第22話 ジャンケンを護らねば!(ラン視点)
二月上旬に開催のキッチンカーフェスティバル。
私達もフェスに向けて前々から準備を重ねて、当日とうとう会場で営業してるなの。重ねて来たのだけれど……めちゃギリギリでメニューが決まったなの。それは。
「はい、こちら"いちごのお布団"なの~」
いちご春巻きなの!
二月は冬。いちごにとってはまだ寒い寒いなの、だからお布団で暖かくする意味も込めたネーミングなの。
バナナのお布団とおそろなの。
リンが手を構えて。
「お客さん、いざ勝負よ!」
さっき私からいちご春巻きを受け取った制服の女の子は、やる気スイッチをオンな目をリンに向けて、同じように手を構えるなの。
地面に亀裂が入って、空気がピリピリ震えて、雷がゴォッと落ちるエフェクトがかかるなの。あくまでエフェクトなの。
リンとお客さんの女の子が違いに手を振りかざして叫ぶなの。
「「ジャンケンポン!!」」
ジャンケンなの。
夏祭りのチョコバナナを頼むとき、お店の人とジャンケンでバトって勝ったらもう一本貰えるアレなの。
ここリン×ラン×キッチンカーでのジャンケンは、リンに勝ったらいちご春巻きが一つ貰えちゃう大サービスなの。
……大サービスなはずだったなの。
「ざんね~ん私の勝ちね! これで二十二連勝よ!」
リンがジャンケンの才能を開花させて無双してるなの。
力に酔ったリンはにっこにこで仕方ないなの。
子供相手でも手加減しない大人気ない十八歳なの。
リンは手にかけていた玩具の手錠をぶら下げて決めゼリフを言うなの。
「あ、お客さん後出しで私に勝とうとしたわね~? 悪い子は逮捕しちゃうぞ☆」
私達は何故か警察コスをまたも着てるなの。
三日前、おばさんでお馴染みおばさんに会って、当日着ろと脅されたの。
趣味が悪いし勘弁して欲しいなの。
警察のやる事じゃなかったけど、たい焼きを奢ってもらったから目を瞑ってやるなの。
冬場で寒そうなチラ見えおへそを、私に向けてリンが言うなの。
「どうランちゃん? 私超強いでしょ?」
「だからどうしたなの、そろそろ負けてあげたらどうなの?」
「全力で戦うから勝負なのよ、手加減なんかしたら面白みが無くなっちゃうわ!」
少年誌で主人公が言いそうなセリフなの。全くバカみたいなの、それじゃお客さんが面白みが無くなっちゃうなの。
いっその事、誰かリンを負かして現実見させて欲しいなの。
次に並んでいたお客さんが、春巻きをどれにするか選んでるなの。
「良し、ここは餡子餅春巻きを選ぼう。我の心と春巻きが呼応している」
ポニテ少女なお客さんは、真顔でそんなことを言うなの。
一体何言ってるなの?
春巻きと心が通じ合うなんて出来るなの?
春巻きが食べてーって言ってたら怖いなの。
「あ、ごめんなさいね、餡子餅春巻きはもう売り切れちゃったの」
リンがてへっと謝ってるなの。別にてへる要素なかったなの。
春巻きと心が通じてなかったお客さんは、そうか……と呟き少し残念そうにするなの。
「ではここの看板であるいちご春巻きを頂こう。薄く透き通る赤き色……とても血が騒ぐじゃないか」
一体何言ってるなの?
いちごを見て血が騒ぐ人がいるなんて思いもしなかったなの。
世界は広いんだなの。
「はい、こちら"いちごのお布団"ですよ~。そしてジャンケンタ~イム! さあ、手を掲げて一発勝負よ!」
ジャンケンしたいだけのリンは捲ってある腕を、無駄に腕まくりする動作だけするなの。
捲られた警察服も、二十三回捲られるなんて思って無かったに違いないなの。警察服も過労に違いないなの。
捲りリンを見た血が騒ぐポニテは、リンと同じように、いやそれ以上に目をキランと光らせて。
「我の右手の封印を解放する時が来たようだね」
となんか言いながら右手に巻かれてた包帯とガーゼを剥がしてくなの。
見えた肌は綺麗に真っ白……怪我もしてないのになんで巻いてるなの?
