第五話 匠次郎の秘密
まあ、ちょっと文が長いけど第二章の第一話より見やすいと思う……
目が覚めた。まだ誰も起きていない。当たり前か……まだ夜も明けていないし。
でも、行かなければ。
わたしは素早く着替え髪を結んだ。すると、廊下から人が歩く微かな音が聞こえた。
ああ、やっぱり行くんだな。
その人の足音が聞こえなくなった所でわたしは隠れながら後を付けた。まだ夜も明けていない外は暗く寒かった。
ちょっと、羽織りぐらい着ていけば良かった……
わたしはそんな事を思いながら彼に見つからないように慎重に隠れながら後を追う。
それにしても、周りが静かだし、ちょっと霧が出ている。
そのためか?さっきからわたしは何度も転けそうになって、彼に見つからないかとヒヤヒヤしていた。
あー、ちょっと歩きにくいな。
いつの間にかわたしは歩く方に集中をしていた。そのせいで彼が立ち止まったとは声をかけられるまで知らなかった。
「小春さん」
「うぇえぇぇ!」
余りにもビックリしたためわたしはとんでも無い恥ずかしい驚きの声を出してしまった。
目の前に少し眉を寄せた匠次郎さんの顔があった。
「えー、気づかれた感じですか……ね?」
「そうですが」
「えぇ、は、アハハハハハハ」
やっちゃった。やっちゃったよ。どうしよう……今からでも逃げるか?いや、逃げた後のお説教が…待てよ、このまま話をズラして方が宜しいだろう。
「えーと、えーと、きょ、今日はいい天気ですね?」
「まだ日が出ていませんよ?」
アハハハハハハ……そうだった。ならばこれは!
「あ!」
わたしは大きな声をあげてみる。すると匠次郎さんは驚いたような顔になった。
よし!このまま匠次郎さんの後ろを指差して───
「匠次郎さんの後ろに誰かさんがいる!」
彼は後ろを向いた。
よし、このまま!
「あの大きな栗の木に影が見えて、その下の茂み、先程動きました」
冗談で言ったつもりが、わたしが言った所から人が出で来た。
「「何で分かっちゃったのォ?!」」
「えぇぇぇぇえ!」
わたしは驚きの声をあげた。出てきたのは霪馬さんと鹿威さんだった。
「おい、鹿威。簡単に見つかっちゃったじゃないか!誰だよ。こうすれば見つからないとか言った奴」
「うるせぇぇー、まさかこんなにいとも簡単に見つかるとはオレも思わなかったよ!」
彼らは口喧嘩を始めた。
匠次郎さんはわたしに近づき、こっそり耳打ちをした。
「話しをズラそうと嘘で言った所が当たってて良かったですね?」
うっ、やっぱり気づいていたか……
「ところで小春さん。何故私の後を付いて来たのですか?」
「え?」
「あれ?違いました?」
「いえいえ、合ってますけども」
「では何故?」
「えっと、その……匠次郎さんは昨日の場所に行って何をするのかなーとおもちゃって」
「………」
「その、気になって後を付けたんです」
「昨日のことが気になりますか?」
「はい」
「……もし、私が本当のことを話したら小春さんも本当のことを私に教えてくれますか?」
「え?本当のこと」
どうして、そっちに転がる?
