12話 聖女
聖女伝説とは、神より選ばれし聖なる乙女の伝説。
王国に危機が訪れる時、聖女は現れ一人の英雄と共に王国を救う。
聖女の癒しの力は全ての病、傷を治し、たった一人の英雄に力を与え、英雄と共に魔物をうち滅ぼす。
そして、王国に平穏をもたらす。
聖女は純粋、そして慈しみの心をもち、美しきピンクの瞳を備え、他者を引き寄せる不思議な魅力をもつ。
「前回聖女様が現れたのは約300年前とされている。文献によるとその時の聖女様も美しく聡明で、全ての民に分け隔てなくそのお力を使い、王国に襲来する魔物を英雄と共にうち滅ぼしたとされている」
「どこかの悪女とは大違いね!」
クスクスと周囲から笑い声があがる。
わたくしはここ数日、傷心のためとして学園を休んでポンコツ王子や騎士達としか関わらなかったせいで忘れていた。
わたくしにとってこの学園は戦場だということを。
学園では新しい聖女の誕生ということで、授業でわざわざ聖女伝説のおさらいをしている。
そんな中、聖女の出現のせいで婚約破棄をされた傲慢悪女のわたくしは良い笑いものになっている。
先日の醜態のせいでもう誰もわたくしを恐れておらず、むしろ蔑んでいる。
お仕置きしようにも、人数が多すぎてどこから手をつければいいか分からない状態になってしまっている。
ぎゅうっとわたくしは拳を握りしめた。
「プッ!また机を殴るんじゃないか?淑女として恥ずかしくないのかね!」
「いやぁ、あそこまでいくと恥も何も無いんだろ!」
「こら‼静かにしなさい!授業中だぞ‼」
ゲラゲラと下品に笑う男子生徒、それを諫める方向性のおかしい教師。
本当に屈辱だわ……。
最悪な心を抉る様な授業が終わり、昼休憩の時間。
わたくしが食堂に向かおうとすると、追ってきている人影が居た。
この分かりやすい気配、それと後ろには騎士……。
「セイラン様‼‼‼待ってください‼」
耳に心地よい声が廊下に響いた。
振り向かなくても分かる、聖女リリアンが追ってきているのだ。
わたくしはリリアンの声を無視して足早に歩く。
リリアンとは何度か会ったことはあるが、いつも不思議なくらいに最後にはわたくしが悪者となってしまう。
彼女の持ち物が無くなれば真っ先にわたくしが疑われ、彼女が罵声を浴びせられたとなれば裏でわたくしが指示をしたとなる。
冗っっっ談じゃありませんわ‼‼
わたくしは気に入らなければ正面から打ち据える。
裏からこそこそするなんて弱者のやること‼
わたくしは強者なのだからこそこそ人を使う必要なんて無い‼‼
「セイラン様!セイラン様‼待ってくださいセイラン様‼あっ」
ベシャッと後方で都合が良く転んだ音がした。
転ぶ瞬間の足音は不自然な感じがした。
わたくしがこの女を嫌いなのはこういう所も含まれている。
彼女が何かを失敗するとき、足音や呼吸、手つき、その他諸々が不自然な感じがするのだ。
つまり、証拠は無いが失敗は全てが演技。
なぜ演技をしてまで失敗をするのかわたくしには理解出来ない。
でも、結果を見るとそういった積み重ねが周囲の人間の心を掴むらしいことは最近になってやっと分かってきた。
「リリ‼‼大丈夫か⁉おい‼リリが呼んでいるんだ!止まらないか‼‼」
ため息を吐き振り向くと、フワフワした金色の髪に綺麗なピンクの瞳をした少女リリアンを金髪碧眼のウィリアム殿下が助け起こしている。
その後ろには騎士が2人控えているが、リリアンに触れてはならないのか通常の護衛よりも離れて見守っている。
あの護衛は意味があるのかしら??
