第七話 出来損ないの陰獣
神蛇さん達に出会って三日が過ぎた。匠次郎さんは二日前に家に帰っていった。
彼は神擬と跏琉痲のことを鹿威さん達から話しを聞かされた。余り詳しく言っていなかったが、彼はそれで満足したんだろうか?っとわたしは思った。
別れ際に匠次郎さん言ったことがあった。
「彼らは確か神擬の補佐と言っていましたよね」
「え、はい。そうですね」
「では彼らがここに居るっということは、神擬という人がかぐち村にいるっていうことですよね?」
「はい」
この時、わたしは内心ドキリとしたのだ。
「みる限り、全然その様な雰囲気を出している人は見あたりませんが、案外平然としている人が神擬だったりして………」
「そっ、それより匠次郎さん。お迎えの人が待っていますよ」
わたしこの話しをズラすのに精一杯だった気がすのるだ。
「そうですね……すみません長く話しすぎました」
「いえ」
そして向こうに行く前に一瞬だけ彼と目があったのをわたしは覚えている。
彼が帰った後、ワザと話しをズラしたのに不信感を与えてしまったことにわたし後悔した。
そして、鹿威さんや霪馬さんが「今日は色々とあったので神様の修業は三日後の夜なっ」っと言ったのわたしは覚えている。今はその三日後の朝なのだ。
神様の修業って「何?」って思っちゃったんだけど多分、神擬としての力の使い方を学ぶんだと思う。
「あ~あ、何かイヤだな~」
自分の普通の日常が今日で終わる気がするのだ。いや、正確には六日前だったかも……六日前は鹿威さんや霪馬さんが来た日。彼らが来て何もかも変わっているようだ。
わたしがこんなことを考えているとお彩が来た。ちなみに彼女はわたしの義妹である。
「あれ?お姉ちゃんどうしたの?今日は沢山溜め息ついちゃって……それに縫い物が全然進んで無いじゃん」
「はぁー、溜め息なんてして……」
「あ一!今お姉ちゃんしたよ!ダメだよ。溜め息をすると幸せが逃げるよ!」
「あはははっ、ありがとうお彩。大丈夫、さっき出した溜め息はちゃんと吸うよ」
そう言って彼は自分の溜め息を吸った。いや、溜め息は見えないから吸ったフリをしたのだ。
「あ、そうだそうだ。お姉ちゃん見てこれ!」
彼女がわたしの目の前に突き出したモノは木で作った小さな人型の人形だった。
「これ、なに?」
「これねー宗谷お兄ちゃんが作ってくれたんだーちなみに仏様何だよ!」
宗谷ってそんな奇妙な事出来たんだ。
「へぇー、上手に出来ているね!?お家に飾ろうか?」
「うん!」
彼女はお日様みたいな輝かしい笑顔を浮かべて部屋から出て行った。
わたしはお彩の笑顔が大好きである。あの無邪気な笑顔を見ると今までのモヤモヤが全部吹っ飛んだ気がするからだ。
「何故かお彩が羨ましなー」
わたしは庭を見た。季節が変わっても庭の木々の位置はかわらない。
縫い物が終わってから、庭をずっと眺めていると後ろから声をかけられた。
「小春、何庭をボケーッと眺めているんだ?」
「あれ?霪馬さん……どうしてここにいるんですか?今は畑仕事じゃ無かったんですか?」
「いや、今休憩。サボりなんかじゃないから」
「そうなんですか。じゃあ鹿威さんは?」
「アイツならさっき、村のガキ共と一緒に山へ薪をとりに行ったぜ。ガキ共だけでは危ないから鹿威が行くことになったんだ。アイツ面倒くさいと言っておきながら滅茶苦茶テンションあがってたな」
何故だろう?その滅茶苦茶テンションあがってたっという場面……想像できる。
絶対鹿威さんのことだから「さあ、手下共俺に付いて来い!レッツゴ一だぜ!!」なーんて言っていたりして。
後、帰って来たら絶対「あー、疲れた。もうガキ共のめんどうを見るのは御免だぜ……あ、でも、手下が出来るのはいい気分だったから、またやろうかな?」何て言っちゃったりして………
「あっ」
「ん?どうした?」
「そう言えば前、神蛇さんから言われたんですけど、わたしって四番目の神擬だったんですよね?」
「え?あ、うん。そうだが、どうした?」
「今までの神擬ってどんな人?」
「どんなって……例えば?」
「例えば……そうですね、例えば性格とか人柄とか」
「うーん、一番の神擬は知ってるよな?」
「はい」
