第十三話 決断と………
わたしは体に戻った。そして、どこを見ても、真っ暗な空間に呆然とした。
ここは何処だろう?
暗闇の中一人、わたしはいた。どこを見ても真っ暗な空間。でもわたしの白い肌は暗闇の中浮かんでいた。
わたし……たしか陰獣にお腹を
わたしは自分のお腹にそっと触れた。そこには傷などなかった。
あれ?おかしいな?
確かに、お腹を突かれたような
でも……ここはどこ?
カルさんは居ないの?
どこに向かっているのは分からない真っ暗な空間。でも、ちょっと歩いてわたしの足は止まった。
真っ暗で見えないのに、何故か、先にいる人がいた。その人は暗闇の中でもはっきりと浮かび上がり、全身の姿が見える。
そして、わたしはその人に見覚えがあった。
どうして……
わたしは疑問に思っている事を口に出した。
どうして、いるの?
どうして……どうして
何で、わたし達を置いていったの?
わたし、あなたに聞きたいこと沢山あるよ……
わたしが何度そう言っても、彼には届かない。向こうも何か言っているが、わたしには何て言っているのか、聞こえない。
わたしはその人のもとに行こうとした。でも、いくら歩いても、その人に追い付く事など出来なかった。
そして、何時しか、彼の姿が消え始めた。わたしは手を伸ばして叫んだ。
待って……
待って……お願いだから
行かないで
わたしを置いていかないで
わたし、あなたに沢山話したい事があるの
いくら言っても彼には届かない声にわたしは胸が苦しくなった。そしてわたしは、その愛しい人の名前を呼んだ。
待って
義総さん────
それと同時にその人の姿が消えた。届かなかったわたしの手が宙を舞う。わたしの頬に一筋の生温い涙がつたった。
そして、わたしもそれを境に、目を覚ました。多分ここはあの十二支がいる部屋だろうと思ったわたしは辺りを見渡した。すると、まず最初に目に飛び込んできたのが、付喪神のカグツチだ。次に、わたしの横にいる霪馬さんと鹿威さん。彼らはわたしの顔を見るとホッとした表情を見せた。
「おはよう小春」
そう、霪馬さんが言いながら、手拭いをわたしに差し出した。その手拭いを見て、わたしは自分が涙を流している事に気が付いた。
「ありがとうございます」
わたしはその手拭いを有り難く受け取り、涙を拭いた。そんなわたしに鹿威さんが心配そうに声をかけた。
「何か怖い夢でも見たのか?」
怖い夢……ではないかな?
「違います。ただ、懐かしい人が夢の中に出たものでつい……」
「ふーん、懐かしい人ね……ところで、小春」
「はい、何でしょう?」
「今気付いたこと何だがお前、寝ている間は目が青いな」
深刻そうな顔を浮かべた表情をした鹿威さんがわたしを見ながら言った。
「なにかマズいことでも……」
「マズいも何も、お前いずれ力の制御がきかずに暴走するぜ」
「暴走?」
「無差別に生あるものを葬るバケモノになっちまうことだよ。そうなっちまったら跏琉痲と同然。だからお前、親元いや、大切な人に会わないように、あの家から出て行くか?」
「すみません。言っている意味が今一わかりません」
「だーかーら、あの人達の所に帰らずにそのまま、闘いに備えるかって言ってんだよ」
それはつまり……
「つまり、二度と家族に会うな。そう言う意味ですか?」
「まあね」
っと言う事は今までの日常にはもう戻れないって言うこと?そんなの嫌だよ。
「嫌」
この言葉に鹿威さんと霪馬さんが驚いた。
「嫌だぁ?」
「わたしにとって、家族は心の安心を持つ場所何です」
「何時までも家族ごっこは止めとけ」
この家族ごっこと言う言葉にわたしはカチンときた。
「鹿威さん達から見れば確かに家族ごっこかもしれないけど、わたしにとっては、楽しい大好きな家族。家族ごっこなんかじゃない!」
