第32話 ゲーム大会を護らねば!後編(ラン視点)
安全地帯である中央部は、建物がぐね~と入り込む高低差が激しい場所なの。
キッチンカーで運転しようものなら、リンがエンエン泣きながらハンドルを回して突破するなの。
うん、リンなら突破出来そうなの。
私が動かすパフェパフェはゲームキャラだから、鳥肉の味は分からないと思うけど、そろそろ味変しておかないと怒り心頭なはずなの。
ふっふっふー仕方ない、褒美にステーキを食べさせてやろうーなの。
テーブル板から伸びる紐を肩にかけて、器用にナイフとフォークで板の上にあるステーキを食べるなの。
正直ズルいなの、肉ばっか食べてたら牛になった上、ミルクをたんまり絞られて肉にされちゃうなの。
パフェパフェステーキの完成なの。
「ラン選手、ステーキでスピード上昇効果を得ていますね。ただ料理したタイミングが早かった為、消費期限が近づいて来ています!」
「毒物ステーキになっちゃうわ!」
ん、ステーキの横に数字が浮かんでるなの。
何の数字なの?
少しずつ数を減らして行って、あと二十秒足らずでゼロになちゃうなの。
ステーキの寿命?
……もしかして、爆弾!?
爆弾ステーキを急いで投げないとなの!
都合の悪いことに壁で覆われた場所を走ってるから遠くに投げれないし、急な下り坂だから、後ろに投げても転がって来るに違いないなの。
ステーキころりんなの。
ギリギリまで走るしかないなの!
「ステーキがそろそろ毒物ステーキになることを知って、食べようとしないわね。ランちゃんが使用してる《パフィオペ》は、消費期限が数字として見える固有の特性があるの。だからギリギリまで食べれるはずなんだけど」
「……リンさんは本当に特別ゲストなのですか?」
パフェパフェが息を荒らげてスピードを落として行くなの。
初めて全力疾走したけど、走りすぎるとゲームキャラでも疲れちゃうんだな~なの。
残酷なシステムなの。
あ、爆弾タイムミリットが迫る中、走る先に崩壊した塔があるなの。
ここに投げ込むしかないなの!
「えいやなの」
数字のカウントダウンを三残したステーキは、崩壊した塔の窓に吸い込まれるように入るなの。
これで一件落着、また骨付き鳥肉を食べながら進んで……あれ、もうここ中央部なの。
「おっ潜伏していたDAISUKE選手、まさかの上空からステーキが降ってきます!」
「五秒で受け止めるのよ!」
どうしようかななの、ま、奇襲が怖いし、ここの安全地帯が安全じゃなくなるまで時間を潰しておこうなの。
どこかでマコごっこ出来る場所ないかななの。
……なんかステーキ投げた場所が爆発音じゃなくてうめき声が聞こえるなの。
「DAISUKIちゃんが食べてたすき焼き定食にステーキが入って、思いっきり食べちゃったわ! 潜伏に集中しすぎて気づかなかったのね」
「DAISUKIじゃなくてDAISUKE選手ですよ!」
あ、対戦相手が一人減ったなの。
とうとう私ともう一人の一騎打ち……面白くなって来たなの。
作戦変更!
ボロボロになった相手探しの開始なの~。ペチペチするなの~。
ルンルン気分で探す私は、地面に転がっていた何かを踏んで転んじゃうなの。
ゲームでも尻もちは恥ずかしいなの。
……これは……バナナの皮?
その時。
「アーッと! さやがしくしやがれ選手が物音に気づいて武器を構えています! あれは……花火ランチャーです!」
「ロケットランチャーの中では最高ランクの武器、しかも高低差が多い今回のステージに打って付けね!」
私の方に、夏祭りで聞くような、ヒュ~って音が近づいて、眩しい光を放ちながら建物ごと壊しに来たなの!
着弾点から広がるように、バチバチ音を鳴らしながら火花を散らしてる……これは花火?
