23話 カイゼルからの贈り物
カイゼルに思わず抱き着いた日、わたくしはケビン皇太子とあった出来事の全てをカイゼルとライナスに話したが、結局のところ役目については分からないのでそのまま今まで通りに過ごすことになった。
ただカイゼルの中ではとても心境の変化があったらしく、あれから瞳をぎらつかせて今まで以上に鬼気迫る勢いでダンスも勉強も社交も練習をがんばっていた。
そして一ヵ月が経ち、夜会当日。
わたくしは公爵家の自室でカイゼルから贈られたドレスを身にまとい、鏡の前で身だしなみの最終チェックをしていた。
以前、夜会に出る際にウィリアム殿下も婚約者としてドレスを贈ってくれたのだが彼の趣味なのかその色は淡いピンク。
似合っていないわけではないがわたくしは好きではなかった。
それに対し、カイゼルから贈られたドレスは彼の髪色と同じ黒。
全体が黒いドレスに金の刺繍や飾り、そして彼の瞳の色と同じ紫色の宝石が散りばめられ、髪飾りやイヤリングなどの装飾品も紫色。
わたくしは手のマメを隠すために手袋もつけているが、手袋も黒、しかも全体がレースで出来ており、わたくしの髪も肌も白い分、黒が際立ち全体的になんとも色っぽい仕上がりになっている。
そう、彼の言うところの毒花そのものだ。
ネックレスだけはあとで持ってくると言われてつけていないが、わたくしはそれなりに、いえとてもこのドレスに満足している。
「……わ、悪くないわね!」
「悪くないどころじゃないですよ‼もう愛‼殿下からの愛を感じますね‼セイラン様とっっっっても素敵です‼」
ハンナはわたくし以上に嬉しいようで朝から愛‼‼とずっと口走っている。
……そうね。
カイゼルの独占欲の様なものをヒシヒシと感じてちょっとこう、恥ずかしいけどとても嬉しいわ。
「セイラン様赤くなっちゃって可愛い‼‼あぁ‼‼抱きしめたいのに‼‼ドレスが‼」
「お黙りなさいな‼‼ほら、カイゼルが来たわ!さっさとドアを開けなさいな‼‼」
「え?」
ハンナが振り返ると、丁度ドアをノックする音が聞こえた。
返事をしてハンナが開けるとやはり相手はカイゼルとライナス。
カイゼルは入って来た瞬間に固まり、ライナスに背を叩かれていた。
「あ……その、似合うとは思っていたんだけど想像以上で…………とても、どう言っていいか分からないくらい綺麗だよ、俺の毒花」
ハンナはカイゼルの後ろでキャーーーと叫んでいる顔をしている。
流石に客人が居るということもあり、自重しているらしい。
「当たり前でしてよ‼わたくしは絶世の美女なのですから‼」
「ハハッ!その言葉セイランらしい!」
思わず口をついて出てきてしまう可愛くない言葉。
普通なら褒めているのにとか文句があるのだろうけど、それを笑ってわたくしらしいと言ってくれるのも彼の良いところだ。
若干顔を背けながらチラリと見ると、カイゼルの礼装も黒でわたくしのドレスと同じ金色の刺繍が所々に入っている。
カッコいい。
……今、素で彼のことを褒めてしまったわ。
数か月前では考えられなかった心境に自分で驚いてしまう。
「カ、カイゼルも……似合っていてよ」
一応言葉にしておく。
「ありがとう、セイランに褒められると自信がつくしすごく嬉しいよ」
カイゼルは蕩けそうな顔ではにかんだ。
彼は有言実行というか元々の素直さが全面に出たというか、最近は今までにも増してはっきりと己の感情を言葉と態度に現すから直視出来ない。
わたくしが照れ、いえ黙っているとカイゼルは上等そうな箱をライナスから受け取ってわたくしに見せてきた。
「何かしら?」
「えっと、持ってくるって言っていたネックレスなんだけど……どうかな」
カイゼルが蓋を開けるとそこには黒い宝石に金色の線が三本交わった宝石を主体とした美しいネックレスがあった。
「綺麗」
思わず感想をこぼすと、カイゼルは安心したように柔らかく微笑む。
「ケビン皇太子みたいに俺は独創的な贈り物は出来ないけど、出来れば俺が贈ったもので一番嬉しいと思って欲しくて、いつでもつけて欲しくてこれにしたんだ。
黒い宝石を真っすぐに貫く金色の線はセイランそのものだし、あと……」
カイゼルはくるりとネックレスをひっくり返した。
宝石の台座は二重構造になっているらしく、カチッと音がすると台座の蓋が空き、中に魔法陣の刻印が見えた。
