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第十六話 想い

匠さん視点です。


 夢の中だった。

 夢の中には二年前に亡くなった兄がいた。この兄は私と二つ違い。 

 兄には七つ違いの許婚がいた。その娘は私達の幼なじみだ。


 ある日、私達三人は大きな木の下で、小春が十六、私が二十一、兄が二十三になったら、ここで私達より大きな雪兎を作ろうと、そんな約束した。

 他人から見れば、何とも下らない約束事なのだが私達にとってはとても大切な約束なのだ。

 しかし、その約束は兄が死んで果たすことの出来ない約束となってしまった。

 だが、兄は私の夢の中に現れた。私は嬉しくて何かを言いかけようとした。が、ある難点がある事に気づいた。


 それは、私がいくら声を出そうが向こう側に通じないこと。向こう側の言葉は聞こえないことだ。

 向こう側にいる兄はただ黙って悲しい表情をしている。そう言えば昔、私が小さい頃この私の夢見の特徴を兄に話した事がある。

 兄はそれを覚えているのか、ただ黙っているだけだった。


 次第に消えていく兄。私は懸命に手を伸ばしたが距離は縮まらず離れていくばかりだった。

 そして、消えゆく兄は一度だけ口を動かした。それは何と言っているのか、私にはまだ解らなかった。




    *   *   *  *



 あの夢を見て二日目、小春さんと馬神に鹿神、略して馬鹿という人たちが行方不明になったという情報がこちらに伝わった。

 それから約七日経つが、彼らが見つかったという報告はまだ聞いていない。

 本当は式を飛ばしたいことだが、私も毎日仕事に追われ気づいたら何時の間にか七日経っていた。


「主様、白はあのネコが嫌いじゃ」

 式神の一人(匹)、猫又の(しろ)が私にすり寄りながら言った。

「えっ、何で?同じ猫同士ではないか?」

「同じネコ同士でも、嫌いなモノは嫌いなのじゃ。あのネコ、なんか白達と違う雰囲気がする」

 白が言っているあのネコとはここ最近、家の中庭で昼寝をしている雌の三毛猫だ。私としては、ネコ好きなので嬉しい限りなのだが、自分の縄張りが犯されている白にとっては確かに面白くないのかもしれない。


 あれ?でも、もう家猫二匹中の一匹のニャンゴロちゃんは三毛猫と一緒に昼寝をしているのに……

 ちなみに、このニャンゴロちゃんは黒斑ネコで、自分では余りそう見えないが小春曰わく、かなりのデブ猫なのだそうだ。あと、名前が変と小春さんに言われた事がある。……そうなのだろうか?


