第十一話 もしもし神様、神さんよ
やっと、この物語の題名の意味があるような気が……
もしもし、神様、神さんよ
どうか……どうか
お願いです……
どうか、あの二人を止めて下さい
俺の願いを聴いて下さい
神様……お願いです
* * * *
「ギァァァァァァァアアアア」
っと朝っぱらから叫んでいるのはわたしだ。この叫びを聞いて村人達はまたかと思っている事だろう。
何故ならこの叫び声は最近の朝の通過儀礼となっているからだ。要するに毎日のように起こっている日常茶飯なのだ。
村人達はこの叫び声か鶏の声で起きている目覚ましがわり。鶏と良い勝負だった。
「イャァァァァア!」
「フギァァァア!!」
この叫び声で起きてきた霪馬さんと鹿威さんはゲンナリしながら一階に下りていった。するとそこに包丁を持ったままの怖い笑顔のわたしの義母、お春が来た。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
「もう直ぐ朝餉だから顔を洗って小春たちを起こしてきてね」
スミマセン。もう起きてますよと言うツッコミをのみこんで彼らは言われたとおりにした。
わたし達がいる離れに来た霪馬さん達は勢い良く障子を開けた。バンッという音が部屋に響いた。
「起きて下さーい。朝ですよー。ご飯ですよー。顔洗ってきなさーい」
鹿威さんが面倒くさそうに言った。しかし、わたしは悲鳴をあげ、菖蒲さんはわたしの後ろから抱きつき胸を触っている。
「ギャァァア!菖蒲さん止めて下さい!」
「いやぁ~小春ちんのお胸柔らか~いぃ」
「イャギャァァァア!!」
「いい加減に止めろよな爆乳女!」
鹿威さんの横で霪馬さんがキレた。彼は寝起きが悪い為、起こされると不機嫌になるのだ。
「ぅんだと馬鹿野郎!」
そしていつものように彼女と霪馬さんの喧嘩が始まり、鹿威さんがわたしを救出する。何時もの事で鹿威さんは最近疲れてい る様だった。そして最終的にはわたし自身が自分で何とかする。
「小春お前、親さんの所で着替えてこいよ。こっちは何とかするからさ」
「ありがとうございます鹿威さん。でも……」
すると鹿威さんが何かを思だしたようにわたしに言った。
「あと、依頼の受付方変わったからさ」
「えっ?また、変わったんですか?」
これで変わるの三回目何だけど……
「何かな?あれちょっとしっくり来なかったんだよな~だからさ、変えたんだよ」
「良くころころ変えますね?」
「そうかな?まあ、ある言葉を唱えてたら受付完了だから、この前のより簡単だぞ」
鹿威さんは袖の中から五角形の小さな絵馬みたいな板を出した。
「その言葉を唱えるとこの板に数字が出るんだ。一の数字の通り依頼をこなしていく。また数字が十だったりしたらアナタは十番目待ちですよって事だ……前より簡単だろ?」
「前より複雑ですね………で、どんな言葉を唱えるんですか?」
「『もしもし神様、神さんよ』だ。簡単な言葉だろ?覚えやすいし」
「もしもし神様、神さんよ……ですか。確かに覚えやすいけど、それ知らない人はどうするんですか?」
「ああ、大丈夫。ちゃんと噂は広めておいたよ!ちなみに既に依頼が一件入ったぜ!」
ピース姿の鹿威さんにわたしは心なしか?彼がとても輝いて見えた。ちょっとの沈黙があった後、台所から義母が「ご飯よー」と言う声が聞こえた。
「鹿威さん、わたし着替えてきますの……でっ!」
