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純粋無垢を護らねば!〜リン×ラン×キッチンカー日常〜  作者: おりみみ


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第26話 ゴリラを護らねば!(ラン視点)

 キッチンカーフェスを終えて、私達は通常運転で営業してるなの。


 大勢のお客さんを相手にしたから、疲れちゃったなの。

 けど休日は明日だからそれまでの辛抱なの。


「はい、こちら"好きです付き合ってください"なの~」


 このいちご大福パンもきっと過労なの。どれだけの人をカップルにしたり崩壊させなければならないんだーって思ってるなの。


「大きな公園の広場はスケールが大きいわよね~。お客さんも、公園にしては頻繁に訪れて来るし」


 リンはクロワッサン三色セットを袋に詰めながら、笑顔でそう言うなの。


「リンは体力底なしそうで羨ましいなの。昨日もジャンケンの時毎回腕まくりしてて、腕が筋肉痛にならないなの?」


 地味な動きの繰り返しも筋肉痛になっちゃうなの。


「う~ん、どちらかと言えば、ランちゃんに叩かれたお尻に変化が」


「え、ごめんなの」


 ランちゃんが心配そうな声色をあげるわ。


「ううん、腰に響いてとっても快適よ! 溜まってた疲れとかが流れて行ったのね!」


 なんかお仕置きで叩いてたのに感謝されたなの。

 リンの身体はどこまで行っても便利な作りで出来てるなの。


 ん?

 さっきいちご大福パンを受け取ったお客さんが、草むらに妙な視線を送りつつ帰って行くなの。


 草むらになにか居るなの?


 ああ、人間が草むらで草をむしって食べてるだけなの。

 別におかしいことなんて……


「草食べてるやつが居るなの!!!」


 私の驚く声に草食系男子(物理)が振り向き、雑草を手に持ちながらこちらに近づいて来るなの。


 うわっいきなり手をぶんって上に挙げるななの、怖いなの!

 その手に持った雑草で何が出来るなの!?


 わわっそのまま普通に口に運んで貪ってるなの。

 驚かせないで欲しいなの。いや草食べて驚いたけどなの。


 草を食べながらキッチンカーを訪れたお客さんは、両手をバシッと軽い台パンをして言うなの。


「ここってデザート売ってますか? 如何せん、ただの草を食べてるだけじゃ飽きちゃって……こう、面白みのある草パフェみたいなものとか」


「草パフェなんて無いなの」


「雑草パフェも?」


「草も雑草も一緒なの。メニュー見て選ぶなの」


 メニューをまじまじと閲覧する草食べ男。面白いネーミングが多いけど草系は流石に無いか……と残念そうに言ってるなの。

 何当たり前に言ってるなの。いくらここのキッチンカーが異端でも草系なんて用意するわけないなの。


 リンはそんな異端中の異端者に声掛けるなの。


「草にこだわる理由は何かしら? ダイエット?」


 草でダイエットなんて……惨めな人間なの。

 別に男はやさくれたサラリーマンとは違い健康体だし、寧ろ同い歳くらいの雰囲気だけど……それはそれとして、草ダイエットは痩せるには痩せそうだけど、不健康まっしぐらなの。草中毒で天国行き出航なの。


 メニュー表からリンに目を向けたお客さんは、右手を胸にドンと当てて偉そうに言うなの。


「そんな低レベルな行いをするわけがありません。自己紹介がまだでしたね。俺はゴリラ!」


 ………………ゴリラ?


「ゴリラを愛しゴリラに愛された男、ゴリラに成るべくして生まれた俺は、ゴリラを目指して毎日ゴリラ生活、快適なゴリライフを過ごしています」


 ……聞き間違いじゃないなの。

 何度聞いてもゴリラなの。

 これはそう言うお笑いなの?


 自分をゴリラって名乗ってるのも可笑しいけど、人前で堂々とゴリラゴリラ言い始めるのもどうかしてるなの。

 草食系男子かと思ったらゴリラ系男子の亜種だったの。


 「にしては見た目がゴリラみたいにゴリッゴリな体型じゃない」とツッコミたいけど、おそらく禁句に違いないなの。


 あとゴリラうるさいなの。

 ゴリラの過剰摂取なの。


 リンが、ゴリライフ……と呟いて身体をフルフル震わせてるなの。

 これはお客さんが可笑しい人で笑いを堪えてれるのではなく、単にゴリライフの単語が面白かっただけの反応なの。


 銭湯の時と言い、笑いのツボのハードルが低すぎて困るなの。

 私は可笑しい人でもダジャレでも笑えないなの。


「まあ、嘲笑されることにはもう慣れましたよ。しかし、私はゴリラに掛ける情熱は常人とは違います。毎日三十キロ草を食べることを目標にし、体幹や筋力も鍛えて、知識も蓄えなくちゃならない」


 とダジャレで笑かしているとも知らずに、聞いてもいないことを喋り出すゴリラ。

 目標ってことは達成出来ていないってことなの?

 ご苦労さまなの。


 笑い終えたリンは、ちょちょ切れ涙を手で擦りしてから、思ったことをそのまま言うなの。


「でも、見た目はゴリラというよりも、可愛らしい青年体型なのね。これがギャップ萌えってことかしら」


「グハッ……!!?」


 あぁ、思わずリンが禁句を唱えてしまったなの。

 上級魔法を初っ端から放つインチキをしてしまったなの。

 ま、イキリ散らかすゴリラ系男子(偽物)が目の前に現れたからには致し方無し退路なしなの。


「あ、いいものがあるのを思い出したなの。ちょっと待つなの」


 そう、キッチンカーフェス用で仕入れたバナナがまだ残ってるなの。


 心が痛い痛いしたお客さんには直ちに応急処置が必要。ゴリラにはバナナを手当てしてあげるなの。


 私は冷蔵庫の野菜庫を開けると……


「わわっリン! バナナが可哀想なバナナになってるなの!」


 冷蔵庫の中で保存しておいたバナナが真っ黒になってるなの!

