18話 俺の毒花
※カイゼル視点です!
すみません、どうしても内容気に入らなかったので更新後に愛称のことなどは削除してちょっと付け足しています。
「クイッククイックスロースロー‼クイッククイック!スロースロー‼次は壁があるから回りましてよ‼‼」
「あぁ!」
僕、いや俺、カイゼル・ハイドラントは今腕の中の愛する婚約者に叱咤されながらダンスの練習をしている。
ターンが苦手な俺のために彼女がリードしてくれてぐるりと壁を回避する。
傍から見たら強気な悪女に怒られているポンコツ、でも俺はこの状況がすごく楽しいと思ってしまっている。
綺麗だな。
一点の曇りも無い純白の髪を靡かせ、黄金の瞳に強い光を宿し俺の腕に収まる彼女はとても美しい。
この気持ちにはっきりと気がついたのは彼女が公爵家で騎士と戦っている時。
俺に腕を上げさせてその中をくるり彼女が舞う。
今日のドレスは白地に裾に向けて金の刺繍が入っている物、ドレスの裾がふわりと広がり刺繍が自己を主張する。
あまり普段着で白のドレスを好む令嬢は聞かない。
白はデビュタントにも使うし、着る人によっては地味にもなってしまう。
でもセイラン嬢は髪も肌も白い、真っ白な彼女に瞳と刺繍だけが金色に輝いているなんて似合わないわけがないじゃないか。
セイラン嬢に添えた手が汗ばんでくる。
少し前だったらもうこれで終わり、汗が伝わって触りたくないと思われる前に手を離していた。
今も気にはなるが、それ以上にこの白く輝く彼女を手放したくない。
彼女も特に気にしていないようでそれ以上に、兄上に勝つことに闘志を燃やしている。
俺なんかが完璧な兄上に勝てるわけがない。
でも彼女が、俺の毒花が言うなら勝てる気がする。
「殿下、女性を褒めるときは綺麗だとかだけだと通り一辺倒で面白味に欠けます!何か自分だけが思う様なことを一言付け加えませ!」
セイラン嬢のお気に入り、サマンサに言われた。
前までは俺に対して蔑みぐらいしか感じていなかった彼女が、今は強い味方になってくれている。
サマンサとしては俺にセイラン嬢を制御してほしいらしいが、彼女もセイラン嬢と接していくなかで思いのままに振舞う姿に憧れを抱き始めていることを俺は知っている。
「俺だけが思う……セイラン嬢は劇薬の様に素敵だと思う」
俺が言った瞬間、サマンサの顔は以前の蔑みの目に戻った。
「……劇薬、とは美しくありませんがどうしてそう思ったのですか?いえ、何となく分かりますが」
「彼女は確かに傲慢で誰にでも強烈に印象を残すのに、その効果は人によって違う。俺にはとても言葉では表しきれないくらい愛しくて、兄上には嫌な物になる。扱いの難しい劇薬みたいだろ?」
そう、彼女を初めて見たのは兄上が持ってきた絵姿で見たのだ。
その時兄上は、俺が無能なせいで自分は悪女と婚約するはめになった。
無能なお前が羨ましいと愚痴を言いに来ていた。
俺も兄上の話を聞いてそんな悪女は嫌だと思っていた。
だからこそ、自分がその悪女の婚約者になったとき泣き崩れた。
でも実際会ってみると、こんなに素敵な人は居ないと思った。
美しく、純粋で真っすぐな性格、偶に照れを隠している姿が無性に可愛い。
「……流石に劇薬は美しくありません。他のにしましょう」
「じゃあ、毒花だな。女性を花に例えるのは普通だし、悪女と言われる彼女にしっくりくる」
「普通は怒りますが、まぁいいんじゃないでしょうか」
愛しい俺の婚約者、俺の毒花、俺の日常を変えて毎日を楽しくしてくれる俺の劇薬。
その彼女が兄上に勝利することを望んでいる。
俺も、兄上が手放した彼女はこんなにも素敵なんだと自慢したい、今さら惜しくなったと言われても絶対に手放すことなんてしないけど、兄上に見る目が無いと知らしめたい。
