第5話 任せておけば大丈夫
第5話 任せておけば大丈夫
重雄の手術説明が行われる日の朝、美咲は午前五時半に起きた。空はまだ薄暗く、窓の外では新聞配達のバイクが低い音を立てて走っていた。美咲は薄い灰色のTシャツに黒いパンツをはき、台所で豆腐とわかめの味噌汁を作った。
食卓には焼いたアジの開き、納豆、昨夜の残りのきんぴらごぼうを並べた。健一の茶碗へご飯をよそい、味噌汁を置いてから寝室へ呼びに行ったが、健一は布団を顎まで引き上げていた。枕元ではスマートフォンが充電され、その横に飲みかけのペットボトルが倒れていた。
「健一、もう六時半よ。今日はお父さんの手術説明でしょう」
「聞こえてる。あと五分」
「病院には九時半までに来てと言われているの。遅刻できないわ」
「美咲が先に行けばいいだろ。俺は直接、病院へ行くから」
「前にもそう言って、遅れてきたでしょう」
「今日は行くよ。何度も言うな」
健一は布団の中から手だけを出し、目覚ましを止めた。美咲は寝室のカーテンを開け、床に落ちていたワイシャツを拾った。袖口には薄い黒ずみがあり、ポケットには昨夜の居酒屋の領収書が丸めて入っていた。
「黒いスーツはクリーニングから戻っているわ。病院だから、今日はネクタイをしなくてもいいと思うけど」
「青いシャツは?」
「自分のクローゼットを見て。昨日、洗濯して掛けてあるから」
「出しておいてくれればいいのに」
「私も休暇を取るために、薬局へ引き継ぎの連絡をしないといけないの」
「一日休むだけだろ。大げさだな」
健一は欠伸をしながら寝室を出て、食卓へ座った。味噌汁を一口飲むと、ぬるいと言って電子レンジを指した。美咲が自分で温めるよう答えると、健一は不満そうな顔をしながら、アジの身を箸で乱暴に崩した。
「手術の説明なんて、美咲が聞けば十分じゃないのか?」
「家族として、あなたにも聞いてほしいの」
「薬のことなら、俺が聞いても分からないよ」
「薬だけではないわ。手術の方法や危険性、入院中のこと、退院後の生活についても説明があるの」
「それを美咲が聞いて、あとで俺に教えてくれれば済むだろ」
「私は、父の娘として説明を聞くの。薬剤師として代理出席するわけではないわ」
健一は納豆を混ぜながら返事をしなかった。食べ終えたアジの骨を皿の中央へ寄せ、味噌汁を半分残したまま立ち上がった。美咲が食器を流しへ運ぶよう頼むと、時間がないと言い、洗面所へ入った。
午前九時二十分、美咲は重雄と一緒に総合病院の循環器外科待合室へ座っていた。美咲は薄い水色のブラウスに紺色のロングスカートを合わせ、黒い鞄には手帳、筆記用具、重雄のお薬手帳、服用している薬をまとめた袋を入れていた。重雄は白いポロシャツに焦げ茶色のズボンをはき、普段は工場で使っている古い腕時計を何度も見ていた。
「健一君は、本当に来るのか」
「来ると言っていたわ。さっき駅に着いたと連絡があったから」
「無理に呼ばなくてもよかったんだぞ。仕事があるだろ」
「私にも仕事はあるわ」
「お前とあいつでは、立場が違うんじゃないのか」
「お父さんまで、そんなことを言わないで。私も正社員で働いているのよ」
「そういう意味じゃない。俺のことで夫婦が揉めるのは面倒だと言ってるんだ」
「手術を受ける人が、余計な気を回さないで」
重雄は小さく鼻を鳴らし、売店で買った水の蓋を開けた。飲み口へ唇をつけたものの、一口しか飲まずに鞄へ戻した。朝食をきちんと食べたか尋ねると、食パンを一枚とゆで卵を食べたと答えたが、美咲は父の家に卵がなかったことを思い出した。
「本当は何を食べたの?」
