第十九話 専門的神様
義総さんの命日まで残り3日っと言っても別に生活には支障ない。過去の自分はあったが……。
しかし、これからよくないよ事が起きる予感がある。
お恵ちゃんの依頼だ。
彼女に仇を討つよう促した人物がいるはずなのだ。
あの西洋の服を着た男性か、はたまた違う人か。いや、あの男性自体、人なのか分からないところだ。
「おい、小春。早くしろ」
宿の外で鹿威さんが苛立たしく言った。
「待って下さい。もうすぐですから」
わたしは今手紙を書いている。誰に出す手紙かは大体は検討がつくだろう。
村に居る家族と匠次郎さんへだ。
一昨日の夜、あの西洋の男性が言った言葉が心に引っかかった。「次、君が大切な“人”を失ったらどんな力を発揮するのかね?」っと言う言葉だ。
今朝、この事について鹿威さんと霪馬さんに相談してみた。彼らは「気にしなくてもいい」と言ったが、どうしても気になってしまうわたしに彼らは言った。
「早いが、このまま村に帰らず本職の方に集中するか?」
っと。一度は迷ったわたしだが、大切な人を失うよりましだった。
だから今、宿を出る準備をしている。
「小春、終わった?」
菖蒲さんが顔を覗かせた。
彼女も「ついて行きたい」とわたしに申し出た。菖蒲さんはわたしの事情を知っているたった一人の人なので、付いて来てくれるだけで嬉しかった。
「はい。大体は終わりました。あとはコレを……」
「じゃぁ、あたしのこの子を遣えば?」
彼女の腕の上に止まっているのは、鷹だった。
ん?この子を遣えとは?
「あ、菖蒲さん。それは一体」
「ビックリしちゃった?この子はね、あたしの相棒なのよ。利口だから狩だって出来るし、伝言だって、この子の足に括り付けておけば、勝手に相手側に送り届けちゃう」
「凄いっ!」
「でしょ?この子はあたしが里に居たときからの相棒だからね。あたしの言うことは大体は聴いてくれるよ」
「へー。本当に凄い。名前はなんと言うんですか?」
「藍鷹よ」
「………いい名前ですね」
「どうせ単純な名前だと思ってんでしょ?」
「いえ、そんな事少しも思っていません」
「はいはい。じゃあ、早乙女の所とかぐち村に届ければ良いんでしょ?」
「ああ、それは有り難いですが、まだこの手紙は後で届けようかな……と思っています」
「あら、何で?」
「母や父はこの手紙を見たら、こっちにわたしを探しに来てしまうかもしれないし────まあ、そうさせないために、この手紙には、ある程度の事実が書いてあります」
「ふぅ~ん」
「しかし、問題は匠次郎さんの方です。彼は多分、式神をつかってわたしを捜すだろうし、こういう大事な事は面と向かって理由を聞かないと気が済まない人ですから」
「面倒くさい人ね」
「えっ?普通だと思いますよ?だって……書いた本人が言うのもアレですけど。手紙って、自分の思いが素直に書けるけど、それが相手にはちゃんと伝わるかは微妙だなって思うんです」
わたしは自分の手の中にある手紙をみた。
「あら、何で?手紙は嘘も書けて便利じゃない?」
「それです」
「は?」
「手紙は真も嘘も書けます。しかし、それを知るのは書いた本人だけ。相手からしたらコレが本当なのか嘘なのか分かりません」
「う、うん。そうね」
「だからです。彼は、大事な事は面と向かって話して、それが真実なのか偽りなのか確かめます。しかし、ふざけた内容の手紙なら、彼からの返事の手紙が届きますよ?」
「ありゃ?貴方達、手紙のやりとりしていたの?」
菖蒲さんは驚いた顔をした。
「はい。日常生活のことやら。ちょっとしたおふざけの内容ですけど」
「ふ~ん。まっ、それはいいとして、早く荷物片付けなさいよ?そろそろ行くわよ?」
「はい」
わたしは立ち上がり、荷物を取りまとめた。っといっても、着物とちょっとした日用品だけだ。だから少ない。
「鹿威さんは外にいますけど、霪馬さんは何処に行ったのでしょう?」
先ほどから鹿威さんの声しか聞こえておらず、わたしは不思議に思った。
「ああ、あの馬鹿はね、隠れ家を探しに……」
菖蒲さんが途中で言葉を止めた。彼女がわたしの後ろを睨んでいたので、わたしは後ろを振り返った。
「あっ、霪馬さん」
彼は窓の縁に腰掛けてこちらを側を睨んでいた。
「ったく、誰が馬鹿だよ。こっちとら、隠れ家探しで忙しかったのによ。お前達はここで呑気にお喋りかい」
「女はお喋りが大好きなの」
「だったら、しっかりとした着物着れよ」
「うっさいわね。コレはファッションよ」
「ファッションの前に体に気を付けろ」
些細な口喧嘩が始まる前にわたしは彼らを止めた。
「まあまあ、とにかく………霪馬さん、隠れ家見つかったんですか?」
「ああ、ボロい崩れそうな廃棄神社だが、人が来ることは先ず無いな」
「あ、ああ……」
ボロい神社か。何か不気味でヤだな。
「ボロい神社でも、建て直せば立派な家になるぞ?」