「……お前のその大好きな家族がこの闘い、またはお前の暴走に巻き込まれてもか?」
鹿威さんが目を細めた。それは、今まで感じたことのない妖気が彼から感じれた。
「あの陰獣はお前だけを意図的に狙って来たヤツだ。それをお前がもし、あの村に住み続ければ、いずれ陰獣の大群がお前を狙って来て、村はお前の生まれ故郷、御代ノ里の様に破滅するぞ。それか、暴走した自らの手で滅ぼすか」
「そんな……」
確かにあの陰獣はわたしを狙っていた。わたしがこのまま村に居れば村を襲うという彼の考えは当たっているかもしれない。
わたしが村から消えれば大切な人達は無事でいられる。傷つかずにいられる。でも「恐い」と言う言葉が自分の頭の中を駆けめぐっていた。あんな陰獣をこれから沢山倒さないと考えるだけで、全身が震えた。
「それは、今決断しなければならない事なのでしょうか?」
「出来れば」
わたしがあの村から消えれば、皆は昔と変わらず、幸せに暮らしていける。だったら、わたしは皆の為に何をすれば良い?わたし自身を受け入れてくれた村人達、家族……そして、匠次郎さん達。
わたしの大切な人達。わたしが護りたい人。わたしは……
「やります」
霪馬さんが驚いた表情を浮かべた。
「皆を護るため、戦います。でも、あの村からでる前に一月だけ居させてはくれませんか?」
鹿威は腕を組んで考えているようだった。彼の横にいる霪馬はそんな彼とわたしを交互に見ていた。
「良いぜ。一月だけやってやる。ただし、一月を過ぎれば、お前はただ自分の宿命を終わらせように集中しろ」
神様にとって、一月なんてあっという間だ。彼らは何の気に無しに生きている時間だけど、人にとって一月とは思い出や、様々な事が体験出来る貴重な時間だ。わたしは無駄には出来ない。でも………恐い。
独りぼっちになるのが恐い。今まで、辺りを見渡せばた頼りになる家族がいた。でも一月後、わたしは独りぼっち。鹿威さん達は隣に居るようでいない存在。
わたしは神擬とはこんなにも孤独な存在なのかと思ってしまう。大勢の敵にわたしは一人で立ち向かわなければならない。それが、神擬の宿命。御代ノ一族から出た跏琉痲との因縁の戦いは御代ノ一族の中の跏琉痲と同じ、神擬が終わらせる。
今までの神擬達はこんな思いを抱きながら戦いに向かったのだろうか?たった一人で。
「小春、何か茶でも温かい飲み物が欲しいか?」
霪馬さんがわたしに気を利かせてくれて聞いてきた。
「お願いします」
彼らはどこか不思議な時がある。例えば、今日のように鹿威さんが厳しい事を言えば、霪馬さんが優しい言葉でさっきのように気を利かせてくれる。前は逆だった気がした。
わたしがそんな事を思っていると彼らはいつの間にか、居なくなっていた。
わたしは一人、いや、正確にはカグツチがいるから……でも、恐かった。無意識に体が震えた。わたしは愛しいあの人から貰った簪を強く持ち、自分自身を抱きしめた。
「お嬢、お嬢」
ずっと考えた事ばかりしていたから、呼ばれていたことに全然気づかなかった。
「何?カグツチさん」
「ワシのことは呼び捨てで良いですぞ」
「うん、わかった」
「っで、お嬢。ワシのおもしろ話を聞きはりますか?」
「ええ」
気を利かせてくれているのか?カグツチはわたしにおもしろ話を聞かせてくれるそうだ。
カグツチは話す前に一咳きをしてから始めた。
「これはまだ、ワシがお嬢の所に来る三日前の話しであります。お嬢が道束様の呪いを解いてから、我々はとても楽しゅう日々を過ごしました。まず、一番面白かったのが、恥ハゲ様の事であります。彼は最近、部下達にとても慕われているようで、部下達からは、空気読めない野郎(隊長)や道束様にぞっこんジジィ、ツンデレハゲなどなど様々な渾名で呼ばれています」
それを慕われていると言えるのだろうか?