「主様、主様」

 白が私の体を揺さぶった。

「ん?何」

「小春の姐さん、見つかったそうじゃ」

「えっ?……本当!」

「本当じゃ。見つかったてより、帰って来たっと言った方が良いのかな?主様、最近仕事で忙しそうだったので、白が勝手に行動ししまった」

「良いんだよ。仕事の時以外は自由に出歩いて」

「白は久淡と違う。白は主様の事が好きだから」

 頬を赤らめた白。すっかり化ける事を忘れているらしく、猫耳と二つの尻尾が出た。


 こんな風に私を好いてくれる猫又の白。猫は好きだし、彼女は一様私の式神だ。だから仲間として大切な彼女の事は勿論、好きだ。

 それから、白と他愛ない話を帳簿をつけながらしていると廊下から人がこちらに向かって走って来ている音が聞こえた。


「それでは主様、白は外に行って怪しいモノがいないか、見張ってきて参りますわ」

「ありがとう。気をつけて行ってね?」

 白が普通の猫の姿になり塀から姿を消したところで、襖の向こうから小僧らしき声が聞こえ襖を開けた。

「わ、若旦那。小春さんが来ております」

 私はその名を聞いて反射的に立ち上がり表に向かった。

 そしてその場に居たのは小春と胸のはだけたお色気の多い女人がいた。私は見てはいけないモノを見てしまって顔を横にした。


「あ、菖蒲さん!谷間が……」

 小春は横にいる女人、菖蒲という人に向かって顔を赤くして言った。彼女は菖蒲という女人と二言言葉を交わした。

 が、その言葉には聞きづてならないモノがあった。

「小春さん、昼餉はまだなのですか?」

「いえ。来る途中だんご屋でお団子食べて来ましたから」

「それでは、腹は満たせません。今から作りに………」

「そんな……余り気を使わないで下さい。わたしなら昼餉を食べなくても大丈夫ですからっ」

 彼女は困った顔を私に向けた。そんな顔で見つめられると心の中の落ち着きが無くなってしまう。


「そうですか……とりあえず客間に」

 っと言っても、客間では話が聞かれる危険性があるので自室に案内した。ここは小さい頃、良く彼女も来ていた。

 私の自室に案内された彼女は驚いた表情を見せた。私はその説明をし、やはり昼餉を食べていない小春の事が心配になり勝手にお握りを作りに来た。


 昔、兄と一緒に女中の仕事を奪い合い、ご飯も良く作っていたモノだ。

 私が台所に入ると若い女中が頬を赤くして驚いた。

「わ、若旦那様。何か食べ物でも……」

「ああ、ちょっと握り飯を作りたいんだ。まだ、昼餉のご飯が残っていたよね?」

「はい……若旦那様は小腹が空いたのですか?」

「うんん、違う。さっき来た小春さん、まだ昼餉食べていなかったみたいで……それで」

「ああ、そうなんですか。では私が作り」

 いそいそと準備を始めた彼女に私は慌てて止めた。


「大丈夫だよ。握り飯くらい自分で握れるって」

「でも、これが私の仕事ですから」

「それだったら、お鈴さん。先ほど、女中頭からお使いを頼まれてたよね?」

 すっかり忘れていたのか、女中は顔を真っ青にして私に一言入れて慌てて出て行った。  

 一人台所に残された私はお握りを作り、部屋に持って行った。しかし、部屋に戻ると驚くべき事があったのだ。


 それは小春が寝ていたということだ。それも気持ちよさそうに、丸めた座布団の上に頭を乗せ寝ていた。

 その寝顔が何とも愛らしく可愛いと思って一時見とれていた私だが、大事な用があることに気が付いたので、その想いは仕方なく振り払った。

 私は軽く彼女をゆすり起こした。


「小春さん、小春さん?」

 私が何度か名前を呼ぶと彼女はうっすら目を開け、そして閉じて寝言の様に言った。

「もう……もうちょっとだけ寝かせぇてくださぁいなぁ~」

 フフ、と軽く笑い頬を染めた彼女は更に座布団に顔をうずめた。寝言の言葉も余り舌が回っていないようで幼児語だった。 


 それより、頬を染めた彼女が愛おしくて仕方がなかった。このまま時が止まってしまえば良いのにと思ってしまう。

 でも、それは叶わぬ願いだ。

 

 ゴトッ


 中庭からモノ音が聞こえた。

 はて、中庭には誰も居なかったハズなんだが、と思った私はそっと閉まっていた障子を開けた。そこには────

「「ガッツで行こうぜっ!!」」

 

 ピシャッ


 変な幻を見た気がした。見間違いだろうか?いや、そうだ。そうに決まっている。見間違いだ。人家の中庭に招いてもいない人が居るはずない。

 そう思った私はもう一度確かめに障子を開けた。

「「ガッツで」」

 

 バシィ


 今度は反射的に思いっ切り障子を閉めて閉まった。二人そろって親指を突き出していた変人。私は障子を背に寄りかかった。


 な、何なんだー!あの変人達は!?いつ入って来た?いやいやいや、そもそもあの人達、この前小春の横に居た人達じゃないか!?たしか馬神と鹿神とか言って、略して馬鹿だった?自分のこと神様だとか言ってたよね?

 あれ?名前何だった?………忘れたよ!

