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第十二話 付喪神さん

え?ダラダラ長い文章なんだぜ……

 

 静かに静まり返った長屋の端だけ、蝋燭の灯りがあった。そこは最近夫婦喧嘩が激しい人達が住んでいる部屋だ。

 また、喧嘩は何時もの事なので他の住民は見て見ぬ振りをしている。今日もその家は喧嘩をしていた。


「誰がこの家を支えていると思っている!」 

「あたしよ!」

「今まで支えてきたのはこの俺だ!」 

「いいえ、違うわ!少なくともこの金はあたしが稼いだのよ!」

「良いから金をよこせ!俺にはその金が必要なんだ」

「どうせ酒でも買うんでしょ?」

「ああ、そうだ。酒が俺の命だ」

「あたしは稼いだ金で今までの借金を返すのと、栄太郎におまんまを食べさせないといけないの!」

「つべこべ言わずに貸せ!この女!」

 男が女に突っかかって行った。この家の端では彼らの子供、栄太郎が耳をふさいでうずくまっていた。


「神様、どうかお願いです……喧嘩を……この喧嘩を止めて下さい!」

 何度も呪文のように呟いている彼の目の前で、男が包丁を女の方に向けた。

「神様どうか喧嘩を……止めて下さい!!」

────ソナタの願い、聴き届けた。

 少年にはそう聞こえた気がした。そして栄太郎が我にかえるとそこには三人の面を着けた人が居た。


「あっぶないねー?奥さん。アナタもう直ぐ死ぬ所でしたよ」

 角がある面が女を抱えて言った。そして馬のような面の人が男が取り押さえていた。

「お前、人を殺めると牢行きだぞ?」

 そしていつの間にか栄太郎のそばにもう一人の人が居た。

「お名前は?」

「え、栄太郎」

「じゃぁ、栄太郎君。アナタはあの二人をどうしたい?」

「どうって?」

「縁を再び強く結か?縁を切るか?」

「え、縁を切るって?」 

「離縁……つまり片一方がこの家から出て行く事。そして、お互いに相方の記憶が無くなる。でも、母親はアナタの記憶だけは忘れないよ」

 離縁と言う言葉で少年は俯いた。そして、顔をあげた少年の目には涙がうかんでいた。


「やだよ……」

 少年は一つ目の面を着けた人に縋るように言った。

「やだよ!離縁何て、縁を切るなんてダメだ!オレはあの時のように家族皆で仲良く過ごしたいんだ!」

「……ソナタの願い、聴き届けた」

 一つ目の面の人がそう言った。しかし、少年は不思議そうに首を傾げた。

「あの、さっきもそれ聞いたんだけど」

「さっきのが初めてですが?」

 この事を聞いて少年は気のせいかな?と思った。


 一つ目の面、ことわたしは心の中で思った。

 まだ、わたしの中に菊理媛神様がいるのかな?