ズルッと足が滑って俺は体勢を崩した。
一瞬の浮遊感と共に頭から固い床に転ぶと思った瞬間、頭に床とは別の感触を感じ、セイラン嬢に軽く手を引っ張られて俺は背中から危なげなく床に転んだ。
転んでから見ると、セイラン嬢の足が頭に添えられていた。
俺が頭から転ばない様にしてくれたのだ。
「ありがとう、ごめん」
「よくってよ、それよりも少し休憩にしましょう」
気がつくと俺はかなり息が上がって体もだるい。
元々筋肉痛で全身動かすたびに痛いが、それとは別に疲労で普通に踊れそうにない。
彼女も息は上がっているが、俺とは基礎の体力が違うらしく平然としている。
本当に俺は情けないなぁ。
ライナスに壁際の椅子を勧められてそこに腰かける。
「ほい姫さん、殿下もどうぞ」
俺とセイラン嬢に冷たいレモネードを用意してくれた。
終わる頃を見計らって使用人に用意させていたらしい。
ライナスはよく気が利く、騎士として有能で希少な闇の魔力を持ち、見た目も良いし戦いになっても強い。それに……。
「いやー、ダンス踊っていると姫さん公爵令嬢だなって感じがするな!」
「あら?どういう意味かしら、わたくしはいつでも公爵令嬢でしてよ!」
「ハハッ!分かってるって、ダンスも剣も出来る傲慢悪女、それが姫さんだもんな!」
「フフフ、よく分かってるわね」
ライナスはとてもセイラン嬢と仲が良い。
隣に居るだけで2人がどれだけお互いを信頼しているかが分かる。
ライナスがどれだけセイラン嬢と仲が良く、完璧ないい男性だったとしても婚約しているのは俺だ。
焦る必要なんて無いのに、せめて婚約者として狭量なことはしたくないのに2人の仲が良い姿を見せつけられるとイライラしてしまう。
「…………殿下、あの……」
「な、何?」
「……お菓子と手紙、とても嬉しく思いましてよ。あ、ありがとうございます。それで何か……欲しいものがあったら言いなさいな、準備しましてよ」
ツンとそっぽを向く彼女は耳まで赤い、その姿が可愛くて俺まで赤くなってしまう。
あああ‼‼この普段高圧的な悪女の恥じらいがたまらなく可愛いんだよな‼
というかお礼か……。
正直に言うなら今抱きしめたい、キスしたい。それでもう一度俺を愛しいと言って欲しい。
その後2人で
ザワワ!と背中に嫌な感覚がした。
ライナスが笑顔で睨んできている。
やっぱり、ライナスはセイラン嬢が好きなのかな。
でもどちらにしろ、抱きしめるのはちょっとハードルが高いし前からライナスを羨ましいと思っていたことがあった。
「物じゃないけど、俺のことを名前で呼んで欲しい……俺はセイランと呼び捨てにしていいだろうか?」
セイラン嬢はガバッと俺を見ると綺麗な黄金の瞳で凝視してきた。
「よ、よくってよ!」
可っ愛いいなぁ‼‼
真っ赤な顔で恥ずかしそうに耳に髪をかけるその姿は今すぐに抱きしめたくなるくらいに可愛い。
「ハハ!じゃあセイラン!踊ろう‼あ、あと俺には敬語じゃなくていいよ、偶に敬語を混ぜて実は迷っているんだろう?」
「……分かったわ」
すっと俺はセイランに手を差し出す。
「踊っていただけますか?俺の毒花」
彼女も今度は迷いなく手を乗せてくる。
「もちろん、わたくしの唯一無二の婚約者」
セイランと一緒にまた足が震えるまでダンスを練習して、彼女は公爵家へと帰って行った。
「やー、殿下幸せそうですねー」
夜、誰も居なくなった厨房で明日また来るセイランのためにシュークリームを焼いているとライナスが話かけてきた。
先に作っておいたカスタードクリームをつまみ食いしている。
「あぁ今すごく幸せなんだ、少し前だったら考えられないくらいにセイランに出会ってから日常が目まぐるしくて、それでいて楽しい」
「そうですかー、でもそれただの幻なんで勘違いしないでくださいね」
??