 腐っちゃったバナナを食べさせるなんて……いや、ゴリラだから可哀想バナナでもいけるなの?

 流石にダメなの。


 リンは黒バナナを発見すると、あーなるほどねーな感じで言うなの。


「これは低温障害ね」


「なになになの」


「外の皮は冷気に弱くて、通常よりも早く変色してしまうのよ、バナナが風邪引いちゃったのね。中身は腐って無いし、冷たいバナナは美味しいから食べ頃よ!」


「へーなの」


 もう何言ってるか分からないなの。


「あ、ちなみに冷蔵庫に入れると熟成が止まるから、熟成をある程度させてから入れると良いわよ」


 バナナ博士はふぅと一息するなの。

 知識を喋る時に饒舌になるのは何でなの。

 けど黒いと見た目はとても食べられそうにないなの……ま、一本持ってきてバナナパフェ作るなの。


 そんな様子でバナナを提示されたゴリラ青年は、口を尖らせて言うなの。


「ちょっと待ってください!」


「うるさいゴリラなの」


「バナナは、本来のゴリラは普通食べないんですよ。贅沢品です」


「うるさいゴリラなの、大人しくバナナを食べるなの」


 動物園のゴリラとは違って野生の~とペラペラな口にバナナを突っ込ませるなの。

 はあ、子供をあやしてるみたいなの。やれやれなの。


 横からバナナ博士が補足するなの。


「ゴリラの生息地にバナナって生えてないって聞くわよね」


「聞かないなの」


 バナナを丸々一本食べたゴリラ人は、うぐっとしだすなの。

 あやしたばかりなのに泣きそうになるなんて、もはや赤ちゃんなの。ベビーゴリラなの。


「久々の草以外の食べ物でとても美味しかったです。ありがとうございます」


 とゴリラ男(自称)はお礼を言うも、


「でも、これで俺はとうとう動物園への一歩を踏み出してしまった……今までの私の努力が……うぐっ」


 チビッと溢れる涙を拭うゴリラもどき。女々しい男なの。

 もっとゴリゴリしい男になって欲しいなの。


 お客さんってマコと言い関西と言い泣いてないと気が済まないなの?

 おーよしよしーするのは飽きたなの。まあこいつは見た感じ大人じゃないからマシなの。マコはさっさと精神的に大人になれなの。


 全く……人間は動物園に入れられないなの。ゴリラになりたくても所詮人間なの。


 リンがどこからか持ってきた赤ちゃんをあやすカランカラン鳴るやつを手にしながら。


「バナナあげるから泣かないで~」


「あ、ありがとうございます……」


 泣きながらバナナを食べて、またしくしく涙を落とすゴリラ。

 泣かないで~とカランカランしてバナナを手に取るリン。

 これループしてるなの。


「とりあえずストップなの。バナナ三本食べたし、これで胃も喜んでるに違いないなの。ゴリラ、胃をいじめないで草以外にも何か食べるなの」


「嫌です」


 三本目のバナナを食べながら即答するなの。

 今口に咥えてるそれは草なの?

 嫌ならそのバナナを寄越せなの。


「ひんやりバナナ美味しい……ちなみにお値段は?」


「元々私達が食べる予定だったし、お客さん用じゃないから無料提供よ!」


 太っ腹でしょ?

 とウインクするリン。

 ゴリラはタダ飯が食べれて良かったねなの。


 もうとっととジャングルに帰るなの。とっとこゴリ太郎。


「本当ですか!? とても助かります。今はお金節約中で。ん~せめて何かお礼になるもの……あ、さっき見つけたこの雑草、雑草の中ではかなり美味しい方で」


「雑草はいらないなの」


 もちろんキッパリお断りなの。

 私はゴリラなんかにはならないなの。


「あ……そうですか……」


 美味しいらしい雑草を口に入れてモグモグする雑草マニア。


 あー美味しかったなーと自己暗示気味に言いながらお腹をさするなの。

 雑草の食レポされても食欲湧かないなの。


「色々ありがとうございました。近いうちにまた会ったらこの借りをちゃんと返します。じゃ私はこの辺で」


 そんなことを礼儀正しく言いながら去ろうとするなの。


 リンが手をフリフリして。


「ゴリラくんまた来てね~」


「ゴリラくんじゃないです。ゴリラです」


 いやゴリラでもないなの。


「ゴリラ~また来てね~」


「なっ!? リンがちゃん付けしてないなの! 純粋を揺るがす大事件なの!」


 ゴリラは手を振ってどこかへ消え……

 ることは無く、この辺の草むらにしゃがみこみ、雑草をまた食べ始めるなの。


 おい、この辺で~って言って本当にこの辺に居るななの。せめてその辺かあの辺にするなの。


 毎日草三十キロは相当に達成出来ないノルマのようで、草むらにしがみついては、たまにお腹を抑えて悶え苦しんでいたなの。


 ここまで来ると尊敬の念を抱かないなの。普通に怖いなの。


 お客さんがゴリラを不審がるから、私達は静かにキッチンカーを発進させて、違う場所に移ったなの。


 借りを返すとか言って、雑草で返されたらタダじゃおかないなの。

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