「鹿威さん……縁を結ぶにはどうすれば?」

 女人を抱きかかえていた彼は女人を下ろすと言った。

「こんな風に手を矛にし、こう唱える「縁結びの神々、の(名前)、男を(名前)、双方の縁を再び結びし仕らん」だ。まあ、特に決まったセリフ何てねーけど」

「ありがとうございます。名前がいるんですね?」

「ああ、そうだ」

 一つ目の面を被ったわたしは夫婦の名前を聞いて言われたとおりにした。すると何故だか、薄い途切れ途切れの光っている糸が見えてきた。


「縁結びの神々、女のお三枝、男の勘吉、双方の縁を再び結びし仕らん」

 わたしはそのまま縁を横に繋げるように動かした。わたしが手を動かし終わった時、夫婦は気絶した。驚いたわたしは鹿威さんの方を見た。

「大丈夫だ。ただ気絶しているだけだ。死んでなんかいねーよ」 

「でも、何故気絶するんですか?」

「縁を再び結ぶ時はそれなりの力が必要だ。コイツらはただお前の霊力に負けただけ」

「負けた……あの少年は?!」  

 わたしは慌てて自分の後ろにいた少年に目を向けた。が、やはり少年も気を失っていた。 


「あちゃー、報酬先に貰っとけば良かった」

 鹿威さんが頭をボリボリ掻きながら呟いた。しかし、霪馬さんは外を見て言った。

「いや……俺達の本職はこっからだ。鹿威に小春」

 彼が見ている外には涎を垂らした陰獣の豺鬼と猿鬼がいた。数はおよそ20だ。

「スミマセン。わたし辞退しても宜しいですか?」

 すかさずわたしが手を挙げて言った。わたしは小さな跳鬼なら何とか倒したことがあるが、豺鬼やら猿鬼何て倒した経験が無いのだ。


「アホ言うな。お前が倒すんだよ」

 霪馬さんがわたしを睨みつけながら言った。どうやら本気のようだ。

「でも、どうしてこんな所に陰獣が集まってるの?」

「餌だよ」

「餌?」

「あの夫婦かなり危なかっただろ?心が荒んでいて、お互いが険悪な仲だった。そういうモノを陰獣は好む。最もあの男が妻さんを殺せば、その男は既に闇にとりつかれ、陰獣にとってはさぞかし美味だろ。だから今までその時が来るまで待ってたんだろう?」

「うわっ、何か陰獣って凄いモノ好むんだね?」

「陰獣はディナーの邪魔をされて困ってんだろうな?」

 ディナーの言葉が今いち良くわからなかったわたしは霪馬さんを見た。


「夕食の邪魔だそうだ」

「どうして?」

 鹿威さんは両手を広げて言った。

「今までハングリーながらも我慢して待ってたのにオレ達に邪魔されたからさ」

 またもやハングリーの言葉が今いち良くわからなかったわたしは霪馬さんを見た。

「お腹空いたながらも」

 この様に話している間にも陰獣は飛びかかりそうな感じだったが、案の定飛びかかってきた。わたしは慌てて避けたが、道束さんから貰った扇子を豺鬼にとられてしまった。わたしは陰獣に近づいた。


