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27話 初陣

客やその従者達、戦えない者達が逃げていく中、衛兵と騎士達が残っていく。


その様子をぼんやり見ていると、ヒュッと音がしてわたくしめがけて数十本の触手が勢いよく襲い掛かって来た。


「フフフ!あら失礼?肝心の貴方を放置してはいけないわね?」


わたくしを掴むようにして四方八方から飛んできた触手を、軽く跳んでその上に着地する。

うねる触手の上でじっくりと目の前の魔物を観察するが、正直ここからどうしていいか分からない。


アスランからは魔物の倒し方など聞いていないし、何よりこの魔物、頭らしき場所が無いのだ。

見えないのでおそらくだが、数百本の触手の塊といった印象でだいたいボール型らしいことは分かるが急所が分からない。


「とりあえず、適当に斬り落とせばいいかしら」


踏み台になっている触手が崩れ、またわたくしに襲い掛かってくる。

一本一本の太さはわたくしの胴体と変わらないそれを紙一重で避け、遠心力を使って斬り落とす、が……。


「ウッ!」


剣の重さに振り回されて地面に当たってしまい、カン!と軽い金属音が響いた。

地面と金属が予期せずに強く当たってしまったせいで全身に衝撃が伝わる。


「ハッ!ライナス、微妙な剣をよこしたわね!」


幸い相手があまり早い方じゃないのが幸いしているが、今のわたくしは隙だらけ。

体格の良いライナスの剣は騎士団の支給品の中でも頑丈な重い剣、わたくしが普段使っている特注品の剣よりも数倍重い。


たった一振りに全身を使わないと振り切れない。


次々に襲ってくる触手を剣を下げながら避け、斬り落としたであろう場所を見るとそこでは黒い煙が吹いていた。


??そういえば、魔物の死体は見たことがないわね。

やっぱり普通の生き物と違うのかしら?


「愚図が‼前から来るぞ‼‼」


聞いたことが無い野太い声にハッとして前に集中すると、触手が正面から突っ込んでくる。


「しまった‼」


後ろへ飛びずさりながら、剣で斬ろうとするがやはりライナスの剣は重すぎる!

あと一瞬足りず、触手をもろに受けてしまった。


腕と腹に強い衝撃を感じ、少しの浮遊感と共に壁に打ちつけられ、背中にも肺に響くほどの激しい痛みを感じ、落下する。


思わず四つん這いになって咳き込むと狙ったかのように三本の触手が上から突き刺そうとしてくる。

わたくしは舌打ちして、剣から手を離しその場から逃げた。


重い鉄の塊が無ければ、逃げるだけならばこれくらいの速度わけないのだ。

それをスリットを入れたとはいえ、ドレスのまま、裸足で扱えば全てが戦いの邪魔になり速度が落ちるのは目に見えている。


打ち付けた背中も、頭も腕も腹もズキズキと痛む。

いつの間にか口の中を切っていたらしく、鉄臭い匂いと味がする。


でも……。


「フフフ!これが実戦‼」


騎士団の皆はいつも口癖の様に言っていた。

どれだけ鍛錬しても、準備をしても実戦では全て出し切れないことがほとんどだと。

だからこそ、訓練をして最大限の結果を出せるように努めていると。


そんな話を聞いて、我ながら不謹慎だとは思ったが羨ましく思っていた。

彼らから聞く武勇伝の数々!