「バナナだ」
「一本だけ?」
「二本食べればよかったのか」
「食事の内容を責めているんじゃないの。薬を飲むのに、それでよかったのか聞いているの」
「だから、お前には黙っておきたかったんだ。何を食べても注意される」
「退院したら、栄養士さんの話も一緒に聞こうね」
「俺は病院へ住むつもりはないぞ」
重雄は口を尖らせたが、その表情は子どもの頃に薬を嫌がった美咲とよく似ていた。美咲が笑いかけたところで、廊下の向こうから健一が歩いてきた。薄い青色のシャツに黒いスラックスをはき、片手にはコンビニのアイスコーヒーを持っている。
「間に合っただろ」
「あと五分で予約時間よ」
「だから間に合ってるじゃないか。鈴木さん、今日は会社を抜けてきました」
「すまないな。忙しいところ」
「いえ。家族ですから」
健一はそう言って重雄の隣へ座ったが、すぐにスマートフォンを取り出した。会社のメールへ返信しているらしく、画面を指で素早く動かしている。美咲は家族という言葉が健一の口から出たことに引っかかったものの、診察室から名前を呼ばれたため、何も言わずに立ち上がった。
診察室には、循環器外科の森田医師と看護師が待っていた。机の上には心臓と血管の模型が置かれ、壁の画面には重雄の冠動脈を撮影した画像が映っていた。重雄は医師の前へ座り、美咲と健一はその隣に並んだ。
「検査の結果、心臓へ血液を送っている冠動脈の複数箇所に、強い狭窄が見つかりました。一本だけならカテーテルで広げる方法も検討できますが、鈴木さんの場合は範囲と場所から、冠動脈バイパス手術が適していると判断しました」
「胸を切るんですか」
重雄が、自分の胸元へ手を当てた。森田医師は模型を使い、狭くなった血管を避けて別の血管をつなぎ、心臓へ血液が流れる道を作るのだと説明した。手術時間、麻酔、入院日数、合併症の可能性についても、一つずつ話した。
「手術をしなかった場合は、どうなりますか」
美咲が尋ねると、森田医師は狭窄が進めば心筋梗塞を起こす危険があると答えた。薬で症状を抑える方法もあるが、重雄の状態では手術によって血流を確保する利点が大きいという。美咲は手帳へ医師の言葉を書き留め、分からない部分には印をつけた。
「現在、父は血液を固まりにくくする薬を飲んでいます。手術前の休薬は必要でしょうか」
「必要なものがあります。ただし、薬によって中止する時期が異なりますから、ご本人の判断では止めないでください。今日、具体的な一覧表をお渡しします」
「糖尿病の薬と、市販のサプリメントも持ってきました。こちらも確認していただけますか」
「ありがとうございます。入院時に病院の薬剤師が改めて確認しますが、今ここでも内容を見ておきましょう」
「以前、整形外科でもらった痛み止めを時々飲んでいるようです。お薬手帳には記載されていますが、本人が飲んだ日を覚えていません」
「お父さん、そんな薬まで飲んでいたの?」
重雄は椅子の上で小さくなり、腰が痛む夜だけだと答えた。美咲は鞄から透明な袋を取り出し、重雄の自宅から集めてきた薬を机へ並べた。開封した湿布、日付の古い鎮痛薬、名前の分からないサプリメントまで入っていた。
「この青い袋の薬は、もう期限が切れているわ。どうして取っておいたの?」
「また腰が痛くなったときに使えると思ったんだ」
「処方されたときと今では、体の状態も違うでしょう」
「捨てるのはもったいない」
「薬は佃煮じゃないの。冷蔵庫に入れておけば何年でも食べられるものではないわ」