「でも、罰当たりませんか?」
「ハッハハ、神に罰が当たってたまるか。つか、建て直してやるのに、罰が当たるのか?」
「それは分かりません」
「それに崩れかけている神社は神が居ないことを意味する」
……崩れかけているんだ。どうしよう。益々、不安になってきた。
「まっ、小さな事は気にせずに楽しくやっていこう!」
「ですね」
わたしと菖蒲さんは荷物を持ち、鹿威さんの所に向かった。
宿代を払い、荷車を引きながらその目的地に向かった。目的地の道のりは荒々しく、雑草が生えていた。
途中で茶屋があったので、そこで一服した。
「意外と遠いんですね?」
こんなわたしの言葉に鹿威さんは意外な返答をした。
「いや、ただ遠回りしているだけ」
「えっ?」
「目的地に向かうには、早乙女屋の前を通らなきゃならんからな。お前嫌だろ?匠ちゃんの店の目の前通るの」
「え、ええ。まあ」
「オレ達だけだったら早く付けるんだが、人間が居るからな。そうはいかないんだよ」
「悪かったね?人間で」
菖蒲さんは鹿威さんを睨んだ。
「だから、山道の中の人目のつきにくい獣道を通って目的地に向かっているんだよ」
「へー、獣道に詳しいんですね?」
「鹿の神でも獣だからな」
………確かに獣の神様だ。
わたしは鹿威さんのあとをついて行った。
程なくして、人が通るような道に出た。
「っしゃぁ。ついた」
鹿威さんのこの言葉にわたしは首を傾げた。
ん?どゆこと?
「小春、前にある階段を上れば古神社があるぞ」
「えっ?この階段、上るんですか?」
「あったりめーよ」
前にある階段は石が崩れかけていて、霜にやられた草が、割れて崩れかけている階段の石と石の間から出ていた。
しかも滑りやすそうな苔が生えていた。
「何でしょう?この階段を上がった後の神社の様子がわかる気がします」
「それは良かったな」
わたし達は階段を上り、上がり終わった後の神社を見たわたしと菖蒲さんは固まってしまった。
それは、ぼろ神社何かじゃなかった。幽霊神社でもない。
壁の彼方此方が空いており、屋根は雑草が生え、そこら辺も雑草だらけ。強いて言えば、腐食の進んでいる何かの塊だった。
多分、十人中九人がこれが神社だったとは誰も思わないだろう。
「ああ、霪馬さん。コレは………」
鹿威さんもかなり困っていた。
「見て分からないのか?神社だ。神社」
霪馬さんは真面目な顔で“神社”と言うものを指さしていた。
「いや、見ても分からねーよ!どアホ!」
鹿威さんがナイス突っ込みを入れてくれた。
「贅沢言うな。今はこんな成り立ちだが、昔はかなり人々がお参りに来て栄えていただろうよ。神はいないが」
「えっ?」
「神が居なくなった社は腐り果てる。人間が崇めなければ神は次第に力を無くし消えてしまう。そういうもんだよ小春」
「え……」
「恐らく、ここに居た神はここら辺の小さな丘一帯の土地神だろう。昔と違って、今この地に多い神社は稲荷神社などだからな。次第に人々から重要視されなくなり、自然消滅したんだろうな……」
霪馬さんはフッと悲しそうな顔をした。いや、霪馬さんだけではない。鹿威さんも同じ顔をした。
ザァ
不意に冷たい風がふいた。まるでここにいた神を悼むかのように。
「そう言えば、つい百年ほど前から神譲りの時、神が一柱、足りないような気がしたな」
霪馬さんがボソッと呟いた。
つい百年ほど前って………それって“つい”と言えるほど、最近じゃないんだけど。
いや、気がしたって、どれだけ曖昧なの!?
「そういやぁ、そうだな」
「ちょっ、待って下さい」
わたしは彼ら二人を止めた。
「ん?どうした。小春?」
鹿威さんが片目を瞑りながらわたしを見た。
「そんな……神が消えた場所で勝手にわたし達が住んでも宜しいのでしょうか?」
「はぁ。だから言っただろ?小春。こんなぼろ神社のままほっとく方がいかないんだぜ。むしろ、住んで貰った方が消えた土地神が浮かばれるだろうよ」
鹿威さんは辺りを見渡し言った。
「それに、オレ達はこのままこのぼろ神社に住むわけではない」
「はい?」
「先ずは、雑草の生えた庭を綺麗にし、鳥居を建て替え、社も建て替える。別に人が来るわけ無いので、本殿の後ろにオレ達が住まう家を建てる」
「それは、今より豪華になるな鹿威」
霪馬さんは納得したようだが、わたしと菖蒲さんはまだ理解出来ていなかった。
「でもそれって時間が掛かりません?」
「そうそう。それにアタシ達だけじゃ人手が足りないし、か弱い乙女に力仕事させようってんの?」
「か弱くねーだろ」
霪馬さんがボソッと呟いた。
「まあ、オレと霪馬じゃ一夜で建てるのは大変だから」
「鹿威さん。一夜で建てるのですか!?無理がありません!?」
「まあまあ。一夜で建てるのは大変だから、専門家にやらせんだよ。人の話し最後まで聞けよ」
専門家?