あれでは有事の際、一瞬遅れてしまわないだろうかと考えてしまう。
「ごきげんよう殿下、わたくし、聖女様に名前で呼ぶことを許可していなくってよ。振り向く必要がありまして?」
ウィリアム殿下はわたくしを強く睨んだ。
「リリは聖女だ‼‼公爵家のわがままで傲慢な悪女よりもずっと価値がある‼リリがお前に敬意を払うんじゃない!お前がリリに敬意を払うんだ‼‼」
「ウィルそんなに怒らないで!私が悪いんだから‼」
美しいピンク色の瞳を潤ませてウィリアム殿下を見つめたあと、リリアンはわたくしの方にそんなに距離は無いのに可愛く走ってくる。
「あの‼ごめんなさい‼‼‼」
わたくしの正面まで来るとリリアンは深々と頭を下げた。
廊下のど真ん中で聖女が頭を下げ、その目の前には有名な傲慢悪女が居る。
そんな光景を周囲はリリアンに対する哀れみと、わたくしに対する怒りの眼差しで見ていた。
「わたしがウィルを好きになったせいで婚約破棄されたって聞きました!本当の本当にごめんなさい‼」
リリアンは震えて、頭を下げながら泣いている。
馬鹿正直に謝れば済むとでも思っているのかしら⁉
自分を見せつけるためにわたくしを利用しようなんて良い度胸しているわ‼‼
……と少し前のわたくしなら怒り心頭で喚き散らしていた。
このリリアンを前にするとどうしても怒りを抑えられなかったから。
でも今は……。
「……そう、貴方の演出に付き合っている様な時間、わたくしには無くってよ」
冷静にリリアンに答えられた。
ここで喚けばわたくしが悪者になることは分かっている。
それでもいつも喚くことしか出来なかったのに、今日は違う。
なぜだか、ウィリアム殿下をとられたことよりもあのポンコツの婚約者になったことの方が重要な気がしてならない。
「フフフ、わたくし自分で思うよりもとっても単純な女なのね」
目の前の次期国王で見目麗しいウィリアム殿下、それでも一度だってわたくしの味方をしてくれたことも、心を傾けてくれたことも無かった。
でもあのポンコツは誓ってくれた。
誰よりも愛すると。
言われた瞬間は実感が湧かなかった。
でも、時間が経つごとにその言葉はわたくしの中で強く大きくなって喜びをもたらしてくれる。
思わずフワリと笑うと、目が合ったウィリアム殿下とリリアンが目を見開く。
なぜだかその場に居た全員が固まっているため、わたくしは2人を放置してそのまま食堂に歩いて行こうとした……が。
ザワリと何か嫌な物が体を這いあがってくる感覚の直後、わたくしの視界は真っ暗になった。
数秒後、視界が元に戻るとわたくしはなぜだか騎士2人に剣を突きつけられていた。
その奥では、リリアンが頬を抑えて泣いておりウィリアム殿下が彼女を抱きしめこちらを睨んでいる。
気がつくとわたくしの右手がまるで、何かを思いきり殴った後の様に若干痺れている。
「???」
「セイラン・アーヴィン‼‼お前は聖女を殴った罪により退学とする‼‼」
例え王子であっても勝手に退学には出来ないだろう、頭の片隅で考えながらわたくしはそれよりも前の言葉に驚いた。
「わたくしが……聖女を殴った??殴っていないわ‼ここに居た者達見ていたでしょう⁉」
わたくしの言葉にウィリアム殿下は噛みつくように吠えた。
「ふざけるな‼‼それこそこの場に居た人間全員が証人だ‼‼今‼君はリリを思いきり殴っただろう‼その女を捕まえろ!」
護衛についていた年配の騎士2人は眉間に皺を寄せながら、わたくしの腕を掴んだ。
思わず弾き飛ばしそうになったが、わたくしは2人の騎士に従って無抵抗で捕まった。
周囲の視線は、いつも悪女に向けられるそれに戻っている。
全ての状況が、わたくしがリリアンを殴ったと物語っている。
おかしいのはわたくし??
本当に学園を退学になるのか、何が起こったのか頭の中で目まぐるしく自問自答しているが答えが見つからない。
リリアンを見ると、泣きながら震えてウィリアム殿下に縋りついている。
なぜだか無性にその姿を見ると怒りが湧いてくる。
わたくしはなぜこんなにも聖女に嫉妬しているのかしら???
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