第25話 試食コーナーを護らねば!後編(リン視点)
ペシペシ叩かれながらお客さんに春巻き提供していると、顔の見知ったカップルちゃんが列の前にご登場よ。
この人達はあれね、試作のいちご春巻きを食べてくれたわさびカップルね!
「この前はありがとね~あなた達のおかげで、いちご春巻きの販売に思い切りが出来たのよ」
お客ップルの女の子ちゃんが首を横に振って。
「いえいえ、寧ろまたいちご春巻きを頂くことが出来て嬉しい限りです。あの、なんで叩かれてるんですか?」
叩くのに手馴れたランちゃんは、無表情でペシっていた手を止めて言うわ。
「悪い子におしおきしてるなの。叩かれても嬉しそうなリンにはもっと反省して貰わないといけないなの」
私はこれでも反省はしてるのよ?
三個目のミニクレープ食べたいけど……ぐぎゅぅ。
嬉しそうなのもランちゃんが必死に叩くのが可愛いからよ。
おしおき……! と反応する女の子ちゃんは、口元の口角を上げてランちゃんに言うわ。
「私と気が合いそうですね、どうです? 私と一緒におしおきプラン考えてみませんか?」
「プランするまでリンは悪い子じゃないなの、元々すご~い良い子なの。頼んだいちご春巻き十セットなの……え、十セットも頼んだなの!?」
ランちゃん自身が入れていたのに驚くなんて……ふふっ、あ、私もランちゃんにおしおきしたくなって来たわ~。
えいやっと叩き、わひっと驚くランちゃん。
一応ランちゃんも抹茶味のクレープ食べたんだし、一回くらい叩いてもセーフよ!
たんまり袋を渡されたお客ちゃんは微笑み言うわ。
「これは大学でのお裾分けと妹の分なのです。いやー仲むずましい感じでいいですね、蓮、今度私達も叩きあってみませんか?」
「ねえこれめちゃ美味しいんだけど! 試食らしいからさ、ほら、あーんって」
お客ちゃんの話を聞いてなかったカップル男子の方は、試食クレープを彼女ちゃんにあーんしてるわ。
ふむ、彼女ちゃんが少し恥ずかしがってるのもポイントが高いわね。
まさかセルフあーんするなんて……仲むずましい度が私達に匹敵するレベルね!
負けてられないわ!!
「ランちゃん、私達もあーんするわよ!」
ランちゃんはムスッとした顔で返す。
「いつでも出来るし、なんなら毎日してるなの。これ以上暴走するななの」
そうして、カップルちゃん達は手を振って、関西ちゃんのクレープを買いに出かけたわ。
ランちゃん、カップルちゃんをそんなにギリっと睨みつけるのはダメよ?
何か嫌なことでもあったのかしら?
ジャンケンやら叩くやらで手がアチアチになる私の元に、聞き覚えのある声が聞こえてくるわ。
「あ、お久だなー!」
そう、その声とは!
「警察服着て挨拶振りまき手計算。キミ達もボクも絶好調ってわけだな!」
ダジャレ構文好きの及川モカちゃんこと、師匠よ~!
「いらっしゃい師匠! 今日もギャグがキレッキレね! あれ、ランちゃん何で私に張り付いてるの?」
「はあ~リンホッカイロは暖かいなの。リンを独り占め出来るのは私の特権なの~」
身体を震わせるランちゃんは頬を私に擦り付けながらそう言うわ。
節分をすぎて春にはなったとしても、まだまだ寒いものね。
私もランちゃんホッカイロするわ!
あったかポッカポカで最高ね。
いちご春巻きを注文するモカ師匠に、ホッカイロしながら尋ねるわ。
「あ、ところで妹のミキちゃんも来てるのかしら?」
「もちろん来てるさ! ほら、試食コーナーで和気あいあいしてるじゃないか!」
ミニクレープ配りしているマコちゃんに目を配るわ。
ほんとだわ、マコちゃんととても楽しそうにお喋りするミキちゃんがいるわ。
ひょっこりマコちゃんに会えると思ってなかったようで、テンションが跳ね上がっているわね。
ふふっなんだか応援したくなっちゃうわ。
「今開催してるあーんイベントはもう終わっちゃったのかしら~? お客さんにあーんするサービス好評だったから、もっとして欲しいなあ~」
ミキちゃんにあーんするのよマコちゃん!
私が恋愛キューピットになってあげるわ!
私の声掛けに、そんなイベントしてませんよとマコちゃんが答えようとするも、セリフを遮るように。
「なななっ見も知らぬお客さんにあーんしまくってたの!? わ、私抜きにそんな……マ、マコ、私にもあーんする定めがあるでしょう? お仕事なんだから、あーんされるのは仕方ないわよね! はい、あーん!!!」
顔を茹で上がったように赤くしながらあーん体勢に入るミキちゃん。
湯気が立ち上る程喜んで貰えたようね。貢献出来て何よりだわ!
