第八話 式神
匠次郎視点です。
あの変な人達に出会って3日が過ぎた。私は親に叱られ、今日一日は家から出ることを禁じられた。っと言っても私的には好都合だと思った。
あの幽霊の女性のことを調べるため、私は自分の部屋に閉じこもり、式神を出した。
この式神達は、私でも気楽に呼び出される。しかし、白黒は元は兄の式神だったのでそうはいかない。あと、式神だけはなぜだか知らないが私の目にも見えるのだ。
どうせなら物の怪全般を見える要にしてもらかったものだっと私は時々思ってしまう。
「主様、今日は一体何の用事でしょうか?」
その式神は美しい女人の形をし、私に絡みついてきた。
「仕事だ。白はあの女人のことを調べて来てほしい」
この式神、白という名で猫又だ。
「あら、人使いが荒いこと。少しは構って下さいな」
更に腕を絡めてくる。
「おいおい、止めとけ止めとけ。主様はあの女の人のことしか頭に入ってねーんだ」
「もう、連れない人」
そう言われ猫又の白がスルリと離れた。あの、「止めとけ止めとけ」と言った式神は天の邪鬼の久淡だ。この天の邪鬼の久淡は彼が小さい時に式神にしたモノで、付き合いが長い。
「で、主様。ちゃんと調べてきたぜ」
「何を?」
まだ、仕事を頼んでいないはずでは?
久淡は不気味にニヤリと笑うと言った。
「気になるんだろ?あの二人さんのことが」
「二人?」
「ほら、あれだよあれ。小春の嬢ちゃんの所に若い男が二人来たこと」
「別に」
正直気になってもいない。いや、やはり少々気になるが………
「なぁ、主様。俺様ちゃんと調べてきたんだぜ」
「久淡。貴方はまず仕事に専念しなさい」
「えー、せっかく調べてきたのにさっ、主様は聞かないんだ?へぇー、付き合いの長い可愛い久淡ちゃんが苦労して、調べてきたのにさっ。俺様可哀想」
鼻をほじりながら棒読みで言った。しかし、言った事に心がこもっていないせいか?全く持って可哀想だと私は思わなかった。
そもそも頼んでもいない仕事を勝手にするのが悪いはずだと私は思った。
言った事と反対のことをする。そこは流石天の邪鬼だっと思ってしまう。
「あ~あ、可愛い久淡ちゃん、か~わ~い~そ~う~」
私の目の前でまた鼻をほじくる久淡。
いい加減汚いから止めてもらいたい……っと言っても久淡はまた逆のことをして来るからここは少し話を聞くことにした。
「っで、話とは何です?」
「おっ!やっと聞く気になった?主様」
「話を聞かないと、鼻をほじるの止めないでしょう?」
「さっすが主様~付き合いが長いからよくわかってるね~」
「それより早く────」
「まあまあ、そう急かしなんな」
腹が立つが、ここは我慢っと言うことで久淡が話すのを待った。
しかし、久淡は一向になかなか話さなかった。ソワソワして、チラチラと匠次郎の顔を見る。
はて、私の顔に何か着いているのだろうか?
「おいおい、主様恐いですよ。そんな爽やかな笑顔を浮かべながら俺様を睨むんだなんて」
「ああ、すまない。ついしてしまった」
なんだ、そんな事だったのか。どうやら私は無意識の内に久淡を睨んでいたらしい。
「すまないって……まあいいや」
久淡は小指で鼻を一回ほじると話し始めた。
「っでな、主様。俺様、あの二人をこっそり観察してきたんだぜ」
「そうか………」
「でな、その二人今日は何してたと思う?」
「知らない」
「一人は山へ薪を採りに行って、もう一人は小春の嬢ちゃんの所に行って色んな話をしていてさっ」
「ふーん」
「まあ、それから山へ薪を採りに行っていたもう一人のツンツン髪の毛がその話しに入ってイチャコライチャコラさっ」
この最後の「イチャコライチャコラ」が彼には良くわからなかった。
「主様~羨ましくないか~?」
ニヤニヤしながら久淡が近づいてきた。
羨ましいと思う前にあの最後の言葉のせいでよくわからなかった。
「別に……最後の『イチャコライチャコラ』って何?」
「えっ?主様にとって重要な所ってそこなの?」
「え?」
「いや~良いけどさ。まあ、イチャコラってなイチャイチャの俺流の言葉であって────」
「そもそもイチャイチャって何?」
「そこからなのか?!」
何を一体そんなにビックリしているのか、私にはわからなかった。久淡の後ろにいる白が苦笑いをしていた。
何故に?
「ゴッホンごろり。えーと、まずだな、イチャイチャってんのは例えば若い男女が肩を引っ付けて語ったり、抱きしめたり、じゃれ合ったり……かな?」
「でも、そう言う認識は人それぞれではなくて?」
白が後ろから言った。
「そういうモノなのですか?」
久淡達は揃って困った顔になった。
「主様って本当、どぉーしてそっち系に関しては鈍感?鈍いのかな~」
「白も同感ですわ」
「鈍感?鈍い?一体何が?」
一体何が鈍感(鈍い)と言うのだろうか?
