第六話 巳と酉参上つかまつる!
文字数が多いです……
陰獣がすぐ目の前に来ていた。
わたしは、今度こそあの笛を吹いた。耳が避けそうな音だった。
すると直ぐに二つの影がわたし達を助けてくれた。わたしは鹿威さん達だと思って礼を言おうとした。しかし────
「って………だれ?」
わたし達を助けてくれた二人は鹿威さん達ではなかった。でも、雰囲気は少し似ていた。
「あらヤダ。てっきりアタシ達、霪馬達だと思って助けたのに人間だったんなんて……それにアタシ達が見えるんだね?」
「だから言っただろうに。嫌な感じがする所に霪馬達がいるかって。いくら馬鹿でも彼らは一様神の端くれだ」
や、やっぱりこの二人、鹿威さん達とちょっぴり雰囲気が似ている!
「でも、あの笛はアタシ達しか聞こえないんだよ。それがこの人間が持っている何て変だと思わない?」
「お前………それは彼女が神擬だからだろうに」
え?何。わたしのこと知っているの?
「神擬……ああ、彼女が霪馬が言っていた神擬さ・まね?」
綺麗な浅葱色の髪をした女性はわたしに顔を近づけた。
ああ、よく見ると彼女も彼も獣の目をしている。霪馬さん達と同じだ。
「あっ、ホントだ。髪も目も漆黒だね。肌も特徴的だね……アンタ本当に神擬で御代ノ一族の生き残り何だね~」
「あ、あの!」
わたしは思い切って言って彼らの名前を尋ねてみた。
「あら、申し遅れちゃったね?アタシ十二支が一柱、酉の夜鳥だよっ!」
「同じく十二支が一柱、巳の神蛇と申します」
十二支……本当に居たんだってあれ?どうして人の形?わたし、かなり野性的な動物かと思っていた。
今まで黙っていた匠次郎さんが後ろから袖を引っ張た。
「小春さん。何か見えるんですか?」
「え?」
「さっきから一人で何かを話していますが……それに陰獣がいつの間にか」
「しょ、匠次郎さんには見えないんですか?」
「何を?」
あ、あれー?おかしいぞ。同じ神である鹿威さんや霪馬さんは見えるのに、この人達が見えないなんて。
「えっと、人らしき者が────」
「ちょっとぉー止めてよ」
「へ?」
「アタシのこと、許可無しに話すの」
「どうしてです?」
「だって、アタシ達人に見られないようにしているんだから。人間に見られたら色々と面倒いし」
「別に俺は見られても構わないが」
「えー、でも色々とメンドくない?」
「今、俺達は人の形をしている。だから話していても彼は不思議に思わないだろう。まあ、蛇の形をして喋ったら流石に驚くだろうが」
「え、何?そんなに姿見せたいんだなんて、アンタもしかして彼に恋しちゃった?」
夜鳥さんが神蛇さんをからかった。しかし、彼は夜鳥さんの発言を無視してわたしに言った。
「四番目の神擬よ、ソナタの名は何と申す?」
「えー、アンタ知らないの?この子の名前は確か───」
「お前には聞いていないし、幼少期の名では無い。今の名だ」
「あっそ……あ、でもさっきそこの人間が小春さんって言ったょ」
夜鳥さんがそう言った時、神蛇さんが彼女をキッと睨んだ。
この人達仲がいいのやら悪いのやら、まるで霪馬さんや鹿威さん達みたいな関係だな~
「小春さん?」
そうだ。横でわたしの名前を呼んでいる匠次郎さんのことを一瞬忘れていた。
「やはり何かが見えるんですね小春さ───」
っと言いかけた時、林の向こうから物凄い足音が聞こえてきた。
出てきたのは霪馬さんと鹿威さんだった。しかし、後ろに厄介者(陰獣)を連れてだ。
わたしはその陰獣達を見てただ心の中で 「ギャァァァァァアア!!」 っと叫ぶしかなかった。
「うぁぁぁあ!お前、神蛇に夜鳥何故ここにぃぃぃい?!」
「ギャァァァァア!アンタ何とんでも無い数の陰獣引き連れてんのさ!」
「チッ、馬鹿な奴め!お前ら毎日何やっている!」
「アアァ!神蛇今お前禁句言っただろう?!」
「どうでもいい!」
そんなやり取りを聞いているうちに横で匠次郎さんがボソリと呟いた。
「私にはその神蛇さんと夜鳥さんという人が見えません……この三人の中で私だけ」
うああ、気にしているよ。一番気にしなそうな人が気にしているよ。それに今はそんな場合じゃないのに落ち込んでいるよ。
「大丈夫ですよ。多分、今は霧がかかっていて匠次郎さんの方からは見えないんですよ多分」
「しかし、あなたと霪馬さんと鹿威さんは見えますが」
「気のせいです。幻です。多分……ホラ、わたしの方からは匠次郎さんの声しか聞こえませんよ!」
「……何故だろう?昔こういうことがあったような」
「そんな昔のこと───」
「ああ、思い出しました。昔、向かいの家に私と同じ歳だった信之介という人がいまして。よくその子やそう子の友達に集団で虐めを受けていた───」
「こんな時に限って関係無い昔の思い出は忘れて下さい!」
「何故、今思い出すのだろうか?」
「それはこっちが聞きたいですよ!ってか現実に戻って来て下さい匠次郎さん。いつの間にか、あちらの世界にいちゃってるんですか?それも哀しい思い出の世界に」
あれ?匠次郎さんてこんなボケれる人だったけ?さっきまではしっかりした人だったのに。
わたしがそんなことを思っていると────
「小春後ろ!」
え?