それは彼らが無事に五体満足で生きているからこそ、素晴らしい響きに聞こえることは分かっているが、心躍らずにはいられない。


どれだけ力をつけようと、誰に勝とうと経験できないその戦場にわたくしは恋焦がれていた。


やっぱりいかれているのかしら。


触手の魔物はわたくしを捕まえるためか、徐々に数百本の触手を紐解きその表面積を増やしていく。

長い触手が会場の天井、壁を這い、わたくしを囲う様に広がっていった。


「あら、威嚇のつもりかしら??そんなものに怯える程お淑やかじゃなくってよ‼大人しくわたくしの初めての獲物になりなさいな‼‼」


足元に静かに這って来た触手を避け、わたくしは真っすぐ魔物に向かって駆けた。


途中で落ちている食器用のナイフを拾い、横から襲ってきた触手を避けつつその動きに合わせてナイフの刃を滑らせる。


パキン!と音がして滑らせたナイフは触手の薄皮を数十センチ切って折れてしまった。

すぐに飛んできた触手を後ろに宙返りして襲ってきた触手に軽く手をつき、更に跳ねて避ける。


やっぱり、ナイフだと強度も鋭さも全然足りない……。


ライナスからもらった剣は特段魔物が守っている雰囲気は無いが、手が出せないほどに触手が近くでうねっている。


このまま全員が逃げるまでの時間稼ぎしかないのかしら。



魔物に勝つことを諦めた瞬間にカン!カラァン‼と金属音をたてて剣が目の前に転がってきた。


「え⁉」



「ありゃ!悪女に投げようとしたのに上手くいかねぇなー!」


振り返ると頭から血を流しながら小隊長のオスカーが剣を投げた後だった。


「オスカー……貴方!」


カン!ガン!カァン!と金属音とともに次々とわたくしの周りに剣が集まってくる。


「あ!結構難しいですね!小隊長‼」

「どうにもうまくいかないですねー」

「あぁ、失敗してしまったか」



逃げ遅れている貴族や残った衛兵達が目を丸くするなか、避難誘導していた騎士達は口々に棒読みの言葉を吐きながら剣をわたくしの周りに向かって投げてくる。


「プッ!フフ!」


その演技があまりにも下手くそでわざとらしくて、笑ってしまう。


まだ逃げ遅れている人々も居る中で、混乱を起こさないように表立ってわたくしの味方をしないのだろうがそれでも下手くそ過ぎる。


「オスカー‼‼頭を打っているのか、意識確認だ‼魔物の倒し方は⁉」


オスカーとは別の小隊長、青い髪に緑の瞳の40代の騎士ニックが叫んだ。

オスカーも機嫌よくそれに応じる。


「おう!魔物の倒し方は二通り!一つ!斬り刻みまくって魔力切れを起こさせる!二つ‼魔物の中心となる核を壊す‼核は魔力の源で異常に熱をもっているか、異常に守っている箇所、他の箇所と違う見た目で判断‼」


「よし、頭は正常だな‼ちなみに見えない敵であれば斬り刻むことをオススメする‼


魔物は通常の生き物と違って魔力切れ=死となる!大振りでなくていい!細かい傷をいくつもつけることでそこから魔力が漏れ、死に繋がる!


あと便宜上〝死〟と表現するが死体も残らず言葉を介さず、互いの意思疎通も出来ずにただ目の前の対象を害する物を我々は生き物と定義していない‼魔物と対峙する際は心置きなく剣を振るうように‼」


