第38話 純粋無垢を護らねば!(リン視点)【終】
「好きです付き合ってください!」
「どうぞ~こちら"好きです付き合ってください"ですよ」
キッチンカーに並ぶ学生の列、いちご大福パンを受け取った男女二人は半分に分け合いながら後を去っていく。
人気メニューのいちご大福パン"好きです付き合ってください"は今日も大反響。
高校の卒業式で、最後の日だからと告白しまくる学生ちゃん達。
カップルがたくさん居た高校の食堂前を借りてキッチンカー営業よ!
……そう、カップルが《《居た》》の。
学生ちゃんのカップルは中々続くものじゃなくて、別れちゃったカップルが大半。
告白しそびれた恋する学生ちゃん達は、今日の卒業式当日に勇気を振り絞って告白するも、ごめんなさいと返ってくるばかりの悲しい展開が待っているわ。
つまり"好きです付き合ってください"はキューピーの役割から、別れを辛くならないような慰めとして機能しているの。
「ねえランちゃん、いちご大福にうさぎちゃん描くの疲れたでしょ? そろそろ私も手伝うわ」
それはそうと。
チョコペン二刀流でいちご大福パンにイラストを描いているランちゃんに、今日も今日とて癒しを貰っているわ。
「ダメなの~リンは絵がヘタクソなの。うさぎじゃなくて可哀想なうさぎになるなの」
私に向けられる、ランちゃんの無垢でイタズラな笑顔が眩しい!
そんなランちゃんは、でも……と言いながらチョコペンを渡して来るわ。
「ヘタなリンの絵も私は好きなの。しょうがない、疲れちゃったから代わりに描くなの」
やったわ!
今日は私もお絵描きし放題よ!
ランちゃんに代わっていちご大福にチョコペンを走らせる。私の芸術魂が再燃して来たわ、これは行ける!
「あの、好きです付き合ってください!」
あ、早速いちご大福パンの注文が入ったわ。私の芸術お馬ひつじちゃんに息を飲むがいいわ!
「リン、なんで馬羊を描いてる時だけ熱くなるなの。リンはもうちょっと凛としてるキャラなはずなの……いや、意外とおばちゃん要素もあるからそんなこと無かったなの」
自己完結したランちゃんは置いといて、お客さんにいちご大福パンをお渡しするわ。
「はいどうぞ~こちら"好きです付き合ってください"ですよ」
大福パンを受け取った少年は代金を払いながら照れくさそうにモジモジし。
「……あの、その、本当の告白なんです! 卒業式なので、改めてこの気持ちを伝えたくて」
告白!?
……去年この学校でキッチンカー営業してた時に告白した子ね、思い出したわ。
「あー! リンには彼氏がたくさんいるなの! 百人いるなのー! もう次の人に譲るなのー!」
「流石に嘘がバレバレよ?」
「やっぱり空気読めないなの!」
にしても二度目の告白をされるなんて……この子、只者ではないわ!
「ごめんなさいね、私付き合っている時間がないの。まだまだ忙しい日々が続きそうでね」
「そ、そうですよね……はは」
落ち込んじゃうかと思ったけど、告白ボーイの表情は清々しいものだったわ。
自分の気持ちをハッキリ伝えることはいいことだもんね!
「プレゼントは無いなの?」
ランちゃんが突拍子もなくそんなことを言うわ。
プレゼント、一度目の告白の時に貰ったミニサイズ千手観音ね!
「すみません……今回は持ってきて無くて」
「全然いいのよ。プレゼントはその行動に意味があるの、気持ちだけでも私はとっても嬉しいわ!」
私の言葉に少年は笑顔になるわ。でもちょっと申し訳ないわね、プレゼント期待しちゃった感があって。
そうだわ、プレゼントと言えばアレがあるじゃない!
私は飾ってある千手観音の隣に並ばせていた像を、手に取って言うわ。
「……お客さんお客さん、この像の名前なんでしょう」
「ぅええ!? な、なんですかそれ」
「ブブーなんですかそれじゃないですよ~象の神様ガネーシャでした~」
お父さんからお土産で貰ったガネーシャのミニ像よ!
「リンは像で遊ばないなの! 千手観音の二の舞なのー!」
えへへ、このツッコミもどこか懐かしいわね。
ガネーシャも私達と戯れることが出来て楽しいはずだし、問題無いわよね?
「この像を、特別にプレゼントしちゃいます!」
「おお、良かったねなの、リンからの像のお返しプレゼントなの」
プレゼントを受け取った告白ちゃんは、ありがとうございますッとお礼をするわ。
とっても嬉しそうで私も嬉しくなっちゃうわ!
「そこはなんで像なのと困惑するところなの……本当に喜んじゃってるなの」
いちご大福パンとガネーシャ像を大事そうに抱えて、告白ちゃんはありがとうございましたとお礼を重ねて去って行くわ。
お礼を何度も言える人は素敵ね!