わたしは後ろを振り向いた。わたしの後ろには犬みたいな陰獣、豺鬼がわたし達目掛けて飛んできた。
「うわぁぁぁぁぁあ!!」
わたしは何とか匠次郎さんの手を引っ張って危機一髪でよけた。しかし、避けた拍子にわたし達はお互いの足を踏んでしまった。
「イダァ!」
「ぃつ!」
しかし、先程の豺鬼がまた襲って来たので、痛がっている場合では無かった。今度は匠次郎さんをぶっ飛ばして、わたしはギリギリ転がる形で避けた。
痛い。手をすりむいちゃったし、膝やらお尻やら痛い。先程踏まれた足の爪先が痛い。でも、こんなもの喰われるよりマシだ。
「鹿威。ちょっとアンタ、あの子達をどこか安全な場所に連れて行きなさいよ!」
「アホ野郎!今オレ、手ぇ空いてないぜ。頼むなら霪馬に頼め」
鹿威さんは余裕ぶっこいた表情だ。
「だって。霪馬はどうなのさあ?」
今まさに喰われそうな霪馬さんに夜鳥さんが問いた。
「アッホヤロー!今の俺の状況見えてんのかァ!」
なのに、霪馬さんもなかなか余裕ぶっこいた表情をしてやがる。
「しかし、お前達が悪いのでは?こんなに沢山の陰獣を引き連れて来て……お前等、人間がいたのに頭が回らなかったかったのか?馬鹿が。髏鬼がいなかったただけでマシと思え」
「黙れ神蛇!」
やはり皆、自分のことで精一杯という感じだった。わたしはというと────
「さっきからどぉーしてわたしばっかり襲うのさ!」
先程から豺鬼がわたし目掛けて襲いかかって来るのだ。しかも、二匹増えて三匹でだ。
わたしがぶっ飛ばした匠次郎さんはというと、陰獣にすら忘れられているのか?ずっと隅で膝を抱えて何か暗いものが漂っていたのだ。
「うわー、ちょっと匠次郎さん危ないですよ?!」
「ぉまぇ、うばぁそう」
「うまぁぞぉううまぁぞぉう食わせぇろ」
「いぃい匂いぃいケッケケケ」
「うわーー、この豺鬼何か言ってる!しかも、最後の方何か笑っていたしぃ」
「グゥゲェゲゲゲ」
っと変な笑い方みたいな声を出しながら来たのは、豺鬼とは違った形の小さな陰獣だった。
ちょっと何かカエルに似ていた。
「ギァァァァ、また変な陰獣来たぁ!」
「ちょっと小春。アンタは仮にも神擬様でしょ!少しは陰獣ぐらい倒しなぁさいよ!っつかこの状況何とかしてょ!」
夜鳥さんがわたしより遥かに余裕ぶっこいた表情でわたしに陰獣を押し付けようとした。正直、今のわたしは、この状況を何とかするのは無理です。
「何とかしろっと言われましても……」
「おい、夜鳥、何言ってぇーんだ!アイツはまだ力を調整出来ない、いわゆる神擬としてはお子ちゃまだぞ!」
鹿威さんが否定してくれたのだが、お子ちゃまってわたし、彼らに一体どの様に見られているの?
