24話 かつての婚約者
※ウィリアム視点です!
「殿下、負けをお認めになったらいかがかしら??」
誰もが驚き賞賛するドラゴン生成の魔法を、剣の一振りで首を断ち切り、その炎の中から全くの無傷で悠然と現れた悪女は、私、ウィリアム・ハイドラントを見下ろして言った。
悪女とは思えない一点の曇りも無い純白の髪を靡かせ、黄金の瞳を輝かせながら女王の様に見下す姿はとても、そうとても綺麗で刺激的で私は全身に衝撃が走った。
もう一ヵ月も前だというのに彼女の快活な声も、美しい瞳も、太陽の光で白く輝く髪の一筋ですら思い出せる。いや、忘れられないんだ。
「ウィル―!ねぇ聞いてるぅ??」
「えっあぁ!ごめん、ぼーっとしていたよ。どうしたんだいリリ?」
金髪にピンク色の瞳をした、愛しい婚約者でありこの国を救う聖女リリアンがぷくっと子供の様に頬を膨らませて怒った。
「だから!今日のネックレス‼どっちが良いと思う?前に決めたときはこの薄いピンクが良いと思ったんだけど、やっぱりウィルの瞳と同じ青色が良いかな?」
「…………あぁそうだな、ドレスに合わせて装飾品も作っているからその薄いピンクの方が良いだろう、よく似合っているよ、愛しいリリ」
リリアンの額にキスをして、彼女の頬を少し撫でた。
今日の彼女は、瞳の色に合わせたピンク色のドレス、イヤリングや髪飾りなど細部には私の瞳の青色を入れて婚約者であることを主張している。
「えへへ!ありがとー」
嬉しそうに笑顔をつくる彼女を見て、私は安堵した。
なぜなら一瞬、リリアンを見ながらあの悪女のことを思い出したからだ。
傲慢悪女セイラン・アーヴィンは、その傲慢な性格が少しでも和らぐようにと、私が贈った淡いピンク色のドレスをいつも以上に不満そうに着ていた。
私はそんな人に対して感謝も謝罪も出来ず、あまつさえ人を傷つけることを好む彼女に嫌気がさして婚約を破棄し、出来損ないの弟に押しつけた。
それなのに、なぜだか白い彼女は青色の宝石がよく似合ったんじゃないかと思ってしまった。
「ウィル??」
「あぁ、何でもない!行こう!」
また思考がどこかにいってしまった。
あの一ヵ月前の勝負から私は少しおかしい、気がつくとあの悪女のことを考えてしまっている。
そういえば、あの悪女が笑ったのを見たのは学園でリリを殴った日が初めてだった。
あの勝負の時も笑っていたが、彼女は何か変わったのだろうか。
ケビンとのやりとりの時も、手の甲を舐められたくらいで顔を赤くして叫んでいたし……。
ふと、扉をくぐった瞬間に会場の熱気に当てられて我に返った。
またしても悪女のことを考えていたことを反省し、私は無意識にエスコートしていたリリアンに集中…………??
「リリ?リリ⁉」
さっきまでぼーっとしていたとはいえ、隣に居たリリアンが忽然と姿を消した。
「リリ⁉どこだ⁉」
「あ!ウィルこっちこっち‼皆とおしゃべりしていたの!」
呼ばれた方向を見ると、リリアンが数人の男達に囲まれながら淑女らしからず手を大きく振り、ぴょんぴょん跳ねている。
…………なぜだろうか、以前まではその仕草も奔放さも可愛く見えていたのに夢から覚めてしまったかのように今は……いや、やめよう。私は傲慢悪女ではなく聖女を選び、また聖女も私を選んでくれたんだ。
余計なことを考えてはいけない。
「驚いたよ、急にどこかへ行かないでくれ。リリ、君は聖女なんだ誰かに狙われているかもしれない」
「えぇ?大丈夫だよ!ねぇ!それよりもケビン皇太子ってまだかなぁ!」
リリアンはキラキラした目で私を見た。
誰とでも親しくしようとするのはリリアンの良いところではあるが、その親しくする者が見目麗しい男が多いことに最近気がつき、何となくの違和感をもってしまう。
いや、聖女であるリリアンは純粋で慈しみの心をもつ、純粋だからこそ可憐で可愛らしい彼女に男達がすりよっているだけだ!