「敷地の神、家屋の神、屋敷神、門口の神、井戸の神、台所の神、竈の神、厠の神なんかが代表的だな」
「あー、そうなんですか。結構多いですね?」
「あったりめーよ。家は一生住むかもしれない大切なモノだからな。一神だけだったらかなりの負担がかかる。その分、それぞれの分野に別れたらかなり楽ちんだからな」
なる程。
「あっ、でも厠の神は大変だよな。なんか前聞いたときは、皆が厠を綺麗に使ってくれないとか嘆いていたよ」
霪馬さんが笑いを噛み締めながら言った。
厠の神様!今、アナタの事を笑っている彼らに天罰を!!
「とりあえず、そいつら呼ぶか」
「でも、あんたら以外の神は暇じゃ無いんじゃないかな?」
菖蒲さんが腕を組んで言った。
「お、おいおいおいおい!まるでオレ達が暇神って感じに聞こえるんだけども!?」
「俺も鹿威に同意!!」
「暇って……あんたら暇だからアタシ達に付き合っていたんじゃないの?」
「ムッ。それは聞き捨てならんセリフ!オレ達は暇だからではない。オレ達の今の仕事は小春の補佐。天照大神さんから頼まれてんだい!」
「お、俺は別に違うけど、十二支だってな、自分の好感度を上げようと必死なんだからな!」
「はっ?お前何言ってる?お前も小春の補佐だろうが。天照大神さんからそう聞いているぞ?」
「何時ゥゥウ!?何時俺の知らない所でそうなったの!?」
「随分前。お前から申し出たとある人から聞いたと天照大神から。はて、十六年前だったかな?」
「お、お前……どこでそれを知った?」
霪馬さんは顔を真っ赤にした。
「神様の情報網ってんのは凄いのよ」
「いや、どの神から聞いた?」
「ある人から聞いた天照大神さん」
「あっ………うわぁぁぁあ!!」
霪馬さんは頭を抱えてしゃがみこんだ。わたしと菖蒲さんは全く話しの内容についていけなかった。
「霪馬さん。何をそんなに顔を真っ赤にして叫んでいるんですか?」
「う、うるさい!」
「はぁ……」
何に対して怒っているのか、わたしには解らなかった。鹿威さんがわたしの肩を叩いた。
「小春。察してやれ」
「え?何をです?」
鹿威さんはヤレヤレといった感じに首をふった。
「あいつは、天照大神さんからは直接頼まれていないが、別の人に頼まれたんだよ」
「誰にです?」
鹿威さんは小指を突き出した。
「コレだ」
「……あの、意味がよくわかりません」
「女だよ。お前の」
鹿威さんが最後まで言葉を言い終わる前に霪馬さんが彼を蹴飛ばした。霪馬さんは鹿威さんを睨みつた。
「それ以上言ったらお前……コレだから」
コレっと同時に霪馬さんは爽やかな笑顔で親指で首を横切らせた。
「お、こ、恐っ!それ笑顔で言うもんじゃないぞ!」
「そうよ霪馬。あたし達にもっと詳しく話してちょうだい」
「うるさい!お前には関係ないことだい!」
それより、今はそんな事より早く建て替えて欲しい。うん。寒い。今は霜月中旬なので寒い。風が寒い。
わたしの思っていることがわかったのか、鹿威さんが一咳した。
「とりあえず、あの神々を呼ぼうか」
「お願いします」
鹿威さんは瞬時にどこかに消えた。どこに消えたかは大体想像もつくが、なかなか想像つかない。
それから一刻ほど、ちょうど日が沈み、月が太陽の反対側から顔を覗かせた時に鹿威さんは戻ってきた。
「鹿威さん。お帰りなさい」
「……うん。なんか嬉しいよ。“お帰りなさい”なんて言ってくれる奴、お前しかいないよ……小春は良いやつだな」
泣いているふりをして、彼は鼻を啜った。
「っで、専門家はどこにいる?ちゃんと連れて来たのか?鹿威」
「ああ、少し遅れると」
「もう既に来ておる」
鹿威さんの後ろに八柱の神々がいた。どうやら彼らが専門家らしい。
「随分と早くに来たな?」
「そなたの面倒事は早く終わらせる主義でのう」
三十路前後の外見の女性が言った。彼女は一体何の神なのだろうか?