重雄は不満そうに口を閉じたが、森田医師は親子のやり取りを見て穏やかに笑った。医師は薬を確認し、手術まで服用を続けるものと、決められた日から中止するものを一覧へ記入した。美咲は薬袋へ色分けした付箋を貼り、重雄にも一つずつ読み上げた。
その間、健一は膝の上へ置かれた説明書をほとんど開かなかった。スマートフォンが震えるたびに画面を確認し、ときどき時計を見る。医師から質問があるか尋ねられると、健一は説明書を一枚めくり、妻が分かっているので大丈夫だと答えた。
「健一、あなたも聞いて。手術当日は朝から家族の待機が必要なの」
「美咲がいるだろ」
「一人だけでなく、できれば二人で来てほしいと、今説明されたでしょう」
「会社の予定を確認しないと分からないよ」
「手術日は来月の十二日です。今なら休暇を申請できるでしょう」
「その頃はプロジェクトが忙しいんだ。簡単に休める立場じゃない」
「私も薬局へ休暇を申請するのよ」
「薬局はほかにも薬剤師がいるだろ。俺の仕事は代わりが利かないんだよ」
重雄は机の上に置かれた説明書から顔を上げた。健一は医師や看護師がいる前でも、自分の仕事と美咲の仕事には違いがあると考えていた。美咲は口を結び、手帳の端へ手術日を大きく書いた。
「佐藤さん、ご家族の仕事の調整もあると思いますが、手術中は連絡が取れる状態で待機してください。予定より時間が延びる場合もあります」
「分かりました。何とかします」
健一は医師には丁寧に答え、説明書を二つ折りにして鞄へ入れた。紙の端が折れ曲がっていたが、直そうとはしなかった。美咲は父の薬袋、手術の案内、入院申込書を種類ごとに透明なファイルへまとめた。
説明が終わると、三人は病院一階の食堂へ向かった。重雄は緊張が解けたのか、朝はバナナしか食べていないと言い、鯖の味噌煮定食を注文した。美咲は冷やしうどん、健一はカツカレーの大盛りを選んだ。
「手術をしたら、しばらく工場へは行けないのか」
「胸の骨が安定するまで、重いものは持てないと説明されたでしょう」
「機械を動かすだけなら、重いものは持たないぞ」
「材料を運ぶでしょう。勝手に工場へ行かないでね」
「納期があるんだ」
「命にも期限があるのよ。部品はほかの人へ頼めても、お父さんの代わりはいないでしょう」
重雄は鯖の味噌を箸の先で集めながら、返事をしなかった。付け合わせの冷えたひじき煮を口へ入れ、味が薄いと小さくこぼした。美咲が塩分を控えているのだと説明すると、重雄は病院は飯まで厳しいと肩を落とした。
「美咲、薬のことは全部分かったのか?」
健一がカツカレーを食べながら尋ねた。美咲はうどんの上に載った大根おろしを混ぜ、父の薬は一覧へまとめたと答えた。すると健一は安心したように水を飲み、これで自分が細かいことを覚える必要はないと言った。
「私に何かあったら、誰が確認するの?」
「何があるんだよ。お前は病院に慣れてるだろ」
「病院に慣れていても、家族の手術は別よ」
「鈴木さんも元気そうだし、大丈夫だろ。医者に任せるしかないんだから」
重雄は鯖の骨を皿の端へ置き、健一を見た。健一は視線に気づかず、スマートフォンで会社のメールを確認していた。美咲は冷やしうどんを半分ほど残し、ペットボトルの水で喉を潤した。
食事を終えたあと、美咲は会計と入院窓口へ向かった。重雄は病院の外にある喫煙所跡のベンチで休み、健一は少し離れた場所で電話をかけ始めた。相手は和子らしく、声の調子が急に柔らかくなった。
「母さん、説明は終わったよ。手術するんだって」
美咲が戻ろうとすると、重雄が目だけで健一のほうを示した。二人は声をかけず、ベンチへ座った。植え込みでは蝉が鳴き、消毒液の匂いが残る病院の出入口から、冷たい風がときどき流れてきた。
