17話 もうポンコツと呼ばない
ひとしきりカイゼル殿下を笑い、またエスコートされて練習用のダンスホールに行き練習を始める。
ダンスの練習と言っても、わたくしはもう踊れる。
そのためわたくしが指導してカイゼル殿下のダンスを直すというもの。
また、手を触れるところからかしら……。
前回は聖女の話があったから後半はちゃんと踊れていた。でも今回は、というか会話の内容が気になっていないとダンスが出来ないのは少し虚しいわね。
少しだけ気持ちが下がっていると、カイゼル殿下がわたくしの顔を覗き込んできた。
「セイラン嬢、やっぱり体調が悪いなら後日でも……」
「問題無くってよ、ほら、時間がもったいないわ!さっさと始めますわよ‼」
「……分かった」
コホンとカイゼル殿下は咳払いし、わたくしの前に出て手を差し出してきた。
「誰よりも純粋で美しく、強く気高い私の毒花、私と踊っていただけますか?」
「…………貴方こそ頭でも打ったのかしら?」
「ギャッハッハハハ‼殿下やっぱ凄ぇえええ‼本当にやったな‼‼」
ライナスが爆笑するなか、カイゼル殿下は顔を真っ赤にしてプルプル震えながらも手を差し出している。
これはあれね。手を取ってあげないと殿下が恥をかいたままね。
わたくしが手をのせると、カイゼル殿下の目がギラリと光り、迷いなく中央にわたくしを連れていき組み合う。
体が密着しているのに、彼の動揺は手に取る様に伝わってくるが離れる様子は無い。
そのまま順調に踊り始める。
「???……殿下どうしましたの??まるで別人でしてよ?」
ステップは甘い、リズムにもあまり乗れているとはいえない、動きも遅い、歩く方向も偶におかしい、お世辞にもダンスが上手いとは言えないが、前はそれ以前の問題だった。
カイゼル殿下はわたくしを見つめ柔らかく微笑んだ。
痣だらけで頭には包帯もある状態なのに、紫色の瞳が色気を帯びてドキリと心臓が高鳴ってしまった。
「その、この二週間騎士団に通っていたんだが、彼らの戦い方を見て皆自分の特性を生かしていることに気がついたんだ。
それで彼らと相談して社交……というか全てにおいての俺の方向性を決めてそれに従って行動するようにしているんだ」
「そう」
わたくしもカイゼル殿下には何か突出した武器が必要だと思った。
だからこそ現状を確認して、そもそも何も突出していなかったからまずは全体的に平均にしようという方向にしていたのだが。
「その方向性、どういったものか聞いてもよろしくて?」
カイゼル殿下は顔を赤くしてコクンと頷いた。
あら、ちょっと可愛いわ。
「騎士団に行ったら俺は皆に〝情熱殿下〟と呼ばれていて、ほらあの誓いの件で」
「あぁ‼公爵家で皆見ていましたわね‼」
「そう、それで色々と話をしていて俺はポンコツで何も出来ないけれどセイラン嬢を誰よりも愛することは出来ると思った……というか、そう誓ったし……。
それに、女性にとってパートナーに愛を囁かれている様子は周りに羨ましがられるもので、それだけで女性の価値を上げるものだと君のお気に入りから聞いた」
「わたくしのお気に入り??」
わたくしの言葉に殿下はクスリと笑った。
まずいわ、踊り始めてから殿下の行動に逐一ドキドキしてしまうわ。
「侍女のサマンサだよ、それでその方向性だが……俺のための恥は全て捨ててセイラン嬢への愛を言葉と行動で示す、それが俺の方向性になったんだが…………駄目……かな」
視線はカイゼル殿下の方が高いのに、少し頭を下げて上目遣いで見てくる。
キュウゥ!と心臓が悲鳴をあげた。
な、何かしらこの感じ!