ライナスはまるで、このカスタード美味いですねーくらいに何でもない話の様に自然と不自然なことを言っている。
「それは……どういう意味だ?」
俺はザワザワと嫌な予感がしながら聞くが、彼は至って普通だ。
「どういうってそのまんまの意味ですよ?今の殿下の幸せは全部幻です。
いやーこれ言うつもり無かったんですけど、俺殿下のこと結構気に入っているみたいで、このまま姫さん搔っ攫われたら殿下ヤバいかなーと思っての忠告です」
呼吸が荒くなり、さっき食べた夕食が胃からせりあがってくる感触がした。
「搔っ攫うって……彼女を誘拐でもするつもりか?」
「アッハッハッハ!殿下発想がぶっ飛んでますね!どこの世界に小隊長を打ち負かす令嬢を誘拐する人間がいるんですか??俺が言っているのはもっと普通にとられるってことですよ」
とられる???彼女を?
でも彼女は既に俺の
「殿下、この婚約に姫さんは同意していませんよ。王家とアーヴィン公爵にはめられて姫さんがサインをしていないのに勝手に成り立った婚約です」
「はめられた?王家と……アーヴィン公爵に?」
ライナスはいつも通りの上機嫌でもう一口カスタードクリームをつまんだ。
「やっぱ殿下菓子作りの才能はありますねー、甘いのに甘いだけじゃない!」
「そんなことどうだっていい‼‼説明してくれ!俺はセイランの婚」
「だからそれが幻ですって!見ますか?」
ほら、と軽く手渡された紙の束はたしかに俺とセイランの婚約の書類だった。
でもそこにあったサインは彼女の名前なのに、筆跡は明らかに違う。
何通も手紙のやりとりをしているんだ、見間違えるはずが無い。
「アーヴィン公爵、姫さんの父親は金と権力、あと物流の融通だったかな?それと引き換えにサインが違うことに気がつきながらわざと婚約したんですよ。ちょっとカマかけてみたら頭の中からボロボロ出てきました」
セイランはもう17歳だ。
この国では女性の成人が16歳、成人すれば親子でも勝手に婚約を結ぶことは出来ない。
違法だ。
これが世間にバレれば、いくら王家でもこの婚約は無かったことになる。
この無理やり取り付けられた婚約が無くなったとき、セイランは、俺の愛しい毒花は……
果たして俺を選んでくれるだろうか。
「……婚約が無かったことになったら、ライナスがセイランと?」
「あー、違いますよ!俺じゃ身分も低いし、俺、殿下と姫さんが一緒に居るところを見ていて最初は微妙でしたけど2人が幸せならいいかなーとか思い始めてるんで、恋愛感情てか妹とかのそれに近いですね、最近気がつきましたけど」
ライナスは上機嫌にナイナイと手を振る。
正直ほっとした。
彼には勝てる気がしないし、それにセイランは最低最悪の悪女だ。
他に婚約したい男なんていない。いるはずがない。
冷静さを取り戻した俺に、ライナスはにっこりと笑いかけた。
「殿下、俺は別に今すぐどうこうしてほしいわけじゃないんですよ。
例えば、容姿、権力、優秀な頭脳を持った完璧なヤツが出てきて、運よく姫さんのことを見初めたらそこは引いてくださいね?って話です。
殿下が傷つき過ぎない様に忠告しただけなんで、もし殿下が引かなくてもあの方が本気で気に入ったら勝手に奪うんで問題無いです」
「あの方?それは……」
「あ!殿下オーブン大丈夫ですか?」
言われてオーブンを見ると焦げ臭い匂いがしている。
「しまった‼‼」
急いで取り出したが時すでに遅し、シュークリームのはずだったものは丸焦げになってしまった。
「あちゃー、すみません話過ぎましたね」
「いや、それよりもあの方とは誰なんだ」
ライナスはニヤリと笑った。
「パース帝国皇太子 ケビン・マルティネス殿下ですよ。さーこの話は終わりです‼殿下へのご褒美時間は終わりました!俺はこれ以上話しません!それは使用人に片付けてもらって寝ますよ殿下!」
「待て!何で皇太子が彼女を見初めると思うんだ⁉それにまるで知り合いかの様な……」
「あれ?何の話しているんですか??ハハッ!変なことを言ってないで寝ますよ殿下」
「…………」
ライナスは本当にこれ以上話す気は無いらしく、使用人を呼んで片付けを命じている。
俺はライナスにせかされるままに寝所に行き、護衛である彼と別れた。
眠れないかと思っていたが意外にも疲れ切っていて泥の様に眠ってしまった。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
既にしていただいた方、ありがとうございます‼