「あなたが今隠している秘密です」
「そんなの無理です」
(わたし、実は人間ではありません!何て言えない。いや、むしろわたし自身が余り理解できていないもの)
「では、私も無理です。っと言うことで帰っていただけませんか?」
「え!帰っていただけませんかってどうしてですか?」
「これから先は私自身の秘密ごとだからです」
「えーと、やっぱり帰ります」
匠次郎さんは急に黙り込んでわたしの顔を見つめた。わたしは目をそらした。
うぅ、ちょっと…余り見つめられるとヤダな。
「それは信じてよろしいのですか?」
「はい」
「……」
わたしはしっかり頷いた。でも、彼はまだ不安のようだ。
「信じて下さい。わたしは約束を守る人ですから」
「え、はい、まあ……何かちょっと」
「わたしのことが信用ならないんですか?」
「いえ、ちょっと今は……なりませんね」
「えぇ!わたしのこと本当に信用していないんですか、」
「本音を言えばそうなりますが」
「ぇえぇぇ!ちょっと待って下さい。さっきは 『信じてよろしんですか?』 って言っていたではないですか?」
「ちょっと確かめたくて」
「一体何を確かめるっていうんですかァ」
「嘘か本当か」
真面目に応える彼。
「何か酷くないですか?」
「………」
彼は黙った。そして何故か苦笑混じりに笑っていた。
「え?何。何がどう面白いんです?」
「いえ、何か可笑しくて」
「へ?可笑しい?何がです?」
「いや……あなたがここまで本気になるとは思いもしませんでしたよ」
「はい?」
わたしは全然理解出来ていなかった。
「今までのは冗談で」
「冗談だったのですか?酷いッ」
「えっと、イジクるのが楽しくて……」
「え?なに。何か匠次郎さん、無意識に腹黒いですね」
「腹黒ろ?」
「いえ、独り言です……で言ってくれるのでしょうか?」
「何をです?」
「えっと、匠次郎さんの秘密」
わたしは俯きながらもそう言った。拒否されるだろうと思った。しかし───
「良いですよ」
案外すんなり承諾された。
「え、良いんですか?」
「はい、どの道いつかは話さなければならない事ですから」
「なるほど」
そうだったのか……おや?まてよ。そうなら今までの会話は必要だったのだろうか?
「あ、でも小春さん」
「はい?」
「あのお二人さんについてはちょっと」
「あ、大丈夫です。あのお二人は色々と知っているので」
「知っている?何を」
「例えばわたしの出生とかまあ……そんな感じですね」
彼は眉をひそめた。
「彼らは一体何者ですか?」
「えーと」
しまった!わたし養子だから出生のことは、自分は愚か他人が分かるわけない。むしろ “何故彼らが知っているのだ” になってしまう。
「少なくとも、昨日会ったときから普通の人ではないような気がしていましたが……」
え、その時から薄々感じていたの?
わたしなんか彼らと初めて会った第一印象は “何このド変態”なんだけどな。
「あ、でも彼らについては、わたしも余り詳しくは知りません。わたしよりは、ご本人達に聞いた方が宜しいかと」
「そうですね……話してくれるでしょうか?」
「うーん」
確かにそうだ。
わたしはある程度は知っているけが、彼らの正体をわたしの口から言っても良いのだろうか?
「あの」
「はい?」
「わたしが話してくれるかどうか聞いてきましょうか?」
「ええ、お願いします」
わたしは今でも喧嘩している鹿威達の方へ行った。
「あの……」
声をかけてみたが、どうやらわたしの事は眼中に無いらしく、口喧嘩を続けている。
「ふざけんなよ鹿威」
「はぁ?何がだよ」
「お前って何時も暇なクセに天照大神から貰った仕事を押し付けやがって!」
「いや、押し付けてもいねーよ。お前が勝手にしているだけだろうに」
「いやいや、春菊の時はそうだったじゃないか?」
「あれも勝手にお前がしただけだろう?こっちは頼んでもいねぇよ」
「は?何を言っている。俺があいつを見守っっていなかったら、春菊何て陰獣や妖に喰われていただろうさ」
「ん?その前にそいつの親とか誰かが術をかけて守っているはずだぜ」
「そんな術、跏琉嘛一行がきくかよ!せいぜいきくのは小さな妖や陰獣ぐらいだろう」
「あの…」
先程から春菊、春菊ってわたしの幼少期の名前言っていますが……それってわたしのことが原因で喧嘩ですか?