 私は一様心の中で言いたい事を言い終えると、心を落ち着かせた。

 とりあえず障子は開けないようにしておこう。私は小春の脇に座り、再度ゆすり起こそうと手を伸ばした時、屋根裏からモノ音が聞こえた。


 ゴトッ ゴトゴトゴトッ


 ネズミ?と思ったが明らかに違う。それとも私の目には見えない家鳴りかとも思ったが、やはり違う気がした。

 私は素早く箪笥の引き出しの奥から弓を出した。この箪笥はからくり式だから、表向きはただの着物しか入っていないのだ。


 モノ音が止み静まり返ったその時、天井の板が外れ、顔を覗かせた者がいた。その顔を覗かせた者とは、

「「ガッツで行こうぜっ!」」

 あの二人だった。私は思いっ切り当てるつもりで弓を引いた。しかし惜しいことに、当たる寸前の所で彼らは顔を引っ込めた。 

 そしてまた顔を覗かせ変な言葉を言う彼らにラチが空かなくなった私は仕方なく結界をはることにした。


 神であろう彼らならこんな結界、余裕で壊せるハズなのだが、彼らは大人しくなった。

 もう変人達が来なくなったのを確認した私は今度こそ小春を起こした。

 彼女は最初、眠そうな目で二回程瞼をしばたかせた後、大きく目を見開いて顔を赤くして飛び上がった。


「うわゎぁぁぁぁぁぁあ!ごめんなさい!!」

 彼女は頭を何回も畳に打ち付けるように頭を下げて謝った。

「あのっ!余りにもここの部屋の居心地が良くて、寝てしまいました!すみませんでした!本当、すみませんすみませんすみません!!」

「いえ、小春さん。別に謝らなくても……い、居心地が良かったら私だって寝てしまいますよ?……ですが」

 私は少々言葉を積もらせた。


「その、謝る前に着物を正しませんか?」

 小春の着物はかなり着崩れていた。

 彼女は顔を更に赤くして何度も「すみませんすみません!こんな着崩れた格好を……」と小さく、着物を正ながら呟いていた。

 その彼女の状況が可笑しくて、ついつい「プッ」と吹き出した私に彼女は口をあんぐりと開け、不思議そうな目で私を見ていた。

「……失礼」

「いえ。それより匠次郎さん、お話したいことが────」

「あ、小春さん。おにぎり作ってきましたから、先に食べませんか?お腹が空いているでしょうに?」

「わたしは、食べなくても大丈夫ですから」

「困ったな……私は小春さんが食べてくれるだろうと思って、一生懸命作ったんですが」

 ちょっと意地悪気味にこんな事を言うと、彼女は慌てた。


「た、食べます!わたし食べます。お腹ペッコペコです!」

 彼女は手を合わせて「頂きます」を言ってから、おにぎりを美味しそうに食べた。

 言葉と違って体は正直なもので、小春が我慢していたことが分かる。

 きれいに食べてくれた彼女は手を合わせて「御馳走様でした」と言ってから、私にお礼を言った。

「それでですね、匠次郎さん。本題に入りたいと思っているんですが、宜しいですか?」

「ええ、どうぞ」

 本題に入ろうとした彼女は一瞬何かを考えてから私に言った。


「匠次郎さん……力を使うのは、もう止めにしませんか?」

 彼女が言っている事が解らなかったので、無言を通した。

「あの、そのっ……匠次郎さんが無理してつかっている力をもう、使わないで下さいと言うことです!」

「何故……?」

「匠次郎さんの髪の色が薄くなってきているからです」

 戸惑いながら彼女は言った。

 変だ。彼女と初めて出会った頃からもう私の髪色は黒から麦色へと変わっていた。

 だから、私の本来の髪色が黒だと知らないはず。麦色の髪が地毛だと思っていたハズだ。

 なのに、彼女は私の昔をしている。……誰から聞いたのだろう?