「俺? 手術の日は仕事があるかもしれないから、まだ分からないよ。美咲は休むってさ」
健一は自動販売機へ寄りかかり、靴の先で地面の小石を蹴った。和子が何か尋ねると、面倒そうに笑った。
「美咲は薬剤師なんだから、病院のことはあいつに任せておけば大丈夫だよ。俺が行ってもすることないだろ」
重雄の手が、膝の上でゆっくり握られた。町工場で四十年以上働いてきた指には、硬いまめと細かな傷が残っている。美咲は父が立ち上がろうとする気配を感じ、その腕へ手を置いた。
「お父さん、今は言わないで」
「なぜだ」
「ここで喧嘩をしても仕方ないから」
「お前は、いつもそう言って黙るのか」
「手術の前に余計なことを考えてほしくないの」
「余計なことかどうかは、俺が決める」
重雄は声を抑えていたが、握った拳はほどかなかった。健一の電話は続いており、和子から頼まれた買い物について話していた。手術の日と同じ週末に親戚が集まるため、酒を運んでほしいという相談までしている。
「分かったよ。車なら六本くらい運べるだろ。美咲は病院にいるんだから、俺がそっちへ行っても問題ないよ」
美咲の指が、父の腕から離れた。まだ手術日まで一か月あり、健一は会社の予定も決まっていないと言っていた。それなのに和子の用事には、すぐに応じようとしていた。
電話を終えた健一は、何事もなかったように二人の前へ戻ってきた。重雄は健一の顔を見たが、すぐには何も言わなかった。美咲が持つ透明なファイルへ視線を移し、薬の一覧がきれいに整理されていることを確かめた。
「美咲、父さんの薬は、お前がいないと分からないのか」
「一覧を見れば分かるようにしてあるわ。赤い付箋は、先生から指示された日に中止する薬よ」
「健一君でも分かるか?」
「それくらいなら分かるでしょう」
重雄が健一へファイルを差し出すと、健一は手を出さなかった。美咲が持っているのだから、自分が受け取る必要はないと言い、先に駐車場へ向かった。重雄は差し出した手をゆっくり下ろした。
帰りの車では、健一が運転席に座り、美咲と重雄は後部座席へ並んだ。車内には人工的な柑橘系の芳香剤と、健一が食べたカレーの匂いが残っていた。助手席には会社の資料やコンビニの袋が積まれ、重雄が座る場所を確保するため、美咲が後ろへ移した。
「鈴木さん、手術の日は、美咲がちゃんと付き添いますから安心してください」
信号待ちで健一が言った。重雄は窓の外を見たまま、すぐには返事をしなかった。やがて作業着ではない白いポロシャツの胸元を整え、低い声で尋ねた。
「美咲が病院に詳しくなかったら、君が来るのか」
「え?」
「娘が薬剤師でなければ、仕事を休んで手術に付き添うのかと聞いている」
「それは、そのときの状況によりますよ。今は美咲がいるんだから、わざわざ二人で休む必要はないでしょう」
「美咲は薬剤師である前に、俺の娘だ」
「分かっていますよ」
「分かっている人間は、娘一人に父親の手術を背負わせない」
信号が青に変わり、後ろの車から短くクラクションを鳴らされた。健一は舌打ちし、急いでアクセルを踏んだ。重雄はそれ以上話さず、窓の外を流れる古い商店街を見ていた。
重雄の家へ着くと、美咲は薬を曜日ごとのケースへ分け、冷蔵庫の扉へ服用表を貼った。台所には朝に使った皿が一枚残り、流しの脇にはバナナの皮が置かれていた。重雄が二本食べたように見せるため、古い皮まで捨てずに置いたのではないかと気づき、美咲は思わず父を見た。
「一人で抱え込むなと言ったお父さんが、こんなことをするの?」
