第15話 いちご春巻きを護らねば!(ラン視点)
「贅沢三昧ざむらい? を二つ」
「はい、ぜんざいトーストで大丈夫なの。どうぞなのー」
今日も今日とてお客さんに笑顔を届けるキッチンカー営業、山付近にある緑溢れる大学の広場に出店中なの。
大学生男女二人組のお客さんは、紙袋に入ったサンドイッチ型のぜんざいトーストを一袋女の方に渡して、お互いウキウキなの。
「良かったらこれもどうぞ~」
と言ってウキウキ大学生組に、それぞれ一本春巻きをサプライズするリン。
春巻きを受け取った二人は、ウキウキに加えて笑顔満開なの。
「小さめで可愛いですねこの春巻き。ありがとうございます」
「待ってこれ! 中にいちご入ってるんだけど! めちゃウマ!」
「クリームチーズと中々に合いますね、食堂パンの代わりにこれをお土産に持ってきましょうか。きっと大喜びですよ」
ぜんざいトーストを片手に、いちご春巻きを食べながら和気あいあいとする二人。
美味しいのは良かったけれども、そろそろ帰って欲しいなの。
イチャイチャバカップルは見ててモヤッとするなの。
「ごめんなさいね、それは今度出るキッチンカーフェスに向けた試作品で、それが最後なの。気に入って貰えて嬉しいわ!」
そう、私達は今月開催されるキッチンカーフェスティバルに向けて、新メニューを模索中なの。
三年間開催されていなかったフェスが、今年ようやく復活する大事なイベントなの。
リンの言葉を聞いた二人は、あちゃ~な顔をしながら春巻きを食べ終わるなの。
「まあ、食堂パンにわさびをねじ込んで渡すイタズラが延期にならず、結果的には良かったというポジティブシンキングでいきますか」
わさび?
こいつらはわさび入りのパンを、誰かさんにお土産として渡すつもりだったなの?
鬼の所業なの。
きっとこの二人は、カップルより下にいる愚民を嘲笑いながら蹴落とす極悪人なの。愚民ども~って心の中で呟いてるなの。
そんなカースト上位二人はようやく大学の方へ戻って行ったなの。
世の中はとても世知辛いなの。
まあ、私にはリンが傍にいるだけ幸せ者なの。
遠く小さくなったお客さんに、笑顔で手を振るリンに聞くなの。
「リン、いちご春巻きはどうする予定なの?」
リンは顎を手で抑えて、うーんと考えてから言うなの。
「クリスマスシーズンが過ぎたとは言え、いちごは春と比べて値段が若干高いのよね……。でも、アイデアは新鮮が一番だから、いちご大福をメインにして、バリエーションを出してカバーする形がいいかも」
「あ~! チョコ春巻きとか出したら美味しそうなの。あと、ぜんざいで思い出したけど、餡子と餅を入れた春巻きとかも良さそうなの~」
「流石ランちゃんね、アイデアがポンポン出てくるわ!」
激褒めするリンは、「いい子で賞をあげるわ」と何かを咥えさせるなの。
熱くてパリッとしたこれは……
「いちご春巻きなの!」
「……美味しい?」
「パリパリ甘くて美味しいなの。けど良いなの? さっきの二人に春巻きは無いって嘘ついちゃったなの」
リンが嘘をつくなんて珍しいなの。
回数は忘れたけど、人間一年でたくさん嘘をつくってリンがお風呂中に喋ってたなの。
そんな一般人を差し置いて、一年で手のひらで数える程しか嘘をつかないリン。
……もしかして、リンの純粋に亀裂が入ってるなの?
リンが視線を逸らして言うなの。
「うん、ついちゃった」
「何でなの。これには千なんちゃらも激おこなの」
「千手観音?」
「そうそれなの」
リンがササッとペラペラな春巻きの皮を手に取って。
「千手観音ちゃん、余った春巻きの皮で許してね?」
「それは逆に煽ってるなの、仏像は春巻きなんて食べないなの。それに、話がズレてれるなの」
リンはミニサイズな仏像から、私に視線を変えて照れくさく言うなの。
「……ランちゃんに食べて貰いたくてつい」
リンがさらに珍しくモジモジしてるなの。なんか、さっきのバカップルを見た時とはまた違ったモヤッと感がするなの。
「じゃあ特別大サービスで許してあげるなの」
「ふふっじゃあ私も特別大大サービスで、春巻きバナナバージョンを作ってランちゃんにあげるわ! もちろん、チョコも餡子餅も!」
「……もうもうなの」
私の隣で微笑みながら、また新たに訪れるお客さんに接待するリン。
食べ終わったいちご春巻きの後味は、少し甘酸っぱい幸せな味なの。