「それは一体どこで知ったのです?」

 彼女は困った表情をした。一度俯き、何かを決心したのか?顔を上げた。

「実はわたし、夢の中で義総さんに会ったのです」

「兄に!?」

 驚いた。彼女も夢の中で兄に会っていたのだ。

「そこで義総さんが言ったのです。「無理して弟が使っている力を止めて欲しい」と」

「話したのですか?夢の中で兄と」

「はい。そこで、わたしは匠次郎さんの昔の事や、このまま匠次郎さんが力を使い続けた後に起こるであろう大変な事を聴いています」

 哀しい顔をする彼女に私は戸惑った。


「だから……」

 彼女は一度言葉を切り、再び口を開いた。

「もう、力を使わないで下さい!このまま行けば、運が悪くて死んでしまいますっ。だから、使わないで下さい!」

 深く頭を下げる彼女。

 違う……私は兄や小春に心配かけようと思って力を使っていた訳ではない。ただ、兄のように強く、彼女を守れる存在になりたかったのだ。


「匠次郎さん?」

 無言の私に小春は恐る恐る顔を上げた。

 彼女は止めて欲しいと願っている。私が答えるべき言葉は何なのか、今の私では解らない。

「考えます」

 ただ、この言葉しか出なかった。

 小春は、複雑な表情をした。

「か、考えるって────」

「今は、それしか言えません」

 複雑な表情のまま、彼女は黙った。私達の間に重い沈黙が流れた。

 しかし有り難い事に、この重い沈黙を破るモノが部屋に現れた。

「ニャー、ニャーゴロロ、ニャーゴ」

 私の家で飼っている、ニャンゴロちゃんだ。ニャンゴロちゃんを見て、小春は目を輝かせた。


「あっ!ブタねこちゃん!!」

 彼女は、自分にすり寄って来たニャンゴロちゃんを抱き上げて抱き締めた。

「久しぶりだねー!ぶーちゃん……あれ?ぶーちゃん。また、太ったんじゃない?」

「ニャーウォォ」

 御名答。ニャンゴロちゃんは最近食欲が良く、一日に三食たべさせている程だ。贅沢だと思うかも知れない。でも、この猫は大切な猫なのだ。

 それより─────

「小春さん。8日ほど家に居なかったと聞きましたが、小春さん達は一体どちらへ行っていたのですか?」

「えっ」

 今度は小春が焦る番だった。彼女は驚いた拍子にニャンゴロちゃんを強く抱き締めた為、息苦しくなったニャンゴロちゃんは彼女の腕から逃げ出した。


「ど、ど、どこって言われましても……」

 戸惑いを隠せない彼女に私は何か怪しいと思った。

「何か、私に言えないことなのですか?」

「えーと、えーと、……あっ!」

 急に大きな声を出した小春に私は驚いた。

「村に夜な夜な侵入して来た盗賊にですね、わたし、攫われたんですよ。それで、霪馬さんや鹿威さんが、わたしを助けに来たのです」 

 予め用意していたかのような話だった。

 どうやら彼女は、私に話せない何かがあるのであろう。例えば……以前、神擬やカルマと言う話を聞いた事がある。


 これは私の勝手な考えだが、おそらく彼女はその、どちらかに関わっているはずだ。

 でなければ、あの神擬の補佐役と言っていた馬神と鹿神が居るはずない。

 しかし、本当の事を言いたくないっと言っているかのような雰囲気を漂せている彼女に

、無理して話してもらう必要など無い。

 私にとって彼女が傷付く事が一番辛いのだ。それで私は話しの話題を変える事にした。


「今日は良い天気ですね?」

 私は中庭を眺めた。

「えっ?」

「天気……この前、雪がちょっと降りましてね、今日の天気はポカポカして暖かいですね?まあ、やっぱり今は冬だし寒いですけども」

 何を言いたいのか?私自身解らないけど、とにかく、天気の話題に集中した。

 彼女をチラリと見ると、小春は「フフッ」っと軽く笑った。そして、私と同じく中庭を眺めた。

「そうですね……今日は、本当に良い天気です」

「そういえばもう直ぐ兄の命日ですね?小春さんは今年も墓参りしますか?」

「はい」

 どことなく、悲しさを含んだ彼女の瞳。


「あっ、そう言えば忘れていた事を思い出しました」

 またもや話題を変える私。

「前、着物を小春さんにやる約束をしていましたよね?」

 彼女は首を傾げた。

「あれ、持って来ますのので、ちょっと待ってて下さいね?」

「いえっ!いいです。あの時のは……」

 彼女は思い出したかのように私を慌てて止めた。

「大丈夫です。本来、早乙女屋は薬では無く、呉服屋ですから。多少の着物ぐらい、小春さんに揚げられますよ?それとも、新品が嫌なら義母の古着を持って来ますが」

「両方ともいりません。匠次郎さんの気遣いは嬉しいのですが、わたし、着物を貰いにここに来た訳ではありません」