わたしはまだ自分の部屋の中で喧嘩している彼等を殴り蹴った。他者から見ればとても女とは思えない力で二人を部屋から出してそのまま障子を閉めた。
最初から菖蒲さんを放り投げなかったのが不思議なくらいだっとわたしは自分で思った。障子が閉め終わった少したった後に鹿威さんが今更ながらにハッと気づいて忘れていたかのようにツッコんだ。
「で、デリカシー無さ過ぎだろ!」
* * * *
家の仕事が終わった頃には既に太陽が沈みかけていた。わたしは襷を外し鹿威さん達の所に行った。
依頼も大事だけどやっぱり先ずは家の手伝いをしなきゃ行けないからな。
わたし達の今日の仕事は、鹿威さんは子供達と一緒に薪拾いに霪馬さんは薪割りだ。鹿威さんは「何でオレだけお守り! 」と嘆いていたが、行くときはかなりのハイテンションで山に入って行った。
「霪馬さん。わたし仕事終わりましたよ」
「お疲れ」
鹿威さんはまだいなかったが、霪馬さんは何かを集中していた。わたしはよくよく彼の手を見てみると何か面の様な物を作っていた。
「霪馬さん。一体何を作っているんですか?」
「ああ、今日の依頼はこの面をかぶって行こうと思うんだ。俺達の顔が知れればいつかお前の親や村の人に噂が広がるかもしれないだろ?そういうのは面倒だからな」
「へぇー、良く考えているんですね?」
「暇だからな」
この“暇”と言う言葉聞いてわたしは少々黙った。そして、わたしは霪馬さんの隣に座り彼が作っている面をずっと見ていた。すると、気まずくなった霪馬さんが出来上がっている二つの面を持って言った。
「なあ、暇ならこの面に色塗ってくれないか?」
「色?」
「そこに白い絵の具と赤い絵の具の入った器と墨の器があるだろ?」
霪馬さんはわたしの前に置かれている器を指差した。
「うん」
「まずは白い絵の具を全体に満遍なく塗って赤い絵の具で模様を描き、黒で目を描いてくれ」
「分かった」
わたしはまず、頭に馬みたいな耳が穿いている面を取った。
「この面、もしかして霪馬さんのですか?」
「良く分かったな?」
「だって耳が穿いているし……なんかちょっとダサい」
「失敬な!」
わたしは霪馬さんとどうでも良い会話をしながら彼の面を白く塗り終わった。乾くまで次の面を同じく塗った。二つ目の面は二本の角があった。
「これ、鹿威さんのですね。もしかしてコレは鹿の角かな?」
「鹿みたいな角は出来なかったけどな」
「それでも結構上手くできていますよ。手先起用で良いな」
わたしは二人の面を白く塗り終わった。終わったあとにわたしはある事に気がついた。
「この絵の具、乾くの早いですね?」
さっき塗ったばかりの絵の具がすっかり乾ききっていた。
「まあな、だってそれ天から持ってきた特別の絵の具だからさ」
「う、上?」
彼は指を空に指していった。
「天は天でも神々が住まう地、高天原だ」
「高天原ー!それって……観光地?それとも吉原?」
「ちーがーうぅ!高天原っとはな天照大神様が治めている天津神が住まう土地の事だよ!分かれよ!普通に考えたら中津国だと思わねーだろ!」
ムキになって言った霪馬さんにわたしは少々逆ギレ気味になった。
「わたしの頭の理解力なめないで下さい!」
「う゛ぁー、そうだった!」
霪馬さんは頭を抱えた。しかし、わたしの口から意外な言葉が出ていることに気づいた霪馬さんは頭を上げた。
「ってかお前、良く純粋に頭悪いのに、何で男の夢地である吉原を知ってんの?」