「はぁー!アンタら彼女の力目覚めさせたんじゃないの?」
「目覚めたけど力の使い方はまだ彼女知らないの!」
霪馬さんも否定してくれた。
「霪馬……アンタマジで言ってんの?」
「こんな状況で嘘何かつくかよ!」
せめて匠次郎さんがこっちの現実世界に戻って来れば何とかしてくれるかな?式神の白黒以外に………。
「ううん。その前にこの陰獣だけでも何とかわたしが倒さないと……どうやって?」
わたし、肝心な倒し方を知らないんだった。イヤイヤ、豺鬼は後回しとして、あのカエルに似た小さな陰獣ならわたしも倒せるのでは?
あ、あそこにちょうどいい太さの枝発見!これで襲いかかって来たカエルさん似の陰獣を叩いて……ちょっと残酷だけ仕方ない。
「鹿威さん。陰獣って弱点とか無いんですか?」
わたしは忙しい鹿威さんに聞いてみた。するとすかさず彼が「話しかけてくるな」っと言った。
「えっと、じゃあ霪馬さんは?」
「あ、えーと、陰獣のみってうわぁ!」
話す暇がない霪馬さん。わたしは逃げ回りながら誰か教えてくれないだろうか?っと思っていた。するとご親切に神蛇さんが教えてくれた。
「小春様、いいですか?陰獣は眉間の間にある目と首が弱点です。しかし、それ以外は何度切り刻もうが再生もしくは増えます。呉々も気をつけて下さい」
「あ、ありがとうございます!」
蛇って物語の中ではよく悪者扱いされるけど神蛇さんは優しいなっと彼女は呑気に思っていた。
よし!あの木を一周して、豺鬼だけ何とかまいてカエルさん似だけわたしから行こう!でも……何か恐くなってきた!
「ガルルルルルル」
ん?
わたしは走りながら後ろを振り向いた。そしてカエル似の陰獣を倒す絶好の機会だと思った。何故なら豺鬼が誰が先に喰うか争っているのだ。本当に犬みたいな感じだった。
いい機会だ。このままあの大きな木の影に入って後ろを振り向く!
「うまぁぞぉうなやぁつぅーぐれぇえ」
陰獣が飛んできた。わたしはちょっどいい太さの木の棒でその陰獣を叩いた(殴った)。
「とぉりゃゃゃやあ!」
ちょうど首に当たったのか?ボッキっという何ともいえない気持ちが悪い音が出た。
その陰獣はそのまま吹っ飛んで木に当たった。そしてその陰獣は、首がありえない方向を向きながら下に落ちた。赤黒い血が陰獣の口から出ていた。
ごめんなさいごめんなさい!わたしは心の中で何回も謝った。
しかし、ゆっくり休んでいる暇など無かった。三匹の豺鬼がまたわたしを襲って来た。
「あぁぁあ、うまぁぞぉうなにおぉい」
「ギャァァァア!また襲ってキタァー」
まず最初にあの中で一番体がデカい豺鬼が襲って来た。わたしは走りながら何とかそれを避けたが次に二番の大きな豺鬼が襲って来た。
わたしは、それも何とか走りながら避けたが一番あの中で小さかった豺鬼だけは着物の裾を食いちぎられた。
「うわぁぁーもう限界です!走り疲れたよー!」
「ぐぐぇぐぇうまぁぞぉうなにおぉいヨコゼェー」
「よこせって言われましてもこの身体はわたしのですからぁ!」
陰獣相手に変なこと言っているわたしだが、こうでもしないと足が痛いのだ。足の痛みを忘れるためわたしは、一生懸命独り言のように陰獣に話しかけた。
「あのぉー!豺鬼さん。わたしを食べても美味しくありませんよ!」
「うまぁぞぉう」
「美味しくありませんよ!」
「うまぁぞぉうなやぁつぅー」
「だから美味しくありませんよってば!」
「くわぜろぉー」
「わたし、指を怪我したとき一度血を舐めみましたが鉄みたいな味でしたよ!鉄ですよ!ほら美味しくありませんよ!」
「血が鉄みたいな味は当たり前だぞー」
どっからか分からないが、誰かがわたしに対してツッコミをした。
まったく!ツッコミをするぐらいの余裕があるものなら助けて欲しいものだ。
「蛇助!アナタ余裕ぶっこいてんなら助けに行きなさいよ!」
「誰が蛇助だ!俺は今、手が空いていない」
うわぉー、夜鳥さんは話しながらも陰獣を相手にしてる。強いな~何て。わたし何か陰獣に追い詰められているし、後ろはもう岩だし逃げ場が無いし……全然余裕が、
「無いんですけど!」
っと叫んだ時、誰かに肩を掴まれたと思ったら後ろに引き寄せられた。
「ドヒャァッ!」