 私の裾を強くにぎりながら何時もと違う彼女の強い口調に少々面食らった。


「小春さん……やはり約一週間の内に何か在ったのですか?」 

「それは………わたし……本当は」

 何度も口ごもる小春。私はそっと、裾を掴んでいた彼女の手をはなした。

「言いたく無い事なら無理して言う必要はありません。焦らずとも良いですよ」

 それだけを言い残し、私は部屋を後にした。いや、本当は逃げたと言った方がしっくりくる。


 私は義母に聞いて着らなかくなった着物を頂いた。そして、それを風呂敷で包み再び部屋に戻った。

「持って来ました」

「ありがとう御座います」

 いくら自分が何を言おうと私が聞かない事を解っているのか、彼女は素直に受け取った。

「わたし、そろそろ宿に帰ります。霪馬さんや鹿威さんが心配しているだろうし、菖蒲さんも飯屋で暇しているかも知れない」

「そうですか……宿はどこです?」

「ここから、そう遠くない場所にあります」

 宿名は出さなかった。訪ねることを嫌っているようだ。


 私は帰る小春を見送りに表に出た。

「では、また何時かはお会いしましょう」

 彼女のこの言葉に少々引っかかったが、私は手を振った。

「そうですね」

 立ち去る小春は、一度だけ振り向いた。名残惜しそうなその顔に私は疑問が浮かんだが、彼女はそのまま菖蒲と言う女人と共に帰った。


 さて、そろそろあの怪しげな二人は帰っただろうか?など思い、中庭に出たのは良いが、彼らは居なくなっていた。

 やはり、小春を見張るだけだったのか?

 私がこんな事を考えながら家に上がろうとしたら、

「おい」

 後ろから声をかけられた。

 私は声が聞こえた方向に振り向いた。すると、塀の上から手が覗いていて「こっちに来い」っとでも言っているかのように、手を振った(招いている)。

 端から見たら完全に妖しいだろう。


 私は訝しげに、裏戸を開けた。そこには、あの略して馬鹿という人達(神)がいた。

「お前今、スッゴい失礼な事考えているだろ?」 

 白髪の人が私に言った。この変人、人の心が読めるのか?

「お前を呼んだのは、小春の事で何だが……」

「ああ、先程意味不明な『ガッツで行こうぜ!』発言をしていた事ですか?」

「イヤイヤイヤ、違うだろ!確かにそれもさぁ、ある意味小春も絡んでいるけれども、オレ今『ガッツで行こうぜ!』じゃなくて、小春の事を話したいの!?つか、お前に訊きたいことがあんの!」

 茶髪の男性が懸命に言った。 


「訊きたいこと?ですか」 

 すると、茶髪の男性がいきなり不適な笑みを浮かべた。

「フフフフッ、単刀直入に言ってしんぜよう」

「だったら、その気味が悪い笑いは止めて、さっさと言っちまえよアホ鹿」 

 白髪の男性が鹿神を睨んだ。

「匠ちゃん。アナタは小春の事が……大好きですな!」

 いきなり愛称で呼ばれ、人を指さした彼にかなりイラッときた。しかし、その言葉の内容は聞き捨てならなかった。


「は?」 

「いや、だから……その、お前ってさぁ、小春の事大好きだろ?」

「何故?」

「いや~、だからさ、何故って言われましても……」

「何故知っているのです?何故気づいたのです?」

「あっ、そっちね。てっきり『違いますよ』の方かと思っちまったよ」

 さっきから話がかみ合っていないのが問題だ。


「だから、何故気づいたのです?」

 もう一度問いだしてみることにした。

「え~、だってさ、お前ってバレバレなのよね?小春に名前を呼ばれたお前って嬉しそうな顔しているし。アイツの話題を出せば色々と食いついてくるし、アイツに対して頬赤らめるしな……」

 かなり沢山じゃないか?


「それと、俺達を見る目と小春を見る目がかなり違う所もある」

 馬神が腕を組んだ。

「お前が小春を見ている時は何か、油断しているってゆうか」

「ええっ!?」

「あっ、そうそう、後ね、小春がオレ達と話している時にお前から出る非難の目ってゆうか、嫉妬の目ってゆうか……」

 鹿神が馬神と同じく腕を組んだ。しかし、鹿神は目を閉じ、色々と何かを思い出している。


 私適当には、もう思いださなくて良いからと思う。これ以上言われると恥ずかしい思いが一杯になる。

「私、バレやすいでしょうか?」

「うーん、逆に気付いていないのって小春ぐらいなんじゃね?」

 鹿神が言った言葉に馬神が同意した。

「確かに……」

「でも、私の家の人も気付いているとか、それは無いですよね?」

「いや、だから気付いていないのって小春本人だけだよ」

「えっ、ウソ」

「お前さぁ……意外とマヌケだな?」

 この人にマヌケ呼ばわりはされたくないのは私だけか?


