第21話 節分を護らねば!(リン視点)
「鬼のパンツ福は内」
「はい、こちら"鬼のパンツ福は内"ですよ~」
今日は二月三日、節分よ!
二月上旬限定の、盛モリなカニカマと卵と枝豆が入った恵方巻き"鬼のパンツ福は内"が予想通り大繁盛。
多くの店で売っている恵方巻き価格よりも、かなり安い値段で提供しているのがデカそうね。カニカマと卵の相性は正義よ!
悲しいことに、乾燥した方の節分ならではな福豆は、恵方巻きとの相性が悪いのよね。試しに食べた節分豆入りの恵方巻きは、豆の食感が強くて全てを仰け反って主張する味がしたわ。
カニカマ恵方巻きを四本入りのパックで購入したお客さんは、軽くお礼を言ってから車に乗ってどこかに出かけて行ったわ。
わざわざ遠くからキッチンカーに来て貰えるなんて、嬉しい限りね!
「私もお腹空いて来ちゃったなの」
ランちゃんのお腹が可愛い悲鳴をあげてるわ!
くぎゅううぅぅってもう無料音声提供出来るレベルの可愛さよ!
「……リン、お腹に耳を当てて聞こうとしないで欲しいなの。すっごい恥ずかしいなの」
今いい所なのよ、私の頭をお腹からどかそうとしないで……あ、今また聞こえたわッ!
なんて可愛い音色……し、幸せ……!
堪能しきった私は、顔を真っ赤にして怒るランちゃんに謝りながら、一つ提案するわ。
「一回休憩を挟んでお昼ご飯食べましょ」
「やったーなの!」
両手を広げて喜ぶランちゃんに、カニカマを食べさせながらお待ちしてもらうわ。
そう、食べるのは恵方巻きよ!
節分は恵方巻き以外の選択肢は無いわよね!
ランちゃんの分を作り終わってと。
お待ちなランちゃんはヨダレを啜りながら言うわ。
「一緒に恵方巻きを食べるなの?」
「そうよ、先に食べててね」
私の分もなると時間かかるのよね。
期間限定メニューである恵方巻きは、お米が暖かい内に食べて欲しいから作り置きしてなかったし。
恵方巻きを受け取ったランちゃんは、口を大きく開けて……
「むあ、大きすぎて入らないなの」
ランちゃんの小さな可愛い口には収まりきらなかったのね。私の計算不足ね、申し訳ないわ。
「ちょっと細くするわね」
恵方巻きより細く、海苔巻きより太くな大きさにして。
「はい、あーん」
ランちゃんの小さなお口に食べさせてあげるわ。
「あ~ん……」
ふふ、笑顔でかぶりつくランちゃんは可愛……今日はずっと可愛い可愛いで良い日になりそうね。
私はもう一つ恵方巻きを作りながら、モグモグ中のランちゃんに語りかけるわ。
「どう? 試食もそうだったけどやっぱりカニカマ美味しいわよね~」
「……」
無言でこくりと頷くランちゃん。
いつもは、美味しいなの~けどこれがこうでって訂正含めた感想を言うお決まりなのに、どうしたのかしら?
ジト目で見つめてくるのは日常茶飯事だけど、今回ばかりは明らかに長い。
これは恵方巻きの謎イベント、食べ切るまで喋ってはいけないってやつだわ!
誰も護ってないイベントを全力でするランちゃん……私は恵方巻きを黙って食べてるところを、いつも友達にちょっかい出されてたのよね。
私以外にも喋らない同士が居て嬉しいわ!
私も急いで作って参加せねば……!
……あれ、ランちゃんって私の方を向いて食べてるけど、今年の方角は逆方向だったような。
ランちゃんは方角までは把握して無かったのね、私がグイっと直してあげるわ!
ランちゃんの肩を両手で掴もうとすると、モグっていた恵方巻きがぺちぺち顔に当たるわ。
ごめんねランちゃん、邪魔してる訳じゃないのよ?
