第36話 お花見を護らねば!前編(ラン視点)
「昇天カステラMAX盛りをひとつ」
「はい、こちら"昇天カステラMAX盛り"なの~」
カステラが大量に積み上がったパフェを受け取ったお客さんは、嬉しそうに持ち帰って行くなの。
今日はお花見会場でキッチンカー営業。
リンが思い付きで考案したカステラと生クリームを盛りに盛ったパフェが売れ行き絶好調なの。
日本に来てそうそう新メニューを考えたリンは流石なの。
「桜がとっても綺麗ね~」
「リンは花よりお団子だと思ってたなの」
「花も好きだけど、もちろんお団子も好きよ?」
そう言って笑顔を振りまくリン。
リンと冬の海ではしゃいだあの日以降、リンの純粋な笑顔が戻ったなの。
身体を張って風を引いた甲斐があったなの。
そう、あの後リンと仲良く風邪を引いて、実家でぬくぬくと過ごしていたなの。
久しぶりに会ったお父さんとお母さんに心配されたけど、無事完治して、こうしてキッチンカー営業を再開出来たなの。
キッチンカー営業の話も、お父さんとお母さんにいっぱい話したなの。
応援してるって言われたなの。
やっぱり、初めは心配だっただろうし、私も心配かけまくりで申し訳なかったなの。
でも、もうそんな後ろめたさもなく、キッチンカー営業ができるなの。
「いや~また一緒にキッチンカー出店出来るとは思ってなかったわ~! な? もう一度いちご春巻き食べたいんだけど作らへんの?」
隣に止めてあるキッチンカーから顔を出してそう言うのは、キッチンカーフェスでリンにジャンケンで勝ってた関西人なの。
お花見会場で偶然同じタイミングで出店してたなの。
「実はこの日の為にいちごを仕入れて来たのよ! たくさんいちご春巻きが作れるわ!」
「ホンマに? やったー!!!」
リンの言葉に大興奮な関西。
また試食でタダ食いするのはもう辞めるなの、ちゃんと買って食べるなの。
「いちご春巻きもそうだけど、関西ちゃんのクレープもまた食べたいな~。もらった大きなクレープも、ミニクレープも美味しかったわ!」
「懐かしいなの、抹茶クレープ食べたいなの」
「嬉しいなあ、そんな褒められたら食べさせたくなるわ……へへ」
照れ隠しに手に持つ泡立て器をクルクルと回す関西。
全く照れを隠せてない、わかりやすいやつなの。
試食でリンは二個ミニクレープ食べてたし、私もミニクレープをたくさん食べたいなの。
いちご春巻きを食わせるからミニクレープ寄越せなの。
「クレープ……いいですね、私もひとつ自分へのご褒美に買おうかな」
桜をぼーっと眺めながらそう言うのは、ブルーシートの上でくつろぐマコなの。
脱力して虚無な目をしている姿は屍そのもの。死体が優雅にお花見とは洒落てるなの。
マコは私達がキッチンカーでここに来る前から居たなの。
つまり、朝早くから一人陣取りしてたなの。流石マコ、ぼっちの鏡なの。
「ぐへあ~! マコち~ん! 私にもクレープ奢ってよお~!」
「誰の為に私が身体を張って朝から暇してたと思ってるんですかあ!」
ブルーシートの上でくつろいでいるのはマコだけじゃないなの。
マコにぼっちで陣取らせて、お昼頃ビール缶を片手にノコノコやって来た鮭川警視長。
酒カスが顔を真っ赤にして出来上がってるなの。
「ばばーんッ! 皆で王様ゲームやろ~!」
早速酒カスばばあが何か言ってるなの。
王様ゲームって何なの?
けどこれだけは分かる、超面倒くさそうなの。皆とか私達を巻き込むななの。
「ハハッー! 王様ゲームッ面白そうだな!」
「マ、マコを好き勝手出来るチャンス……! この気を逃してたまるか!」
王様ゲームの単語に敏感に反応する二人は、モカとミキのうるさい姉妹なの。
ミキは私達の両親が海外に行ってきたお土産目当てで来てるなの。モカはなんかついでに居るなの。
ちなみにお土産は人の形をした象の置物、千手観音と並んで宗教系のミニ像なの。
そんな謎チョイスを貰ったミキは、すんごい複雑な顔をしていたなの。
この謎チョイス、流石リンの親なだけあるの。
そういえば、リンが、垢の胴体とたまたま居た象の首を繋げて誕生した神様なのよ~とか言ってたけど、垢ってあの垢なの?
