第十五話 十二年ぶりの狸神と無愛想な猫神
短めに……
「小春ー!まだかよ……マジでまだ町に着かないのかよ!」
「ウダウダ言ってねーで、荷車を早く引け!アホ鹿!」
霪馬さんが鹿威さんの頭を叩いた。
「うるっせーなぁドバカ!」
「あんだとゴラァァア!」
お互いの胸ぐらを掴み、喧嘩を始める彼らにわたしは呆れ気味に言った。
「もうあと、半時程で着きますよ。だから、早く荷車引いて下さいよ」
「そうよ。……あたし達はその荷車に乗って寝ようか、小春ちゃん?」
「お前が乗ったら即、投げ飛ばす」
霪馬さんは菖蒲さんを睨み付けながら、鹿威さんと荷車を引くのを交代する。
「おいおい、ここで喧嘩するなよなぁ。旅人達がオドオドしてんぜ」
そう言いながら、彼は荷車にドカリと腰を落とす。
「お前は、何で座っているんだよ!」
「疲れたからだ!」
キリッと決め顔で言っているが内容はろくでもなかった。
「ああぁ~、俺達が走れば一瞬で着くのに、何でこんな時間をかけなきゃぁなんねぇんだよ?」
鹿威さんはゴロリとして、鼻をほじった。
「そりゃあお前、一様人間も着いてきているし、小春はまだ早く動けないから仕方のないことだろ?それにお前、鼻をほじるなよ。汚いだろ」
「フッ、霪馬よ……知っているか?鼻をほじる行為ってんのは、鼻の中をキレイに掃除する無意識なる行為であって、鼻を使いやすくするものなのだ」
「ああ、そうかそうか。決め顔で言っているが、お前の話しの内容はろくでもねーよ」
「あとな!あとな!」
「はいはい、何でござんしょう?」
子どもっぽい鹿威さんに対して、霪馬さんは半端呆れ気味で相手をした。
「いくら美人だからってな、いくら可愛い顔しているからってな、鼻をほじるのは皆一緒何だよ!わかるか?」
「そんなもん解りたくもねーよ」
「偉い将軍だってな、鼻ぐらいほじるんだよ!」
「お前は何でそんなに一生懸命何だ?」
「あとな!ここにいる小春や菖蒲だって鼻を………グガァァア!!」
危うい言葉を言う前に菖蒲さんがクナイを投げて、鹿威さんの頭を刺した。
ご心配無用。彼らは神様なので、このくらいでは死にません。
「イヤッ!危ないから!」
鹿威さんが頭からクナイを抜きながら、わたしにツッコんだ。
はて?わたしの心の声が聞こえたのだろうか?
「下品な話題は置いといて、町が見えて来たわよ、お馬鹿さん」
まだ遠いが、少しずつ見えてきた町。
「っで、まず町に着いたら何をするんだっけ?」
まだ荷車に乗ってゴロゴロしていた彼は体を横にし、膝を付いた。いわゆるオッサン格好だ。
「まずは5日程泊まる宿探しです。それからは、買い出しですね」
「ふーん。匠ちゃんには何時会いに行くの?」
「出来れば今日中に済ませたいですね」
「今日中ねぇ……」
「だったら、小春は先にそっちの方を済ませろよ。鹿威や菖蒲と俺は買い出しに行っとくからさ」
「いえ、そんな……先に買い出しを済ませましょう」
「フッフフフフ、そうか、そうか」
さっきの格好のまま、鹿威さんは不気味に笑った。
「要は、小春はオレ達が信用にならな言ってんだな!フッ、安心しなぁ。そんな紙っきれを頼らずにオレ達は買い出しを済ませてやるぜ!」
「ますます不安になってきた」
「そんなー!」
ずっと荷車に乗っている鹿威さん。仕舞いには菖蒲さんまでもが乗った。
霪馬さんはブツブツと文句を言いながらも、町中まで片腕で荷車を引いた。
さすがは馬の神様だ、とわたしは思った。
そして、五日間泊まる宿は何とか見つかったものも、町中は田舎と違って人が多く、荷車では道が通り難そうだった為、結局は宿に置いて来た。
「うわぁー、やだやだ。こんなに人がいる何て気持ち悪っ!」