「ミキさんになら、わたしは喜んでしますよ。はいどうぞ」
マコちゃんはそう言いつつ、ゆで卵ちゃんにミニクレープをあーんするわ。
幸せそうにへへへと食べながら、お礼混じりに美味しいとコメントしているこの貢献……宣伝効果抜群ね。
「あーんするのって恥ずかしいと思っていたのですが、案外大丈夫なものですね」
「何人も相手してきてそれはどうなのよ? 私だとは、その、恥ずかしいってこと?」
モジるミキちゃんに、乙女視点でのイケメンちゃんが爽やか(あっさり)ボイスで。
「わたしはミキちゃんが初めてですよ? イベントであーんするだけじゃなくて、今までして来たことありませんでしたので。まあ、そもそもイベントであーんなんてしてませんし」
「わわわわっ私が……初め、て……ッ!? あの淫乱女にもあーんしてないしされてないってことよね? ね!?」
そう言いながら私を指さすミキちゃん。
え、私、淫乱女って思われてたの?
私はマコちゃんに何もしてないのに……
真っ白なお腹撫でたり、プール行ってスライダーしたり、キッチンカーで寝泊まりしたり、銭湯行って人工呼吸したり……
ん、確かに色々して来たけど淫乱呼ばわりは失礼ね。兎にも角にもぷんぷんだわ。
「いんらんって何なの?」
「えーと、乱れてると言う意味ね」
嘘は言ってないわ。
「……いんらん女って呼ばれても仕方ないなの」
ランちゃんはそう言いながら、警察服の下からチラ見えしてる私のお腹を撫でるわ。
え?
ランちゃんからしても、乱れてるって意味だけで淫乱認定?
私、結構落ち込みやすいのよ?
ショボーンとする私と二回目のあーんをせがまれているマコちゃんの元に、遠くから駆けつける女の子が一人。
「皆お疲れさん~春巻きの試食分全部無くなったで。お客さん、めちゃ反応良かったで? これで客足もどんどん伸びるはずや!」
私に綺麗になったお皿を渡す関西ちゃんは、そう笑顔で言うわ。
春巻きを美味しく食べて貰えたみたいね。私もこの目で見てみたかったな~。
「そう言っておいて、全部ぺろりしちゃったんじゃないなの?」
「そんなわけない、恩を仇で返すなんてせえへん! うち一人で営業してるんやないんや、証人が向こうにいるしな」
ランちゃん、あまり関西ちゃんをイジっちゃダメよ?
「お巡りさんもご苦労さんやね。あ、へ~~お客さんにあーんしてるんや~うちもさっきしてもらったしそれで思いついたん?」
「……………あ」
「お互いに罪を犯したんや、償いあーんも悪い手段やないし、うちも真似しよかな~」
お巡りマコちゃんは、あーんしようとしていた手を止めて、恐る恐る口を開けていたミキちゃんの表情を伺うわ。
頬を赤らめながらホワホワしていた乙女ちゃんは、輝かせていた目の光が失われていくわ。
試食用の春巻きを、マコちゃんが謎配慮であげた時にあーんしていたのね。
お皿を持っていた関西ちゃんは自分では食べれないものね……無自覚マコちゃんならあーんしてもおかしくないわ。
「私が初めてのあーんじゃないの?」
「……意識的にしたのは初めてですよ?」
ファーストじゃなかった事実に、ミキちゃんは目に涙を浮かべて叫ぶわ。
「お互いに罪を犯すって何よ! もうッ警察のくせして! 私にもその罪を背負わせなさいよ!」
「ハハッー! 面白そうだなッボクにもその罪とやらを」
「お姉ちゃんは黙っててよ! もおぉぉぉぉ!!!」
私とランちゃんは、まあまあと間に入り、落ち着かせる為に毎度のジャンケンと頭撫で撫でをするわ。
三度目のクゥーン完了よ!
試食コーナー好評だったし、普段のキッチンカー営業に取り入れてみようかしら。
あーんサービスはミキちゃん限定にしてあげようかな。なんか可哀想だし。
ミニクレープ配りを終えたマコちゃんには、お給料に加えて、ご褒美にカルパス春巻きをプレゼントしたわ。
これにはマコちゃんも大喜び!
また近いうちに会いましょうと言いながら、関西ちゃんとモカミキ姉妹と一緒にキッチンカー巡りに出かけて行ったわ。
さあ、冷蔵庫で待ってるクレープの為、いちご春巻きを売って売って売りまくり、ジャンケン連勝も更新を目指すわよ!