「そうそう。貴様の頼み事は必ずと言うほど面倒だから、儂らは先にこちらを片付けようと判断したじゃ」
この専門家の中では一番長いヒゲを生やした、お爺さんの外見をした神が言った。
「すみません。わたくし達、彼らと違って毎日が忙しいもので、余りここには長居出来ませんので予め御了承下さい」
何故か解らないが、この綺麗な女性は厠の神だなっとわかった。だって美しく、この専門家の中では若々しく見えてしまう。
「ああ、噂に聞いておる神擬がいたな……そなたが四世の神擬か?」
三十路前後の外見の神がわたしを見た。
「はい。えーと、小春と申します」
「おや?ワシは春菊と聞いておったが、そなた名を変えたのか?」
「違う違う。台所の神さんよ、コイツは育て親が代わったからな、ネームも変わっちまったのよ」
鹿威さんが代わりに言ってくれた。
「ほお、そうなのか?」
台所の神だったらしい三十路前後の外見の神は納得したように頷いた。
「そうだ、四世の神擬よ、貴様は菊理媛神の生まれ変わりだったな?菊理媛神の記憶や力はあるのか?」
長髭の神が聞いてきた。
「え………まあ。はい、少しなら」
「屋敷神よ、彼女はまだ力に完全に目覚めていない。だから私達がいる」
霪馬さんが少し一歩前に出た。
「馬神か。貴様も四世の神擬のお守りか?」
「私は自分から彼女の守護を申し出た」
「ほほ。儂は人間の女から頼まれたと聞いておるぞ?まあ、そんなことは良いわい。神擬よ……いや、神擬として、人間に近い存在でありながら神である存在になった菊理媛神よ。人間としての暮らしはどうじゃ?」
菊理媛神の名を呼ばれて、何故かわたしの胸の奥が熱くなった。
心の底からこみ上げてくる言葉が屋敷神に向かって言った。
「屋敷神。わたしは今の暮らしに不便などありません。人の暮らしを見るのは良い気持ちです」
わたしの中にいるもう一人の自分……菊理媛神様。あなたはわたしのどこに居るのですか?わたし自身が菊理媛神で、人間名は小春?
違う。わたしは不完全な菊理媛神だ。
「えっと、まあ……こいつらを順に紹介していくぞ小春」
「その必要は無いのではないか?彼女は菊理媛神のそのものなのだから」
鹿威さんが困ったように頭をかいた。
「いや、だから。コイツは記憶がまだ曖昧なの。だからこんな風に紹介しようと」
「ほっほほ。なるほど」
そして鹿威さんは彼らを順番に紹介していった。
先ずは、敷地の神だ。この神は隠居暮らしをし始めた老人の格好をしていた。
次に家屋の神は座敷わらしを思わせる外見で、小さな女の子だった。
髪型は肩より上に切り揃え、頭の上には少量の髪を束ねて結び、その髪も切りそろえている。
屋敷神は敷地の神と同様で仙人みたいなか外見だった。ちなみにこの中で一番髭が長いのが特徴。一見、貧乏神を連想させる姿だが、上等な着物を着ている。
門口の神は鎧を着、門番らしい神であり、厳つい顔立ちをした神だった。
次に井戸の神。この方は他の男性陣を見比べると綺麗な顔立ちをし、空色の髪をした色白の男性だった。いや、男性らしい女性かもしれないが、わからない。
台所の神。この方は先ほどから話している外見は三十路前後の女性の形をした神だ。きっちり体質のようである。
竈の神。彼は太った体系でふっくらとした顔立ちで目が細く、この専門家の中では一番背の低い神だった。
外見は七福神の布袋を思わせるが、しっかりと髪は健在だ。
最後に厠の神。美しい成り立ち。おっとり系の綺麗な女神だった。
「っということで分かったか?小春」
「はい。大体は分かりました」
「っで、今回も宜しく!専門家様」
鹿威さんは手は合わせてお願いした。
「ねぇねぇ、鹿神が面白いことしてくれたらやってやってもいいよ!?」
家屋の神が鹿威さんの手を引っ張りながら子供らしく頼んだ。それを鹿威さんは困ったような表情を浮かべた。
「ええ、面白いことって……」
「何でもいいよ!ボク、馬神と鹿神が馬鹿やったこと大好きだよ!だって面白いし」
「馬鹿って………」
「だったら我々がお題を出してやっても良いぞ?」
「えぇっ!何?温和しい井戸の神まで乗り気なの!?」
「ねぇねぇ、お願いお願い。可愛い家屋の神からのお願いだよ?」
「そんな……いや、お前はオレ達と一緒の年齢じゃねか?つか、お前もババァ」
ダシュッ!