しかめっ面をする鹿威さんを霪馬さんはたしなめた。
「一様、俺達は人間が信仰してこそ存在出来るんだから、あんまり変な事言うなよ?鹿威」
「はいはい、分かってますってば」
「取りあえず、先に蝋燭と油に味噌を買いに行きましょう」
わたしは紙に書かれた文字を読んだ。すると鹿威さんはその紙を覗き込み、眉をひそめた。
「お前……何で平仮名ばっかしで文字が書かれているんだ?」
一番言われて欲しくない事を鹿威さんはしれっと言った。
「そっ、それは!………実はわたし、余り難しい漢字は読めなくて……ちゃんと寺子屋には通っていましたけど、あの漢字一つに違う読み方があるのが無理で、ほんっと受け入れがたくて、だから、授業中は紙全体に墨を塗ったくって遊んでいました」
「………そりゃあオレ達が初めから教えねぇとなんねぇなぁ」
「まあ、他国の神様や地学、他国の文化理解、算学や他もろもろも神様としては知っておかない事が沢山あるからな……また後ほど勉強会を開くとすか……鹿威、何時から始める?」
「今回の依頼事が終わってから始めるとするか」
「えっ?え、ええぇぇえ!ちょっと何を勝手に決めちゃっているんですか!」
「これは全てお前の為だ」
鹿威さんが言った。横では霪馬さんが疑問を口に出した。
「そう言えば小春。お前、前に「匠次郎さんから、様々な本を借りている」って聞いたけど、あれはどうやって読んでいたんだ?」
「ああ……あれは、本とは別に匠次郎さんが平仮名で書いた本を一緒に借りるんです。そしたら、ほら、読み比べながら漢字の勉強が出来るから………」
この事を聞いた二人は揃って頭を抱えた。
「アイツも色々と苦労してぇんだな」
「匠次郎はちと小春に甘いな」
「えっ?えっ?どうゆうこと?」
わたしは、二人が言っている意味が分からなかった。
「チッ、もう一匹虫が着いていたか」
菖蒲さんは菖蒲さんで意味の分からない事を親指の爪をカミながら一人呟いた。
「なあなあ、買い物ついでにちょっと寄りたい所あんだけどさぁ、寄って行って良いかな?」
人が多いこの町で珍しく鹿威さんが言った。
「ええ、良いですけど何処ですか?」
「ここでは有名な医者の所」
「有名……?」
「付いて来たら解るって!」
鹿威さんの勢いでわたし達は、その有名らしい医者の家に行った。行く前に霪馬さんは何か思い当たる節があったようで、一人「まさか」と言った。
「あっ、ここだ。ここ」
歩いて、半時も経たない内に鹿威さんが古ぼけた家を指差した。彼は早足で家の中へ勝手にズカズカ入って行った。
すると、土間から鹿威さんが飛んできた。わたしは何とか避けたものも、後ろに居た霪馬さんは見事、鹿威さんと共に倒れた。
「アイテー」
「イタッ、っこんのぉ!何しやがる鹿威!どきやがれ!」
鹿威の頭を叩きながら起き上がった。彼らは揃って服に着いた土埃を叩いた。
すると、家の中から、手をはたきながら一人の女性が現れた。
「ったく、他人様の家に勝手に入って来るバカな神様がどこにいるってんのよ!?」
「だからって、蹴飛ばす事はねぇだろうよ狸嶺……121年ぶりの喜ぶべき再会だってんのに」
腰をさすりつつ、鹿威さんが言った。狸嶺と呼ばれた女性は腰に手を当てた。
「フンッ!人間の礼儀を守っていない奴は一から勉強しな!」
「えー」
「あとね、12年ぶりだから、121年ぶりじゃないから。1が1個多いからね?」
じゃあね、と手を振り、家に戻ろうとした彼女はフッと何かに気付いたように立ち止まった。
「そう言えば……そこのちっちゃい背の黒髪の娘、もしかしてあの時の……不細工な神擬ちゃん?」
ちっちゃいって何だ!あと、初対面で失礼な事言っちゃっているよこの人!