「セイランはいつも常識を壊して突き進む。そんな君が一生魔法を使えないとは俺は思えないんだ。
気を悪くさせたらごめん、でも何かの拍子に治った瞬間に気がつくように、すぐに魔法が使えるようにセイランに一番似合う魔法陣を入れた。
セイランの魔力に合うかどうか分からないけど……」
軽く笑いながら頬を掻く彼をわたくしは目を見開いてただ見つめた。
わたくし自身、魔法は使えないものだと諦めていた。
以前のわたくしだったら嫌味だと言って怒っただろう。
でも今は、不思議とカイゼルが言うのなら本当にいつか魔法が使えるようになる気がする。
「ありがとうとても嬉しい。大事にするわ」
羞恥心よりも、わたくしも諦めていた未来を望んでくれた彼が愛しくて素直に答えられる。
カイゼルは嬉しそうに微笑んでわたくしにネックレスをつけてくれた。
鏡で見てみたが寂しかった胸元が埋まり、毒花に磨きがかかっていた。
「うん、よく似合ってる。やっぱりセイランは傲慢で強くて綺麗でカッコいい、最高に気高い悪女だ!」
「フフフそうね‼わたくしは誰より黒も!紫も!似合う悪女でしてよ‼」
二人で笑い合い、馬車に乗って夜会へ向かう。
馬車に揺られながら、わたくしは幸せがこみあげていた。
理由は単純。
好きな人からドレスを贈ってもらい、好きな人に褒めてもらい、今その好きな人が目の前でわたくしを見つめている。
こんなに嬉しいことってないでしょう?
数か月前では考えられないけれど、わたくしはカイゼルのことを愛している。
この弱虫で泣き虫で、何かあるとすぐに情けなくない姿を見せて、ひたむきで頑張り屋で素直でお菓子作りが趣味のこの男が好き。
面と向かって口にするのは恥ずかしいから今は言わないけれど、いつかこの気持ちを口に出来たら彼はどんな顔をするだろう。
多分、喜んでくれる。
もしかしたらまた情けなく泣くかもしれない。
「フフフ!」
「何?」
カイゼルは不思議そうに、隣に座っているライナスは微妙な顔をしてこちらを見ている。
「カイゼルの情けない泣き顔を思い出しただけでしてよ!」
「えぇ?俺この一ヵ月は泣いていないんだけど……」
若干不満そうなカイゼルも本気で嫌がっているわけではなく、困ったなぁというくらいだ。
王宮に着き、ライナスの次にカイゼルが降りてわたくしに手を差し出してくれる。
そっと手を重ねると、彼の手は冷たくて震えていた。
……そうだったわね。
カイゼルは本来、面会謝絶が通常運転。
誰もその姿を見たことが無い程に社交の場に出ていない。
それをわたくしが無理やり連れだし、今ではこの最低最悪の傲慢悪女のために頑張ってくれているのだ。
わたくしはカイゼルの手を強く握って、その自信なさげな美しい紫色の瞳を見つめた。
「カイゼル・ハイドラント!何か勘違いしているのではなくって??初めて会った時に言ったでしょう?
わたくしと婚約したからにはアクセサリーのごとくわたくしを惹きたてなさいと‼主役はわたくし!カイゼルが緊張する理由はなくってよ‼」
ピシャリと言い放つと、カイゼルは目を丸くして次の瞬間噴き出した。
「ハハハ‼そういえばそうだった!ごめんよ俺の毒花、俺は隣に立ってセイランが一番綺麗になるように気を配るよ」
そう言うと、カイゼルは手の甲にキスをしてくれた。
少し慣れてきたのか動作のぎこちなさが無くなっている。
「さぁ‼汚名返上でしてよ‼‼」
「いいんだけどさぁ、お二人さん俺のこと完全に空気にしてねぇ?」
ライナスがぼんやりと呑気なことを言った。
「お黙りなさいな!どうせ出入口で居るだけでしょう⁉」
「空気にしているつもりは無いんだけど、緊張とセイランが綺麗すぎて……」
「はいはい、分かったからいってらっしゃい」
カイゼルの言葉に二人で顔を赤くしていると、ライナスは面倒くさそうシッシと手を振っている。
正直、わたくしはほとんどカイゼルしか見ていなかったわ。
恋って盲目ね。
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既にしていただいた方、ありがとうございます‼
ちなみにネックレスの宝石はブラックスターサファイアです。
気になる方は調べてみてください。かなり綺麗です!