「うおっ」
家屋の神が鹿威さんの足を力強く踏んだ。
「家屋の神は怒らせると恐いぞ」
台所の神がわたしに近づいて一つ忠告した。
「鹿神のバーカァ!バーカァ!お前の為に家なんか造ってやるもんか!」
「いやいやいやいや。オレだけじゃないから。霪馬や、小春に人間だっているんだからな!」
「人間?」
家屋の神が鹿威さんを叩く拳を止めて不思議そうに首を傾げた。
専門家様は揃ってわたし達一人一人を見て、菖蒲さんに視線が集中した。菖蒲さんは気まずく、小さく
「どもー……こんばんは」
っと挨拶した。
「おやおや、人間恐怖症の鹿神が人間連れてるぞ?」
門口の神が顎に手を当て言った。
「いや、人間恐怖症まではいかないぜ。流石に」
「ねぇねぇ、馬神。あれ本当に人間?」
家屋の神は霪馬さんに近づいて言った。
「正真正銘の人間だ」
それを聞いて家屋の神は頬を膨らませた。
「嘘つき」
「これこれ、家屋の神よ。同じ神同士に“嘘つき”なんて言葉は遣うもんじゃないぞ?」
屋敷神が髭を触りながら、杖で家屋の神の頭を軽く叩いた。
「厠の神。あれは人間かえ?」
台所の神がもの温和しい厠の神に聞いた。
「はい。あれは正真正銘の人間の女性です。少々妖怪臭いですが、それは一度憑かれていたからでしょう。しかし、今はただの人間」
「なるほど。人間の匂いが余りしないのはそのせいか」
初めて喋った竈の神。
「まあまあ、とりあえずお喋りはここまでにして、早ようやってくれ」
鹿威さんが呆れた表情をした。
「そうそう。お前達は余り時間が無いんじゃなかったか?確か鹿威にそう言ってなかったか?つか、厠の神がそういったよね?」
「ほっほほ。久しく神擬に会ったから、ついつい会話が弾んで忘れておったわい」
屋敷神が長髭を触りながら笑った。
神様の少しって何ですかね?
「神擬。少し下がっておれ。鹿神や馬神はどうなっても良いが、そなたは大切なお方。危害が及ぶのは良くない」
「えぇっ!何それ!どういう意味!?」
鹿威は台所の神にツッコミを入れた。しかし、台所の神には見事無視された。
彼女はわたしを菖蒲さんの所まで連れて行った。
「人間の娘。貴様もここに居れ」
「はーい。分かりました」
「ちょっと、俺達も危ない決まっているだろう。てか、お前達が力を使っている時って毎度何かが飛んで来て危ないんだよ」
霪馬さんが慌てて台所の神の後を追いかけてきた。その後を追うように鹿威さんもだ。
「何?そなた、ワシ等に文句を言うのかえ?」
台所の神が霪馬を睨んだ。
「そうじゃない。俺達は別に慣れてるけど、小春や人間の菖蒲は危ないだろ?何か物が飛んできて、彼女たちに当たったらどうする?」
何かモノが飛んでくるの!?
すみませーん。もっと安全な方法でお願いします!
わたしは叫びたくなる感情をぐっと抑えた。
「ふっははは。大丈夫ではないか?そなた等がいるであろう。その為のお守りでもあるのだろう?」
台所の神は笑いながら、彼らに言った。
「その為だけでもないぞ?」
霪馬さんは無表情で台所の神を睨んでいた。
「ふっ。まあ良い。出来る限りの事はしよう」
「あっ、じゃあ、安全でお願いします」
鹿威さんが台所の神の肩を叩いた。肩を叩かれた彼女は汚いモノでも払うかのように鹿威さんの手を叩いた。
かなりショックを受けた鹿威さんだった。
彼らは大きな円をつくった。そして、何を言っているのか分からない言葉を唱え始めた。
すると周りが青白く光、風が荒々しく吹き始めた。
専門家の神様達は両腕を上に挙げた。更に強くなる風にわたしと菖蒲さんは飛ばされそうになったが、鹿威さんと霪馬さんがわたし達を何とか受け止めてくれた。
専門家の神様達の円の真ん中には大きな竜巻が起こっていた。
わたしはチラリと台所の神やその他の神々を見てみた。
彼らは皆獣の瞳を大きく見開き、無表情に力に集中していた。
中心にある竜巻は崩れかけている社を吸収し、鳥居も周りにある全てのモノを吸収していった。
ギィィィイ
その竜巻を中心に何処からともなく飛んできた木々が吸収され、再び出てきた時には木材となっていた。
それからは見る見るうちに社が出来上がってきた。
余りにも美しすぎて息をすることすら忘れてしまうその光景は西洋の魔法という言葉がしっくりきた。
わたしは何も考えずにこの美しい光景を眺めていた。
「小春、美しいなんて思ったらいけないぜ」
鹿威さんが目を細めた。
「ええ?どうしてです?こんなに美しい光景見たことありませんよ?」
「確かに美しい……が!実は丸太やら何やら飛んできて危ないんだからな!」
そう鹿威さんが言った途端に、本当に丸太が飛んできた。
「ひゃっ!」
わたしはとっさに避けた。
「ギャー!ほら見ろ!いわんこっちゃない!」
鹿威さんは逃げた。その後を丸太が追いかけていった。
何故か丸太は鹿威さんの方に集中攻撃をしていた。
「鹿威ちゃん。アナタだけじゃない?丸太飛んでくるの?」
菖蒲さんが別の木にしがみつきながら言った。
「えっ?オレだけではないぞ?霪馬だって
………」
「えっ?俺が何だって?」
霪馬さんは涼しげな顔でわたしの後ろに隠れていた。
「い、霪馬さん何時の間にわたしの後ろに!?ってひゃっ!」
霪馬さん目掛けて飛んできた丸太がわたし目掛けて飛んできた。
何とかギリギリ除けて回避したものも、次々と丸太やら、草が飛んできた。
「こ、こんのっ!霪馬さんの人でなし!」
「俺、人ではないから」
「あ……。い、霪馬さんの馬鹿!ハゲろ!」
「誰がハゲで馬鹿だ!コノヤロー!」
怒った霪馬さんは立ち上がった。わたしより遥かに背の高い彼は直ぐに丸太にぶつかった。