ゲームの音とはいえ、潜伏中ずっと静かなものだったからドキッとしちゃったなの。驚かすなの。
まだひょっこりマコの方が心臓が持つなの。
「さやがしくしやがれ選手の使用する料理家は《カヴィアール》! 食べ物を食べるほど所持する装備がランクアップする、重装備なサメの女性です」
「ギンギラな装飾品にまみれた見た目が最高にカッコ可愛いわ!」
階段を慎重に登って行き、右角を曲がろうとした時。
「わわっまたバナナの皮なの!」
恥ずかしい尻もちをお披露目サービスしたところで、またヒュ~って音が近づいて来るなの。
これは……対戦相手の罠!
「さわちゃん、植物が生い茂るゾーンから来たからバナナを大量ゲットしていたのね。バナナの皮を事前に配置して、尻もちした時の無防備な硬直状態を狙い撃ちする算段よ!」
危機一髪。
こわこわ花火から逃げきれたなの。
爆風とか、飛び散る火の子が壁越しに来るから強い武器なんだなの。
しかも私のお気に入りの武器より遠くの距離から狙えそうなの。
ただペチペチ醍醐味のこのゲームで、大砲は面白そうじゃないし、歩きにくそうなの。
……歩きにくい?
そうなの、近づいてペチペチすればいいなの!
「よいしょ~なの!」
「ラン選手ッバックから取り出したアイテムを大量に投げ出しましたッ!」
「目くらましね!」
鳥肉ホイホイで集まった対戦相手の落としたアイテムを、適用に中央目掛けて放り投げるなの。
どれもこれも使い方が分からないから、投げるのが正解なの。
「おおこれは……ん、煙が上がったりスポットライトが照らされたり音楽が鳴ったり、いい妨害にはなってそうです。しかしさわがしくしやがれ選手は冷静! 花火ランチャーを無駄打ちせず、投げられた方向と逆の方向に後ずさりしな」
「わ! 見て見て! ランちゃんが勢いよく滑ってるわよ!」
「ええ?」
散りばめられたバナナの皮があるなら、有効活用するべきなの。
「ラン選手、バナナの皮をアイススケートみたく足に取り付けて滑っています! ……どゆこと? すげえ」
バナナスケートは楽しいなの~。
食べ物で遊んじゃいけないってリンから教わったけど、ゲームなら何してもいいなの。このまま後ろから回ってペチペチなの。
「目くらましに加えて、バナナスケートで足音を消し、さらに初期キャラ、低ランク装備……素朴を極めて目立つエフェクトを無くすことで、対戦相手から気づかれにくくしているのね! 今のランちゃんはまさに忍者よ!」
後ろに回り込み、煙から武器を構える人影が見えるなの。
気づいてないし、ここから十分狙えるなの。
チェックメイトなの!
銃を構えて、ペチペチペチ~。
ペチが一弾命中した瞬間、対戦相手はくるっと向きを変えて、弾丸を連射して来たなの。
……連射?
花火の大砲じゃないなの!
「さわがしくしやがれ選手が持つ武器、あれはかつてラン選手が手にしなかったサブマシンガン、PP98だー!!!」
「サブ武器として所持していたのね。近距離のPP98、長距離の花火ランチャーとバランスがいいわ!」
ダメージを受けながらも、横方向に滑りながら避難するなの。
未だ煙が立ち上ってるし、私が撃った弾丸の方向に合わせて撃って来たんだなの。
大したやつなの、普段適当にペチって倒して来た相手とは一味違うなの。
ふぅ、とりあえず減った体力を回復しなきゃ……あれ?
「ラン選手ッここで骨付き鳥肉がラスト一本になってしまいました! 食べても回復量は僅か、もう一度PP98の的になれば決着が着いてしまいます!」
鳥肉一本は大変なの、これ以上回復出来ないし、うーん……ってあれ、パフェパフェの様子がおかしいなの、手を仰いで匂いを払う動作をしてるなの。
「伊豆諸島の特産品で、とっても臭いで有名な、くさやを食べてるわ! 自分の居場所がバレる代わりに、周囲の対戦相手の体力をじわじわ削っていくのよ。しかも食べた本人は体力を回復する効果もあるわ」
やばいなの!