「返してっ!」

 わたしは陰獣が噛んでいる方と反対側を掴んで引っ張った。お互い引っ張り合う形になっていたが、わたしは扇子をとるため左右上下に振った。すると………

ギャン

 何故だかわたしの前にいる陰獣の豺鬼が声をあげた。豺鬼が声をあげた理由はわかったが、何故かわたしは困惑していた。


「え、ちょっ、えー!何で扇子が刀に変わるの!」

 わたしの持っている扇子が刀に変わったのだ。千景さんが言ってた理由がやっとわかった自分だった。

「なるほど……普通の扇子が刀に変わるのか……こりゃあ普通の扇子じゃねーな?」

「普通の扇子でないってどういう意味だ鹿威?」

「ああ、多分。あれは訳あり扇子だな。恐らく何かが取り憑いているかのか、もしくは、あの古さを見ると、付喪神かだな」

「付喪神?それって確か物が100年経つと命が宿るとか言って、物から手やら足や目が出て来て夜な夜な歩き回る妖怪の一種って奴か?」

「ああ、そうだな」


 彼らはわたしを見ながら話していた。そして当のわたしはというと、刀を振り回していた。さすが、産まれてこの方、一度も刀を持ったことの無い人がやることなのだ。


「てか、鹿威さん達助けて下さいよ!何のんびり家の上が喋っているんですか!ってギャア」

 わたし目掛けて次は猿鬼が襲ってきた。わたしは避けながらも刀を一生懸命振り回していた。陰獣達は斬られまいと、わたしを中心に輪を作って間を取った。

「逃げ場なくなったぁあ!」


 泣きそうになりながらもわたしは刀を振り回した。するとわたしが持っていた刀が微妙に光った後、何故か次は大鎌になった。

「今度は大鎌に変わったァアア!……」

 そして、今まで届かなかった筈の陰獣達に大鎌が豺鬼と猿鬼の体を真っ二つに斬った。陰獣の血がわたしの面や服に着いた。

「臭っ!!」

 陰獣独特の肉が腐ったような臭いにわたしは思わず鼻を摘みそうになった。いや、正確には面をつけている為、無理だった。


「霪馬さんに鹿威さんもいい加減に参戦したらどうです?」

「えー?オレ達だって大変よ?ホラ、屋根に登ってきた豺鬼を倒すとか」

 そう言いながら彼は片手だけで豺鬼三匹を相手している。彼の隣では霪馬さんがまるで石ころを蹴ってるかのように猿鬼を落としている。

「全っ然、大変そうに見えないんですけど!」

 わたしは一生懸命大鎌を振り回している。しかし、一向に当たらないのはわたしが何もかも武器に関しては初心者だからだろう。

「しゃぁねーなぁ。今日だけ助太刀したらぁ」

 鹿威さんが頭をボリボリ掻きながら言った。

「ありがと……」

 わたしがお礼を言う前にわたし自身の体が吹っ飛んだ。一瞬何が起きたか判らなかった彼らは固まった。

 そして土煙が少しおさまるとそこには髏鬼の一回り大きな陰獣がいた。


「みィつゥげたァみィつゥげたァ」

 陰獣はわたしを見ながら狂ったように言った。当の投げ飛ばされた自分は頭から血を流し、腹には何かを突き刺したような穴が空き、大量に血が流れていた。

 焼かれたようにお腹が痛かった。しかし、意識は辛うじてあるようで、血を吐きながら咳き込んだ。普通の人間なら死んでいただろうっとわたしはこんな状況になりながら思った。


 そして、わたしが持っていた大鎌は自分の手から放れて普通の扇子に戻っていた。ここでようやく状況がつかめた彼らは目を見開いた。

「小春っ!」

 鹿威さん達は瞬時にわたしの傍に寄った。霪馬さんはぐったりとしているわたしの体を抱き起こした。

「しっかりしろ!小春っ!」

「チッ、アイツ……」

 鹿威さんが髏鬼を睨み付け、舌打ちした。しかし、髏鬼はそんな彼らには眼中に無いらしく、ぐったりと倒れて血を流している自分に七つの赤い目を向けていた。

 恐い……

「きぃよざァまのィったどぉり、ごこォにイダァ、みィづげェたァみィづげぇたぁがみィもぉおどォギィイ!!」

 陰獣はわたし達目掛けて襲いかかってきた。この陰獣の角には血が着いており、どうやらこの角で自分の腹を刺したらしい。


「あまり、オレを怒らせるなよ!」

 そう彼は言い、襲いかかって来る髏鬼を拳一つで投げ飛ばした。髏鬼が井戸の上に倒れた。そして、痛がるように額の潰れた目を長い舌で舐め、立ち上がろうとした。

 

 しかし、真上に居た鹿威さんによって足蹴りで頭蓋骨を砕かれ、そのまま下に貫通して呆気なく死んだ。貫通する時、何とも言えない肉が千切れる音と陰獣の叫び声、赤黒い死臭の放った血の臭いが漂った。

 その血を顔面につけたまま鹿威さんは霪馬さんの元へ駆けつけた。


「お前……あまり中津国のを壊すなよ。後の修理が大変だろうが」

「大丈夫だろ?他の神さんがやってくれるし?」

「神さん扱い悪いな」

「それより小春の状態は?」

 霪馬さんは手拭いでおさえていた腹の傷口を見せた。

 痛い……

「血が止まらないんだ。それに身体が冷たくなっている。小春はまだ力が完全に目覚めていないから、この傷は自分では治せないだろう。後、陰獣の穢れが彼女の身体に入っている」

「つまりなんだ?」

 今までわたしの傷口を見ていた霪馬さんが鹿威さんを見た。


「このまま放置したら陰獣の穢れと出血多量で死ぬぞ」

 鹿威さんはしゃがみこみ、わたしの首の付け根に指を当てた。数秒間そうしたあと手を離し、彼は溜め息をはいた。

「……だな。脈数が少しずつ遅くなってきている。霪馬どうする?オレ達にはそっちの専門では無いぞ」

「上だ」

「上?」

「高天原なら様々な分野の神々が居る。そこに行くぞ」

「しかし、お前……神擬は自分の宿命を終えるまで高天原に立ち寄ることは禁止されているんだが。あの一件以来」

「大丈夫だ。俺にはちょっと薬草に詳しい兎雪とゆきという十二支の一柱がいる」

「ああ……確かお前みたいに童顔で女顔の背の小さな奴がいたな」

「あんまりソイツの所に行きたくないんだが……行くぞ」

「ああ」

 彼らはわたしを抱え、瞬く間に消えていった。そして、わたし達が過ぎ去る前に、わたしは二人の人影を見た気がした。



   *   *   *   *



 ここは高天原。神々が住まう地であり、天照大神大御神がおさめている地らしい。

 高天原って、全然下と違うな。

その高天原のある一つの土地で鹿威さんと霪馬さん、そして霪馬さんに抱き抱えられた意識を失ったわたしがいた。

 ん?わたし……ってわたし、何で体から離れてるの!?

