34話 完璧な王様
広い室内で、煌々と輝く一頭のドラゴンを見ながら俺は脂汗をかいていた。
「カイゼル、大丈夫か?」
隣では敬語敬称無しで良いと言った瞬間に喜んで砕けた口調になった初めての友人、ミックが心配そうに見ている。
まずい、非常にまずい。
「正直、舐めていたな」
「あぁウィリアム殿下の魔法すげぇよな」
兄上は室内ということで大きさを制限していると言っているが、少なくとも俺の数倍は大きい。
アレを、剣一本で叩き斬ったのか……。
セイランが言うには、重要な箇所を断ち斬れば魔力の供給が絶たれ一瞬魔法が崩れるということだったが、そんなものは机上の空論に等しい。
いや、セイランが実際に成功させているので空論では無いが同じことをやれと言われれば無理だとしか答えようが無い。
「ありがとうございました、ウィリアム殿下。この様に通常は土や水属性でしか出来ないことも魔力の量が多く、その魔法への適正が強ければ火属性で再現することも可能です」
教師がたいして驚きもせずに解説しているところを見ると、今日が特別兄上の調子が良い訳ではないことが分かる。
教師の解説を大人しく聞いている兄上と目が合い、久しぶりに見る俺を馬鹿にする笑いをした。
「先生、そういえばカイゼルは最近魔法の習得に励んでいるそうですよ。私の弟は勉強熱心なので皆のお手本になるのではないかと思うのですが?」
「あら!良いですね、ではカイゼル殿下こちらへ」
だぁぁぁぁ‼止めてくれ‼‼‼
俺は魔法陣が無いとゴーレムを作れない。
いや、正確には魔法陣が無いと上手く動かせないと言った方が正しい。
魔法陣無しに無理やり感覚で魔法を使った場合、ゴーレムの出来損ないがなぜか俺に向かって飛んでくる。
そのせいで、しっかり魔法の練習をすると俺の全身、痣だらけになる。
「い、いえ私の魔法は皆さんにお見せ出来る代物では……」
断ろうとすると脇腹をツンツンと肘でつかれた。ミックが顎で行ってこいと指示をしてくる。
「無理だ!俺は魔法は本当に出来ないんだ‼」
小声で言い返すが、ミックはニヤリと笑った。
「いいから行けって!未来の宰相を信じろ‼‼訳は後で話してやるから!」
小声ではっきりと言われるが無理なものは無理だ。
周囲の期待の眼差しが痛いのに、そんな無様な姿は見せられない。
「えぇと、まだ私は…………その、魔法陣が抜けていない段階でして……」
「でも、先生が経過を見る必要はあると思うんすよね‼」
まさかのミックが俺の言葉を覆し、促してくる。
何を考えているんだ。
「そうねぇ、現在の実力が分からないと指導にも困ってしまうから……お願いできませんか?カイゼル殿下??」
「うっ……はい」
教師にまで言われてしまえば仕方がない。
俺は渋々立ち上がり、下卑た笑いをする兄上とすれ違い講堂の前に立った。
「じゃあまず、魔法陣無しでどのくらい出来るか、見せてもらえますか?」
「……はい」
恥をかいてもらえますか?と同義の言葉を先生に言われ、俺は諦めて用意してある土に手を置いた。
上手くいきますように、上手くいきますように上手くいきますように‼‼
魔法陣を使った感覚を思い出し、念じながら土に魔力を込めていく。
ムクムクと土が大きく盛り上がり、徐々に固く、人の形を成していく。
おぉぉぉ⁉初めての!初めての成
喜んだ瞬間、ドバシャッと音をたててゴーレムのなりそこないは俺に向かって崩れた。
全身砂まみれ、口を開けていたせいで口の中にまで砂が入り激しく咳き込んだ。
「「「ギャハハハハハハハ‼‼」」」
クラス中が笑い、あろうことか指示してきたミックまで大口を開けて笑っている。
最悪だ。いや、セイランの死に比べれば全然だが、王としての貫禄もへったくれもない。
俺は土を全身から払いながらミックを睨み、教師は申し訳なさそうに謝ってきた。
「や、もー最高‼マジでカイゼル最高‼‼」
「何が最高だ‼俺は最低の気分だ‼‼クソッ‼」
昼食時、賑やかな食堂でそこそこな味付けのオムレツを頬張りながら俺は叫んだ。
ミックは俺の様子を見ても上機嫌そのもの。
「それで‼何で恥をかかせたんだ‼‼これで宰相の地位が遠のいたんじゃないのか⁉」
「チッチッチ!焦ってはいけませんぜ、お客さん!俺が思うにカイゼルはケビン皇太子の様な完璧な王様にはなれない」
人差し指を俺の目の前で振り、おどけた顔で言ってくる。
でも言っていることは分かる。どれだけ真似をしてもケビン皇太子に勝てる気がしない。
いや、勝たなければならないのは兄上なのだが、いずれ王位につくならケビン皇太子とも比べられる。
その時には対等であらねばならない。
「……でも、頑張れば」
「無理だね、ケビン皇太子が来て一ヵ月。見ていたけどあの人はマジで最強。人当たりが良く親しみやすいわりに誰もが王族として扱っていて頼りになる、顔良し、頭良し、性格良し、身分良しの四拍子!」
「せ、性格もか?俺の知る限りあまり良い方には見えないが……」
「そりゃ、カイゼルが利用価値が無いと思われているか、特別嫌われているかのどっちかだな!