「で、実は道束様の子どもが恥ハゲ様の大事な大事な書類の上にゲロを吐いたのです」
「それは……ドンマイとしか言いようがありませんね」
「恥ハゲ様はとても怒っていましたが───」
「小春ちゅぁーん!」
カグツチの話しを遮るように襖をバシッと開けて夜鳥さんと他三柱が入ってきた。わたしとしてはこの話しのオチが聞きたかった。
「お目覚めになったんだね!アタシ、凄く心配したんだからね!」
「ぶっちゃけ、お初にお目にかかります。私、神擬様が寝ている少しの間、看病させていただきました。未の羊緋と申します」
椿の花をつけたもの温和しいそうな顔の女性が自己紹介をした。次に彼女の横にいた、可愛らしい少年が一歩前に出て胸を張って自己紹介をした。
「僕、神擬さんの傷の手当てをした卯の兎雪と言うッス!」
すると次は二つお団子結びのつり目の女性が兎雪と言う少年を押しのけて言った。
「子の鼠原です」
ここまで聞いて、わたしは自分も紹介するべきだろうか?と思ってしまう。彼らは神擬であるわたしをしているのだから、勿論、わたしの名前も知っているハズだ。
「神擬様の名前は確か……」
知らなかったのかい!
「小春です」
「小春?良い名前ですね」
「あれ?春菊じゃなかったんッスか?」
「春菊はわたしの幼少期の名前。小春はわたしをここまで育ててくれた義母さんが名付けてくれたの」
「まぁ、春菊って名前も本名じゃないしネ」
「それは一体どういう………」
「あんまり変な事、吹き込むんじゃねーよ」
わたしの声を遮るように、わたしの横から声が聞こえた。そこにはいつの間にか胡座をかいて座っている鹿威さんと正座姿で茶を持っている霪馬さんがいた。
「鹿威。アナタ、小春ちゃんの出生の事、全然話していないの~?」
腰に手を当てて言った夜鳥さんに対して、鹿威さんは曖昧に返事した。
「まだ……そんなモノはいいだろ」
わたしは自分自身の出生の事を知りたい。本当の母や父を……でも、心の奥深くでは知りなくないと言うのがある。彼はそのわたしの心情を感じとってか、話しの話題を別のにかえた。
「それより小春、お前、あの簪って誰に貰ったんだ?」
「大好きな人から」
「それって匠次郎?」
何でそこで彼の名前が出てくるのかわからなかった。
「いえ、違います」
「じゃあ、誰だよ」
「もう直ぐわかりますよ」
わたしのこの紛らわしい返事に鹿威は顔をしかめた。
「何だよそれ」
この内容の会話は終わったが、わたしの疑問は一つあった。
「あの、わたし何日眠っていました?」
「三日ッス」
三日……よく物語の中であるように、ここの時の進み方とあっちの時の進み方は同じ何だろうか?
このわたしの考えに気付いてか否か、霪馬が思い出したように言った。
「あっ、でも、向こうは7日間過ぎているぜ」
この言葉を聞いてわたしは叫んだ。その理由は……だって7日間だから。親や村の皆、多分心配しているだろうから。これがもし、匠次郎さんまで伝わっていたら、長々しい話しがあるから。それ、何となく嫌だから……だ。
でも、もう手遅れだろうな。
「そんなに帰るのが嫌なら、そのまま帰らなくて良いんだぜ」
鹿威さんが言った。その言葉に十二支五柱が揃って頷いた。
「いえ、帰ります。残りの1ヶ月は楽しく過ごしたいので」
「楽しくねぇ……それはどうだろうなぁ?依頼もあるだろうしさ」
「い、依頼だって楽しみの一つにすれば苦じゃ無いです」
「そうだな……」
「で、ぶっちゃけ、話は終わりましたか?小春さんはまだ病み上がりです。余り無理をさせると、せっかく塞がって来た傷が開きますよ?」
羊緋さんが手をパンパン叩きながら、彼らに言った。それに対して一番始めに腰を上げたのは鼠原さんだった。
「そうだネ」
「また、傷が広がって治療するのはオレッスけどね」
「いいじゃない~?また仕事が出来てさぁー」
四柱は揃って部屋を出て行こうとした。しかし、霪馬や鹿威がなかなか腰をあげない。
「アンタ達はどうすんの~?」
「まだ、オレはちょっと残るぜ」