「ここは?」

「ここはな、よく十二支の皆が集う場所だ。あいつ等なら信用出来るし、安心して小春を看病出来る」


 見た目は普通の家に見えたのだが中身は豪勢で一柱一つ一つの特徴を現した像があった。そこの通路を通り過ぎ、大きな戸を開けると其処には青く薄暗い高い岩々がある所だった。

「ここは?」

「会議場」

「随分飾り気がないな」

「悪かったな」

 足を一歩踏み入れると彼らは誰からか声をかけられた。


「おや?馬刺と馬刺の友では無いか?」

 そこには霪馬さんと同じ狩衣を着、尺を持った男性が言った。

「馬刺じゃぁねーよ。俺は霪馬だ。犬犲けんさい

「馬刺は馬刺ではないか?」

「うっせえ一!こっちとら急いでんだよ!」

「そう言えば、そこの小娘たしか……」

「神擬だよ」

「なに?神擬だと!?貴様知っておろうに、神擬は高天原には来ては行けないと……」

「急用なんだよ!唯一跏琉痲を封印出来る神擬が死んでも良いのかよ?」

 真っ青な顔のわたし(身体だけ)を見た犬犲は黙って溜め息をした。


「今回だけだからな」

 そう言ってきびすを返した犬犲は大声で誰かの名前を呼んだ。そしてあとから「ハイハイー」という返事が聞こえた。上の入り口から見えたのはキョロ目の少年だった。

「あれっ!兄貴じゃぁないッスか!」

 その少年は優雅に上から飛び降り、見事に着陸した。彼は霪馬さんの近くに寄った。

 

「兄貴~久しぶりっスね!」

兎雪とゆき、コイツの傷を治せるか?」

 霪馬さんからそう言われ、兎雪とよばれた少年はわたしの傷口を見て明るい幼い笑顔で言った。

「あー、大丈夫っス!このくらいの傷なら俺でも治せるっスよ?ちょうど白澤さんから貰った薬があるんで……」

「お願いしても良いか?」

「兄貴の頼み事だから良いっスよ」

 っとそこにまた、三柱の神が来た。

「ちょっとおー、何あなた達だけでコソコソしてんの~?」

 鮮やかな浅葱色の髪色を持つ女人、夜鳥さんが言った。


 夜鳥さん久し振りだな~って今のわたし、皆に見えないんだった……

「お前……高天原に帰ってたのか?」 

「ちょっと神蛇ちゃんに逃げられちゃったんだよね~。それより、どうして神擬である小春ちゃんが高天原にいるの?」

「怪我をしてな……俺達じゃ治せない傷だから兎雪に頼りに来たのさ」

「でもそれってお偉い方にバレたら終わりじゃないネ?」

「鼠原いたのか」

 ネズミの耳のように髪を左右にお団子結びをした十二支の一柱がいた。鼠の字あるので多分彼女は子だ。当たったら嬉しいな。


「だからこっちに頼ってきたんだよ」

「もしバレたら馬鹿達のせいだからネ?」

「ぅんだと!アホなドブネズミ」

 霪馬はキレそうになったが、わたしを抱き抱えているため、そうはいかなかった。

「でも……ぶっちゃけ、神擬さんは腹に傷があります。着ている服を脱がすには、男の兎雪なんかより女人である私達に任せたらどうでしょう?」

 鼠原の横にいた癖っ毛の天パーの髪に椿の花をつけているもの温和しいそうな女人が言った。


「羊緋~ちゃん!良いこと言うじゃない!」

 夜鳥さんが右となりにいる、羊緋ようひって言う神のの背中をバシバシ叩いた。

 みた感じ、未かな?