「ブキャッ」
明らかに二人だけを狙ってくるその物体は建物が出来ていく内に次第に少なくなっていた。
そして、やっと完成した時には二人はボロボロだった。
「おやおや……。ワシ等は出来る限りのことはやったぞ?」
「嘘つけェエ!絶対狙っただろ!?オレ達の所しか飛んできてねーもん!」
鹿威さんが鼻血が出た鼻を押さえながら彼らに反発した。
「ほっほほ。無様な姿の鹿神よ。儂等は出来る限りのことはやった。これは絶対じゃ。見よ。その証拠に神擬と人間の娘は無事じゃ」
屋敷神が杖でわたし達をさした。
「いやいやいやいや。絶対って……アイツらが無事でもオレ達は無事ではありませ一ん!」
「そうそう。それに何故俺達だけ狙う?何か俺達に恨みでもあるのか?」
「そうだ。霪馬の言うとおりだ!」
「べ、別に………恨みは」
厠の神がサッと顔を背けた。それにつられて他の神も一緒に顔を背けた。
「「なんでェェエ!何で顔を背けるの!?やっぱ、オレ(俺)達何かお前達にしたァア!?」」
二人揃ってそう叫ぶ。
「そ、そんな……気にしないで下さい。あの過ちは一夜限りっということにしていますから」
厠の神は涙を浮かべてソッと袖で拭った。
「えっ?何?一夜限りって……オレは何も覚えてないぞ?」
「お、俺もだ」
「ひ、酷い!あの一夜はやっぱり過ちだったのね!?わたくしだけが真に受けていたなんて“馬鹿”みたい!」
倒れそうになる厠の神を井戸の神と門口の神が支える。
「大丈夫か?厠の神よ」
「ええ。大丈夫よ。門口の神、心配はいりませんわ」
「しかし……」
「くっ。本当に覚えていないのか貴様等!」
井戸の神が形相を変えて振り返った。
「いや、だから何の事やらさっぱり」
鹿威さんは困りながらそう言った。
「何故!?あの時の私の一夜限りの関係も偽りだったというのか!?」
「お前かよ!って、えェェェェエ!お前男じゃ」
「あなたは覚えておられないのか?」
「はぁ?何を?」
「あの時……あの時、月の綺麗な夜に私はあなたに打ち明けたではないか?私が『実は私、同性愛者なの』と打ち明けたらあなたは『オレは同性愛者でも構わねー。オレはあんたのことが好きなんだ』と。そのまま私と鹿神は床入りに……」
「待て待て待てっ!全っ然何の事か分からないんだが?」
慌てる鹿威さん。その横で菖蒲さんがしかめっ面をして、口を抑えた。
「おぇぇえ」
……何ですかね?このドロッドロ感は……。あれ?さっきまで真面目そうな神様だと思ったのに。
「そうっ!馬神、あなた覚えていらっしゃる?あの時、わたくしがあなたに『ずっとずっとあなたのことが……好きなんです』と伝えたらあなた何って言いました?『ああ、俺もだよ』と仰ったのよ!!そのままわたくし達は夜の熱い一夜に………」
「待て待て待てっ!見に覚えが無い!」
「酷いわ!あんな熱い一夜を忘れる何てっ!」
「ふむ、では結婚したらどうだ?」
傍観者立場の台所の神は一つそう定案した。
「ほお。それは良い提案じゃな」
敷地の神がこれに同意した。
「や、やめろ!謝る謝るからそれは勘弁しろ!」
鹿威さんが必死こいて台所の神に詰め寄った。
「ワシに謝れてもこまる」
鹿威さんは後ろに振り返って、井戸の神の前で謝った。
「オレ、そんな趣味してないけどご、お前を傷つけたならば謝る。ごめん!」
「私はいつでもお前の熱い一夜のお供を待っているからな」
「えっ?」
そして霪馬さんも厠の神に謝った。
「俺、全っ然身の覚えの無いことだが、すまん!」
「わたくしは覚えていますから」
これにて一件落着かと思いきや……
「ふっ、ふっはははは。これほどまでに上手くゆくとは思ってもいなかったぞ?」
急に笑い出した台所の神にわたし達はポカーンとした。
「これぞまさしく」
「「ドッキリ大成功!」」
専門家の神々は揃ってそうくちにした。
「は?」
まだ状況を掴めていないわたし達。
「過ちの一夜など嘘だ。コレはワシ等が仕組んだ演技。井戸の神に厠の神よ、そなた等はとても良い迫真の演技じゃった」
「いいえ。お安いご用意ですわ」
「私達も楽しんでいたので、またやりたいですね」
ここまで来てようやっと状況がつかめたのか、鹿威さんが恐る恐る手を挙げた。
「あのー、すみません。もしやコレは全て嘘っということ?」
「そうだよー。鹿神騙されてたからボク、笑いを堪えるのに必死だったよ」
「なっ」
「とても面白くて、内心笑い死にそうだったな。プッ」
竈の神が笑った。
「こっ」
「こっ?」
専門家の神々は揃って首を傾げた。
「「コノヤロー!よくもオレ(俺)達を騙しやがったな!!」」
二人は顔を真っ赤にしながら怒った。専門家の神々は揃って笑った。
「ほっほほ。鹿神と馬神の神をいじくるのは楽しいのう」
「誠にですね」
「今度会ったときは次はお前らを騙してやるからな!」
帰ろうとしている彼ら。二人はギャーギャー怒っていたが、わたしと菖蒲さんは手を振った。
「おっと、そうだ神擬よ」
台所の神が何かを思い出したように振り返った。
「はい?」
「そなた……コレから何が在ろうと闇にのまれるな。彼らが哀しむ」
「えっ?」
「お前の性格は第一世の神擬と似ておる。だから尚更同じ境遇に立つ時があるだろう」
「はあ……」
「いつも、どんな時も大切な人を帰るべき場所を忘れるでないぞ」
「は、はい」
大切な人で帰るべき場所か。
そして、彼らは消えた。まだ機嫌が悪い彼らだが、新しくなった社に目を輝かせた。
「まあ、何だかんだ言いながらちゃんと作ってくれるから便利だよな?あいつら」
便利扱いですか?
