14話 ポンコツ育成計画
「セイラン何てことをしてくれたんだ‼聖女様に手をあげるなんて!」
ライナスの行動に呆気に取られていた状態から、一段落して金髪金の瞳のお父様が駆けてきた。
「お、お父様でもわたくし手をあげた記憶がございませんわ‼‼」
嘘だ。正直なぜか分からないが今はリリアンを殴った記憶がある。
でも、殴った瞬間訳が分からなかったことは覚えているから記憶が無いと答えた。
わたくしの言葉を聞いてお父様が睨んでくるが、そこにライナスが割って入った。
「まぁまぁ公爵、俺が姫さん叩いてもう罰は受けているんでそのくらいで!所詮子供の喧嘩ですし!」
「黙れ‼これは家族の問題だ‼‼」
「ハハハ!家族の問題‼そうですか」
ライナスは突然嫌味な笑い方をすると、お父様に近寄り何かを囁いた。
一瞬にしてお父様の顔色が悪くなる。
「お前……なぜ、あの場には……」
「ハハ!ただの勘ですよ、あーそれで何でしたっけ?姫さんが疲れているから今日は愛娘のためにご馳走にしてくれるんでしたっけ??優しいですねー」
お父様はライナスの魔法を知らない。
そのため、眼を見開いてライナスを凝視している。
ライナスはもうお父様に興味が無くなったらしくこちらを向いてきた。
「姫さん聖女様にはもう近寄んなよ、見える距離まで近寄るのも無しだ。
向こうが何を言ってきても絶対に会うな!俺、親父に言ってカイゼル殿下の護衛になったから詳しくはそん時な、んじゃ、気ぃつけて帰れよ」
「え、えぇ、ありがとう」
ライナスは去り際にお父様と意味深な目線を合わせて微笑んだ後に去って言った。
分からないことが多すぎる。
聖女に近寄るな、ということはライナスは今回わたくしに何が起こったのか分かっているのかしら?
それに……。
チラリとお父様を見ると、ライナスが出て行った扉を凝視している。
ライナスの魔法のことを知らないから、今頭の中では必死にどうやって知ったのか考えているのだろう。
でも、お父様の秘密って何?
ふぅとわたくしはため息を吐いて、考えることを止めた。
元々わたくしはそこまで頭の良い方では無いし、今考えても何も出ない。
必要ならライナスが言ってくれる。
「お父様、帰りませんか?」
「あ、あぁ……」
父は心ここにあらずといった状態だったが、一緒に帰宅し、特にお咎めも無しに普通に夕食にした。
ちなみに、急にメニュー変更は出来ないので通常メニューのまま夕食となった。
翌日、学校に行くといつもより生徒たちがわたくしを遠目に見つめるだけで特に変わりは無かった。
リリアンも一応登校している様だったが、彼女の気配は強くて分かりやすいし、あの声も独特、そして足音もパタパタとして近づいた瞬間にすぐ分かるため気をつけていれば避けることは容易だった。
同じクラスでなくてよかったわ。
そして放課後、わたくしはポンコツ脱出のためにもカイゼル殿下の元を訪れた。
何より、昨日のことをライナスに詳しく聞きたい。
すぐに使用人が取り次いでくれて、侍女に連れられて応接室に通されたが……。
応接室で待っているとカイゼル殿下の叫び声とライナスの声が聞こえた。
「いやだぁぁ‼絶対に僕は会わない‼‼ライナス殿だけ行ってきてくれ‼‼」
「何言ってるんですか、ほら大好きな姫さんが待ってますよー」
「面白がってるな‼いいから彼女には僕は寝込んでいるとでも言って……」
「無理ですって、俺、姫さん派なんで、全部包み隠さず言いますよ」
「やめてくれ‼頼む!本当に今日は無理だ!明日‼‼明日なら会うから!」
「今日も明日も変わりませんって、ほら行きますよー」
「わぁぁぁ‼待て‼自分で歩く!流石にコレはカッコ悪い‼」
……わたくし、この前愛するとかなんとか言われなかったかしら。
それもずっと前のことではない、つい一昨日のことだ。
愛すると誓いますと言っておきながら、その相手が来ても余裕で待たせ、そして仮病を使ってまで会わないようにする。
そしてこのやりとり、王宮の中でもカイゼル殿下の周囲は人が少ないとはいえ、使用人達には丸聞こえだ。
婚約者に逃げられている令嬢など、笑いの種にしかならない。
怒りで持っていた扇がミシッと悲鳴を上げた。