「羊緋、オレの事が信用ならないんって言うっスか!?」

「ぶっちゃけ、あなたはマセガキではないですか?」

「ま、マセてなんかいねーし!ただ、女の胸の柔らかさが大好きだけっスよ!」

「ぶっちゃけ白状しちゃってるわ」

 ハッと兎雪は自分の口をおさえて、顔を真っ青にした。霪馬さんと鹿威さんは凄く心配顔になった。

 わたしも凄く不安です。


「なぁ、鹿威」

「なんだ?」

「コイツらに小春を任せて大丈夫だと思うか?とくに兎雪が心配」

「そうだな……」

 鹿威さんは心配そうに顔に冷や汗をかいている霪馬さんの肩に手をおいて片目を瞑り、親指をつきだした。

「まっ、兄弟は似るって言うしな」

「きょ、兄弟じゃぁねーよ!アイツが俺の事、兄貴って勝手に呼んでいるだけだよ!そもそも、種的に全く似つかねーだろ!つか、お前……俺が毎日そんな事考えているとか、絶対思っているだろ?」

「大丈夫だ!100%中1%はそんな事思っていない」

「99%は思っているんかいィイ!!」

 霪馬さんのツッコミを終わりに、女人三柱はわたしを寝室に連れて行った。その後を男三柱がついて行った。


 わたしの身体はそのまま寝室に寝かされ、血がベッタリついた服を脱がされ、わたしの白い肌が露わになる。恥ずかしい。

 しかし、腹から上と腹から下はしっかりと隠され、部屋には女人三柱と兎雪だけだ。

 外には霪馬さんと鹿威さんが座って待っていた。そして、程なくして、襖が静かに開かれた。そこには仁王立ちした女人三柱がいた。

 

「どうして小春ちゃんはこんな重傷をおったの?アナタ達が着いていながらさぁ~?」

 夜鳥さんが腰に手を当てながら言った。役立たず共目と思っているかのような目つきで彼らを見た。

 ここは、わたしの不注意って言いたいけど、見えないからな。そしてわたしは何故こうなった?


「ごもっとも……普通の髏鬼より一回り大きな髏鬼に襲われたんだ。しかも、意志ありの髏鬼」

 鹿威さんが夜鳥さんを見上げながら言った。

「意志あり~?変な事いわないでよ~。陰獣に意志なんて無いわ。ただ目の前の生き物を無差別に食い尽くす脳しなかいのが陰獣でしょ?」

「しかし、あの髏鬼。何か変な事言っていたぞ?」

 霪馬さんがある簪を眺めながら呟いた。って霪馬さん、それわたしの大切なモノです!


「変な事って何ネ?」

「これは辛うじて聞き取れた事だけど『キヨ様の言った通り、ここにいた。見つけた見つけた神擬』ってな」

「ぶっちゃけ何ですかそれ?陰獣が言ってたのですか?」

「そうだよ。俺と鹿威以外そこには居なかったんだから、言ったのは陰獣に違いない」

「何か意味ありげな言葉だね~?」

「そもそもキヨ様って誰ネ?」

「ぶっちゃけ、気になります」

 女人三柱はお互いの顔を見合った。


「でも、小春ちゃんを意図的に狙った陰獣だから、コレは間違いなく跏琉痲の仕業じゃない?」

 その言葉を聞いて、霪馬さんは何かを想い出したかの様に「あっ!」と声を出した。

「どうしたのさぁー?霪馬」

「ちょっと、キヨ様って名前をどこかで聞いたような気がして、昔の記憶をさまよっていたんだ。そしたらな、思い出した」

「で、何を思い出したネ?」

「コレは二代目の神擬から聞いた話だけど、跏琉痲の近くには、彼を守護する跏琉痲一行派がいるらしい。そのリーダー格となるのが、もと獄卒で赤鬼のキヨって名前の鬼だ。漢字は『き』は『鬼』と書いて『よ』は『与』と書いて『鬼与』と呼ぶらしい」

「へぇ~、随時厄介者がいるんだね~」


 夜鳥さんは客観的に言う。

 鹿威さんは扇子を開いたり閉じたりしている。夜鳥さんは飾り気の無い扇子と霪馬さんが眺めている簪を見ながら不思議に思っている事を口にした。

「しっかし、アンタら何んで簪と扇子を持っているの?」

「この簪と扇子は小春が大事に持っていた物だよ。特に、簪の方は肌身離さず何時も大切に持ち歩いていたけど……」

 うんだけども……ってああ!夜鳥さん!


