第33話 回転寿司を護らねば!(リン視点)
ランちゃんと師匠モカちゃんの熱い戦いを繰り広げた日から数日。
「さあどんどん頼んでくれ!」
「お姉ちゃんの財布をすっからかんにするのよ!」
「頼むなの~」
今日は師匠とミキちゃんと一緒に回転寿司に来ているわ!
ランちゃんは回転寿司なるものが初めてみたいで、今日という日を待ち侘びていたわ。
お客さんに、明日回転寿司に行くなの~羨ましいでしょなの~って自慢するくらいよ。
「サーモン、いくら、甘エビ、マヨコーンを頼むなの。リンは何頼むなの?」
「どうしようかな~じゃとろびんちょうを」
「うんうんなの」
「十皿頼もうかしら」
「十皿なの~……十皿!?」
ランちゃんが驚愕の顔でくわっと私の方を向くわ。
師匠がじゃんじゃん食べていいって言ってたから大量食いする予定だったんだけど、自重のない行動だったかな?
「ランちゃんにとろびんちょう分けてあげるわ。美味しいわよ!」
「よ、喜んで貰うけど……リンは十皿も食べれるなの?」
「余裕のよっちゃんよ!」
私は自分のお腹をペシィと叩いてアピールするわ。
こう見えて私は人前より食べれちゃう口なんだから。
「その意気だリン君ッ百皿でも千皿でも食べてくれ!」
「お姉ちゃんの財布の紐はゆるゆるよ、淫乱女の底力を見せる時!」
お腹アピールを目にしたモカミキ姉妹は、目に炎を宿してそう言うわ。
応援されちゃ頑張らないとね!
あ、そうこうしてる間にお寿司が来たわ。
レーンの上をエンガワやサーモンが走って来るのは、新鮮で面白いわね。
ランちゃんはこの光景に大興奮!
「新幹線みたいなの! 回転寿司じゃなくて新幹線寿司なの!」
「最近はレーンでお寿司を回転させてないところが多いものね。新幹線寿司はあながち間違ってないわ」
目をキラキラしっぱなしのランちゃんは、サーモンを師匠から受け取ってテンションMAXよ。良かったわね!
そんなランちゃんに師匠が一言。
「サーモンで、さあモンリモリ食べろってな!」
「……」
ふふっ師匠のダジャレはいつ聞いても最高ね!
あれ、さっきまではしゃぎにはしゃいでいたランちゃんが嘘のように大人しくなっちゃったわ。どうしたのかしら。
そんなランちゃんを気にかけたミキちゃんは、エンガワを食べながら言うわ。
「気にしないでラン、お姉ちゃんの言葉は全て無視していいから」
なんて無慈悲な妹ちゃん!
お姉ちゃんが可哀想よ!
ランちゃんもそうだったなの~って言いながらサーモン食べてるし……
あ、ミキちゃんがエンガワをランちゃんにあーんしてるわ!
私もランちゃんにお寿司あーんさせたかったのにー!
「ん~美味しいなの~。海に逃がしたカレイのマコは元気にしてるかな~」
「カレイを食べながらカレイを思うの、中々酷ね」
ツッコミまでミキちゃんに取られちゃったわ。
しかもキレも抜群……師匠の妹ちゃんも師匠の素質があるってわけね。
「はあ……私のとろびんちょうまだかしら」
「あんだけ頼んだら作るの遅くなっちゃうなの。とろびんちょうに謝るなの」
「私もミキちゃんみたいに、片方のお寿司をランちゃんにあーんするわ。十回分出来るから楽しみね!」
「枚数分したらお腹破裂しちゃうなの。一回で十分なの」
十皿のとろびんちょうを待ってる間、後に頼んだ赤エビとかホタテが先に来ちゃったわ。
赤エビは一皿一貫だし、ホタテはランちゃんいらないって言うからあーんが中々出来ない……待ちきれないよ~。
お互いに茶碗蒸しを食べてるランちゃんとミキちゃんは、VTuberの話題で盛り上がってるわ。
随分前にした餅つき大会でミキちゃんから教えて貰った、あのバ美肉おじさんのやつね。
「リン、バ美肉ってお寿司にあるなの?」
「バ美肉はお寿司には無いわね」
師匠がバ美肉って美味しいのか!?