「あの、わたしの事、知っているんですか?」
「知ってるも何も、神擬ってんのは神様や妖怪の間では有名人よ?それに、アタシ、あなたの小さい時、団子屋で会ったことあるわ。あと、12年前、鹿威達に早乙女屋に行くようにしたのもアタシだし」
「えー!嘘」
「小春……騙されるなよ。こいつはな、こんな形をしながら実は化け狸だからな!」
霪馬さんがわたしの後ろで狸嶺と言う人を指差した。
「フンッ。化けるのが上手いっと言ってくれないかしら?それにアタシ、化け狸だけども、狸の神様だから」
神様と聞いて、わたしは「あれ?」と思った事があった。
「そう言えばどうして狸嶺さんの目は普通の人間達と一緒なのですか?鹿威さんや霪馬さんのように、ケモノの目じゃないし……」
「さっきも言ったように、狸は化けるのが上手いの。狐と狸は化けるのが専門なのよ?」
「ああ、それ聞いたことあります」
「それにね、こんな疑わしい化け方よりも、人にちゃんと化ける方が、案外見破れないものなの」
「はあー、そうなんですか。じゃあ、鹿威さん達は人に化けるのが下手って事ですね?」
「ええ、そうよ。成長した神擬さんは理解が宜しいようで」
「「っちょーい待てェェエ!」」
二人(柱)して、わたしの肩を強く掴んで顔近づけた。この時、わたしの体に痺れる何かが走った。
「イヤァァァア!」
我にかえった時には、既に遅し。わたしは、無意識の内に彼ら二人を力いっぱい投げ飛ばしたのだ。
「「ウヮヮヮァァア!」」
路地に大きな物音が響く。路地にいた人達は一斉に物音がした方を見た。
「ヒューウ……やっるねー、神擬さん」
狸嶺さんは口を尖らし、口笛を吹いた。菖蒲さんは親指を突き出し、大きく頷いた。
人集りが出来たな中、彼らは物を退かしながら立ち上がり、わたしを睨み付けた。
「お前は、力の加減っちゅーもんが無いのか?」
「鹿威の言うとおり、この力は戦いの時に出せよな」
「ああ、すみません。ついやっちゃっいました」
「ついやっちゃっいました、じゃねーよ!どアホ!」
霪馬さんが腰をさすりながら言った。鹿威さんは人集りを散らすべく、手をたたきながら面倒臭そうにした。
「はいはい、皆さん!これは見世物じゃないですよ!さぁ、散ったぁ散ったぁ!」
これを気に、人々は自分の仕事に取りかかった。鹿威さんと霪馬さんは家に戻ろうとしている狸嶺さんに向き直った。
「っでな、オレが聞きたかったのは、お前に見張るよう言ってた匠ちゃんの事なんだが……」
「それなら、猫神の猫斑ちゃんに任せたわよ?狸のアタシより、猫が見張る方が良いだろうし。それにアタシ、暇じゃないの」
「えぇー!アイツに見晴らせたのかよ!オレ、アイツ苦手何だけどなぁ。無口だし。猫被りだし」
猫神の猫斑さんのは誰なのか分からないが、それよりも匠次郎さんを見晴らせているってどうゆう事なのだろうか?
「アイツ、何か色々と危なっかしい事してっから、監視させといたんだよ。匠ちゃんは、一様お前の大切な人間だからな。もし何かあったら大変だし……お前がな」
わたしの疑問を知ってか、鹿威さんはご親切に説明してくれた。
「それは、ありがとうございます」
「それより、猫斑か」
鹿威さんが困った顔をした。
「ん?何か問題でもあるんですか?」
「猫神の猫斑は、人懐っこいながらも、実は凄い無口なんだ。猫の気質をそのままで、気ままで自由、猫被りで、気に入った奴以外は冷たい態度をとる。そんな奴なんだよ」
横で霪馬さんが説明をしてくれた。
それより、神様がそうで良いのか?