「それでさ、お前って何時からアイツの事、お好きなの?去年?つい最近?」

「十一年前からです」

「へぇー、十一年前ね……」

 言葉を繰り返した鹿神が頭を傾げた。そして、二人揃って驚いた。

「「じゅ、十一年前!?」」 

 相変わらず仲の良い方だ。

「おいぃぃい!ちょっとストップ!十一年前ってお前、今までずっと言わずに我慢してたのか?今まで!?」

「正確には初めの三年間は凄く大好きで、その後、ある事をきっかけで七年間この想いを心の奥深くに封じ、再び目覚めてきたのが一年程前」

「……あ、ああ。なる程……複雑過ぎて、オレには全然解っんねーや」

「もっと頭を使え、アホ鹿」

 っと馬神の男が言ったが、彼も鹿神同様、余り理解出来ていない模様だ。


「本当は……一年程前に再び目覚めたこの想いに、私は戸惑いを感じているのです。簡単に申しますと、複雑な感情っと言った方が良いのかも知れない」

「複雑な感情ねぇ……お前って何で七年間も、その好きってゆう感情を封じ込めちまったの?何かあったのか?」

 流石は長らく生きている神だ。勘が鋭い。いや、長く生きていなくとも解るか。


「彼女が兄の許嫁となった同時にその想いを封じ込めました。が、今やその兄は二度とこの世に帰らぬ人となりました」

「ふーん」

「兄が生きていて小春がここに嫁いで来た時、私は僧になろうと……あの時は決めていました」

「ブッ!お前が!?」

 失礼な奴だ……。

「しかし、兄が死ぬきっかけとなった事の始まりは今から約二年程前」

 ああ、何故私は余り面識の無い彼らにこんな事を話しているのだろう?

「────そして、私がこの跡取りになった時何故私があの時、死ななかったのだろうと思い悩みました」

 私はいったんここで言葉を切り、深く息を吸ってからまた話した。

「私が悩んでいるその時、愛する許嫁を失った辛い思いを封じ、優しく私を励ましてくれたのが小春なのです」

「……」


 私は彼ら二人(柱)に、全ての事情を話した。兄が死んだ理由。私が小春に自分の気持ちを言えない理由も、何もかも全て彼らに話した。二人はただ黙って聴いていた。 

 すると、馬神が一人ボソリと呟いた。

「そうだったのか……あの少年死んでしまったんだな」

「ん?兄をご存知なのですか?」

「ああ、十二年前にな」

「私と兄が小春と出会った時と同じですね?」

「だろうな。それより、この家に見覚えがあった。ずっと頭の中で引っかかったていたが、お前の話し聴いて合点したよ」

「合点?」

「あの時の少年が背負っていた弟とはお前の事だったのか」

 馬神は幼い兄を知っているようだった。彼の横にいる鹿神は「ああ……」と驚きながら頷いた。


「匠ちゃんやぁ、お前ってあの勘の鋭いあの少年さんの弟だったんかい」

「そうですね。何故だか今日からあなた方が他人に見えなくなりました」

 鹿神が照れくさそうに頭をかいた。

「そりゃあ、ありがとうよ」

「それより、何故……あの、すみません。お二人の名前を教えてくれませんか?私、お二人の名前を忘れてしまって」

「何っつう失礼な奴なんだ」

 先程の照れくささはどこにいったのか、彼はしかめっ面をした。 

「俺は霪馬。コイツは……」

「鹿威だ。宜しくしてやんヨッ!」

 一人だけ場違いな自己紹介をした奴がいた。霪馬という馬神が鹿威という鹿神の頭を叩いた。


バシッ


 っと、とても良い音が響いた。鹿威は頭をさすった。

「いってぇーな!何しやがんだっ、霪馬!」

「ちょっとな、イラッと来てしまったものだから、つい手が出てしまった」

「オレのどこがイラッと来るの!?さっきの調子扱いた言葉のせいぃっ!?オレの顔のせいぃっ!?」

 いや、顔は関係無いだろう。と、心の中で思わずツッコミをいれてしまった。


「全体的」

「えぇっ!何かそれって酷くね!?」

「それより、(しょう)さんや。お前は、もし小春に他の男が出来たら、素直に諦める事が出来るか?」

「オレの事は“それより”なのか!?」

 横でギャーギャー煩い鹿威だった。私は霪馬が問いたモノを考えた。

「そうですね、彼女がその方を必要とし、幸せなら何も言うつもりはありません」

「ふーん」

「しかし、11年間続いているこの想いを簡単に諦めろと言われましても、私には無理でしょう」

「男のクセに……女々しい奴だな」

 女々しい?一途に思うことの一体何が悪いのだろうか?