わたしは少し考えててから言った。
「前に匠次郎さんから借りた本の中に載ってたんです。文字だけ」
これを聞いて霪馬さんは一瞬小春の後ろから匠次郎が「あらゆる種の本を持っています。良かったら貸しましょうか?」っと言っているかのような親指を立てた幻の匠次郎が見えた要な顔をした。これは予想だけど。
「アイツ、小春に何ってもん貸してんだよ。まだ未成年だろ……」
「未成年?わたしもう立派な大人ですよ。結婚だって……出来るし」
結婚と言う言葉でわたしの瞳が一瞬潤んだのを霪馬さんは見逃さなかったのか?目を細めた。
「結婚……ああ、今の世の中早いよな。でも、俺達から見たお前はまだ子供だ」
「そっか。じゃあ、わたしから見た霪馬さん達ってお爺ちゃんですね?」
「お、お爺ちゃん!?」
彼はお爺ちゃんと言われた事は初めてだったらしい。馬鹿とか馬刺に女顔やら童顔に馬の尻尾、馬糞、馬力などは言われたことがあった。しかし、それらは全て同じ長く生きている神々から言われた事であったから。
わたしから見れば、その言葉よりもお爺ちゃんの方が性に合うのだ。お爺ちゃんはお爺ちゃんでも、彼の場合、“爺”の言葉が四つ以上付く事だろう。それを表すと、お爺爺爺爺(以下省略)ちゃんになる。
「そう言えば霪馬さんと鹿威さんってどっちが年上?年下?」
「俺の予測だと鹿威が年上かな?」
「えっ?……えええ!何で」
「弥生末期から古墳時代初期から馬は遣われ始めたって、他の神々から聞いたことがある。まあ、馬は清から来たって自分でも良くわかんないけど。でも、俺は気づいたときにはこの世にいた」
う、うーん。弥生末期とか古墳時代初期の言葉が今いち良く分かんないけど、要するに霪馬さんはその時代に生まれてきたって事かな?
っとわたしは心の中で色々と考えた。
「へぇー、じゃあ、鹿威さんは?」
「アイツの場合、古代から人間の貴重な食べ物であったし、太古の昔から神として崇められていた。今もアイヌのお方には貴重な神様なんだ」
「ふーん。あの人、あんな顔しながら結構霪馬さんよりお爺ちゃん何ですね?」
するとそこで────
「おい、人の事勝手に話すなよ」
鹿威がしかめっ面しながら来た。
「あっ、お爺爺ちゃん!お帰りなさい!」
「お爺……って爺が二回もあるの!?」
「うん!だって霪馬さんはお爺ちゃんで、霪馬さんより年上の鹿威さんはお爺爺ちゃんだよ」
わたし達三人は義母からご飯よと言われるまで、外でどうでも良い話しをしていた。
わたし達はご飯を食べ終わると、それぞれの部屋に入っていったっと言っても、鹿威さんと霪馬さんは二階で同じ部屋で寝泊まりをしている。菖蒲さんは同じ二階で彼らより二部屋ぐらい間が空いている。
義母は最初反対して、彼女を一階の空いている部屋に泊まらせたが、わたしや女方の被害が多く結果的に二階に移された。
「はぁ、今日も依頼かぁ~って言っても二回目だけど……」
わたしは離れで寝ている。余り使わない家具があり、正直使っているのは筆机と鏡台、箪笥だけだ。
「さてと、着替えないとな……依頼では動きやすい着物が良いから、袴で良いのかな?」
わたしは箪笥の奥から袴を出した。
「随分着ていないし……まだ着れるかな?」
着れるかどうか分からない袴を小春はちょっとドキドキしながら着てみた。
「やっ、やった!」
わたしはガッツポーズをした。
随分着ていない服を着ると微妙に嬉しい気がするのは何故かな?