「あの──」
「むしろ!春菊が生きているからこそ今の小春が存在する」
「それには異論ないが……そう言えばお前、昔『コイツは不細工に育つだろう』っと言っていたくせにハズレていたじゃないか?」
「そんなこと思うの当たり前だろ。昔は超絶不細工で無愛想で目つきが悪いヤツだったんだから」
ん?それってつまり、確実にわたしの悪口ですよね?
「あの───」
「しかも!ちょう我が儘で生意気なガキでよ───」
「失礼ですね!そんなの昔の自分が一番知ってますよッ」
わたしは大きな声を出して言った。
皆驚いていたけど、もう我慢出来ない!っと思った。
「え、お前居たの?」
「さっきから居ましたよ」
「もしかして聞いていた?」
「ええ、もちろん。鹿威さん達が昔のわたしをどう思っていたかハッキリ分かりましたとも」
「え?ちょっ」
「大体、あなた達だって何か……神様らしく無いではないですか?」
「「何かそれ凄く傷つくんですけどォ」」
いつの間にか、わたし達三人は口喧嘩をし始めた。
霪馬さんが、『鹿威が天照大神に貰った仕事を……』なんやらどうやら仕事押し付けるとかごちゃいで、それに鹿威さんが反発。
次にまた、わたしの昔の悪口が出て来てわたしが反発の繰り返しだった。
終いにはこの喧嘩を匠次郎さんが止めるはめになった。
「全くあなた達は我慢や遠慮というものが無いのですか?」
「「そんなもの無い!」」
「今はありません」
わたし達は三人同時に言った。
「大人気なさすぎっ!ではなくて……大体鹿威さん達は幾つです?」
「うーん、忘れた」
っと鹿威さんが即答。
「は?」
「へ?」
わたしと匠次郎さんは驚いた。まさかこの様な返答が返ってくるなど思ってもいなかったからだ。
「大体歳何て一々数えていられるかってよ」
霪馬が言った言葉にもわたし達は驚いた。
「えっ?」
「えぇ!」
「え?何お前ら驚いてんの?俺達の間ではこれが普通だよ」
「あの、えっと。自分の生まれた月日とか覚えていないんですか?」
「そんなもの覚えていたところで何の得になる?」
「えっ?じゃあ、祝い事とかしたことないんですか?」
「無い無い無い。そんなもん、するだけで無駄無駄」
「ちょっと待って下さい。鹿威さん達は幾つまで自分の歳を覚えています?」
っと匠次郎さんが慌てて言った。
「うーん、えーと。100までかな?昔は若かったからな~歳をとるたびにワクワクしたよ」
鹿威さんは考えながら言った。
「あっ、それわっかるー」
昔話に花を咲かせた彼らは色々と話していた。
しかし、匠次郎さんはまだ納得出来ていないようだった。
「私から見ると二十代に見えますが」
「え?それはそうだろう。だってそういう風にしているし」
「………」
これについてはさすがに無言になった匠次郎さんだった。
彼はわたしの肩を軽く叩いて耳打ちした。
「彼らの頭大丈夫ですか?」
「うーん、大丈夫かと」
わたしはチラリと彼らの方を見た。彼らはわたし達の方を見ていた。そして───
「おい!そこの美少年。お前はどうやら勘違いしているようだ。俺達の頭は正常。だって神だから!」
霪馬さんが自慢げに言った。
するとまた匠次郎さんはわたしの肩を軽く叩いて耳打ちした。
「彼ら大丈夫です?頭正常ですかね?私から見ると少々世の中の常識を一昨日に置き忘れたような気がしますが」
「う、うーんと……だ、大丈夫だと思いますよ」
わたしはまた彼らの方をチラリと見た。勿論彼らは見ていた。
「おい!そこのヒョロピコ。お前はどうやら勘違いしているようだ。良いか?オレ達は全てが普通だ。何故なら……神だから!」
鹿威さんが笑いながら叫んだ。
「ヒョロピコとは私のことでしょうか?」
