秘め事
数十年前
人間は魔の者と呼ばれる生き物ーーー魔物、魔獣、魔族に恐れながら生きていた。
しかし希望はあった。
魔の力が蔓延る時、それに相対する精霊族が現れるという伝説があるからだ。
彼らは人間の姿だが身体能力が高く、精霊から特別な魔法力を与えられるという。
能力のピークに達するとそこから不老となり、長い年月を生き、世界の安寧をもたらすと記されている。
その伝説が本当だと人々が信じ始めたのは、光の精霊の力を持った少女の存在が世界中を駆け巡った時だった。
それから数年後、精霊族を支持し魔の者を打ち倒す同志が集まる拠点が出来上がっていた。
拠点を牽引する精霊族は二名。
一人は生まれながらにして光の精霊の力を持つ女性、名は『スイ・レン』
外見は十七歳前後で、そこからは、あまり成長変化が見られていない。
精霊を崇拝する地域の出身で、魔法力が高く、魔法使いの特別最高位の称号を持っている。
もう一人は空の精霊の力、雷の魔法力を持つ剣士で、名は『レオンハルト』
外見は二十歳頃で、昨今もゆっくりではあるが成長変化が見られている。
幼い頃の記憶を無くしており出身は不明だが、人当たりも良く腕は確かな好青年だ。
拠点の人数は決して多くなかったが、同志が集い体制を整えるのに忙しい日々を過ごしていた。
ある日、村が魔の者に襲われていると、救援を求める伝書が届いた。
知らせを受けてレオンハルトとスイが赴く事になったが、どれだけ急いでも村へは三日程かかってしまう。
一刻も早く到着する為にスイの転移魔法を使用し、村の近くの小さな教会に到着したのは、報告から半日後だった。
「暑いな……」
村までの道中にレオンハルトは空を仰いで無意識に首元の襟に指を触れた。体躯に沿った灰色の服は動きを阻害しない為、戦闘時には都合が良いのだが、集中していない時は気になって良く指を運ぶ。軽装とはいえ肩や胸に防具が付いているので尚のこと暑さが増す。許されるならマントだけでも外したいものだ。
(風でもあればマシなんだけどな)
胸中で愚痴を言っても風は少しも起こってくれない。
周囲の木々は緑濃く葉を広げ、強い陽の光が降り注ぐ。湿度も気温もとても高い気候だ。
少し後ろを歩くスイの様子を伺いみると、高い位置で結った髪が涼しげに揺れ、纏う絹の衣と純白のローブは光の祝福を受けたように輝いて見えた。
彼女の周りだけ気温が低く見えて、レオンハルトは人知れずため息をついた。
数十分歩いて到着した村の入り口では、周辺の町から駆け付けた兵士が救助活動をしていた。
村は無残な姿になっており、未だ所々に煙が燻っている。村を囲む森の木々は数メートルに渡って倒されていて、広範囲の破壊の跡が見て取れた。
二人はその現状に、何とも言えない違和感を覚えていた。
魔の者が村を襲っていると聞いた限り、着くなり戦闘となる事も想定していたが、村の様子は想定より随分落ち着いていた。
魔の者は去ったのだろうか?
それとも予想より簡単に討伐が済んだのか?
様子を観察している二人に気がついたらしい、兵士の一人が駆け寄って来るのが見えた。
「お待ちしておりました。その出立ちは精霊族のお二人ですね」
「はい。私はレオンハルト、こちらがスイ・レンです。一報をいただき参りました」
「ありがとうございます。お会いできて光栄です」
「早速ですが、現在の状況を教えて下さい」
「私どもは、火の手を確認し直近の町より駆けつけました。現在はほぼ鎮火、救助活動を行なっています」
レオンハルトはもう一度、村に目を向けた。
どう見ても争いの気配がない。
確かに何か大事があった跡には間違いないが、火種の燻りや焼けた後があれど、建物の大部分が焼け落ちているわけでもない。
襲われた後ならば、特有の混乱の跡があるはずなのだが、それが殆どないのだ。
「何かに襲われたというには違和感があるわね」
スイが言葉にしたので、レオンハルトも同意だと頷いた。
「一先ずこの辺りは危険はなさそうだ。そのまま救助を続けてもらって、俺たちは村の中を見に行こうか」
「そうね…報告では魔の者がいると聞いていたんだけど、間違いかしら?」
スイに問われて、兵士は少しまごついた。
「いえ、間違いはないです…実は、原因と思われる魔族…と思しき存在を村の中心辺りで拘束、捕らえております」
言葉を聞き間違えたかとレオンハルトは思わず聞き返す。
「魔族を捕らえている?」
「はい。本来、魔族であるなら、私どもでは太刀打ちできないですが……あの魔族は争うどころか抵抗すら無いまま魔力封じの手枷と足枷を受け入れました。ただ、捉えたもののどう扱えば良いのか分からず、便りを飛ばした次第です」
レオンハルトとスイは顔を見合わせた。
「情報ありがとうございました。中心部へ向かいます。案内は要りませんので、役目に戻って下さい」
「承知しました。どうぞお気をつけて」
兵士が戻るのを見届けると、二人は村の中心地へと足を進めた。
ご一読ありがとうございました。
次は近日中にUPいたします。