「いやー、主様も、もう直ぐ二十一で良い歳していらっしゃるんだから好きな人が一人や二人ぐらいいるでしょうに」
「そうですわ、それに縁談だってたくさん来ているのだし、そろそろお心を決めて貰わないといけませんわ」
確かにそうかもしれない。でも────
「今は……誰とも所帯を持ちたくないんだ。それに持ちあがった縁談は全て丁重に断って来ている」
何故この話に向いたかわからないが、私かが今は誰とも所帯を持ちたくないのは本心だ。
「へぇー、だったら小春の嬢ちゃんだったら良いの?」
「誰もそんな事言っていない……さて、話しを戻すとするか」
(主様はこういった話しあまり好きじゃないんだな)
「久淡。まず貴方はあの女のことについて調べてきて欲しい」
「えー!五十年も前のことだぜ!そんなダルいことを俺様にさせようってんのか?」
「貴方なら、昔の友とか使って調べられるでしょう。齢百年何だから」
「歳関係ねーってんのっ!」
さて、私の前でギャーギャーと騒いでいる久淡はほっといて、次は柊だった。柊は狐の妖怪で私達のご先祖から使えていて、私がもっている式神のなかで最古であり最も信頼できる式神だ。
「主様、我は何をすればよい?」
「柊は久淡を手伝って欲しい。あと、もし久淡が仕事をサボろうとした時は容赦なく説教をしてもらいたい」
「なっ、なんだとー!」
久淡はいかにもビックリした表情をした。
「それだけで良いのですか?」
「ああ」
「御意」
柊は尻尾をフサフサと揺らしながら久淡を見た。
「我がついたからには勝手な真似はさせぬぞ」
「ふっんだ!どうせ子狐どもに見張らせておくんだろ?」
久淡は不機嫌に言った。
「貴様は毎日遊んでおろうに」
「遊んでいねーし。観察だしー」
「下らないことをする前にまずは年上に対する言葉遣いをなおすんだな」
「ドーシヨッカナー」
また、鼻をほじりながら宙を見つめ言った。
「チッ……ところで主様。主様は今日は何をなさるのですか?」
「私は店の手伝いをします」
「跡取りとなった今、昔のように暇では無いんだな」
久淡はちょっとそんな事を言った。
「さぁ、皆。そろそろ仕事を始めよう」
「承知!」
「アイヨー」
「了解ですわ」
式神達は一斉に消えた。
式神が消えた部屋は静かになった。
「はぁ、やっぱり静かになった部屋は寂しいな」
昔はよく兄と囲碁をやっていた私の部屋。しかし、その兄も今は帰らぬ人となってしまった。
ずっとそんな事を思っていると庭から妹達の声が聞こえた。
「ねぇ、兄さん何してるの?」
まず話しかけたのは次女のお千代だ。彼女は六つになったばかりで、まだ幼い顔立ちだ。
「ダメよお千代。兄さんは今、ちょっと落ち込んでいるんだから!」
彼女は長女のお美代。12歳のしっかり者だ。彼女達は私の異母兄妹である。しかし、この妹達実は────
「ふーん、何で兄さんはおとっつぁんから叱られたの?」
「お千代はまだ子供だからわかってないねぇ。兄さんはただ愛しい小春の姐さんに会いにいっただけなのに……なのにおとっつぁんたらっ、そんな兄さんの思いも知りもせずに兄さんを叱るんだなんて!!」
随時と妄想が激しいのである。特にお美代の方が。
「お美代。違う……」
「兄さんもおとっつぁんに正直に言ったら良いのに!「私は小春さんが欲しい」って」
「いやいや。だから違うって………」
「はぁ、でも兄さんの性格じゃぁ、ダメか……」
ダメだ。
すでに自分の世界に入っているお美代は私の声が聞こえていないらしい。
「兄さんは……」
「はい?」
お千代が俯きながら呟いた。
「匠兄さんは義兄さんのこと、忘れてない?」
彼は目線をお千代と合わせて言った。
「まあ、一番長い付き合いの兄だったからそう簡単には忘れないよ」
「だったら千代に義兄さんと匠兄さんの思い出話聞かせてよ!」
お千代は話を聞かせろ聞かせろとせがんできた。
「良いけど」
「えっ、だったらあたしも聞く!」
今まで妄想を膨らませていたお美代が言った。
「でも、私には店の仕事があるからあまり長く話せないよ」
「それでも良いからぁっ!」
二人一緒に私の肩を揺らすものだから私は首が少々痛かった。
「わっ、分かったから。お願いだから肩を揺らすの辞めて……」
そう言い終わる前に急に肩を離すものだから匠次郎は後ろに倒れた。
「イタ」
「兄さん早く早く」
「はいはい」
全く元気の良い妹二人を相手にするのは疲れる。
しかし昔話をしている内に私も懐かしくなり、ついつい、細かく話しているといつの間にか夕方になっていた。が、私達三人は全然気づかなかった。後にまた私が怒られるハメとなる。