このカイゼル殿下をずっと見ていたい様なすぐに目を逸らしたい様な微妙な気分……。
「だ、だだだ駄目、ではないけれど……殿下がそこまでわたくしを、その、あ、愛してくれているというのがよく分かりませんわ‼‼わたくし!悪女でしてよ⁉」
「ハハッ!そうだね、傲慢で強くて綺麗でカッコいい、最高に気高い悪女だ‼……正直俺はセイラン嬢を見るまで、女性とは守らなければならないものだと思ってた」
「……普通はそうでしてよ」
思わずブスッと可愛くない声を出してしまう。
別に、弱い令嬢が羨ましいとは思わない。
わたくしはアスランの剣技に惚れたのだ、騎士達との試合も稽古も全部楽しい。
心から好きだと言える、後悔なんて無い。
でも、自分でもその姿が可愛くないことは分かっている。
わたくしの心とは裏腹に、カイゼル殿下はうっとりと見つめてくる。
「うん普通はそうだね、えっと何て言えばいいんだろう。俺が普通と思っていた全てを壊して突き進んで行くセイラン嬢のその姿がすごく好きなんだ。
普通は男、ましてや騎士の小隊長に魔法無しで令嬢が勝つなんてありえない
普通はこの紫色の瞳に自信をもてなんて言わない
普通はこんなポンコツを成長させようなんて思わない
普通は侍女にも馬鹿にされている様なポンコツに味方しようなんて思わない
普通は男でしかも一国の王子が菓子を作っているなんて知ったら嫌がる、やめろって言う、褒めることなんて絶対にしない
君は戦っている時が一番綺麗だけど、俺の常識を壊して我が道を行く君はいつも魅力的だ。
……君が俺を最高の男になれと言うなら、セイラン嬢のためならなれるかもしれないって本気で思えてきてしまう。
会う度に毎回この気持ちは強くなる、俺は強くて傲慢で不器用なセイラン嬢が好きなんだ
いつも心の底から愛しているよ、俺の毒花」
いつの間にかダンスが終わり、最後にわたくしの手をとってカイゼル殿下はゆっくりと口づけした。
慣れていないのか手の甲に触れた唇は震えている。
痣のついた顔、包帯のついた頭、王族らしくない瞳、周囲からの評価は最低、剣もダンスも勉学も何一つ秀でていない、気障なことをしようとしてそれも上手くいかない。
無能の極み、ポンコツ王子。
それなのに……。
「セイラン嬢⁉」
カイゼル殿下が焦った様子でハンカチを差し出してくる。
ハンカチを渡されて、初めて自分が泣いていることに気がついた。
涙がボタボタととめどなく頬を伝う。
「わたくし、貴方の婚約者で良かったわ……今のこの気持ちが恋かなんて分からないけれど、とても……とても貴方が愛しい……大切にするわ、わたくしの唯一無二の婚約者」
わたくしの言葉にカイゼル殿下はこれ以上無いほどの笑みで返してくれた。
ハンカチを借りて涙を拭う。
こんな気持ちは初めて。
ただ強さを褒められたわけでも、容姿を褒められたわけでも無い。
生き方や人生、わたくしそのものを好きだと言ってくれている。
こんなに素敵な人はいるだろうか。
他の人に言われてもここまで嬉しくなかったと思う。
上手いお世辞なんて考えもつかない様なポンコツだからこそ、その言葉も眼差しも全てが本心だと分かる。
ぎゅっとカイゼル殿下の手を握りしめてその綺麗な瞳を見据える。
わたくしは最近、最高の男は無理でもポンコツから脱出すればそれでいいくらいに思っていた、でも今は違う。
「殿下‼勝ちますわよ‼」
「へ?勝つ??って誰に何を?」
「ウィリアム殿下に‼でしてよ‼‼次の夜会、ウィリアム殿下よりも目立って、わたくしの婚約者は最高にいい男なのだと社交界に知らしめてやりますわ‼‼」
カイゼル殿下はごくんと唾を飲みこんで頷いた。
「分かった、君がそう望むなら死ぬ気で頑張って叶えよう」
「あー、凄ぇ良い雰囲気のところ悪いけど2人とも俺のこと忘れてねぇ?」
のんびりと間の抜けた声でライナスが手を振ってくる。
「忘れてませんわ‼ライナス!剣の稽古は気絶ギリギリまで追い込みなさいな‼
そして殿下‼もう一回初めから踊りますわよ‼ウィリアム殿下の顎が外れるくらい美しいダンスが踊れるまで!足がちぎれても踊りますわよ‼覚悟なさいな‼‼」
「ハハハッ!仰せのままに、俺の毒花!」
これからスパルタ教育が始まるというのにカイゼル殿下は笑ってわたくしの手に口づけする。
もうわたくしは彼をポンコツとは呼ばない。
そしてもう、周囲にも呼ばせない。
わたくしの唯一無二の大切な婚約者。
カイゼル・ハイドラントの名前を社交界に轟かす‼‼
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