「ああ、俺も」
「ふ~ん、アンタ達って物好きね……わかった………じゃぁね~」
夜鳥が襖を閉める前に手を振った。そして静かに閉めた。二柱とわたしと一匹の付喪神が残った。思い沈黙があったあと、霪馬がわたしの顔を覗き込んでに言った。
「小春、眠いか?」
「はい、ちょっと眠いです」
わたしはまだ完全に傷が癒えていないから、眠気が襲う。
うっつらうっつらと瞼をゆっくり閉じたり開いたりするわたしに霪馬さんは優しく言った。
「そっか。じゃぁ、安心して寝ていろ」
霪馬さんはわたしの頬についている横髪を手でとってくれた。いつもとは違う優しい顔とその動作に少しドキッとした。しかし、眠気が襲ってきて余り恥ずかしいとか、そんな事は全然思わなかった。
それよりも、ある不安が募った。それは、わたしが寝ている間にいつの間にか彼らが居なくなって、目が覚めたら独りぼっちになる事だ。
普段のわたしならどうーってこと無いが、あの陰獣に襲われた後はさすがに独りぼっちになるのが怖かった。
わたしのこの考えが顔に出ていたのか?鹿威がさっきの口振りとは違う優しい感じで言ってくれた。
「大丈夫だ。お前が寝ている間、オレ達は何処にも行きやしねぇよ。だから、安心して寝んな」
あのわたしの勝手な考えは前言撤回だ。彼らは隣で居るようでいない存在ってわたしは思っていたけど、違った。この二人はわたしが困っている時や不安な時、必ず傍に居てくれた。今もそうだ。
こう思うと、何故だろう?凄く安心した。頼れる人がいることに。
………でも、どうして彼らはこんなにも色々としてくれるのだろう?
こんな疑問が浮かんだわたしだが、既に意識は途切れ、深い眠りに入った。
* * * *
目が覚めた。ここは真っ白な空間ではなかった。野原だった。今までこんな空間の風景を見たことの無かったわたしは思わず辺りを見渡した。季節はずれの花や草がある。
「ここは……どこだろう?」
辺りを見渡したが、何時もの剽軽なカルさんが出てこない。すると、強い風がふいた。結っていないわたしの長い漆黒の髪が宙を舞う。草花も、わたしの髪の様に風になびかせていた。
「カルさん………どこ?」
いつもなら、上下左右見ても真っ白な空間なのだが、今わたしが居るところは、左右見れば幅広い野原と、その奥には険しい山々が連なっていた。そして、上を見れば真っ青な青空と、その青空の中に点々と浮かぶ雲が見える。
少し耳を澄ましてみると川の流れる音と小鳥の囀りが聞こえる。
「ここは、夢想空じゃないのかな?」
カルさんから教えてもらった夢想空は「命あるものはここでは実現出来ない」て聞いた気がする。でもここは、草花や虫、鳥などがいる。じゃあ、夢想空では無い確率が高い。
もう一度耳を澄ましてみると、人らしき足音が森の中から聞こえた。わたしは隠れる場所が無いので、丈の高い草村に身を隠した。
わたしが身を隠したと同時に、その足音の主が見えた。わたしは、その姿を確認すると草村から身を起こした。
「カルさん?」
「やあ、小春」
彼はわたしに近付くと、丈の短い草村に誘導して、座らせた。カルさんはわたしの横に座った。わたしは一つ、彼に疑問を投げかける事にした。
「カルさん、あの……一つ良いですか?」
「なんだい?」
「ここは、何時もの真っ白い空間、夢想空では無いのでしょうか?確か夢想空って命あるものはわたし達以外存在出来ないって聞いたんですけど?」
「ああ、それは私一人の力の場合だよ。今見えるこの世界は私が創っているようで、君も創っている世界なんだよ?」
「それは……一体どういう意味なんですか?」
「小春。君は菊理媛神の生まれ変わりで、その媛神の力の一つ、命を司る神でもあるんだ。そして、今まで真っ白だったこの世界は小春が来るようになってから、次第に小春の力に影響され、この世界でも私達以外の命の生存が可能になったって事」
つまり、わたしの力の影響でこの世界の成り立ちが変わったという事か。あれ?じゃぁ、わたしが来なくなったら……どうなるんだろう?