右手の封印って大変そうなの、ご飯食べる時、封印されてたら箸が持てないなの。
あ、もしかして左利き?
なら問題ないなの。
「とってもやる気で私、嬉しいわ! じゃあいくわよ~」
「ふッ……我の漆黒オーラにおののいてもらっては困るからね。その姿勢、受けて立とうじゃないか」
地面に亀裂が入って、空気がピリピリ震えて、雷がゴォッと落ちるエフェクトがかかるなの。
あくまでエフェクトなの。漆黒のオーラはよく分からないなの。
けど、今回のお客さんは何かが違うなの。今までのお客さんは、ただリンとジャンケンを楽しんでるだけだったの。
包帯ポニテの瞳に宿る熱意……これは勝てる、リンにジャンケンで勝てるなの!
「「ジャンケンポン!!」」
負けたなの。
あんだけ右手解放したりオーラ出したりしたのに、あいこもせずにストレートで負けたなの。茶番もほどほどにしろなの。
「……もう一度、もう一度勝負をさせて貰わないかッ!」
「ふふ~ジャンケンに熱心なお客さんは初めてね、特別よ!」
負けたなの。
左手にも巻いてあった包帯を剥がして、〇〇拳三倍だああ! とか言ってたのに、三回連続ストレート負けしたなの。
もしかしてお客さんの中で最弱なの?
私がお客さんを哀れみの目で見てると。
「うぐぅッ……そ、そんな同情な目で見ないでくれ……ふぅッ、他のキッチンカーでは全部勝ち越したというのに……」
嗚咽しながら犬の遠吠えしてるなの。
犬だけにワンワン泣けばいいなの、そしてなんで負けたか明日まで考えておくなの。
それにしても、ジャンケンしてるの私達だけじゃなかったなの?
キッチンカーフェスっていつからジャンケン大会になったなの?
わざわざジャンケンした分いちご春巻きを注文するポニテ。
凹んでいるその姿に、リンは申し訳なさそうにして言うなの。
「ごめんなさいね、私がジャンケン強いあまりに……今回初めて負けてもいいかな、と思ってしたんだけど勝っちゃったんだ」
「え……?」
あ、私にも漆黒のオーラが見えるようになったなの。
どよどよした渦の巻く紫のエフェクト込のオーラ……最大限に落ち込んでるなの。
リンが煽るようなことを言うからオーラ発動しちゃったなの。
無自覚なところがタチ悪いなの。
「キッチンカーフェスは十八台も出店してるから、十七回も勝ったのでしょ? とても凄いことだから残念がることないのよ? ほら、私の二十六回連勝にあと九で追いつくし!」
「リン、それはフォローになってないなの、逆効果なの。もうやめてあげてなの」
私達の会話にとどめを刺されたポニテは、ワンワン犬になっちゃったなの。
リンと二人で、おーよしよしーと撫でると、クゥーンってして泣き止んだの。調教完了なの。
我に渦巻くこの恨み、いつかまた出会った時にお土産として贈ってやろう~とか言って走って消えて行ったなの。
犬飼いたいなと思った時に、ふとマコのあっさり顔が頭に浮かんできたなの。
多分カレイを箱から開けた日、マコが服従ポーズとってたからなの。
流石にマコは飼いたくないなの。あ~けど食費は毎日カルパスで済むから、飼う自体は楽そうなの。
そんな事を考えながら、リンはジャンケンの連勝を重ねるに重ね、五十連勝まで登り詰めたなの。
顔を真っ赤にして喜ぶリンの姿に、こっちまで違う意味で顔が赤くなったなの。
ま、売り上げはいい方だし、明日のフェス二日目、後半も頑張るなの。