近づけばペチペチされて、遠くに行ったら花火でヒュ~されて、あたふたしてたら臭いやつで体力を減らされるなの!
私の武器は遠くから撃つのに適してるし、接近戦は厳しそうだから一旦引かなくちゃ……てわわッ顔になんか付いたなの!
今度は何なの、忙しいなの!
「あれはトルコアイスね! ネバネバを利用して蜘蛛の巣みたいに罠を張り巡らせていたんだわ。地面のバナナの皮、空中のトルコアイス、これまた隙が無いわ。あ、ちなみにトルコアイスの正式名称は、マラシュ・ドンドゥルマって言うのよ?」
顔を拭っているところに、容赦なく飛んでくる花火。
必死に避けた先に待ち構えるバナナとアイス。
罠のない場所に逃げようとも、体力が減る赤い場所くらいしかないから逃げ場が無いなの。
サメなのだから大人しく魚だけ食べてれば良かったのになの。
むぅ、対戦相手の手のひらで踊らされてる気分なの。踊るならリンと踊りたいなの。
でもこのアイス……
私は最後に残った骨付き鳥肉とアイスを交互に見て、ピキーンと閃くなの。
テレビだったらここでクイズのパターンなの。
「お、ラン選手、お得意バナナスケートで弧を描くように滑っています! しかし……トルコアイスのある場所に進んでいますが、何か策があるのでしょうか?」
目くらましの煙が消え、姿を表した対戦相手。
金ピカで見るからに豪華な鎧を纏ってるなの。
感じ悪いやつ……そんなピカピカ野郎にはこうするなの。
銃口を崩壊寸前の建物に向けて、連射するなの。
花火の大砲でなんとか持ちこたえていた建物は、私の六発ひと押しで、金ピカ人間の方向に崩れ落ちるなの。
「建物で押し潰す策か。しかし流石さわがしくしやがれ選手、トルコアイスを網目状にしてハンモックのように展開して防ぎ切りました! スケートと言いやりたい放題だ!!!」
「もっとやれ~☆」
建物を崩したのは隙を作る為なの。
踵を返して勢い良く接近、私と金ピカの目が合うなの。
手に握りしめたものを振り上げ。
「くらえなの!」
「ラン選手ッさわがしくしやがれ選手の顔面にシュート! 投げた物体は……」
「トルコアイスの塊よ!」
そこら中にあったネトネトアイスを、鳥肉の骨を棒代わりにして巻き付けたなの。
わたあめの、クルクル~と巻き付ける感じなの。
名付けてわたアイスなの。
わたアイスをくらったピカピカは、ダンスするみたいに慌ててるなの。
踊らされる側に立つのは屈辱間違いなし、ご飯が進むなのー。
ダンシング金ピカは、手に持った花火大砲で、すかさず私の方に狙って撃って来たなの。
視界は塞がっても私のいる方向は分かってるから当然の判断なの。
「このままじゃ当たっちゃうわ!」
この展開も想定済みなの。
スケート代わりに使ってたバナナの皮を、本来の役割を果たしてあげるなの。
片足だけ勢いに任せて蹴りあげ、勢いよく尻もちをするなの。
体勢が低くなった私の頭上を通過する花火。格好いい尻もちを目撃出来た人達は感謝するなの。
私の居場所を見失った金ピカは、銃の方に切り替えて周りを撃ちまくってるなの。
臭い匂いでダメージを受け続けてる中、私は至近距離から頭に向かって三発早撃ちするなの。
私の体力がすり減って金ピカが勝つか、三発命中させて私が勝つか……
真剣勝負なの!!!
◇
金ピカは倒れ込み、私も体力がゼロになって、ほぼ同時にキャラクターがシュワ~って消えてくなの。
これはどっちが勝ったなの?