「ちょっと貸して」

 それだけ言うと夜鳥さんは霪馬から簪を奪い取った。そして、まじまじと観察し始めた。

「うぉぃ!怪力でへし折るなよ!」

「アンタじゃないんだから……それより小春ちゃんがこれを一体どこで手に入れたか分かる?」

 その簪は、ある大切な人から貰った物です。

「何だよ急に……それは、俺達に出会う前から小春が髪に身に付けていた物だよ」

「十二年前は?」  

「勿論、そんな女らしい物は一つも持っていなかった……それが一体どうしたって言うんだよ?」

 女らしい物って……


「ふーん」

 夜鳥さんは珍しく丁寧に簪を霪馬さんに返した。彼女はキラキラ光る綺麗な物が大好きなので、その物に対しては遠慮というモノが無いらしいっと前に神蛇さんから聞いたことがあった。


「この青い玉の所よく見てみたら、梅の花の模様で小さく金箔が貼ってあるわ。近くで見ないと分からないけどぉ~……石は翡翠と言う物だね~随時と淡い青緑の色をしているね。これ多分かなり高いんじゃなぃ~?」

「えぇ!そうなのか?」

 同感です。

「小春ちゃん。この品物一体どこで手に入れたんだろうね~?」

「盗んだとか?」

 そんなわけないない。


「それは無いと思うぜ霪馬。アイツ、少女らしいデリカシーとかねぇーけど、そういう一般常識とか……ちょっと控えめな所もあるし」

「鹿ちゃんって色々と小春ちゃんの事みてるんだね?」 

「本能的に相手が危険物かそうでないか、他人が一体何をするのか、ちょっと察してるだけだ」

「お馬ちゃんは?」

「………どうだかね」

「それよりぶっちゃけ、鹿威が持っている扇子は?」

 鹿威さんが扇子を開いたり閉じたりしている手を止めて、皆に見せた。


「コレは、青鬼の千景という奴から小春が貰った物だ。なんだか、扇子から刀に変わり、刀から大鎌に変わるという変な扇子だけど」

「そう言えば、お前……この扇子の事、付喪神と言わなかったか?」

 付喪神?それってたしか……

「だと思ったんだけど、自身の体を扇子から様々な武器に変える付喪神何て聞いたこと無いから……もしかしたら違うかもしれないぜ?」

 するとまた、夜鳥さんが鹿威さんの持っている扇子を奪い取り、扇子を乱暴にバシバシと叩いた。


「起きてくださ~い。付喪神ちゃん……朝だよ~」

「………」

 応答無しの扇子に夜鳥さん以外の神さんが笑いをこらえていた。まるで「まだ付喪神と決まった訳じゃないのに、何、扇子相手に話しかけているの?プッププダサッ」とでも言ってるかのように、夜鳥さんを見ていた。この空気に耐えきれず、夜鳥さんは珍しくキレた。


「応答しやがれぇぇえ!!このオンボロ扇子がァァア!」

 彼女は扇子を壁に投げつけた。ってう゛ぁぁぁぁあ!!

