、あの時言おうとしたのは〝俺の魔法を使えば一発だぜ〟みたいなことを言おうとしたんじゃねぇかなって。
実はこのグラス王国以外では平民も普通に魔法が使えて、それを隠すために王国からの出入りに特別時間がかかっている、っていう線もあるんじゃねぇかなって俺は思ってる。
この国はさ、何か根本的な秘密があんじゃねぇの?それをケビン皇太子が知ってその秘密を壊そうとしている、とかさ!」
…………。
荒唐無稽、そう一蹴するには何となく引っかかる。
ただ俺には話しが大きすぎてよく分からないし、それに……。
「ミックの言い分は分かった。けど俺はセイランが敵になるとは思えないし、その根本的な秘密とやらも俺が国王になれば分かる話だ、今できる最善を尽くそう。
問題点の一つ目の魔法はこれから考えるとして、二つ目、信用はどうすれば築ける?というか、俺はそんなに信用が無いか?」
俺の返しにミックはまた目をパチクリする。
このやり取りにも慣れてきたな。
「何つーか、カイゼル思ったよりも肝据わってんな。もっと動揺するかと思った」
「俺にはセイランが死ぬ以上に怖いことは無い、一回それを経験しているんだから肝も多少据わるさ。
それよりも信用だ、そんなもの一朝一夕で築けるものじゃない」
ミックはニヤリと笑った。
「それが一朝一夕で築けるときは築けるんですな!これが‼」
と、いう訳でミックとの話し合いの次の日。
俺は兄上、聖女、ケビン皇太子、宰相子息のイバン・モラレスの昼食に割り込み、いや、仲間に入ろうとしていた。
ミックは流石に身分違いということもあり、別で食べて俺の印象を良くするために下級貴族を中心に俺の良い噂を流している。
「ご一緒してもいいですか??」
瞬間、兄上の顔が曇り、聖女の顔が輝き、ケビン皇太子が噴き出した。
ちなみに宰相子息は無表情だ。
そう、突然存在をはっきりさせた宰相子息、イバン・モラレス侯爵子息。
俺の目的は彼だ。
黒髪黒目の彼は冷静沈着、成績優秀。次代の宰相として、また兄上が王位に就いた時の側近候補として名高い。
まだ俺も兄上も夜会や茶会、式典に出席する以外の公務を行っていないため側近候補でしかないが彼はその筆頭。
そんな彼が兄上から俺に乗り換えれば周囲はどう見るだろう。
俺の方が王位に近いと見ること間違いない‼‼
何より俺は彼が欲しい‼‼
『無理だって‼手っ取り早く信用をつけるには信用あるヤツを手懐けろ!っつったけど、イバンは無理だろ‼‼ウィリアム殿下と乳兄弟だぜ⁉』
信用を得る、もとい手懐ける取り巻き候補に俺がイバンを推薦した時ミックは猛反対してきた。
『でも欲しい!俺はミックが間違った方向に進むとは思っていないが、ミックは口が上手い!人の扱い方も上手い‼ミックに対抗出来る様な人材を俺は置いておきたいんだ‼』
俺だけでは何が正しいのか分からないときがある。
ミックが正しいと言うことだけを鵜呑みにして彼に全てを委ねるのは何か違う気がする。
だからこそのイバンだ。
ミックはだいぶ渋っていたが、最後は根負けしてくれた。
「カイゼルは他で食べろ、お前の分は用意していないしこれからも用意するつもりは無い」
兄上は嫌そうな顔も声も隠さずに言ってくる。
四人は食堂二階のテラス席を陣取り、そこに兄上が呼んだ専属シェフに特別なフルコースを作らせて振舞っている。
毎日の様にそうしているため、誰もテラス席は使わないし、踏み入ろうともしない。
「ご心配なく、学生用に食堂で用意されている食事を持ってきました。ついでに私が焼いたクッキーもあります、お近づきの印によろしければいかがですか?」
「うわぁ!カイゼル様ってお料理出来るんですかぁ⁉食べてみたい‼」
「ハハハ‼いいんじゃないか?面白いじゃないか、付き合ってやれよウィリアム」
「…………」
発言力の強い二人の援護を受け、兄上の無言を了承と捉えて俺はちゃっかりイバンの右隣に座った。
左はケビン皇太子で何とも居心地が悪いが、この際幸運だったと捉えることにする。
「ありがとうございます、皆さん優しいですね!さぁ!素敵なお昼を楽しみましょう‼」
剣呑な雰囲気の兄上に、俺はにっこりと微笑んだ。
ケビン皇太子の様な尊大な態度は時と場合によって使い分けることにしたが、ライナスやセイランと共に練習した笑顔は絶やさない。
こうやって話していくなかで、俺は宰相子息イバン・モラレスの心を射止めなければならないのだから‼‼
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
もしかしたら気づかれた方も居るかもしれませんが、宰相子息の名前は名前被りのため何度もこっそり改名しており、結局イバン・モラレスとなりました。
これからはイバン・モラレスでお願いします‼