一番目の神擬、それは跏琉痲だ。でも、跏琉痲が堕ちる前の人柄とかわたしは知らない。
「まあ、一番目の神擬は、まあ、堕ちちまったけど堕ちる前は……とても優しい奴だったよ」
一瞬だけ霪馬の顔が悲しそうになった。
「人一倍心配性でお節介で慈悲深いし、突然変な行動をとるし……あと、かなりドジだったなぁ」
うわぁー、何か堕ちる前はかなりの普通の人だったんだな~
「ソイツが堕ちちまったなんて今もどこかで信じられない自分がいたりて」
「ふーん。二番目は?」
「お前………まあ、いい。二番目は女だったぜ」
「女の人?わたしと同じですね?」
わたしと同じ女の人の神擬か……一度会ってみたかったな。
「女は女でも、お前とは比べ物にならないほど優美で佳人だったんだぜ」
「へぇ」
「でもちょっと残念なことに、ソイツかなり気が強くて男勝りだったんだな~剣術もずば抜けて優れていたし」
「へー、会ってみたかったな」
「そうか?まあ、性格は正義感や責任感が強くてな……でも、ちょっとツンデレ気味」
「何ですかそのツンデレって?」
「細かいことは気にすんな」
「え?」
「っで、三番目の神擬は男だ」
「ふーん」
「っが残念なことにソイツ、引っ込み思案で弱虫だったんだよな」
「へー、そうだったんですか?」
「そうだったんだよー。性格は臆病。でも、やると決めたときは最後までやり通す。あと、約束事は必ず守る。とくに食い物絡みだったらな」
「へー、そうなんですか」
わたしは途中から返答するのに大変だった。
霪馬さんは我を忘れたかのように話しに夢中だ。っとその時!後ろの襖が急に開き、そして、目の前にいた霪馬さんが何かをよけた!
「うわぁ!どうしたんで────」
あの何かは鹿威さんだった。そして霪馬さんがよけたのは鹿威の蹴りであった。
一瞬の出来事にわたしは口を開けっ放しだった。
「チッ、避けやがって」
「お、おいィィィ!な、何してくれるんだァ!ビックリして舌咬んじまったじゃないか!!」
「知るか。お前がこんな所でサボっているかだぞ」
「サボりでは無い!休憩だ」
「ふん、そうか……あ、でも皆もう仕事始めてるぜ?」
「あ、な、何ー!」
「ところで小春。お前いい加減口閉じろよ。埃が入るぜ」
「えぇ!」
ヤバいヤバい。口開けっ放しだった。
涎が出てるか分からないが一様口を袖で拭いた。
「で、何で鹿威さんこんなにハヤいんですか?確か、山に薪を取りに行っていましたよね?」
「はん、山の薪拾いなんて俺が途中から一瞬にして終われせてやったよ」
「そうですか」
わたし達はちょっと雑談をしたあと、それぞれの仕事場に戻って行った。
* * * *
お日様が沈み、月が闇を支配した頃、わたしは襖を静かに開けた。
顔を覗かせ、誰も起きていないと確認したあと、わたしは素早く玄関に行き履き物を履き、外にこっそり出た。物音をたてないように。
「はぁはぁはぁ」
走りながらわたしは思ったことがあった。それは……辺りが静かすぎてコワい!
何とか集合場所に着いたものも彼らはいなかった。
「そ、そんな酷いですよ!」
霜月上旬なのでジッとしていると寒いので、わたしは同じ場所を行ったり来たりして何とか体を温めた。
やっぱり寒い。羽織りを着ても寒い~!今年はかなり寒くなるなかもしれない。
どのくらい待っただろうか?やっとのことで彼らが来た。
「ヤッホー、お前早いな?」
「遅い!遅い遅い遅い!あなた達が遅いだけです!」
「うゎぁー、そんなに怒鳴らないでくんない。さっきまで寝てたんだから、鼓膜が破れる」
二人仲良くあくびをした。
「さっきまで寝てたんですかぁ!」
「まあまあ、次からは早く来るよう頑張りますやー」
「約束ですからね!」
「ハイハイ」
「お~け~い~」
一人変なん承諾をしたが気にしないとして、この人達本当にやる気があるのだろうか?彼らの態度には全然そんな風には見えなかった。
「っで一体何をこれからするんですか?」
「それはまず……うーん何だっけ?霪馬」
「あれ?まず最初に何すんだっけ?鹿威」
「何も予定考えていなかったの?!」
最低だよ!人を早く来させながらも自分達は遅く来て!最低だよ!人をこんなに待たせながらも全然何も考えていないんなんて!!