長い!長いわ‼


まだ30代くらいと若いオスカーと違い、年齢のいったニックはいつもわたくしを娘の様に可愛がり、あれやこれやを心配してくれていた。


「あ!でも勝てないと思ったら時間稼ぎももちろんアリっすよね!」


「そうだな!避難が完了すれば手が空く!あとは広範囲の魔法を使える者がこの部屋そのものを壊してしまえばいい‼」


「そうそう!無理は禁物‼」


若手の騎士もオスカーやニックとは別の小隊の騎士も皆、口々に叫び、命中率の悪い剣やナイフを投げた。


触手を避けながら、わたくしの知りたい情報、欲しい武器がどんどん降って湧いて来る。

悪女を演じた瞬間が嘘の様に心が軽くなり、ただただこの戦いが楽しくなってきた。



「フフフ!最っ高の初陣ね‼‼」


わたくしは避けるだけの動きを止め、正面から襲ってくる触手を身を軽く翻して避け、刃を滑らせる様に斬り裂いた。


先ほどとは違い、より広範囲に傷口が広がる様に浅くても相手の勢いを利用して長い傷をつくる。

傷口から熱風の様なものを感じ、魔力が漏れていることを確認できた。


すぐに四方八方から別の触手が襲ってくるが、今度は躊躇なく剣から手を離し軽く跳んで回避する。

着地点には贅沢にも別の剣が転がっており、それを拾ってまた相手の力を利用しつつ浅く長い傷をつくる。







「ぜぇ!はぁ‼」

かれこれ数十分攻防を続けるが、魔物は一向に動きを止めない。


いつまで続くのかしら。


普段なら数十分くらいどうということも無いのだが、動きにくい服に生死をかけた緊張感、扱い慣れない武器で疲労困憊もいいところだった。


「いい加減‼倒れなさいな‼‼‼」


襲ってくる触手を飛び越え、何本目か分からない剣を魔物の中心に突き刺す。


剣を突き刺した気持ち悪い感触のあと、魔物はブルッと全身痙攣し中心から黒ずんでその触手だらけの黒く禍々しい姿を現した後、先端から黒い煙を吐いて消えていく。


「…………終わった?」


煙を吐いて崩れていく魔物から降り、その様子を眺めていると不意に後ろから地面を震わせる様な雄叫び聞こえた。


「ウォォォォオオオオ‼‼‼やったな亡霊ちゃん‼」

「さっすが亡霊ちゃんだな‼」

「いやほんと、よくやったよ‼‼」

「すげぇよ‼感動した!」

「でっかくなったなぁ‼」


歓声と共に騎士団のごつい男達はわたくしの頭をガシガシ乱暴に撫でたり背中を叩いたりしてくる。


気がつくと客は全員避難が完了し、最後の魔物を見ていた衛兵達が目を丸くしている。


「やめなさいな‼というか!避難が終わっているなら皆なぜわたくしのことを助けなかったのかしら⁉特にアーロン‼」


騎士達の中には金髪の巻き毛に金眼の中年の騎士、大隊長アーロンが混じっていた。

彼が透明な触手を防ぐのはハッキリと見たし、その腰にはちゃんと剣が刺さっている。


「ハッハッハ‼可愛い子は崖から突き落とせと言うだろう??」


アーロンは小さい子供に接するように固く細かい傷だらけの手でわたくしの頭をポンポン叩いた。


「そんな言葉無くってよ‼‼それなりに、いえほんのちょっと危なかったのだから‼‼」

「でも勝てただろう??」


騎士達の輪の奥から聞きなれた声がした。

その声の主に場所を譲るために皆一歩引き、道をつくる。


「アスラン‼‼」


アスランはわたくしの事を眩しそうに眼を細めて笑っていた。


「アーロンに手を出さないように指示をしたのは私だ。セイランなら勝てると信じていた」


わたくしの前に出てきたアスランはにこやかに頭を下げてくる。


「え⁉アスラン⁉」


騎士団長であるアスランが頭を下げることは騎士団の総意と見なされる。


部屋の隅ではまだ逃げていなかったケビン皇太子も衛兵も居る中でただ一人の悪女に騎士団長が跪くなどあってはならない。


「セイラン・アーヴィン公爵令嬢、王国騎士団より礼を言う。よくぞその類まれなる才能で聖女、並びに王家の方々を守り抜いてくれた。


貴殿の存在はこの場に警護していた王国騎士の誰よりも価値ある存在であると証明された。

陛下からの承諾如何によるが、私アスラン・マーティン騎士団長はここに貴殿の騎士団入団を請う。


意義のある者はこの場にて名乗り出よ!」



アスランの斜め後ろにアーロンが控え、その後ろに小隊長や一般騎士達が順に頭を下げていく。


「これだけの功績を叩き出し、騎士団の娘であり、妹であり、友人であり、かけがえのない仲間である騎士団の亡霊をここに居ない団員含めて我々一同は歓迎致します」


「アスラン、アーロン……皆……‼」


筋骨隆々の男達の集団が頭を下げ、見晴らしがよくなったそこでわたくしはこれ以上ない程に嬉しく思っていた。


騎士になることは無理だと思っていた。


悪女を名乗った瞬間にカイゼルに迷惑をかけて牢獄に入れられて終わりだと思った。


わたくしは切り裂かれたドレスを軽く持ち上げ、膝を曲げ淑女の礼をとった。


「わたくし、セイラン・アーヴィンは王国騎士団からの要請のままに騎士団への入団を希望致します」






アスランは陛下の承諾如何と言った。

でも大丈夫。


最後に魔物は姿を見せて、その様子を騎士団員も衛兵も見ている。

だから、絶対に絶対に今度こそ!


わたくしは騎士になれる‼‼‼







この時わたくしはそう信じて疑わなかった。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>


既にしていただいた方、ありがとうございます‼


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