変な悲鳴だった。せめて「キャッ」ぐらいの子らしい悲鳴を練習しないとな。とわたしは後で思った。
わたしはそのまま後ろに引き寄せられ何かに当たった。わたしは自分の肩が誰かに掴まれていることに気付いた。そしてその手からなぞってゆっくりと後ろを見た。
そこには普段から見慣れた幼なじみの顔があった。
「あれ?匠次郎さん。いつの間にかこちらの世界に戻って来たんですか?」
「え?こちらの世界に戻って来た?私、黄泉の国何て行ってませんよ。まだ、死んでもいないですし」
「いえいえ、そっちの世界ではなくて、とらうまの哀しい思い出の世界です」
「え?」
どうやら、彼は無自覚で自分の世界に引きこもっていたらし。
「それより匠次郎さん。何しているんですか?ここにいたら陰獣に喰われてしまいますよ」
わたしは彼の横に移動した。
幼なじみでは無かったら男が肩に触れただけでも右手顔面パンチをくらわしていたかもしれない……っとコッソリ心の中で思った。
「だいじょ──」
「それにさっきから陰獣が突っかかって来ているではないですか……ん?突っかかっている?」
わたしは前を向いた。
「ギャッ!」
そこには沢山の陰獣がわたし達の目の前にいた。しかし、何故か先程から陰獣が突っかかって来ているのに、わたし達の所に届く前に何か見えない壁にぶつかった。
「え?なに、これは一体どういう意味ですか?」
「結界ですよ」
「結界?」
「はい。陰獣達がこっちに来れないのは私が結界をはったからです」
「は?へ?あの……」
っとわたしが言いかけた時、ドンッっというものすごい音が聞こえた。そこには、結界の中に入ろうとした鹿威さんが顔を押し付けていたのだ。
「ちょっとぉー!開けてくんないぃっ」
「か、鹿威さん。陰獣はどうしたんですか?」
「休憩しようと思って……」
「えっ、ってことは更に此方に鹿威さんが相手してた陰獣を引き連れちゃったんですか!?」
「だから!疲れたからこの中入れてよ。ねっ?しょうちゃん」
「あなたにしょうちゃん呼ばわりされるほど私達は親しくないはずですが」
「もー!開けてぇ!おねがいぃ」
鹿威さんは結界をドンドンと叩いた。神様であるはずの彼ならこの様な結界は容易く破ることが出来るが、破ってしまっては意味がないのだ。
「あああ!お前何先に結界の中に入ろうとしてんだよ!まだ完全に倒し終わってねーだろうが」
「そうよ!鹿威だけズルいよ」
「だったら俺達も入れろ!」
「そうね……そろそろアタシも疲れたし結界の中に入っちゃおっかなー?エへ」
「夜鳥さんキモイです」
「絞め殺したろうか馬がァ!」
「ご遠慮させていただきます」
そして狭い結界の中をやっとの事で三柱とも入った。三柱が入ったその後から、神蛇さんが入って来た。しかし、お先に入った彼らを睨みつけていた。
ああ、これがまさしく、蛇に睨まれたカエルなんだな~
「お前たち故先お先に結界に入っている?」
「えっと、それは」
「小春様と人間は別として、そもそもお前ら神であろう?あの様な陰獣相手になに手間取っている?俺はもう全て倒し終わったぞ。ちなみに今回は、あの厄介な髏鬼はいなかった。雑魚な陰獣ばっかしだ」
「マジっすか」
「陰獣相手に手加減は無用。遊ぶな」
「えっと、そんなこと言われましても~」
「ここに人間一人と、とても大切なお方がいるのでオレ達がちょっとおふざけしたらコイツ等危なくなっちゃうよ?」
「簡単だ。一瞬で終わらせれば小春様や人間に危害は及ぶ無い」
「あのーすみません」
わたしはここで狭いながらも手を挙げた。
「さっきから気になることがあるんですけど……その手加減してたって?遊んでいたってどう言う意味でしょうか?」
「そのまんまの意味です」
「ってことは今まで鹿威さんや霪馬さんは遊んでたってことですか!?喰われそうな霪馬さんってあれお芝居だったのですか!」
「俺から言いますと彼らの行動は全て遊びでしょう」
「そんな!わたし一人だけ?一瞬懸命逃げ回ってやっと陰獣一匹倒したのに鹿威さん達は遊んでたんですか!」
「え?だって、雑魚の豺鬼や猿鬼、跳鬼に骸鬼何て雑魚当然なんだもん」
わたしはその雑魚当然の陰獣をやっと一匹倒したのですが!