「そうだな。確かに。でも今回は腹が立ったな鹿威」
「だね」
「おい、小春。荷物はちゃんと納屋に入れろよ?露がきて湿気っちまう」
「はいはい」
早々と家に入る霪馬さんに内心ムカつきながらも荷物を納屋に入れた。
家に入ると鹿威さんと霪馬さんに菖蒲さんは揃って熱いお茶を飲んでいた。
いつ湯を沸かしたのやら?
「小春。ここに座りたまえ。お前に渡したい物がある」
そう言って鹿威さんは立ち上がりどこかに消えた。
渡したい物?一体何だろう?
程なくして帰ってきた鹿威さんの手には何か着物が握られていた。
「これ、お前ようの神衣な」
「神衣?」
「今まで、普通の着物だったからな。その神衣は固くて丈夫だから破れにくいぞ。ちなみに肌触りはサラサラで柔らかく、この神衣が固い何て思えない程だ」
「へー。でも、何で今更?」
「ちゅ、注文してたんだが、出来上がったのが昨日だったんだよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「ねぇねぇ、着てみたら小春?せっかく貰ったんだから」
「そうだな。ビッグすぎたら困るし試着してみろよ」
「えっ、でも」
「大丈夫よ小春。アタシがたゃんとコイツら見張っているから覗きの心配はしないで」
菖蒲さんが親指をたてた。
「俺はともかく、鹿威がしそうで心配だがな」
「えっ!何?オレ限定!?」
「えーと、じゃあ、試着してみますね?」
彼らの口喧嘩が始まる前にわたしは試着しにいった。
そして試着している時に思ったのだが随分と右足の肌が露出されるのに気がついた。
「小春ー。終わった?」
遅いと感じたのか、菖蒲さんが見にきた。
「あら、小春。随分とセクシーな着物だったのね」
「あ、菖蒲さん。何か下に履くものありませんか?これじゃ、腰巻きの意味ありません」
「アタシが毎日履いているコレならあるよ?」
「それ、なんです?」
「未来ではスパッツとか?」
いきなり鹿威さんの声が菖蒲さんの後ろから聞こえた。
「ギャァァァァア」
「ド変態魔神め!ついに現れたわね!」
わたしが殴る前に菖蒲さんが蹴飛ばした。
その蹴飛ばされた鹿威さんを霪馬さんは慌てて連れて行った。
「とんだじゃまが入ったわね……まあ、取り合えず、アタシのコレ、アナタに二着ぐらいやるわ。アタシ沢山持ってるし」
「えぇ!いいんですか!?」
「いいわよ」
「ありがとうございます!」
それからやっと着替え終わったのだが、菖蒲さんから貰った未来でいうとスパッツ。これ、妙に肌に密着してくるな……。
「やい!着替え終わったか?小春」
鹿威さんが来た。その後ろに霪馬さんもついて来ていた。
「おお、なかなかあってるな」
「やっぱ、オレが頼んだかいがあったわ」
「ん?鹿威さんがこんな風になるよう頼んだのですか?」
「違う。オレが頼んだのは、お前に神衣を作るよう頼んだだけ。デザインしたのは別の神さん」
「へー。怪しい」
「ゴッホン!っと、次は履き物だが、これは西洋のブーツというデザインにして貰った。下駄やら草履は闘いに不向きだからな」
「それはどんな履き物です」
「この靴だ」
それは、草履とは大分違う形だった。
「履いてみろ」
鹿威さんに言われてわたしは縁に腰掛け、その靴を履いてみた。すると自分の背が伸びた気がした。
「どうだ?お前、背が伸びたと感じただろう?大丈夫。それは錯覚だ。お前は今、ヒールのついた靴を履いているんだ」
「ヒール?」
「その靴底についている棒みたいな形の奴のことだよ。その靴を抜くとお前は元の背の高さになるからな」
「ほー、ほっほおう。なかなか背が高くなると良い感じがするような」
わたしは歩いてみると……
「あっ、気をつけ」
「ボギャァ!」
足を見事に捻ってしまった。
「あーあ。言わんこっちゃない。歩くには気をつけろよ?普段履き慣れていない靴だからな」
「そ、それを先に言って下さい」
わたしは捻った足をさすった。
「そうだ。鹿威さん達もその着物、神衣なんですか?」
「ああ、そうだぜ」
「俺は狩衣の神衣」
「へー」
わたしは二人の服装を見比べて見た。
「ずっと前々から思っていたことがあるんですが……鹿威さんのその着物の下に着てあるモノは何ですか?」
「ああ、これ?これはいずれ流行るであろワイシャツだ」
「はい?」
鹿威さんは白いそのワイシャツというモノを指差し、次は黒い首締めの物体を指差し、
「これはネクタイで、下に着ているのがズボン=パンツっていうもの」
「へー。でも、どうしてそんな動きやすい格好なのに、履き物は草履何ですか?」
「えっ?だって、足臭くなるからの前にオレ、似合わないだろ?靴」
わたしは少し想像してみた。わたしと同じブーツというもの履いている鹿威さん……うん、確かに変だ。
「お前の想像しているオレの格好とオレが想像している自分の格好ってかなり違うそうだな」
えっ?そうかな?
