秘め事 4
レオンハルトが大神殿に到着したのは、村の一件から十三日後だった。
司祭エリアスに状況を聞き、急ぎ聖域のドアを開けると、スイが彼の状態を確認しているところだった。思わず数秒、動きが止まる。細い肩越しに彼と自分の視線が合ってしまったのは、二人に目が奪われていたからに他ならない。
「意外と早かったわね」
振り返ったスイの言葉に我を取り戻し、レオンハルトはいつもの調子を取り繕う。
「話は聞いたよ。また思い切った事を始めたね。相談くらいしてくれても良かったんじゃないか?」
「そうしたら絶対に反対したでしょ」
「スイの負担を考えれば…まぁ、当然だな」
会話の最中に精霊水から上がったスイの背に自分のマントをかける。
「少し疲れが見えるよ、休んできて。話はまた後で」
「ありがと」
小部屋にスイを送り届けてしばらくの後、レオンハルトは部屋から持ち出した椅子をエーテル・フォントの側に置いて腰を下ろした。
「魔族じゃないんだって?」
真正面の彼に問いかけると「ああ」とだけ短い返事が返ってくる。
この部屋のせいか、闇落としのせいか、声が幾分弱くなっているように聞こえた。
「最初に言えよ。というか、説明不足が過ぎるだろう。殺しかけたじゃないか」
「今ここで殺してくれてもいいが」
「この聖域で剣を振れっていうのか?冗談だろ」
「元聖騎士には荷が重いか」
「どうしてそれを」
「あの女、聞いてもない事を喋りすぎる。もう少し口を閉ざすことを学ばせたほうがいいぞ」
「……」
「ちなみにお前が精霊の力を持ったから称号を剥奪された事も聞いている」
「……何故俺の話を」
「その時の惚気話に一番うんざりしたが」
「惚気…、いや、あれはそういう意味合いの話じゃなくて……」
レオンハルトは居心地悪そうに後頭部をかいて顔を背けた。彼はそれを冷ややかな目で眺めて嘆息する。
「機嫌は治ったか?距離が近いのは状況故だ、いちいち気にするな」
「余計なお世話だ」
部屋に入った時の事を蒸し返されて、レオンハルトは少し不機嫌さを見せた。
すぐに大きく息をついて、姿勢を正す。
「俺は、お前の話をしに来たんだよ。お前の事は精霊族が責任を持って、もう二度と村に近づけないと話を付けてきた。問題ないな?」
「ない」
「それから、俺が村から立とうとした時に十歳位の子供が飛び出してきたんだ。俺にしがみついて離れようとしなくてさ。宥めてる最中に、村の人たちが俺から子供をやけに急いで離そうとしていることに気がついた」
「……」
「話を聞けば、少年は魔族に騙されて取り込まれかけていた、まだ混乱している。と言う事だった」
しかしそれは、村人が言う魔族と対峙したレオンハルトにとって違和感がある発言だった。
彼と兵士達の力の差は明らかだった。なのに彼は兵士たちの言うままに枷をつけていたし、暴れてもいなかった。そもそも、仮に本当の魔族で何か目的があったとしても、子供を取り込むなんて遠回しな事をする確率は極めて低い。
「その子供に、本当かと尋ねても返事をしない。親が宥めて肩を引くと、俺を掴む力が強くなるんだ」
レオンハルトは彼の表情を観察しながら言葉を続ける。
「知っているよな?テオという少年だ。村の大人達に止められていたが、もう一人、テオと幼馴染のハンナという少女も何かを言いたげにこちらを見てた」
彼は首を上げてこちらを注視していた。この情報を待っていたのだとわかったが、気がつかない振りで言葉を続ける。
「先に伝えておこうか。お前の起こした爆風で殆どの建物が崩壊したって言うのに、テオとハンナの二人だけ無傷だったよ。そして死者は一人も出なかった」
彼が小さく息をついたのが分かった。安心したのだろう。レオンハルトは得心がいって口元を緩めた。
「俺は二人を預かることを申し出た。村の人達は乗り気じゃ無かったが、スイの力で魔族から解放できると伝えると、反論を失ったよ。意義を唱える理由が無いからな」
「俺はあの二人には何も……」
「わかってるよ。ここに来るまでに、二人からお前との経緯を全て聞いてきた……酷い話だった」
レオンハルトは最後の言葉に強い嫌悪感を滲ませた。
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