わたしは心の中で怒りまくった。
「あっ、思い出した」
霪馬さんが手をポンっと叩いて言った。
「何を思い出したんです?」
「えーと、まず最初は確か……神擬として、一体どれだけ力が目覚めているか確かめないとな」
「おー、そうだったな!」
「それってどうやって確かめるの……んです?」
彼らが急にわたしの顔を見た。ニヤニヤしていた。
え、何?わたし何かした?わたし変なこと言ってないよね?
「お前今敬語?じゃなかったな……」
しまった!ボロがでてしまった!
「え、あの……えっと、ち、違っ」
「まあまあ、気にするな。俺達に対しは別にタメ口でよろしんだぜ?」
「そうそう。タメ口でも気にしないんだからさっ、これからはタメで話そうか?」
「え?は、はい」
「いや、そこは『うん!』とかだろ?」
「で、でも、わたし急にそんなこと言われても無理です」
「だよなー、まあ、徐徐でいいからな?」
「はい」
あれ?こんなこと話している場合では、無いはずでは無かろうか?と彼女は思った。
「ところで今から何をするんですか?」
「ああ、今からなちょっと神社に向かおうか?」
「どうして神社?」
「神社だと、お前が今一体どれだけ神擬としての力が目覚めているかわかるんだ」
霪馬さんが説明してくれた。
でも、どうやって分かるんだろう?
「まっ、とりあえず行こうか?」
ん?まてよ、まさか今から神社ってここ神社なんて無いし……まさかのまさか───
「ちょっと待って下さい!」
「はぃ?」
「もしかして全力疾走するつもりですか?」
「そうだが」
「わたしそんなに早く走れません」
「いや、お前もしようと思えば出来るんだけど……」
「霪馬、今日だけはつれてってやろう」
「え?うん、まあぁ、いいけど」
そう言うと霪馬さんが手を差し出した。わたしはこれは一体どういう意味なんだろう?っと思った。
「お前、抱きかかえられるの好きじゃやいだろ?だからホラッ、手を握ってやるかさ」
「手を握られるのはちょっと………おんぶだったら」
「おんぶってあれ、尻触ってんじゃないか?手の方がマシだろ?」
「いや、足の膝の部分を持てば良いんじゃないですか?」
「え?うん、良いけど」
わたしは霪馬さんにおぶってもらった。最初間違って霪馬さんがわたしのお尻を触ってしまったのでわたしは思いっきり彼のほっぺたを殴ってやった。
「おーいてぇ」
彼のほっぺたは赤い拳の跡がのこっていた。
「だって霪馬さんが悪いんですよ!間違ってお尻何か触ったりするから」
「へっ、お前のケツ触ったって何にも思わねーよ!」
「なっ!」
「おいおい霪馬、どんな感触だった?」
横で走っていた鹿威さんが気持ちが悪い顔でとんでも無いこと聞いてきた。
「え?それは柔らかくて、プニブッ」
今度は両手で霪馬さんの両頬を平手で叩いてやった。赤い手跡(紅葉)がついた。
「やっぱり変なんこと思って!」
「いや、だから思って無いってば!」
そんなやり取りをしていると目的地に着いた。この神社は───わたしでも知っているここで一番大きな稲荷神社だ。
確か、ここから一時歩いた所に匠次郎さんの家があったような……
「さぁて、小春。今から試させてもらうぜ」
「へ?」
「この参道の真ん中の道を通ってみろ」
「え?良いんですか」
「っあったりめーだ。俺達一様神だぜ」
そんなこと言われてもわたしの場合は神様のなり損ないであって、ちゃんとした神様じゃないんだけどな。
まあいっか。とにかくこの参道の真ん中の道を通れば良いんだよね?っとわたしは思いながら神社に足を踏み入れた。
わたしが足を一歩踏み出した時パンパンと手を叩いた音が聞こえた。
「はいはい分かりました~お前が今一体どれだけ神擬として力が目覚めているか」
え?もう分かったの!!っとわたしはビックリした。
「小春、お前はだな」
「はい」
「全く全然一つも神擬としての力に目覚めていないってことだ」
「へ?」
「この参道の脇の灯籠を見れば分かる。全然灯りがともってない」
「灯るんですか?」
「ああ、神のオレ達ならな」
そういいながら鹿威さんが一歩参道の中に入ると急に灯籠がともり始めた。
「凄い……」
「神擬としてコレくらい出来ないとな」
「どうやって出来るの?」
「うーん、多分体力とか、ある程度神擬としての自覚が出来たら?」
さっきまで黙っていた霪馬さんが人差し指をタテながら言った。
「そうだな……だったら明日の夜から何かの依頼を受けて仕事をしたらどうだ?」
「あー、依頼か。確かに神様は願い事を聞き入れて叶えるものだからな……確かに小春の力を目覚めさせるのに好都合かもしれない」
顔をしかめっ面にし、面倒くさそうに鹿威が言う。
「え?なに?依頼」
依頼とは具体的にどういった依頼何だろう?