「…………ん」
ジト目をしていたランちゃんは、仕方ないと言わんばかりにふんふんと言いながら、私の口に恵方巻きを押し付けて来たわ。
ふんふんは言語じゃないからセーフなのかしら。
けどランちゃん、そのまま押し続けたら───
押し付けられるがままに、私はランちゃんが食べている恵方巻きを咥えてしまったわ。
……これじゃポッキーゲームならぬ恵方巻きゲームよ!
無表情でひたすらに食べ続けるランちゃんは、顔がどんどん前に進んで来る。
一緒に恵方巻きを食べるって……一本の恵方巻きを一緒に咥えて食べるという意味だったのね。
ちょっとびっくりしたけど、こういった食べ方も新鮮で面白いわね。
挑まれた勝負には全力でよ、私も食べ進めるわ!
二人して恵方巻きをモグモグし合い、顔がスレスレまで接近して食べ終わる頃。
「リンさんランさん、こんにちはです。恵方巻きを一つくださ……」
あ、立て札を休業中にしておくのわすれてたわ。
しかもお客さんがひょっこりマコちゃんよ!
恵方巻きを食べ終わった私達を見て、顔を真っ赤にしながら口をコイみたいにパクパクするマコちゃん。
私達の食べ方が羨ましいのかしら?
「ふぅ、食べ終わったわねランちゃん。マコちゃんもいらっしゃい、新しい食べ方に挑戦してたんだけど、マコちゃんもどう?」
「えええ!? そ、そんな食べ方あるんですか!? わたしは遠慮しておきますけど……」
ビクッとはねたマコちゃんは両手で口元を抑えて驚いているわ。
「結構面白かったんだけどなあ~ねっランちゃん!」
ニコッとする私に、ランちゃんが目を逸らして口にするわ。
「リンが私の恵方巻き食べたそうにしてたから仕方なくしただけなの。最後は恥ずかしかったなの」
「私はランちゃんの食べてる方角を変えたかっただけよ?」
「え、私の思い違いなの?」
あれ……?
少しの沈黙が流れた後、私はまあいっかと言ってマコちゃんの恵方巻きを作り始めるわ。
恵方巻きイベントはしっかり出来たことだし問題無しよ!
「はい、こちら"鬼のパンツ福は内"ですよ~」
「鬼のパンツ? あ、ありがとうございます」
カニカマ恵方巻きを受け取ったマコちゃんは、早速食べて美味しいですと呟くわ。
ここに恵方巻きイベント放棄民がいるわ、イベント警察が逮捕しちゃうわよ!
そんなマコちゃんを眺めていたランちゃんは、徐にポケットから何かを取り出すわ。
あれは私が昨日購入した落花生!
豆撒きで落花生を使う時、地面に落ちても中身は後で食べれるからとても優秀なのよね。
ただ欠点が……
「マコ、くらえなの」
「痛ッいたたたッ! ランさんいきなり酷いですよ!」
人に落花生投げるとめちゃくちゃ痛いのよ!
落花生はただ地面に投げる為だったんだけど、ランちゃんは鬼に投げたかったようね。
……私も混ざりたいなあ。
私の表情を察したランちゃんは、ポケットから追加で取り出した落花生を持ってきて。
「リンも一緒に鬼退治しようなの」
ランちゃんが私の手に落花生を握らせる。
豆撒き勝負もランちゃんに負けてられないわね!
「ランちゃん、どちらかが多く豆(落花生)をマコちゃんに当てられたか勝負よ!」
「望むところなの!」
私とランちゃんは無我夢中に落花生を投げまくる。
恵方巻きを食べながらモロに当たりまくりなマコちゃんは、何か言ってるけどモゴモゴしてて聞き取れないわ。
きっともっと投げてと言ってるに違いないわね!
だってマコちゃんMっぽいものね!
きっと内心でも超喜んでいるに違いないわ!
「鬼は外なの~マコは論外なの~」
「マコちゃんは内股~」
「マコは外道なの~」
落花生を全弾打ち終えた私達は息切れしてハアハア。
同時に恵方巻きを食べ終わったマコちゃんは言うわ。
「そもそも私が鬼前提なのおかしくないですかああああああぁぁぁ!!!」