あの人、すげぇ偉そうだけどそれが様になっているし、何よりやっていることに何一つ間違いが無い!対人関係含めてな!
あぁでも、魔法だけは授業を受けるだけで宗教上の理由とか言って見せるのは断っていたな」
多分、嘘だ。
幻覚は知られていない方が使いやすいし、相手に手の内をさらすようなことを嫌いそうな感じだし。
「で?完璧になれないならどうすればいいんだ??」
怒りが収まり、俺が普通に聞くとまたミックは目をパチクリした。
一体何なんださっきから。
「カイゼルって本当に素直な、ウィリアム殿下ならこんだけボロクソ言って恥かかせたら俺退学決定だと思うぜ?」
「あいにく元ポンコツは恥をかき慣れている、それに時間が無いんだ、俺のプライドなんてどうでもいい、何か策があるなら教えてくれ」
「時間が無い??」
「……詳しいことはここでは話せないけど、俺は二か月後の魔法大会で優勝したい。それとそれまでに兄上よりも次期国王に相応しい印象をつけたい」
サンドイッチを頬張りながらミックは俺をじっと見つめた。
そして、俺が本気だと分かったのか姿勢をただして真剣に話始めた。
「分かったじゃあ本題だ。まずカイゼルは完璧になれない、でも王様っていうのは完璧が全てでは無いと俺は思っている。
ケビン皇太子みたいな王様っていうのは、周りが馬鹿ばっかりでも国は何とか回っていくんだよ、でもさ、それってケビン皇太子から代替わりしたらどうすんの?って話じゃね?
例えば親しみやすく誰の意見にも耳を傾けてくれる、でも欠点がある、そういう王様っていうのは周りが支えなければならない。
それを良くない、王らしくないって言うヤツも居るだろうけど、これなら王様が代替わりしてもよっぽどのヤツにならない限り、周りが支えられるから国は簡単には傾かない
俺が目指しているのはそういう国なわけ、んで、それには王族なのに失敗をする親しみやすさが必要ってこと」
ミックの真面目な物言いに思わず目を瞠ってしまった。
宰相になりたいというのは口先だけでなく本気のようだし、何より俺はそこまで王の在り方について考えたことなんて無かった。
セイランを守りたい、それだけで王位が欲しいと思っている自分が恥ずかしくなってくる。
「すごいな、ミックの考えは奥が深い。ただあれではただ笑われただけじゃないのか?
親しみやすさよりも馬鹿にされている感じがある」
「そーな、今の段階ではなー。でも考えてみ?
悲劇の少女の活躍劇がなぜ流行る??
冒険活劇の主人公はなぜ欠点のあるヤツが多い?
それはさ、皆誰かが努力を実らせる瞬間を見たいからだと思うんだよな。だからカイゼルがこの大恥からすげぇ魔法を使うヤツに変われば、流れは一気に変わる。
今までお前を笑って馬鹿にしていた分だけ、心を奪われる、心酔する、俺も、私も、あぁ成りたいって思う。
カイゼルも俺のこと馬鹿にまではしてねぇけど、ここまで真面目ちゃんだとは思ってなかったから今俺のことすげぇと思っているべ?」
またおどけた雰囲気に戻してミックはサンドイッチを頬張るが、俺は黙ってコクコクと頷いた。
もうミックが王になればいいんじゃないかと思ってしまう。
「それで!どうすれば魔法陣抜きで魔法を出来るようになると思う?」
「それは考え中~。カイゼルも考えろよ?いくら欠点があっても良いっつったってそれは頑張って欠点を克服する前提の話しだからな?」
「あぁ‼もちろんだ‼‼」
「……本当、素直な。ひねくれている俺が馬鹿みたいな感じだわ」
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