「ケビンなら馬車が遅れているらしい、多分もう少ししたら着くよ」
「えへへ!楽しみだなぁ隠しキャラ‼‼」
「カクシキャラ?」
「ううん!何でもない!」
ザワリと会場中がどよめいた。
貴族達が口に手を当てたり、眼を見開いて驚いている。
「あ!もう来たのかな?」
「いや、違うと思うが……」
言いながらリリアンをエスコートしつつ、私もざわめきの中心へと向かった。
「「え?」」
中心へ向かう途中で私もリリアンも足を止めてしまった。
そこに居たのは無能の極み、ポンコツ王子と揶揄される我が出来損ないの弟と最低最悪の傲慢悪女のはずなのに……。
「まぁ見て‼どこの令息かしら!美しいわ‼」
「あの紫色の瞳素敵ね!でもあの悪女を連れているということは……」
「あぁ!いいなぁ私もあんな熱い瞳で見られたい!」
口々に貴族達が褒め称える。
それもそのはずだ。隣に悪女が居なければ顔を知っている私でさえあの出来損ないの弟を異国の王子と間違えてしまったかもしれない。
随分前に見た弟カイゼルは情けない顔で丸めた背、自信なさげな瞳に鼻につくかと思われる程の長い前髪が印象的だった。
それが今では見る影もなく自身に満ち溢れ背筋を伸ばし、王族として恥ずべき紫色の瞳を輝かせて、わざとその瞳を強調するかの様にスッキリとした短髪になり体つきも違っている。
カイゼルの変わりようも凄まじいが何より私が驚いたのは、その隣で傲慢そのものの微笑みをつくりカイゼルにエスコーとされる彼女。
純白の彼女を際立たせる黒いドレスに黒い手袋、そこに散りばめられた金と紫。
その美しさに心臓を鷲掴みにされた様な痛みが走った。
「綺麗だ……」
「ちょっとウィル⁉悪役令嬢に何言ってるの⁉」
「え⁉あ、あぁごめん」
怒るリリアンの声で正気に戻り、少しだけリリアンを見たが視線だけはまた悪女に戻す。
どうしても眼が離せないのだ。
アクヤクレイジョウというのは、多分悪女のことだろう。
確かに見れば見るほどに悪女だ。だが以前と違うのは……。
「うわぁ俺、遊びでいいから相手してくんねぇかな。むしろ弄ばれたい」
「馬鹿無理だろ!見ろよあの男!どこの貴族か王族か知らないけど心底骨抜きにされて!アレは絶対あの悪女を手放す気無いだろ!」
「あぁ、羨ましいよな」
ちらほらと若い貴族令息達の声が聞こえてくる。
私も理性でその会話に加わってはいないが気持ちは痛い程よく分かる。
弄ばれてもいいから付き合いたい。
彼女の本命を勝ち取ることはほぼ不可能と思わせるほどに、カイゼルと悪女セイランは互いに熱い瞳で見ている。
本命でなくていい、一夜、いや一瞬の相手でいいから彼女の隣に立ちたいと思わせるほどに、かつての私の婚約者は女性としての色香を放ち、周囲の人間の視線を軒並み掻っ攫っていく。
「フフフ!殿下、口が空いていましてよ??」
口元を扇で隠し、淑女らしく上品に笑いかけられて思わず胸が高鳴ってしまった。
……おかしい。彼女は私の隣に居るときはこんなに魅力的じゃなかったはずだ。
悪女がこちらに話しかけたことでカイゼルも私に気がつき、なぜだか嬉しそうに笑った。
「お久しぶりです、兄上」
「あぁ……その、だいぶ変わったな」
「うわぁ!ケビンだけじゃなくってもしかしてカイゼルも隠しキャラ⁉ワイルド枠なんて最高‼私、リリアンって言います!聖女です!」
基本的に、王族同士で話している時に割って入るのは誰であろうとマナー違反とされている。
私の婚約者であるリリアンも最近はマナーの勉強をしていると聞いていたが、会話に割って入るばかりか勝手に呼び捨てにするなどマナー以前にどうなんだと思ってしまう。
「リリ、ちょっとそれは」
「大丈夫ですよ兄上、気にしていません。初めまして聖女様、ご存じの様ですが私はカイゼル・ハイドラントと申します。以後お見知りおきを、それと私のことは殿下とお呼びください」
ゆっくりと王族らしい、いやそれよりも少し優し気で余裕のある微笑みで返しながらリリアンにきっちりと名前の線引きはする。
思わず目を瞠って食い入るようにカイゼルを見てしまった。
以前の彼なら聖女に話しかけられたり、急に名前を呼ばれればもっとオドオドするか自信なさげに答えていたはずだ。
私の視線に気がついたのか、カイゼルがにっこりと微笑みかけてくる。
「兄上、私はどうしても今日兄上にお礼が言いたかったのです。ありがとうございます
兄上は私がセイランを慕っていることをご存じだったのでしょう??
そのために小芝居までして、身を引いてくれたこと知っていますよ!とても感謝しています‼」
「???いや、私は……」
何を言っているんだこの弟は。
私は聖女リリアンと婚約したいがために悪女を切り捨てたのだが??
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次回、15時に更新します!