と食いついて来たところで、待ちに待ったとろびんちょうの到着よ!
レーンからズラーと流れて来たとろびんちょうを、師匠経由で受け取って行くわ。
私はとろびんちょうを一貫ランちゃんの口に運び。
「はいランちゃん、あーん!」
「もう、十皿全部並べてからにするなの……あーん」
とろびんちょうを食べたランちゃんは、とっても美味しいなのーとご満悦。
この表情が見たかったのよ!
「ハハッー二人共満足そうに食べてくれて、ボクは嬉しいよ! その表情が見たかったのさ!」
私がランちゃんに馳せた思いと同じことを、師匠は口にしながら笑ってるわ。こうして言われるとちょっと照れくさいわね……へへ。
そういえば、師匠だけ頼んでるお寿司の量が少ないわね。
私のと比べたらそれはそうってなるんだけど……
「師匠もとろびんちょう食べる?」
「いや、リン君が食べればいいよ。ボクは皆が食べてくれればそれでいい」
「……師匠、ゲーム大会の賞金を募金に使うって言ってたけど、どうして募金に? もっと自分に使ってもいいんじゃないかしら?」
お寿司だけじゃなくて、服とかバックとか買えちゃうのよ?
私だったらランちゃんのお洋服買ってあげたいな~。
師匠はマグロを一貫口にした後、お茶をひと飲みして言うわ。
「もちろん、皆の笑顔が見たいからさ! 私自身は皆が幸せになってくれれば良いしな」
「さ、流石師匠……私は一生ついて行くわ!」
私と師匠が熱い握手を交わしているところに、ランちゃんが口を挟むわ。
「募金だと笑顔が見れないなのー」
ランちゃんはいくらを食べながら、顔をムス顔にして師匠を睨んでいるわ。
ランちゃん、食べ方は人それぞれだけだけど、いくらを一粒ずつ食べてると日が暮れちゃうわよ。
けど確かに、ランちゃんの言う通り募金先の恩恵を受ける人達の反応って見れないわよね。
募金する人からしたら見返りはいらないとしても、やっぱり反応は見てみたいって思う人がいるんじゃないかしら。
師匠がいつも通りのハハッーを付け加えながら、ランちゃんに言うわ。
「見れないけど、笑顔になっていることは間違いない。だから遠くの笑顔が目に浮かんで来るのさ」
「ミキ、いくらについてる謎きゅうりをあげるなの」
「それくらい自分で食いなさいよ! 上のいくらだけなんで平らげちゃったのよ」
決めゼリフをガン無視された師匠は、皿の上のもうひと貫のマグロを食べ、お茶をおかわりして飲み干したわ。
お茶が熱くてむせてるところがなんだか可哀想になって来ちゃった。
そんな感じでお寿司を食べながらお喋りして、締めにデザートを美味しく食べて回転寿司パーティは幕を閉じたわ。
ミキちゃんは、たくさん食べて偉いぞ~と言って私のお腹をなでなでしてくれたわ。
私のお腹も褒められて喜んでるわ!
モカミキ姉妹と別れて、私達はキッチンカーで営業場所に移動して下準備を開始している最中。
「リン、お寿司三十皿も食べちゃうなんて、凄いお腹してるなの」
「へへ~ランちゃんもお腹よしよししていいのよ?」
「よしよし~なの」
私のお腹をよしよしとするランちゃん。
その何気ない日常の風景に、しかし私は──
「きゃっ!」
「え、えええ何なの!?」
私は思わずランちゃんの手を振り払ってしまった。
「ごめん、ごめんねランちゃん! 怪我はない?」
「全然大丈夫だけど、、私はリンが心配なの。何かあったなの?」
心配そうに見つめてくるその無垢な表情に、亀裂が入る。
振りほどいたその可愛らしい手は、血みどろで濡れている。
それら全ては単なる幻覚に過ぎないけど──
「……何でもないわ、ちょっとした疲労かもね!」
私は最近、とある悪夢にうなされていた。