っとわたしは心の中で怒った。
「鹿威に霪馬に夜鳥。お前たち早く自分が相手していた陰獣を倒してこい」
「えー、ヤダよ!アタシもう疲れたもん!」
夜鳥さんが頬を膨らませた。
「バカみたいな顔してないで行ってこい」
神蛇さんが彼等を結界の外へ蹴飛ばした。そして、随分とあっさり終わってしまったのだ。
うわああぁー!本当、目にもとまらない早さで終わっちゃったよ!今までのわたしって一体何だったんだよ!一匹しか倒してないけど……その苦労を知らずに!
「えーと、何か分かりませんが急に陰獣達倒れちゃいましたね?しかも、さっきの結界の中、私と小春さんにあのお二人しか入っていないのにかなり窮屈でしたね」
「そ、そうですね。何か息苦しくなりましたよね?」
まさかと思うが、彼には闘っていた鹿威さんたちが見えなかっのかな?夜鳥さん達は別として。ん?でも、結界の中では見えていたのに?
ああ、でもまさかあんな小さな結界の中にあの二人以外にあと二柱が入っていたなんて匠次郎さんは思いもしないだろう……
「それに何故か結界の中に入っていたはずの鹿威さんや霪馬さんが急に消えたり………彼等は一体どこに消えたんでしょう?」
「さあ、どこかそこら辺で野垂れ死んでいるんじゃないでしょうか?」
「えっ?」
「ヤッホー、さっきぶり」
手を振りながら鹿威さん達が来た。
「あれ?生きていらしたんですか?」
「え?なにこの子。サラリと酷いこと言ってない?」
「ああ、鹿威さんに霪馬さん。無事だったのですか……」
「お前もかよ!」
「それより鹿威さんに霪馬さんって何者ですか?」
「うぅ、突拍子に聞いてくるなお前は」
「あ、あと皆さんが言っている夜鳥さんとか蛇助?と───」
「神蛇です」
「あ、神蛇さんでした。その神蛇さんやら……あれ?さっき私に名前を教えてくれた人って誰ですか?」
彼は声がした方を向いた。そこには姿を現した神蛇さんと夜鳥さんがいた。
「どなたですか?」
「アンタが姿を見たいって言っていた神蛇さんと夜鳥さん(アタシ)だよ」
少しの沈黙後、匠次郎さんは────
「……え?」
「反応遅すぎ!」
匠次郎さんは少し後ずさった後………
「いや、だって急に現れると気持ち悪い……」
「腹が立つ人間だこと」
「でも、夜鳥さんを含め、その他の人達は一体何者ですかね?急に現れたり消えたり……並の人間ではないような気がします」
「もう面倒くさいからその他の人達に片付けちゃったよっこの人!」
「もしかして忍び(忍者)とかそんなものですか?」
「違うわよ」
「そう」
「俺たちは……」
「神です」
鹿威さんや霪馬さんに夜鳥さん達の3柱が同時に言った。神蛇さんはバカを見るような目で彼等を見ていた。
「へ、へぇーそうなん……ですか?」
「何で疑問系!」
「お前たち、別に正体がバレても構わないだろう?」
神蛇さんが他3柱に聞いた。
「え?うん、まあそうだけども」
「アタシはどっちでも」
「俺はいいが……小春は?」
霪馬さんがわたしに問うて来た。
「えっ、わたし?」
「あれ?お前の本当のこと言うんじゃなかったけ?」
「わたしはまだ心の準備って言うか、そんなものができていませんので、今度話します」
「今度って何時だよ」
「えっと、えっと……気が向いたとき?」
「っと言うことで匠ちゃん、俺達の正体だけを明かしてやるがコレだけは約束してくれ」
「何をです?」
「まず、一つ。オレ達の正体を知っても、絶対にこっちの領域(世界)に干渉しないこと」
「二つ。アタシ達のことを他の人に言ってはいけないこと」
「三つ。跏琉痲と言う奴の輩に関わるな。後、神擬を探していると聞かれても知らぬと通せ」
しかし、ここで匠次郎さんが疑問を投げかけた。