「でも……わたし14の時から背伸びてない!」
わたしは頭を抱えてうずくまった。二年間全く身長が伸びないのを気にしていたのだ。しかも、わたしの周りは皆高く、高い物が簡単に取れる。しかし自分の場合、踏み台がないと中々取れない。これ、わたしの重要な悩み。
村の中で余り女の子として扱ってもらえないのも悩みの種だが、身長が低いのも悩みの種だ。わたしが頭を抱えてしゃがみ込んでいると障子に二人の影が現れた。
「おい、小春まだか?」
「ああ、霪馬さんと鹿威さん。早いですね?」
「うん、まあね」
霪馬さんは障子を開けた。そして鹿威さんは何時もと違うわたしの格好に気づいた。
「お前……何で袴?」
「うん、ちょっと動きやすいかなって思って袴にしたんです」
「ああ、そうか。確かに着物だと動きにくいな?」
「ところで今日の依頼って何です?」
「夫婦の仲を良くしてくれっとの依頼だ」
「夫婦の仲?」
「ああ、ちなみに依頼人は九つの子供からだ。親の夫婦喧嘩が激しく、最近は離縁の話しが持ち上がっている……そうな感じ?って子供の話から聞いてオレが勝手に考えた事だけど」
「わたしに夫婦喧嘩を止められるでしょうか?」
「大丈夫だ。菊理の力は縁結びもあるし、逆に菊理の前で喧嘩したら、別れるどころか更に強く結ばれるんだぜ」
「へぇー、そうなんだ。でも、わたしにその力が使えるかな?」
「大丈夫だって!今まで何とかなってきたじゃねーかよ」
「うん……?」
「おい、誰か来るぞ」
縁で待っていた霪馬さんが微かな足音を聞いてわたし達に言った。
「鹿威、隠れるぞ」
「え、えーとわたしは?」
「布団の中でも入って寝たふりでもしてろ」
そう彼は言うと瞬く間に消えた。わたしは言われたとおりにした。静かになった部屋にスーッと障子が開かれた音がした。部屋に入って来た人はわたしが寝ている布団に近づ くと、そっと呟いた。
「小春。あなた起きているんでしょ?」
その声は優しき義母のお春の声だった。わたしは布団から顔を出した。
「お母さん」
「小春。お前、今日は一体どこに行くつもり何だい?こんな夜遅くに」
「ど、何処にも行かないよ!」
「嘘をおつき。だったらどうして袴なんかに着替えているの?」
義母はわたしの布団を剥ぎ取った。
「こ、これは……たまには袴なんかに着替えて寝たいな~て思って」
わたしの一生懸命な言い訳に義母は問い詰めるのを止めた。
「そう。余り無理するんじゃないよ?辛いときは私の所においで」
「う、うん?」
義母は立ち上がり、部屋から出ようとした。しかし、何かを思い出したようにフッと立ち止まっり、わたしの方を向いた。
「それと、嫁入り前の娘何だから、余り二人とつるんじゃ駄目よ。変な噂が流れたら大変だからね。確かにお前と彼らは何処か親近感を感じる様な気がするけど、人の前ではあくまで雇い主の娘と雇われ人と言う関係でいなさい」
「は、はいぃ?」
別にそういう関係では……
行事は静かに障子を閉めた。一人残されたわたしの部屋に鹿威さん達が現れた。
「お前の義母ちゃん、感が鋭いな」
「鹿威さん……何処に隠れていたんですか?」
「屋根上」
「なる程」
一体何がなる程なのか、鹿威さんと霪馬さんには理解出来なかったらしい。
「そろそろ行くぞ」
家を出、わたし達が橋を渡り終わった時、林の向こうに鬼らしき人が来た。
「久しぶりだ。鹿威殿に霪馬殿、小春殿」
「ち、千景さん!どうしてここに?」
「ちょっと小春殿に用があってな」
「わたしに?」
「ああ。道束様が小春殿にってな」
彼は袖から布に包まれた何かをわたしに渡した。わたしはそれを開けてみた。その包みの中には古い扇子が入っていた。
「これは?」
「これは道束様の母上様が持っていた扇子だ。その扇子を道束様がお前にやるそうだ」
「そんなモノ貰えません!」
「大丈夫。道束様はどっちみち使う道が無いと言っていた。この扇子も使ってもらう方が嬉しかろうっとな」
「使うって?」
「使ってからのお楽しみだ」
千景さんはそれだけ言い終わると立ち去っていった。
「さぁ、行くぞ小春」
鹿威さん達が面を着けて向こうで待っていた。わたしは自分の面を着けた。
「はい」
長くなる予定になったので、半分ぐらい分割しました。
後半はまた後ほど