「え?ち、違うとわたしは思いますよ」
「さっきから自称“神”だとか言っていますが……彼らどこかで頭でも打ちましたかね?」
「えっと、多分」
「違う違う。俺達どこも打っていないよー」
「だって……」
「「神様だから!」」
二人して、そう言ったあと、彼らは笑い転げていた。
「小春さん。二人のことはほっといて行きますか?」
「えっ?はい」
わたしにはもう、彼らを助けるすべが無かった。仕方なくかはわたし達をソッと置いていった。
「それにしても彼らは面白い方ですね」
「あれ?変とか思わないんですか?あれほど自称神だとか言っている人を」
(実際神様だって言ったけど)
「ははっ、最初はそう思いましたよ。しかし、あれほど自称“神”だとか言っているので……何故か本当にそうなんだろうかと思って来まして」
「もし……もしも本当に神様だったらどうしますか?」
彼は、立ち止まってわたしを見た。少しの沈黙が流れた。
「そうですね。もしそうだったら、もう一度兄に会えるよう頼んで……そして沢山話したりしたいですよ」
そっか。やっぱり匠次郎さんはお兄さんの義総さんに会いたいんだろうな。
ううん、わたしも会いたい。会って沢山お喋りしていたい。
もし、彼が生きていたならわたしは今頃……
そうだ。わたしは確か神擬だと前に鹿威さんたちに言われた。
神擬は本物の神のように力があるのだろうか?いや、カルさんは力がどうだとか言っていたような……でも、神擬という意味をわたしはまだ理解出来ていないんだよな。
「小春さん?」
彼はわたしの顔を覗き込んでいた。
「うぇ、はい!何ようでございましょうか?」
「……大丈夫ですか?」
「はい。もちろんです」
元気良くわたしは応えた。
「そうですか。あっ、小春さん。もう着きましたよ」
「え?」
わたしは辺りを見回した。確かにあの場所に来ていた。
「夜があける前に早く終わらせなかければなりません」
「はい?」
「小春さんは、私の秘密を知りたいと言いましたよね?」
「はい」
「では、まずそこで見ていただけませんか?」
「はい」
ただ見ているだけでいいんだろうか?
わたしはそんなことを思いながら彼を見ていた。
匠次郎さんは懐から扇子を取り出した。わたしは一瞬何をするのだろうと思った。
彼は一歩二歩動き出し、そして急に歌いながらくるくると踊り始めた。
「わぁ─────」
余りにも綺麗な舞にわたしは言葉を失ってしまった。
一つ一つの動作が丁寧で繊細で、控えめな歌声が何よりも綺麗だった。とても男性だとは思えない声色だった……いや、しっかりした男の人の声だが、まあ、それ程美しいと言うことだ。
何故だろう?とても落ち着いてしまうのは気のせいだろうか?心が癒される───
この人は本当に十二年前から知っている匠次郎さんなのだろうか?何故だろう……別人に見えてそして……凄く───
わたしはそんなことを思いながら彼の方を見ていた。
彼が舞い始めて少し経った頃、辺りが薄青くなり、あの女性が土から出てきた。体は透き通っていて、憎しみを含んだ目だったが、少しずつ何故か悲しみを含んだ目つきになってしまった。
そして彼女は消え入りそうな声で言った。
───お願いです……私の……を取り戻して下さい
ん?よく聞き取れない。何てわたしが思っているうちに彼は舞うのを止め彼女と向き合っていた。
あれ?見えないのではなかったのですか?
「まずはアナタが何故、数十年間この世をさ迷っていたかを教えて下さい」
───私は……あの崖の上にある家……住んで………した
崖の上の家か。あの家のことかな?
───私……5人家族…幸せで…したが
うん、私は5人家族でとても幸せでした……かな?