「一人暮らしが長いと、バナナの皮を捨て忘れることもある」
「二本食べたふりをしたでしょう」
「細かいところまで見るな。職業病だぞ」
重雄は台所の椅子へ座り、湯飲みに残っていた冷たい麦茶を飲んだ。美咲は新しくお湯を沸かし、急須へほうじ茶を入れた。茶葉の香ばしい匂いが、古い家の台所へ広がった。
「美咲」
「何?」
「健一君は、お前が薬剤師だから安心しているんじゃないな」
「どういう意味?」
「自分がしなくて済むから、お前の資格を使っている」
「そんな言い方をしないで。健一も仕事が忙しいのよ」
「お前の仕事は忙しくないのか」
「それは……」
「資格を尊敬している人間なら、お前の仕事を自分の仕事より下だとは言わない」
美咲は急須から茶を注ぎながら、手を止めた。湯飲みの縁まで入った茶が一滴こぼれ、木のテーブルへ丸い染みを作った。重雄は布巾でそれを拭き、何度も折りたたまれた手術説明書を見た。
「俺の手術で、お前の家庭を壊すつもりはない」
「お父さんのせいではないわ」
「なら、誰のせいだ」
「まだ何も壊れていない」
「壊れていないものを守るために、お前はそんな顔をするのか」
美咲は答えられず、薬の一覧をもう一度確認した。重雄はそれ以上問い詰めず、戸棚から丸い煎餅の缶を出した。蓋を開けると、醤油煎餅が二枚と、いつ入れたのか分からない飴が三つ残っていた。
「煎餅、食べるか」
「お父さんは塩分を控えないといけないでしょう」
「お前に食べるかと聞いている」
「一枚だけもらう」
「二枚しかないのに、一枚も持っていくのか」
「だったら最初から聞かないでよ」
重雄はようやく少し笑い、煎餅を一枚ずつ分けた。美咲が袋を開けると、乾いた醤油の匂いがした。二人は古い台所で煎餅をかじり、健一が車を発進させる音を聞いた。
その夜、美咲は自宅へ戻ると、透明なファイルを食卓へ置いた。健一はソファでテレビを見ており、手術説明書を読む様子はなかった。夕食には重雄からもらった茄子を焼き、生姜醤油をかけたが、健一は肉がないと不満を言った。
「手術当日、本当に来られないの?」
「まだ分からないって言っただろ」
「お義母さんには、お酒を運べると答えていたわね」
「聞いていたのかよ。親戚が集まるんだから仕方ないだろ」
「お酒は別の日にも運べるわ。手術はその日しかないのよ」
「お前がいるんだから問題ないだろ。何のために薬剤師をしているんだ」
美咲は焼き茄子を箸で割った。中から熱い湯気が上がり、生姜の匂いが鼻へ届いた。健一は自分の皿に残った茄子を美咲の皿へ移し、冷蔵庫にハムがないか尋ねた。
「私が薬剤師でなかったら、来てくれるの?」
「また鈴木さんと同じことを聞くのか。親子で面倒くさいな」
「答えて」
「仮定の話に答えても意味がないだろ」
健一はテレビの音量を上げ、それ以上の会話を拒んだ。美咲は食事を終えると、父の手術日と薬の休薬日を自分の予定表へ書き写した。その横へ、健一が手術日の同席を約束しなかったことも記録した。
小さな手帳には、義実家で席がなかった日、SNSへの投稿を責められた日、そして今日の出来事が順番に並んだ。美咲は最後に、病院の外で聞いた健一の言葉を書いた。『美咲は薬剤師なんだから、病院のことは任せておけば大丈夫。俺が行ってもすることはない』
書き終えたとき、寝室から健一の声がした。
「明日のワイシャツ、出しておいてくれよ」
美咲は返事をせず、手帳を閉じた。健一が任せているのは、父の薬だけではなかった。家事も、義母の世話も、夫婦の約束を破ったあとの始末も、すべて美咲が黙って片づけるものだと思っていた。