「本当は、俺達はお前と小春の縁を切りに来たんだが……今は止めとくよ」

 縁を切る?

「それはどういう事ですか?」

「そのまんまの意味だ。小春に関わると色々とお前が危なくなるから、そうなる前に切ろうかっと思った」

 危なくなる?


「けど、今は止めとく。お前は小春にとって大切な奴だ。だから……」

 霪馬は一度言葉を切った。

「早乙女匠次郎。彼女の……小春の帰るべき存在になってくれないか?」

 何時もの馬鹿っぽい内容では無かった。彼は真剣な眼差しで見つめた。

「言われなくても、そのつもりです」

 私は真っ直ぐ彼の目を見た。

「そうか、なら良い。」

 霪馬はそれだけを言うと、私に背を向け帰ろうとした。それを慌てて鹿威が止めた。

「おいっ、待てって!」

「何だよ鹿威?」

「まだ言いたい事あったろ?」

「……あったか?」

「チッ、つくづく使えねー頭してやんな」

「頭から寝癖出てる奴には言われたくないね」

「いや、これオレのチャームポイントだから!決して寝癖なんかじゃねーからな!勘違いすんなよ!」

「そうか。別に必死扱いて否定する程でも無さそうなんだが」

「一々ツッコんでくんな!」

「面倒くせーな」

「あの~すみませーん。私、早乙女匠次郎の存在忘れてませんか?ってか、今私に関わる重大な事を言い忘れているんでしょ?それだったら、さっさと言って下さいよ」

「……お前、キャラ変わってね?つか、言葉遣い変わってね?」

 キャラが変わる?なんだそれ。それよりこの鹿威って言う人、さっきから妙に解りづらい言葉で話しているんだが……。


「何もねーよ。今は言わないでおくよ」

 また背を向けて言った。

「えー、何それ?ちょーしらけるんですけどぉ」

 まるで女みたいな言い方をした鹿威。

「あなたが一番、キャラっというもの変わってません?」

 私はツッコんでみる事にした。

「やっだぁーもう、匠ちゃんったら、ちょー恥ずかしいんですけどぉ」 

 私の肩を叩く鹿威。何故だろう?妙に殺意がわくのは私だけか? 

 霪馬は鹿威の扱いが解っているらしく、一言「俺は先に帰るからな。じゃあな」とだけ言い残し、瞬く間に消えた。


「えー、ちょっとぉ。置いていかないでよ~ダァーリン」

 気持ちが悪い話し方をする人(神)だ。霪馬と同じく消えようとする鹿威に、私は言い忘れていることを言った。

「鹿威。あなた方はどこで宿をとっているのです?」

「なっにー?知りたいの?アタシのことがぁ?何それ、ちょー照れるんですけどぉ」

 相変わらず、ムカつく顔と言い方だ。私は小石を投げたい衝動を抑え、平常心を保った。

「私は真剣に聴いているのです」

 少し声音色が低かったせいか、鹿威は真面目な表情をした。


「すまねえが、それは言えねぇんだ。言っただろ?あの時“オレ達に関わるな”てな。匠ちゃんや、今小春は忙しいんだよ?余りお前の事で頭が一杯になったら、アイツ自身が大変なんだよ」