垢と適当な象で出来た神様って一体どんな神様なの。誕生秘話が可哀想なの。
「王様ゲームはくじを引いて、王様になった人がランダムな人に命令するの。その命令は絶対守らなくちゃいけない、ハラハラドキドキのゲームよ!」
はてなを浮かべていた私に、ご丁寧にリンが説明してくれたの。
そんな闇のゲームをよくやろうって考えるなの、頭がアルコールで壊れちゃた鮭おばは手に負えないなの。
……え?
これは私も混ざってゲームする流れなの?
で、見事に流れちゃったなの。
王様ゲームの為だけに、キッチンカーの休憩時間を浪費するなんて……ついてないなの。
ブルーシートの上に集まったイカれたメンバーは、
私、リン、マコ、モカ、ミキ、鮭おば、関西、そして。
「我は漆黒の覇者、少女と花を愛でる少女アンリ! 我も汝らと王様ゲームとやらで戯れようじゃないか」
包帯をぐるぐるに巻いた両手でザッと決めポーズしながら呪文を唱える、かつてリンにジャンケンでフルボッコにされた漆黒オーラの女の子が居るなの。
リンにちゅうにびょうちゃんって愛称で呼ばれる包帯女、なんでお前がここにいるなの。
「なんで我がここに居るのかって顔をしているね。もちろんジャンケンをリベンジにしに来たのさ」
「残念だけど、王様ゲームはジャンケンじゃなくてくじで決めるなの。その固く握った拳も意味をなさないなの」
「……そうか」
あ、また漆黒のオーラが覆ってるなの。
無駄に凝ったエフェクトで落ち込んじゃったなの。元気だせなの。
「ふへへへ~じゃ王様だ~れだするぞ~!」
酔い潰れかけてる鮭おばが仕切るなの。表情が変態そのもの、おばさんと言うよりおじさんみたいなノリで困るなの。
皆で仲良く、せーのでくじを引くなの。
「あ、私が王様みたいね!」
豪運なリンが王様スタートなの。
リンのことだから、とっても素敵な命令をするだろうなの。
こう、皆が笑顔になるような……
「番号が一番の子と三番の子が、恵方巻きゲームするのよ!」
忘れてた、リンは無茶ぶりを好むお調子者だったなの。
恵方巻きゲーム、節分の日にリンと二人で恵方巻きを食べたやつなの。
三月でもリンの頭は節分気分でお花畑。
花は桜だけにするなの。
「一番は私よ。ねえ、恵方巻きゲームって何?」
一番はミキ。
そして犠牲者の三番は。
「ご、ごめんなさいミキさん、相手がわたしで……」
いつもハズレくじなマコなの。
「こんな時の為に恵方巻きは用意してあるわ! 今回はサーモンといくら、アボカド入りの恵方巻きよ!」
良かったねマコ、美味しい恵方巻きをタダ食い出来るなの。
さあ、二人で咥えてさっさと済ませるなの。
恵方巻きゲームを目撃済みのマコは、恵方巻きを咥えてミキに向けるなの。
「え、え? これってあれ? ポッキーゲーム的な? 嘘っ」
「そうれふよ、ふぁあふはえてふははい」
何言ってるか分からないマコに、目にハートを浮かべながら『はいっ食べます♡』なんて言うミキ。
全く……幸せそうでなによりなの。
恵方巻きの端と端を咥えて食べ進める二人は、お互いに顔が近づいて行くなの。
あれ、ミキの様子が変なの。
顔から煙がものすごい出てるなの、あ、ヒートしちゃったなの。
「ああああああああぁぁぁ耐えられないいいぃぃぃ!!!」
ミキは右手を振りかざし、マコの頬を思いっきりビンタするなの。
ああ、限界が来ちゃったなの。
辺りに響くベチンッの音、周りにいる人がこちらを見て心配そうにするなの。
気にしないで、マコは何度ビンタされようが復活するなの。鉄のマコ無敵のマコなの。
「そ、そんなにわたしが嫌でしたか……」
「え!? ち、違うの! これはその……違うの!」
涙ぐむマコ。
身体は丈夫だけど心はお豆腐メンタルだったなの。
「むはぁ~気を取り直して王様決めるぞお~!」
酒臭い鮭カスが空気を断つなの。
飲んだくれてる大人がまともに見えるのはなんでなの。
王様だーれだって声に合わせてくじを引くなの。あ、私のくじ棒の先端が赤く染まってるなの。
「やったわねランちゃん! 王様になったわよ!」
「や、やったー?」
正直喜ばしいことか分からないなの。まあ、命令されるよりする方が安全なの。
じゃ、遠慮なく王様するなの。