遮られていた仕切りが解放され、懐かしのリンの顔が見えるようになったなの。
私の視線に気づいたリンは、上機嫌に手を振って言うなの。
「お疲れ様ランちゃん! 目が離せない凄い戦いだったわ!」
「勝ったなの?」
「まだ分からないわ。今丁度発表されるところよ」
ソワソワする私は、周りをキョロキョロ見渡してみるなの。
脱落した人は全員降りているようで、ステージに残ったプレイヤーは私と金ピカ野郎らしき人間だけなの。
私の隣にいる人がその金ピカっぽいけど、何処かで会った気がするなの。ん~引っかかるけど思い出せないなの。
「さあ全国大会優勝者の発表です! この熱き戦いを制した勝者は……」
来たなの!
ドキがムネムネなの。
「さわがしくしやがれ選手ッ全国大会優勝者はさわがしくしやがれ選手ですッおめでとうございます!!!」
……あ、負けちゃったなの。
「勝敗の決め手は、ラン選手が視界を奪う為に顔面シュートしたトルコアイスで食い繋いでいたところですね。体力回復は肉系と比べて少量ですが、この微々たる差に勝負ありってことです!」
淡々と語るうるさい司会者の横、リンは涙ぐみながら拍手してるなの。
私の敗北に泣いてくれる心優しいリンなの。
……うっリンを見てたら私まで涙が出てきたなの。
これはつられて泣いちゃってるだけなの、元々適当にやってたゲームを、本気でやって負けちゃったことに悔しくなってる訳じゃないなの。
「さわがしくしやがれ選手、どうぞこちらに」
金ピカは席から立ち上がり、司会者の案内と共に中央に進むなの。
「さあ、優勝者さわがしくしやがれ選手に、インタビューをお聞きしましょうか! 優勝おめでとうございます! たった今のお気持ちをお聞かせください」
金ピカはさわがしくしやがれって言うなの?
司会者の方がよっぽどさわがしくしてるなの。大人しくしやがれなの。
大人しかった金ピカしやがって選手は、閉ざしていた口を開き、聞いた事ある声であのセリフを言うなの。
「ハハッー! 優勝して嬉しいと言うでしょう~」
「え!?」
「師匠!?」
なんでダジャレ女こと及川モカがここに居るなの!?
すぐに気づかなかったことにも疑問なの。
……ああ、『ハハッー』と『ダジャレ』を言ってないと存在感がゼロになっちゃうんだなの、可哀想な元宇宙人なの。
存在感をダジャレに頼りっきりな女は、私とリンを交互に見ながらへへ~と手を振るなの。
「リンさんとラン選手のお知り合いだったんですか?」
「そうさ! 裸と餅の付き合いだな!」
「な、なるほど? では決勝戦、振り返っていかがだったでしょうか?」
「バナナで滑るやつボクもしてみたいな!」
騒がしい二人組が長々と会話した後、たくさんゼロが並んでいる優勝賞金の金ピカボードが送られるなの。
どこまで行っても金ピカ野郎なの。
賞金があればリンとたくさん楽しい事が出来たのに……
「賞金の使い道はどうなさいますか?」
私は美味しいものをお腹いっぱいになるまで食べたいなの。
リンもお腹を抱えちゃう程膨らませたいなの。
司会者の質問にダジャレ女は。
「募金かな」
「ええ!? ぼ、募金って……いいんですか?」
募金……募金って、お金を無償であげるやつだっけ?
なんて思いやりがある女なの!
「もちろん、あ、まあ多少は贅沢するつもりだけどね。妹達に美味しいものを食べさせたいんだ」
達って、ミキ以外に妹いたんだなの。
そう思ってると、思いやり女が後ろを振り返って、私にウインクして来たなの。
妹達って……私はリンも入ってるってこと?
「わーいわーい! 皆で回転寿司行きましょー!」
リンがバタッと立ち上がって大喜びしてるなの。気が早いし恥ずかしいなの。
「ま、回転する︎寿司とか面白そうなの。クルクル回る寿司をいかに捕まえられるか、楽しみなの」
私の発言に謎の視線が送られてる気がするけど、そんなことはどうでもいいなの。
優勝は出来なかったけど、とても気持ちが良いなの。
ステージ退場の時、私は鳴り止まぬ歓声に包まれながら、全力で手を振ってあげたの。
またこの地に降りた時は、優勝して賞金ゲットするなの。