「おい!それは仮にも、小春のだぞ」

 鹿威さんが夜鳥さんを取り押さえた。すると────

「いてぇな」

 何処からかおじさんの声が聞こえた。五柱は揃ってお互いの顔を見た。

「夜鳥、お前何か言ったか?」

「はぁ?何も言っていないよ~」

「だったら……」

「いてぇな」

 また何処からか、声が聞こえた。五柱は、壁に叩きつけられて落ちている扇子を見た。その開かれた状態の扇子は目をカッと開き言った。


「いてぇな。何してくれはるん?殺すぞゴラァ」

「「付喪神、マジだったァァア!」」

 五柱は揃って顔を真っ青にした。

「ったくよ、せっかくピッチピチのねーちゃんに使われると思って、ウキウキしてはったのによぉ、全然話がちげぇじぁねぇーか。クソ恥ハゲの野郎目」

 付喪神はギョロギョロと目玉を動かした。


「チッ、時化てやらぁ。ババァジジイばっかしじゃねーか」

「なっ、ババァとは聞き捨てならないわ!アタシはまだピッチピチの女だよー!」

 夜鳥さんが胸張って言ったが、付喪神は唾を吐くようにしながら、嫌な目つきで彼女を見た。

「ケッ、トリプルシニアの齢が何言ってやがる」

「こっ、こんのぉー!」

 今度こそ大マジで付喪神の扇子を踏み割ろうとした夜鳥さんに鹿威さんと霪馬さんめた。


「まあまぁ、取りあえず相手方をしろうな?なっ、霪馬」

「あ、うん。そうだよな!扇子」

「チッ、さっきからワシの事を扇子扇子と言いよってワシはぁ、カグツチという立派な名があるんじゃい!」

「か、カグツチぃだぁ?」

 カグツチの名前を聞いて、彼らは耳を疑った。カグツチとは火之迦具土神ひのかぐつちという、 母の伊邪那美を焼き殺し、父の

伊邪那岐命に殺された火の神の事だ。前に鹿威さんから教えてもらった。

 

 カグツチという付喪神はちょっと照れながら言った。

「ワシはぁ、昔からカグツチという神様の名前だけ好きで、ワシも普通の付喪神の扇子では無く、カグツチと名乗ろうと思って……」

「要するに、名前だけの憧れか?」

 鹿威が人差し指をあげて言った。

「おー、長年生きているじっさんは違うの」

「じっさん言うな!」

 相変わらず目だけが大きく開かれた扇子は見た目は恐ろしく口が悪いながらも、彼らの暇つぶし相手にはなった。


 彼らが盛り上がって話し込んでいると後ろの襖が開き、ずっと看病していた兎雪という神が顔をのぞかせた。

「あの……姐さん、目ぇ覚ましましたっスよ?」

「何?本当か?」

 霪馬さんが立ち上がり、それを合図に皆立ち上がった。わたし、ここにいるのに、体が勝手に目を覚ましたらなら怖いですよ?


「ウサギちゃん、小春ちゃんに変なセクハラしてないでしょうね?」

「ぅんなもん、しないっスよ!」

「ぶっちゃけ、どうだか」

「だったら、自分達で看病やれよ!」

「よだきいネ」

「どっちなんッスか!」

 っと女人三柱とウサギはわたしの部屋の中でうるさかった為、鹿威さん達から追い出された。静かになった部屋には小春が寝ていた。兎雪から起きたと聞かされた彼らだったが、コレを見て騙されたと思った。しかし、わたしを起こさなかった。


「アイツめ、看病が飽きたとか、兎は寂しいと死んじゃうんだよとか絶対思っているだろう」

 二柱は腕を組んだ。そしてわたしは、何故か、体に吸い取られるように、自分の身体に戻っていっれた。

「お嬢、お嬢。起きていますか?」

 扇子が大きな声を出しながら、わたしのほっぺたを全身を使いながらペチペチと叩いた。

「おい、止めろ。コイツはまだ傷が完全に癒えてねーから、まだ起きねーよ」

 鹿威さんが付喪神を乱暴にペシリと叩いた。最初はギャーギャアギャーギャア言ってた付喪神だが次第に温和しくなっていた。鹿威さんが顎に手を置きながら言った。


「しっかし、小春ってまるで死んでるかのようだな?」

 失敬な……

「ああ、肌が白いからね」

 霪馬さんは書物を開き、鹿威さんは一人あやとりをしていた。しかし、ふっと、彼らはわたしの顔を見た。

 そして彼らは驚くモノを目にした。それは、わたしの目から静かに一筋の涙が流れたのだ。何が苦しいのか、何が寂しいのか悲しいのか、無表情で寝ているわたしの顔から読み取る事など彼らには出来なかったかもしれない。

 でも、今わたしの目の前には────


 わたしが涙を流した姿を初めて見た彼らは、最初は驚いた。そして、鹿威さんがふっと思った事を呟いた。

「そう言えばコイツ、今まで自分の実母を知りたいとも聞きたいとも言って来ないよな?」

「知りたくないんだろう?」

「何で?」

「知ったら、今の家族の関係を壊してしまう様で、怖いんだろう」

「そんなもんなのかな?」

 彼らはわたしの横でいつの間にか目を閉じて寝ていたカグツチを見て溜め息をついた。そして、これからどうしようか話し合っていた。



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