「あの、わたしがこっちに来なくなった場合は?」
「間違いなく消えるね」
なるほど。では、わたしは定期的にこっちに来ないと、わたしとカルさん以外の命、つまりこの綺麗な空間は消えるって事か。ありゃ?待てよ。わたしが身体から離れて、
意識だけこの空間に来るように、カルさんも現実に身体があるのだろうか?もし、在ったとしたら、是非とも生身で会ってみたいな。
「あの───」
わたしがもう一つ疑問を言おうとしたら、カルさんが話し始めた。
「ああ、でも小春。大丈夫だよ?この草花や虫、小鳥達は“命がある幻”。触ると、その物体の感触があるけど、別に本当に生きているわけでは無いんだよ。小春、さっきの説明が難しかったから分からなかったかもしれないから、簡単に言うね?」
わたしをバカにしてんのかい!って余り良く理解出来なかったけども!
「ここは………小春の無意識の力と君の願望で出来ているんだよ」
「願望……と無意識の力?」
「うん。小春はさあ、ここに来て寂しいとか思った事あるんじゃないかな?」
う、う~ん?確かに思った事があるような、無いような。でも、前のは白けていたから、一瞬思ったりしたかも。
「どうだろう?」
「多分、君の心の奥深くでは思っているはずだよ。でないと、こうは成らないから」
「ああ……へぇー、そうなんですか」
ここで一旦話が終わったとして、わたしはさっきのもう一つの疑問を彼に言って見る事にした。
「ところでカルさん。カルさんってわたしの要に、現実に体があるのですか?」
それを聞いて彼は一瞬哀しそうな顔をして俯き、そして、顔を上げた彼の顔は苦笑していた。
「昔はね、あったよ」
「昔?」
「うん、昔。今の小春のように、ここに自由に行き来出来たんだけど、ある時、フッと何故かここに閉じ籠もちゃったんだよね。そしたら何時の間にか帰られなくなった。ずっと自分の元の体を離れていたから、帰り方(体がある場所)を忘れてしまったのか?それとも、肉体が亡んだのか?あるいは………誰かに私の肉体を乗っ取られたかだね?」
「誰かに乗っ取られた?……それは一体どんな奴?」
「そうだね……神様とか?……いや、この場合は神憑りだから、いずれ肉体を返してもらう事だとして………妖怪や霊(悪霊など)と、あとは……陰獣もその一つだね」
「えっ!陰獣って体を乗っ取るより、食べる方では無いんですか?」
「うん、多くの陰獣の場合はね。でも、ごくまれに人の体を乗っ取って、全ての陰獣を従えようとする、意志を持った陰獣がいるんだ。まあ、その場合、乗っ取られた人の体は獣のような体になってしまうけど」
「じゃぁ、カルさんは?カルさんはどっちなんですか?」
「う~ん………それは、私にも分からないかな?」
顔は笑っているが彼の目は哀しみに満ちていた。わたしは何者かに彼の身体が乗っ取られた事に賭けた。賭ける相手いないけど……
「あっ!後ね小春。君に会いたいという人がいるんだけど」
カルさんが思い出したように言ってきた。それより、わたしに会いたい人?
「ここには私達以外誰も入れないんだけど、その人が『どうしても小春に伝いたい事があるから』て何度も頭を下げられて、仕方なく入れてあげたんだけど………会ってみる?多分君が知っている人だよ?」
「はい」
カルさんはわたしの返事を聞くとニッコリ笑って「ちょっと待ってね?呼んでくる」と言いながら、彼が来た方向へ向かって森に姿を消した。
わたしが知っている人。誰だろう?鹿威さん達かな?
程なくして、人の声が聞こえた。
「ごめんね?随分と待たせてしまって」
「いえ、お構いなく」
カルさんが誰かに謝って話しかけていた。それに対して言葉を返すその声の主はどこか懐かしさを感じた。そして─────
「小春。待たせたけど、こちらの彼が君に会いたいと言っていた人だよ」
カルさんが、わたしに会いたいと言う人を手で指した。わたしはその人を見て目を見張り息をのんだ。
「あ………」
その人はわたしを見て懐かしそうに手をあげ、爽やかに笑った?
「やあ、小春。久しぶり。私とは約2年ぶりの再会だろうか?」
余りにも、驚くべき事だったのでわたし声を出す事が出来なかった。そして、やっと出た言葉は彼の名前だった。
「あ……義総さん?」
三人の間に静かに風が吹いた。