「すみません。神擬って何ですか?跏琉痲も」
「それは教えられない」
「では、こちらもその約束だけは守れない」
「……」
匠次郎さんと神蛇さんの間に重い沈黙が流れた。気まずくなったわたしは匠次郎さんの裾を引っ張った。
「あの一様……その約束事だけは聞いて、後から守るか守らないかを決めませんか?」
「そうですね」
案外すんなりと承諾された。
「いや、あの約束事は三つしか無いんだけど」
「え?」
霪馬さんが苦笑混じりに言った。
「え?って言われても」
「えっ、だって一人(柱)づつ言っていたから……ちょうど四柱だし約束事は四つあるのかと思ったんですけど」
「いやね。勝手にコイツ等が一柱づつ言っただけ何だけど」
「それでは神擬と跏琉痲について教えてくれませんか?」
「うーん……」
霪馬さんが顎に手を当てながら考えた。しかし、横から神蛇さんが言った。
「人が触れてはならない内容だ。これ以上我らの所に干渉するな。先程の約束を覚えていないのか?」
「私はまだ約束をしていないし、神擬と跏琉痲についてあなた方が語るまで私は守らない」
「生意気な人間だ」
「先ほどから気になるのですが人間、人間って、あなたも人間ではないのですか?それとも人の皮をかぶった人ならる者なのでしょうか?」
「そうだな……少し違うが、だいたいはあっている。しかし、私達は人の皮などかぶっていない」
「では───」
「あああー!」
わたしがいきなり大きな声を出したので皆は驚いた顔をした。
が、わたしはこれ以上長い立ち話を聞いていられなかった。
ちょ……ちょっと気まずい。そして、神擬って多分わたしのことだろう多分……跏琉痲って鹿威さん曰わく、御代ノ一族だって霪馬さん達から聞いたことある。
御代ノってわたしもそこ出身だとか霪馬さんが言っていたし……結果的にわたしのこと話さないといけない流れになるだろうから……そうなる前にわたしは彼等の話しをワザと中止させたのだ!
あと、もう直ぐ夜が明けてしまう!かぐち村での掟では、夜が明けるまで決して村から出てはならないというかぐち村特有の掟第2条にあるのだ!
しかし!わたしはそれをいとも簡単に破ってしまった!それを破ってしまったとはとても重い罰があるっ!
昨日の罰に更に今日の罰(とてもイヤイヤな罰)を下される!それだけは何とか回避せねば!だから今からでもわたしは帰りたいのであって─────
「小春さん?」
「はいィィイ!!……な、何でしょう?」
「いえ、急に大きな声を出してどうしたんですか?」
「あ、えっと……わたしある重大なことを忘れていたなーなんて」
「重大なこと?何をです?」
「うーん、先程の話しとは全く関係ありませんがわたしにとって関係あることです」
「それは何だ?」
鹿威さんが言ってきた。
「それは……それはわたしはかぐち村特有の掟第2条を破ってしまったことです!」
「はっ?」
皆は口を開けてポカーンとしていた。わたしが言った意味がわからないのだろう?
「その掟は夜が明けるまで村から出てはならないという内容であって、その掟をいとも簡単に破ってしまったわたしは罰を受けなければならいと言うことです」
「いや……それ今は関係無いんじゃあ……」
「いえ、わたしにとってはとても関係のあることです!」
「お前……空気読めない奴だな?」
「えっ?」
いや、空気読めない奴では無く、今のこの場の空気が嫌なだけです。
「それはまた……一大事ですね」
「ですよね!わたしの罰の重さの一大事です」
あれ?以外と匠次郎さん話しに乗ってくれる?それとも単なる天然なだけだろうか?
「しかし小春さんは彼等のこと知りたくありませんか?」
変なところで頑固だったぁぁ!!