わたしはそれから歩く練習をした。最初は足を捻りまくっていたものも、半時もすると大分歩けるようになった。
「上達早いな~小春は」
うへっ、なんか照れるな……へへっ。
「そうだな。鹿威と大違いだな」
「えっ?何?それどういう意味ですかな霪馬よ」
「そう言う意味」
「いやいやいや、わかっんねーよ!」
毎度楽しい会話の彼ら。わたしは微笑もうとした時、風に乗って何処からか血の匂いが漂ってきた。それも陰獣の腐った血の匂いと人のような血の匂いだ。
霪馬さん達もこの匂いに気づいたらしく、サッと立ち上がった。
「鉄臭い匂い。これは血ね」
菖蒲さんも匂ったらしい。
「近づいてくるな」
「変だな。ここは聖なる地だから穢れの対象の陰獣は入って来れないはずだぜ?」
鹿威さんは首を傾げた。
だが、わたしはこの匂いの他にまた違う匂いに身の覚えがあった。
マタタビの匂い……。
「違う……近づいてくるのは」
「助けて………助けて助けて!」
鳥居の向こうから来たのはあちこちに血の付いた白い女人だった。
どうやら彼女自身も怪我があるようだった。
「助けて……下さい。お願い」
「アナタ大丈夫?一体何を助けてほしいの?」
菖蒲さんが白い女人に駆け寄った。
「助けて下さい!お願いです。主様を主様を……助け」
白い女人が消えたと思えば、女人のいた場所に白い猫がいた。
霪馬さんはその猫を見た。
「猫又?」
「これは……誰かの式神だな」
鹿威さんは白い猫又の首に付けてある赤い手拭いの布を見て言った。
「誰の式神かわからねーな?一体誰のだ?つか、何でオレ達の所に来た?」
「わ、わたし知っている」
「はい?」
十年程前、匠次郎さんの家にいた白い猫だ。いつの間にか居なくなっていて、それを彼に伝えると匠次郎さんはただ微笑んだだけだった。義総さんもだった。
ただあの時、幼かったから分からなかったが、次第に物事が分かり始めるとわたしはお亡くなりになられたんだと思った。
墓が無いのを不思議に思いながら……
今思うと確かに変だった。
愛猫家のあの二人が、猫が亡くなったのに泣かないのがおかしい。
そうだ。あの時の猫は猫又になったのだ。猫は十年生きると猫又になると言い伝えられているじゃないか?
「あなた……白なの?」
わたしは恐る恐る聞いてみた。
「はい。白で御座います」
白は荒く息をしながらそうわたしに伝えた。
「じゃあ、もしかして……助けて欲しいのはアナタの」
「白の主様、匠次郎様を助けて欲しいのです。お願いです。どうか、主様を助けて」
気絶しそうな白。わたしは頭が真っ白になった。
助けなきゃ。助けなきゃ。匠次郎さんを助けなきゃ死んじゃう!
「おい、先ずは仮面を被れ。バレるぞ。そして場所がまだ解らん。落ち着け小春」
鹿威さんが肩に手をおいた。
「行かなきゃ行かなきゃ。手遅れになってしまう!あの時のように犠牲が」
「だから落ち着けって。先ずは場所を把握するぞ」
「猫又の白。お前の主はどこだ?」
霪馬さんが場所を聞き出した。
そしてわたし達は役割を決めた。霪馬さんと菖蒲さんは白の治療に当たり、わたしと鹿威さんは助けに向かった。
「感情を取り乱すな。冷静に判断しろ」
「はい」
「じゃあ行くぞ」
鹿威さんはわたしの腕を持ち瞬時に消えた。