「まあ、ちょっとした依頼だけだよ。例えば、もの探しとか、迷子捜しとか簡単なモノ」
そんな風に鹿威さんは簡単そうにいうが迷子捜しとか、もの探しとか実は結構肩が凝る仕事何だけど………
「うへぇー、大変そう……」
「大丈夫だって。オレ達がついてっから。ところで小春。これがなんだか分かるか?」
鹿威さんがわたしの前に突き出したものは黒い小さなトゲのある物体だった。よく見ると角が二本あり、目も二つあった。可愛いと彼女は密かに思った。
でも、確かに見たことがある。いや、しょっちゅう見ている。昼間も夜も。あまり気にもとめなかったが、どうして鹿威さんはこれを突き出したのだろうか?
「ありますが?」
「そうか。なら、お前、コイツが何だか分かるか?」
「きゅわぎゅわきゅわぎゅわ」
鹿威さんがトゲの一本を持って振った。それに合わせて小さくて黒く、目が大きい物体は声を出した。
あれ?意外と歯が鋭いな……
「うんん、全然」
「コイツはな黒毬って言ってな、陰獣の出来損ない(なり損ない)なんだ」
「えぇ!出来損ない?こんなに可愛いのに?」
「まあ、出来損ないでも陰獣特有の要素はちゃんとあるんだぜ。ほら、牙が長いのと真っ黒いのに、後は……口が悪い?」
「え?」
わたしは不思議に思った。
口が悪いとは一体どういうことなのだろか?そもそも陰獣って喋れた?
まあ、それは「うまぁぞう」とか「くれえぇ」とか「いいにう゛ぉい」とか言うけどそれって会話になってないような。
「陰獣って話せるの?って顔してんな」
「え……まあ、はい」
霪馬さんが黒毬を突っつきながら言った。
「まあ、確かにデカい陰獣は話すっつっても会話にならないからな~」
「確かに。でも黒毬は別なんだよ」
鹿威さん達が振り回す。そして霪馬さんがそれを指で突っつくの繰り返しを二人でしていた。
あれ?これって弱いもの虐めでは?
「黒毬は人間の怒と哀の言葉を巧みに使うだよなー。何気に他の陰獣より会話が成り立つし」
そう鹿威さんが言いながら今度は黒毬っていう物体を振り回している。すると、さっきまで「ぎゃわぎゅわきゅわ」と唸っていた黒毬が「馬鹿やろ!ハゲやろう!」と叫んで鹿威さんの指をかぶりと噛んだ。
「おいでぇ!」
彼は手をブンブンと振り回した。振り回した拍子に黒毬がわたしの所に飛んできた。
「ひゃぁ!」
手で受け止めようとしたら顔面で受け止めてしまった。我ながら恥ずかしい……
でも─────
「あれ?黒毬ってフワフワしてて柔らかい」
ツンツンしてて、刺さったら痛そうな毛に見えたが、意外と柔らかいことにわたしは驚いた。
「ああ、だって黒毬の武器って、その鋭い牙と角だけだからさ」
「へぇー。じゃあ、他は触っても問題無いの?」
「イエス!」
「は?」
鹿威さんがいきなり変なん言葉を発した。
そもそも「イエス」って何なんだろう?