沸々と湧いてくる煮えたぎる感情のままに立ち上がり扉に歩いて行くと、先日お気に入り宣言をした侍女が小さく飛びのいた。
「安心なさい、今日は貴方の気分ではないわ」
わたくしは力いっぱい扉を開けた。
目の前にはライナスと彼に襟を掴まれ荷物の様に背負われているカイゼル殿下が居た。
「姫さんいらっしゃい、いやー殿下が渋って」
「わぁぁぁ‼違う!いやえっと‼」
「殿下にどんな事情があろうともどうでもよろしくてよ‼わたくし、ポンコツの相手をしている程暇では無いの、帰りますわ‼」
2人が話す中、わたくしはピシャリと扇を閉じて宣言すると来た道を歩いた。
むかつく。
愛すると言われて真に受けてしまった自分が馬鹿みたいだ。
「ま、待ってくれ!違うんだ‼待って話を」
殿下が後を追ってきて手を取ろうとしたため、わたくしは振り返って逆に殿下の腕を掴み捻りあげ、壁に押し付け、極めつけに閉じた扇を首に当てた。
カイゼル殿下の呻き声が聞こえたがそんなものは無視だ。
「3秒以内に答えなさいな。わたくしの貴重な時間を使って恥をかかせているのはなぜかしら??わたくしの納得いく答えでないと無傷では返しませんわ…1」
「は、恥ずかしかったんだ‼‼君に会うのが恥ずかしくてその……」
恥ずかしい???
そういえば、壁に抑えつけているので顔は見えないがカイゼル殿下の耳は真っ赤だ。
抑えている手も熱い。
「そ、その……先日君にあの、勢いであんなこと言ってしまって……あ、あれは‼紛れも無い本心だったけど!どんな顔をして会えばいいか分からなくなってしまって……それで……」
モゴモゴと口の中で言い訳するカイゼル殿下を見て既視感を覚えた。
『ハンナ、結局わたくしどうすればいいのかしら?』
そう、つい先日、カイゼル殿下に愛すると言われたすぐ後のわたくしにそっくりだった。
「フッ!……フフフ、アハハハハ‼貴方って本当にポンコツね‼」
わたくしは殿下から手を離して、淑女らしくはないが大声をたてて笑ってしまった。
そうよ!わたくしも次どんな顔するか、どうすればいいか悩んでいたわ‼‼
聖女のいざこざで張りつめていた緊張が一気に消え、急に体が軽くなった気がした。
自分で告白しておいて、自分で赤くなり、その後どうしていいか分からずに女性から逃亡するなんてまさにポンコツだ。
無能の極み、ポンコツ王子。
でも不思議とこのポンコツ具合が今のわたくしには心地よく思えてしまう。
わたくしにはまだ恋という感覚は分からない。
でも、カイゼル殿下のことはこの数日で好ましく思い始めていることは分かる。
フフフ、わたくし案外この男の隣が好きかもしれないわ!
わたくしは顔を真っ赤にしてしゃがみこむポンコツ王子の頭をポンポンと軽く叩いた。
「納得がいきましたわ!部屋までわたくしのことをエスコートなさいな‼」
「うん……あぁぁ、僕って本当にカッコ悪い……」
「フフフ、これから最高の男にするのだから問題なくってよ‼」
「そうそう、俺も殿下のこと嫌いじゃないんで出来る限りは手伝いますよ。出来る限りは!」
「出来る限りはが多いよ……」
3人で応接室に戻ると、ザックリとした殿下の育成計画を立てた。
わたくしの隣にライナスが座り、向かいにカイゼル殿下が座る。
基本的に婚約者が隣同士だと思うが、お互いにそれは恥ずかしくて遠慮した。
【ポンコツ王子育成計画‼】
筆記:家庭教師が悪い可能性があるため、総入れ替えの詰め込み(公爵家の家庭教師流用)
これから学園の試験を受けて転入するため、それまでに出来るだけ詰め込む。
魔力:上げる方法が無いため放置‼
魔法:ひたすら魔法陣無しの練習を自力練習‼
体力:剣術に伴ってつくと予想!
剣術:結局殿下と時間の取れるライナス指導。
ダンス:毎日セイランが来て練習。
マナー:可もなく不可なくなので現状維持‼
社交:要点を抑えてひたすら暗記‼
カイゼル殿下は出来た計画書を見つめて首を捻った。
「……??この社交の項目、暗記って何を暗記するんだ?」
ライナスがニヤリと笑った。
「あぁ、それはですねー」
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