───ある日突然…見知らな…変な仮面…被った人…来た。母も父も夫…殺された
ああ、母も父も夫も殺されたのか。だからあの家あんなに血があったのか。
───みんな心の臓刺された……そしてそれを取り出し、袋に入れた。
わたしは一瞬気分が悪くなった。
───私は逃……出した。子を連れ……逃げ出した。でも、刺された……お腹刺された
───子は連れて行かれた……私追いかけた……あいつら崖に向かった……そしてそこから下りた
えぇ!普通の人間では出来ないことだ。
───私も行った……でも、あいつらいなかった……です。私そのまま落ちて死んだ……
───ああ、私の子いないよ……いない……私の側にいない……連れて行かれた……あいつらに……許さない……許さない!私の子を返して……
彼は少し考えたあと、ふっとわたしの方を見て言った。
「小春さんはどう思います?」
「ええ?」
急に話をふられてわたしは驚いた。何故わたしに聞くのだろうか?
わたしが一生懸命考えていたのに匠次郎さんはいつの間にか女人と向き合って話していた。
「もし、その子が今どうなっているか分かったらアナタは成仏してくれますか?」
───子?私の子見つか……るの?
「出来る限りのことはします」
───お願いします……そしてその約束守りますからどうか……お願いします。
「わかりました。あと、これからは静かに眠っていてください。余りうろつくと何者かに喰われたりあなた自身が怨霊なるかもしれないので」
───それもお約束します
「では、引き受けます。それと結果がどのようになってもしっかり約束通り成仏して下さい」
───約束します……ですからどうか私の子を……探してきて下さい……
そして彼女はゆっくり消えていった。彼女が消えた場所を彼は少し見つめたあと、わたしの方を向いた。
「あの、えっと」
わたしは感想を述べた方がよいのか戸惑ってしまった。
「昔、兄から聞いたことがあるんです」
「へ?」
「私達の御先祖様は陰陽師と白拍子だと」
彼が一体何を言いたいのか?わたしにはまだ分からなかった。
「兄は陰陽師の血を濃く受け継ぎ、白拍子の血は薄かった。反対にわたしは白拍子の血が濃く陰陽師の血が薄い」
「あ、あの、わたしにはまだ理解できません」
「ですよね。しかし、これが私達の秘密です」
そう言われても、今いち理解出来ないんだよな。
「私は白拍子の力を受け継いでいるため舞を踊ることで怨霊などを静め清めることが出来ます。しかし、兄は反対に陰陽師の力を濃く受け継いでいるため、妖などを滅することや色々な術が使えました」
やはり今いち理解出来ないわたしはバカなのだろうか?大体白拍子って何だろう?陰陽師ならどっかで名前くらいは聞いたことがあるが。
「しかし、兄にあって私には無いものがありました」
「え?」
「兄は人では無い者が見えたり霊を見ることが出来ましたが、私には……何も見えません」
ん?でも、先程はまるで見えているような感じであの女性と話していたけどな?
「でも、先程はしっかりと彼女と向き合って話していましたけど」
「あ、少しは感じるんです。そこに居るってことが。あと、声ぐらいは聞こえますがそれ以外はありません」
「へ、へぇー……」
「私はこうやって起きている時はその者達を見たことがありませんが夢では見ることが出来ます」
「それって例の夢ですか?」
「はい。私は夢であの女性を見ました」
「でも、どうして夢に出てくるんですか」
「多分、何かを訴えたい時だけに私の夢の中に現れるのではないかと。私はそう思いますが、まだはっきり分かりません」
「そうなんですか。あっ、だったらあの時、わたし達はどうして助かったんですか?」
「あの時?」
「えっと、崖から落ちた時です」
「ああ、あれはですね……小春さんはこの傷が出来た訳を知りたがっていましたよね?」
彼はそう言いながら両手の手のひらをわたしに見せながら言った。
「はい」
「実はこの傷、私自身が傷つけたものです」
「え?」
いやいや、よく話しの流れが分からないのですが。