わたしが首を傾げていると霪馬さんが慌てて鹿威が言った言葉を訳してくれた。
「小春。イエスっとは異国語であり、「はいっ」とかそんな意味何だ。簡単に訳せばな」
「へぇー、異国語か……ん?ちょっと待って!」
「ん?」
何か問題でも、おありかな?とでもいいたいような感じで霪馬さんが首を傾げた。
「異国語って南蛮のことですか?」
「そうだが」
「えっと、それじゃあ、余りその言葉で人前で話さない方が良いかと……お役人に見つかったら大変なことになりますよ?」
霪馬さんが顎に手を当てて何かを考えていた。
「うーん、別に良いんじゃないか?そもそも俺達神様だし、人間の掟を神様が従わなくて良いだろうさ」
何でも神様っということで簡単に片づけないでほしい。
「でも、やっぱり……」
「まあ、お役人さんに見つかったらソイツの記憶を消せばいい」
爽やかな笑顔で霪馬さんが言った。
いや、そもそも記憶を消すの問題では無いはずだ。あれ?記憶を消すって────
「霪馬さんって記憶を消すこと出来たんですか?」
「いや、そういった専門の神さんに頼べばよろしいこったよ」
「ハゲが、お役人に見つかって灰になって消えろ!」
どこからか霪馬さんに対する悪口が聞こえてきた。すると、彼はニコニコ爽やかな笑顔から、少し影がかかった怖い笑顔になった。
「はっ?」
「えっ?わ、わたしじゃないですよ!」
彼が疑わしげな目でわたしを見た。
わたしはそんな事言ったりしない。例え、心の中で思ってもだ。あっ、勘違いしないで下さいね?実際何にも思ってませんからね!!
「ハゲろ」
「あ、うん。小春分かったよ。この『ハゲろ』という俺に対する悪口は────」
霪馬さんは、わたしの手のひらの上にいた黒毬を鷲掴みにして叫んだ。
「この黒毬だったなァァア!!」
「ギョワァァァァア。ハゲろォオ」
「ふざけんな。俺はハゲていないし、このフサフサの髪の俺がハゲだったら、今のこの時代の人(男)は皆ハゲてんだろうがァ!」
「霪馬さん、あれは髷と言って今の時代の流行り?だと」
「んなことぐらい分かっとるがな!」
「ちなみに今の時代って言っていますが、匠次郎さんはハゲてなんかいませんからね?」
「分かっとるがなって言ってるだろ!」
霪馬さんは目をカッと開いてわたしに言った。
「ギャハハハハハ。お前、黒毬に嘗められちゃってヒィハハハ」
地面をバシバシ叩きながら鹿威さんが爆笑した。
「黙れ小僧が」
「誰が小僧だ!」
今度は、鹿威さんが顔を赤くして怒った。
「え?なにお前。何、黒毬に小僧なんて言われちゃってんの?プッププ、ダサ」
霪馬さんが口に手を当てて笑った。
なるほど。つまりアレだな。黒毬っという存在は見た目は可愛く、でも口が悪い。黒毬と悪口の言い合いをしてたら……これは凄く腹が立つな。
「「おい!小春もなんとか言ってくれよ!」」
二人(柱)同時に言った。わたしは────
「わたしはご遠慮します」
「「うんなアホなぁ!」」
二人(柱)はまた、一匹の黒毬に向き直って悪口の言い合いをした。二人(柱)対一匹、誰がどう見ても二人(柱)の方が有利に見えるが、実際は一匹の方が勝っていた。
こういったゆったりだったら何時までも続いてほしいとわたしは願った。
明日から依頼の仕事……ちょっと不安。ちゃんと出来るだろうか?いや、まずは、ちゃんとした依頼が来るだろうか?
そうだ、依頼って言えば匠次郎さんはどうしているだろ?あの幽霊の女の人の依頼、順調に進んでいるかな?彼は「一人でも大丈夫です」って言っていたけど………正直いって心配だ。
あ~、寒っ。帰ったら早く寝ようかな。明日はたくさん仕事が待ってるし。
わたしは薄気味悪い月を見上げて白い息を吐いた。
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