「ガネーシャ像はいいお引越しが出来たわね」
「全くそうなの、危うくリンの胸の谷間にまたお引越しするところだったなの」
ランちゃんが私の胸をガン見しながらそう言うわ。
ガネーシャ像に特等席気分を味あわせてから渡した方が良かったかしら?
「ま、千手観音が代わりを担ってくれるわ」
ほら、この通り、千手観音が私の胸から高みの見物しているわ。
「自然に谷間に挟むじゃないなの! 仏像が圧で壊れちゃうなの、苦しい~ってうめき声が聞こえてきそうなの」
千手観音をお引越ししたこのタイミングで、列の先頭に来た絶滅危惧種カップルちゃんが不思議そうに千手観音に視線を向けるわ。
男の子が、まただ……と呟いていると。
「ちょちょっと正樹君! どこ見てんのよ! ……うッ……私、失望したわ! やっぱり正樹君は大きい方が好きなのねええええええ!!!」
泣きながら叫び走り出す女の子を違う誤解だと追う男の子。
大きい方?
今が旬のいちごが冬に比べて大きいからかしら?
「ただでさえカップルお別れラッシュな今に、余計なことをするななの! 早く仏像を胸から出すなの!」
千手観音を抜き取って元の位置お引越しよ。
……あ、そういえばガネーシャが居た場所に寂しい空間が出来てしまったわね。
千手観音のお友達が減ってしまって可哀想。
ここで機転を利かすのよリン、千手観音菩薩の寂しい気持ちを晴れやかにしてあげるのよ!
「ランちゃん大至急よ、私の後ろに回ってほしいの」
「またなの? 後ろに来たけどこれでどうするなの? ぶ~らぶら~するなの?」
去年は私の後ろで手を上下ぶ~らぶら~してもらい、千手観音に成りきったけど、今回は違うわ。
「両手に泡立て器とフォークをそれぞれ持って、両手を上に挙げるようにして構えるのよ」
「言う通りにしたなの。なんだかぶ~らぶら~が恋しいなの」
準備は万全よ!
私は列に並ぶ学生ちゃんに自信に満ちた笑顔を決め込む。
「お客さん見てください、私ガネーシャになりきれてますか?」
お客さんは私に笑顔で応答するわ。
「手に持ってる泡立て器やフォークが、ガネーシャが持ってる斧とか壺っぽく見えます! あと前の方の片手に団子っぽいものを持てば完璧です!」
「いちご大福パンを左手に持って、右手を待てのポーズをして……これがガネーシャ完全体!」
これで千手観音を励ますことに成功したわね!
遠くに旅立ったガネーシャの代わりに私達が傍に居るわ!
満足する私に、後ろで両手を挙げてるランちゃんがプンプン怒るわ。
「手が疲れて来たなの。ぶ~らぶら~させて疲れを誤魔化さないと限界なの!」
「後ろで速く手をぶ~らぶら~させたらガネーシャじゃなくて千手ガネーシャになるわ! あ、正確には千二本の腕が」
「もういいなの! ……もうもうなの」
ランちゃんは呆れながらそう口にするも、どこか楽しげな様子。
私はランちゃんやお客さんを困らせちゃう行動をよくしてしまうけど、皆が笑顔に、楽しい思い出の一ピースになるのであれば、己を貫き通すわ。
「ふふっありがとうね、ランちゃん」
「急にどうしたなの。へへ、どういたしましてなの。リンの為なら私は何だってするなの、リンの純粋な笑顔を護るのが私の役目なの。もちろんお客さんの笑顔もなの」
ランちゃんへの感謝の思いは、ありがとうだけじゃ収まりきらないわ。
だから私は、ありがとうの言葉に加えて、行動に移すの。
「ランちゃんが私の純粋を護ってくれるんだったら、私はランちゃんの無垢を護らないとね!」
「ふーん、じゃリンと二人で、純粋無垢を護らねば! ってやつなの。笑顔はこうして護られたなの」
高校の卒業式、桜の花びらが風に乗って舞う中、私達のリン×ラン×キッチンカーの周りに笑顔が咲く。
笑顔の花は、ランちゃんのおかげで咲かせられたの。
だって、私達二人揃ってのキッチンカー日常だもの。
……ランちゃんだけじゃないわ。
マコちゃんも、モカちゃんも、ミキちゃんも、たくさんのお客さん達が護り護られて来た。
お客さんに届けた笑顔は、私達にも返っていたのね。
「ランちゃん、今日は桜がとっても綺麗ね!」
「卒業式に相応しい彩りなの。リン、頭に桜の花びらが乗ってるなの。全く、お花見の時と言い桜に愛された女なの」
「そう言うランちゃんにも花びらが乗ってるわよ?」
「ええっ……リンとお揃いなら良いなの。アクセサリーなの」
「ふふ、似合ってるわよ」
「なんだか照れるなの、あ、お客さんもクスクス笑うななの! はい、ご注文の"好きです付き合ってください"なのー!」
キッチンカー日常、お客さんに笑顔を届ける楽しいお仕事生活は、純粋で無垢な私達の大切なものよ。
そう、私達はこれからも、純粋無垢を護らねば!
~終~