「これはある者達を呼ぶため傷つけた傷で、その者達は“白黒”と言い、元は兄の式神だったのです。しかし兄が亡くなったあと、何故か私に仕えるよう兄が仕組んでいたと言うわけです」
「あの、よく分かりません!」
わたしの空気が読めない発言に彼は苦笑しながら分かりやすく説明してくれた。
「本当は兄の式神だったのですが……兄は陰陽師の血が濃く受け継いでいるため紙に自分の血で書いた式神の名前だけで呼び出せました。しかし、兄が亡くなってからは私がその式神を受け継ぎ使っています」
うん、ちょっと良く意味が分からないが要するに兄の義総さんの式神を弟である匠次 郎さんが受け継いで使っている。
あれ?待てよ……義総さんってそんなに凄い人だったの?わたしといるときは何時も爽やかな笑顔を浮かべながらどこか抜けているし、剽軽な人だったような……
「しかし、私は式神を使うのにある問題がありました」
「問題?」
「兄は少しの血で白黒を呼び出すことが出来ましたが私の場合大量の血がないと呼び出すことができません」
「え!」
「それがこの傷です。左手から白の白使、右手から黒の黒使が出てきます。両手をこのようにパシりと合わせれば二匹同時に呼び出すことが出来ます」
「え、ちょっ、ちょっと待って下さい」
「はい?」
「何かそれって……つまりわたし達が助かったのって、その式神の白黒というものを呼び出したから助かったと言うことですか?」
「ええ、そうですが」
あああ、何かそれってわたしが居なければ片手ですんだはずなのに。
「話し戻りますが、もしかして義総さんって妖退治とかしていたのですか?」
(聞いているところそれは流石に無いよな……)
「はい、時々していました。特に何故か小春さんを狙っている者達が多かったので」
「え?本当」
「はい」
それはまた……今まで気づかなかった。って、え?何。わたしって気づかないうちに義総さんや匠次郎さんに守られていたのかな?
なんか……ヤダな。匠次郎さんはまだしも義総さんにはお礼の一つも、もうできないなんて───
「えっと」
「お礼なんていりませんよ」
「へ?」
「私も兄も好きでやっていたことですから」
「でも、それでも申し訳ない気が」
「私達兄弟は、そのもの小春さんを守るためにしたことです」
ああ、だったらわたしは───
「では、今度はわたしがあなたを守る番です!」
「え?」
彼は驚いた。女であるわたしが男である匠次郎さんを守るのは変だと思っているのだろうか?
わたしがそんなことを考えているうちに彼は何かの気配を感じたように 「静かに」 っと言った。そして─────
「大変な事になりましたね」
大変な事とは、わたし達が話し込んでいるうちにいつの間にか陰獣が沢山いて、わたし達を取り囲んでいることだ。
「おかしいですね……こんなに沢山の陰獣がいたのに私達は取り囲まれるまれ全く気づかなかったとは」
彼は少し引きつった表情を浮かべていた。
「逃げることは出来ないんですか?」
「逃げてももう無駄でしょう」
あ、うん。そうだった。陰獣って素早いんだった。
「多分、彼女(霊)を食べにきたか、私達のニオイでこっちに集まってきたか」
「あれ?匠次郎さんって陰獣見えるんですか?」
「何故か知りませんが陰獣だけは見えるんです」
わたし達は陰獣を警戒しながら話していたが警戒する必要もなく陰獣は一斉に飛びかかって来た。
「止むを得ない!」
彼はそう言って一体どこから取り出したのか分からないが、小刀を再度両手の手の平に当てて斬ろうとした。
「ダメ!」
「小春さん?!」
わたしは彼に飛びついた。そのままわたしが彼に覆い被さる形に倒れた。
何故この様なバカな行動をとったかと言うと、また大量の血をが出てしまうと思ったからだ。
こんな状況なのに頭の中は大量出血のことでいっぱいだった。そんな場合ではなかったのだったが。
「小春さん放して下さい!」
「ダメです!傷がまた」
「今は関係な───」
彼が後の言葉を無くしたように陰獣はすぐ目の前にいた。
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