「いえ、わたしは帰ってからお家でゆっくりと聞きたい派ですから」
「そうでした?」
「そうですよ 」
もう良いだろ!わたしは早く帰りたいんです。
「しかし……」
「だったら帰ってゆっくり呑気に話そうぜ」
「いや、今ここで話す」
「え、何言ってるんだよー神蛇。オレ達のこと、こんな短時間で話せる訳ないじゃないか」
「いや、話せる。我らのことだけだったら話せる」
「おいおいちょっと待てよ。オレ達のことはって、神擬や、跏琉痲のことは?コイツはまずそれを知りたがってんだぜ?」
「おまえ達が村に帰ってから話せば良かろうに」
「えっ、オレ達が?お前は?お前はかぐち村に寄ってかないのか?」
「そうだが……何か?」
「いやいや、だったら何でかぐち村の近くにいたんだよっ」
「別にただ、この近くを通りかかっただけだ……まあ、通りかかった時、偶然笛の音が聞こえたからここにいるんだが」
「え?ああ、そうかそうかなる程。笛の音でこっちに寄ってきたのか」
「ご理解いただけただろうか?おバカさんとやら」
「なっ、なんだとぉー!」
霪馬さんだけが顔を真っ赤にして怒った。それを夜鳥さんがどうでもいいように手をヒラヒラさせながら言った。
「まあまあ、これでいいでしょっ!だから神蛇ちゃん。さっさと話し終わらせてよー」
「お前は傍観者か?」
「違うんだよー」
ヘラヘラ笑っている夜鳥さん。
「まあ、いい。ババァ相手にしていたら夜が明ける」
「誰がババァじゃいっ!」
今度は夜鳥さんが顔を真っ赤にしながら神蛇さんに突っかかっていった。それを慌てて鹿威さん達が慌てて止めに入った。
「まあまあ、落ち着きなんしゃい」
「………そう言えばソナタの名は何と申す?」
神蛇さんが首を傾げながら匠次郎さんを指差した。
「アタシのことは無視かァァ!?」
「え?……今更自己紹介ですか?」
その時、後ろから鹿威さんが神蛇さんを引っ張って少し離れた場所で肩を組んで耳打ちした。
「おいおい、神蛇。場の空気読み取れよ!良いか?アイツは匠次郎だ。愛称は匠ちゃんだからな!よく覚えておけよ」
「あ、ああ。場の空気とやらはよくわからないが彼の名前は匠ちゃんだな?」
「いや、それ愛称だから。あの雰囲気で思いっきり匠ちゃん何て呼び方したら明らかにアイツ引くから」
「だったら何と呼べばいいのだ?」
「だから匠次郎だって言ってんだろ!」
「匠次郎?いかにも人間みたいな名前だな……」
「いや、アイツ人間だから」
「それぐらい見て分かる」
「全く腹が立つ野郎だぜ」
話し合いが終わったのか、彼等はわたし達の所に戻って来た。
「オッホン。匠ちゃん……では無くて匠次郎、神擬や、跏琉痲のことは時間が少なすぎて説明出来ないが私達のことなら話せる」
「私はその神擬と跏琉痲のことが気になるのですが……」
「大丈夫。その事についてはかぐち村に帰って彼等が話してくれる」
「はぁ、そうですか」
「よし。では始めよう」
神蛇さんは自分たちのことを詳しく話し始めた。わたし達は、ただ黙って聞いていた。
「っと言うわけで、俺は十二支がー柱、巳の神蛇」
「アタシも同じく十二支がー柱、酉の夜鳥だよー」
「同じく十二支がー柱、午の霪馬」
「鹿の神、鹿威……あれ?何か俺だけショボくない?」
「十二支ですか……」
「え?俺のことは無視?」
「あなた方が本当に十二支または神か分かるために証拠を見せてくれませんか?神なら超人を越えた何かがおありでしょう?」
「アンタ、アタシ達に本性を現せって言ってんの?人間のくせに?人間ごときが嘗めんじゃないわよっ」
「よい。この巳の神蛇がみせよう」
「えっ?」
「彼は人間だ。神である私達に手出しはできないはずだ」
「確かにね~」
神蛇さんは皆と少し離れた。そしてクルリと回転し、どこから出てきたのか分からないが白い煙が一瞬立ち上ったのだ。
白い煙が消えたあと、神蛇さんがいたはずのそこには白い大蛇がいた。
「………え?」
わたしと匠次郎さんは口を開けてその大蛇を見つめた。その大蛇は目線を彼らに合わせ、さっきの神蛇さんとは全く違うくぐもった声で言った。
「人間、これでわかったか?我らは神である。我らにかかればこの山、一夜にして滅ぼせる」
「えっ?そんなことしないで下さい!」
何故か知らないがわたしは不思議と余り恐いとは思わなかった。だから畳二畳分ほどにもある大蛇の顔を前にしてもこんな呑気なことが言えるのだ………
「大丈夫。ただの例だ」
「え?」
イヤイヤイヤ、この大蛇のまま言われると本当にしそうで恐いんですが!
「っで、隣の彼さんはどうしちゃったのぉー?あっ!もしかして神蛇の本当の姿を見て怖じ気着いちゃったぁ?」
夜鳥さんが薄気味悪い不適な笑みを浮かべながら言った。
匠次郎さんは手を顎に当て眉間にしわを寄せながら何か考え事をしていた。
「匠次郎さん?」
余りにも静かだったのでわたしは彼の名前を呼んでみることにしてみた。
「はい?」
「どうしたんですか?」
「いえ、ただ考え事をしていただけです」
「あれ?もしかして、どうやってこの大蛇から逃げるか考えていたとか」
「違いますね……ただ本当に神様なら何か特別な力とかあるのだろうかと思いまして」
「なーんだ。そんなことぉ?」
「はい」
「無いわよ」
「え?」
わたし達は固まった。
え?無い?どう言うことだろう?