「じゃあ、買い出しが終わってから行くか。目的地は同じだし」
鹿威さんが考えながら言った。彼は狸嶺さんに「じゃあ、また後で」といって、去っていく。わたし達は、一様狸嶺さんに迷惑をかけた事を謝り、鹿威さんの後を追って行く。
その後は買い出しに集中した。途中途中、霪馬さんに鹿威さんや菖蒲さんによる問題行動もあったが何とか買い出しを済ませた。
そして荷物は一度、宿に置いてきて早乙女屋、即ち、匠次郎さんの所へ向かった。
すると、猫斑さんがいた、と鹿威さんと霪馬さんが急に立ち止まった。わたしと菖蒲さんはどこに居るのかサッパリ分からなかった。そこには端なる猫の群が居るだけで、神様らしい猫はいなかった。
「いい加減出てこいよ」
っと鹿威さんが。すると壁に張られていた人と猫が載った浮世絵が動いた。いや、動いたのは猫だった。
猫そっちだったァァア!!
「お前、そんな所で化けるなよ」
「黙れ。バカ」
「お前に言われると何かすごく腹立つんだけども!」
霪馬さんが横で拳を握りしめた。これが鹿威さんだったら、殴っていた事だろう。
「五月蝿い」
なるほど。彼らが言っていた事が解った。彼女は確かに無口だ。言葉も一言二言しか言わない。それに顔も無表情。
わたしの右隣では、菖蒲さんが「この子、アタシの好みじゃない」とボヤいていた。だったら、先程の狸嶺さんは好みだったのだろうか?
無口な猫神である彼女はわたしに話しかけた。
「お前、匠次郎の幼なじみか?」
「えっ?……え、はい。まあ」
「どんな関係だ?」
何だろう?この猫神様、わたしにこんな事聞いて何になるんだろう?あれ?さっきまで無口じゃなかった?
「幼なじみで親友?友人?いや、友達?なのかな?」
「真の事を申せ」
「本当の事なんですが」
猫斑さんはわたしを一時見つめた後、深い溜め息をはいた。
「彼はとても複雑な心情をもってる」
「複雑な心情だぁ?」
鹿威さんが意味が分からないっと言っているかのように言った。
「小春さん……の事を聞くと、とても嬉しいそうな顔をして、とても悲しい顔をする」
「オレ、解った気がする!」
鹿威さんが急に拳を握りしめて、目を輝かせた。
「何をです?」
「フッ、小春には今の所、解る事の出来ないモノだな!」
「紛らわしい事言うんじゃなくて、しっかり話せ!」
霪馬さんが鹿威さんのお腹に膝蹴りをくらわした。
「オブッフ!」
そのまま彼は地面に膝をついた。
「クソ馬ー!よくもしやがったなぁ!」
「黙れ。バカ共」
細い目をさらに細めた彼女は霪馬さんらを貶した。
「なっ」
また喧嘩が始まる前にわたしは逃げるように、その場を後にした。
もちろん、菖蒲さんはわたしに付いて来る。
「はぁ、やっと逃げ出せた」
「小春ちゃん、気まずそうだったね?」
「うん、まあ」
正直、余り聞きたくなかった事を聞いてしまった。いや、それよりも、早く行かなければ。
思い悩みをしていたら人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
しかし、その人は一度振り向いてからまたヨロヨロと歩き出した。
「なに?あの巫女服の女性。昼間っから酒飲んで…しかも、ぶつかったのに、謝りもしないなんて……」
「いいよ、菖蒲さん」
わたしは、突っかかりそうになった菖蒲さんを止めた。
「お主……」
さっきぶつかって来た巫女服の女性が立ち止まりわたしを見た。
「人では無いな」
「えっ?」
「赤髪のお前は一度憑かれているな。だが、今はいない。しかし、横にいるお主は人ならぬ気配がする」
「なっ………」
巫女服の女性はわたしに鋭い眼差しを向けた。
「お前は人か?それとも妖か?………いや、この感じは……神か?」
「わたしは……」
「まあ、どちらでも良い。これが妖怪と確定したならば即、滅せねばならぬが、お前はどちらのか解らぬ。それに、今は気が乗らぬ。運が良いと思え……出来損ない」
彼女はそれだけ言うと、一度酒を飲み、立ち去ろうとした。しかし、また止まり────
「あと、余り浮き世をうろつくな。次会ったら滅するぞ」
そして彼女は立ち去った。