「……本当は小春が“神擬”ではないんでしょうか?あなた方が小春に異常なる執着心を見せている限り、私はそうとしか思えない」

「そりゃぁ、どうだろう?案外違うかもな」

「いい加減……真実を話そうとする気はないのか!?」

 私は怒り爆発寸前気味だった。鹿威は無表情になった。

「何も話す気はねぇな」

「だったら、あの子に何をした?神擬でも無いのら、何故何時もあの子の傍にいる!?彼女が神擬と関係無いのなら……」

「だから、そりゃあ関係があるかどうか解らんよ?」

 相変わらず曖昧な返事だった。


「小春は妖怪でも神でもない。あの子は人間だ!彼女はこちら側で生きていく一人の人間だ!何も小春の事知らないくせに────」

「図に乗るな人間」

 鹿威は目を細め、獣の目を光らせた。

「お前等人間はひ弱なくせにこちら側に干渉して良いと思っているのか?何も知らない?そりゃあお前達だろ。たったの十二年間の付き合いでいい気に乗るなよ人間」

「あなた方だって、たったの約二十日の付き合いのはずだ」

「お前には話してなかったか?オレ達はな小春の出生だって知っている」

 出生……。


「お前が小春の事が大好きで、彼女を守りたいっていう気持ちは分かる」

「……」

「だがな、匠ちゃんや。世の中、干渉して良い事柄と、いけない事柄があるのを忘れないでくれ。小春の場合、普通の“人間”が干渉しても良い事柄ではないんだ。頭の良いお前なら解るはずだ」

「私はあなた方が羨ましい」

「そりゃあどうも」

 鹿威は屋根にひとっ跳びで乗り移った。地面から屋根の高さまでかなり高いのに、彼は軽々しく飛び乗ったのだ。

 外見は人に見えるが、こう見るとやはり“人”では無いと感じてしまう。


「じゃあな匠ちゃん」

 彼は私に手を振ると瞬時に消えた。彼が消えた屋根をずっと見ていると、後ろから声をかけられた。

「お兄ちゃん?何をずっと屋根を見ているの?何かいるの?」 

 お千代だった。お千代は家猫の一匹である彼女のお気に入りの猫、クロちゃんを抱きかかえ、不思議そうに顔を傾げた。


「ううん。何もない。お千代、外は寒いから中に入ろっか?」

 お千代は頬を膨らませて、顔を猫の体にうずめた。

「お兄ちゃんだって、寒いくせに外に出ていたのに、千代は出ちゃ行けないの?」

「お千代はまだ小さいから、寒い時は直ぐに風邪引いちゃうからね?」

「年に十回以上風邪を引いて、寝込むお兄ちゃんに言われたくない」

「はははっ、お千代の言うとおり、そうだね?」

 そうだ。私は年に十回以上風邪を引いて寝込んでしまう。私は体力的にも強くなりたいと思っている。だからあさ早く誰も起きていない時に素振りをするのだ。


 時々、兄の悪友であった元武士の今は浪人で小さな寺子屋の先生をしている、佐々木小次郎の所で、たまに剣術を学んだりする。

 しかし私も暇では無い為、ここ最近行っていない。

「お兄ちゃん、お家に入ろ?千代、寒くなってきたもん」

「そうか……じゃあ、入ろっか?」 

「うん」

 お千代は私の手を握った。暖かいお千代の手に何故かホッとする自分がいる。


 手……兄が死んでいく時、体温が徐々に下がっていく事に私は恐怖をおぼえた。

「お兄ちゃん。小春の姐さんのことは千代が言っておくよ。「お兄ちゃんのお嫁さんになってほしい」て」

「ありがとう、お千代はやしいな。でも、お千代。それは私がいつか言うから、お千代は心配しなくても良いんだよ?」

 お千代はまた頬を膨らませて考えた。

「んー、わかった」

 彼女はそれだけを言うと、パタパタと走って行った。


 いいな。私もあんな幼い日があったんだな。昔に戻りたい。昔の無邪気なままでいたい。でも何時かお千代やお美代も、結婚してこの家を出て行くと思うと、心寂しい思いが募る。

 いやまだ先の話なのに────私は何て気が早いんだろう? 

 そうだ、まだ鹿威や霪馬という者に話したいことがあった。先ほどはついカッとなってしまったが、次からは落ち着かないとな。

「若旦那様ー?」 

 番頭が私を呼んだ。


「ありゃ?小春の嬢ちゃんはもう帰られたんで?」

「ええ、半時ほど前に」

「もしかして義総の旦那の墓参りに来たんでしょうかね?もうそろそろ命日ですから」

「そうだね。小春も来たら兄は喜ぶかもしれない」

「ハハハッ、そうですね。若旦那様も早く告っちまいなさいよ?……おっと、いけね」

「時がくればだけど」

 番頭は何か言ってはいけない事を言ったかのような顔をし、私に一言「それじゃ、手前は仕事に戻りますんで」っとだけ言い残し、その場を後にした。

 私も書き残しておいた帳簿を片付けに取りかかった。



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