「アンタが言いたいのはアタシ達は、神様だからあの世の人の声とか聞こえるのか?でしょ?」
あの世の人の声を聞く?それって────
「アンタには悪いけどアタシ達は、そっちの専門(司り)じゃなし、そっちの方だったら黄泉の神様、イザナミに願わないと……」
「はやりダメですか……」
「誰かあの世の世界に大切な人がいるのか?」
神蛇さんがデカい顔を更に近づけてきた。
いい加減、仮の姿(人型)に戻ってほしい。それにあの世って死んだ人がいる場所なはず。だったらあの人も────
「いえ……」
匠次郎さんは顔を背けた。
「ただ興味があっただけです」
「そうか」
言いたくない……確かにわたしだって、言いたくない。
「ねえねえ小春ちゃん。そろそろ帰らないといけないんじゃないの~?」
「え?」
わたしは慌てて、辺りを見渡した。確かに薄暗かった辺りがいつの間にか明らんできた。月が隠れお日様が顔を出そうとしていたのだ。
「ヤバイィですよぉってぇ!」
「ふふっ、可愛いね~妹にしたいな~」
「変態が。小春様に近づくな」
いつの間にか神蛇さんが人型に戻っていた。
イヤイヤ、今はそんなこと関係ない!
「しょっ、匠次郎さん!早く帰りましょう!じゃないと匠次郎さんまで罰貰いますよっ!」
「えっ?私もですか?」
「当たり前です!だって、かぐち村に入った以上、かぐち村の掟に従わないといけないんですよー!」
「今初めて耳にしました」
「つい最近できた掟です!」
彼らは、急いでここから立ち去ろうとした。しかし、わたし達はある大事なことを忘れていた。神蛇さんと夜鳥さんのことだ。わたし達は立ち止まり、振り返った。そして、大きな声でお礼を言った。
「あのっ、助けてくれてありがとうございました!!」
「ありがとうございます」
二人で深くお辞儀をした。
「いいのいいの~」
「よい。これは小春様のためにしたことだ」
「バイバーイ小春ちゃん。また、会おうね~」
「霪馬に鹿威」
「あん?何だ?」
「小春様をしっかり補佐しろよ。呉々も怠けないように」
「分かってんよっ!」
霪馬さんと鹿威さんは二人揃って神蛇さんにあっかんべえした。
子どもみたい……
「ふんっ」
「じゃあねーお馬鹿さん達」
神蛇さんと夜鳥さんは一瞬にして目の前から消えた。
「さぁ、小春さん走って帰りましょう。じゃないと間に合いません!」
「そうだったぁっ!」
わたし達は一生懸命走った。でも、やっぱりお日様が出てくる方が早い。
村からまだかなり距離があるのに………その時、強い風がふいた。
「きゃぁっ」
わたしは目を瞑った。そして誰かに抱き抱えられた感じがしたのだ。目を開けてみると………
「えっ?えェェェェエ!」
わたしは鹿威さんに抱き抱えられていたのだ。
「やあ、こばっ」
わたしは反射的に鹿威さんの頬を殴った。
「イッテェェ!」
「な、何してるんですかぁ!」
「ふっ、勘違いすんう゛ぁ」
「ギァァァァアァ」
「だから痛いってぇべ」
「イヤァァァァァァア」
わたしは何回も鹿威さんを殴り続けたのだ。
ガッ ガッ ガッ
「おーう゛ぃ!霪馬変えてデェ!この子怖いヴぃっ。そっちの匠ちゃんと変えてー」
「ふっ、残念だな鹿威」
霪馬さんをよく見れば彼の脇の中に匠次郎さんが抱き抱えられた。
「まあ、その痛みを我慢して行こうじゃないか?」
「お前、最低な野郎だな!」
「さぁ、レッツゴ一」
「オレのキャラ真似するなぁ!」
急に強い風がわたしの体じゅうに当たった。もう霜月上旬なので風冷たく耳が痛かった。
「ヒィギャァァア!」
このあと、わたし達は、何とか間に合ったのである。髪をボサボサにしたわたしと匠次郎さんを見て村人たちは不思議に思ったのか?それとも二人仲良く寝癖が出来ていると思っているのか、分からないが罰は昨日のしかなかった。
匠次郎さんはというと明日ぐらいには迎えが来るとのことだ。
彼の両親が心配している(怒っている)と鹿威さん達(人ならぬ者なので速いため数分で町につける)から聞いた匠次郎さんは顔が蒼白したのであった。
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