「何あの不良巫女。何で、小春ちゃんが普通の人間では無いと気付いたのかしら?」
「解らない。でも……」
あの目は本物だった。あれは警告だったのだ。本当に次は無いと言う目をしていた。それに彼女は高い霊力の持ち主だ。
でも、霪馬さんや鹿威さんがここに居なくて良かった。いたら、闘いになっていたハズだ。
わたしはホッと胸をなで下ろした。
「行こう。菖蒲さん」
「う、うん」
そして、早乙女屋についた頃にはすっかりみ昼を過ぎていた。
わたしと菖蒲さんは行く途中にあった団子やで空腹を少し満たし、ここに来た。っと言っても、やはりお腹は空く。
「ありぁ?小春さん……じゃありませんか?」
店の前で立ち止まっていると早乙女屋の番頭が話し掛けて来た。昔、良くここに来て遊んでいたので、彼とは馴染みのある人だ。
「もしかして、若旦那に会いに来たのですか?」
ニコニコする彼にわたしは頷いた。番頭は小僧に若旦那を呼んでくるよう言った。
「それで、そちらのお方はどちらさんで?」
番頭は、わたしの横にいる菖蒲さんに目を向けた。
「この人は、わたしの所で住み込みで働く事になりました」
「赤霧菖蒲でーす」
「ですね」
「お色気の多い人じゃな」
「えへへ」
菖蒲さんは苦笑いをした。彼はそんな彼女ともっと話をしたそうだったが、まだ仕事があるので、そうはいかなかった。
番頭が去った後、菖蒲さんは唾を吐くように言った。
「チッ、慣れなれやすく話しかけやがってクソジジィ」
「仕方ないよ。それが仕事なんだから」
まだかな?と店の奥を見ていると匠次郎さんが出てきた。彼はわたしを見つけると子どものように顔を輝せて来た。
しかし、隣にいる菖蒲さんに目を向けると、顔を背けた。
何故だろうと思ったわたしは菖蒲さんを見た。すると着物の間から大きく谷間が見えたのだ。
「あ、菖蒲さん!谷間が……」
彼女は自分の谷間が見えている事に気づいた。しかし、別に恥ずかしくなさそうに、
「ごっめーん。見えちった?」
彼女は着物を整えてた。
「じゃぁ、アタシ、ちょっくらそこの飯屋でご飯食べとくから、終わったらこっちに来てよ?」
「うん、わかった」
彼女はそのまま手を振り、斜め前の飯屋に消えた。
「小春さん……昼餉はまだだったのですか?」
匠次郎さんは眉をひそめて、わたしに聞いた。
「いえ、来る途中団子屋でだんご食べてきましたから」
「それでは腹は満たせません。いまから作りに」
「そんな。あんまり気い使わないで下さい。昼餉食べなくってもわたし大丈夫ですから」
それより、あの巫女装束を着た人は、一度見ただけでわたしが人では無いと見破られると、何だが落ち着かないな。
「取り合えず、客間に」
彼はわたしを客間に連れて行った────のハズなのだが、連れて来られたのは離れにある、彼の部屋だった。
「今日、ここに来たのは、私にある話をしにきたのでしょう?だったら、人が通りやすい客間よりも、私の部屋の方が外に声が漏れません」
「あ、はい」
「だから……でも、やっぱりおにぎりだけでも作って来ます」
彼はそう言うと、引き止める前に即作と部屋を出て行った。一人彼の部屋に残されたわたしは、畳を触った。自分家と何な変わりもない畳。
わたしは立ち上がり、何かないか詮索した。これで春画でも見つかったら後々、からかうつもりだったのだが、生憎その様なやましい物は無かった。変わりにビッチリ漢字の多い書物が沢山あった。
うわー勤勉……
箪笥の引き出しも全て調べた。しかし、そこには陰陽師らしいものは在らず。変わりに綺麗に色分けされ、畳まれた着物が入っていた。
わたしはついに探すのも諦め、また元の位置に座った。しかし───
「良い匂い」
彼の部屋はとても清潔でおひまさの様な香りがする。当たり前だ。この部屋は日当たりが良い。
わたしは座布団を二つに折り曲げ、その上に頭を乗せ、ゴロリと寝転がった。
わたしは一時、天井を見つめた後、体を横にして目を瞑った。ふわりと香る匂い。
「凄く、落ち着く……良い匂い」
わたしは寝てはいけないと思いつつも、いつしかウトウトし意識が途切れ、いつの間にか寝てしまった。




