第一話 : 西暦2186年・鋼鉄の夜明け
西暦2186年。
赤ん坊だった・蒼は十八歳となり、人類の希望《ケイゼル・蒼龍》を纏って戦場へ立ちます。
まずは、彼の“相棒”と“ライバル”をご覧ください。
西暦2186年。
かつて東雲彗が命を懸けて遺した希望から18年が経過してもなお、人類は終わりの見えない泥沼の戦いの中にいた。
灰色の雲が垂れ込める第7特別市街区。
人類の生存圏であるその都市は今、黒い津波に飲み込まれようとしていた。
「第3防衛ライン突破されました! Class-1『スウォーム』数十……いや、数百!」
「無駄撃ちするな! 後方の巨大反応はどうなっている!」
通信帯に響く悲鳴をかき消すように、大地が爆発的に揺れた。 高層ビル群の奥から姿を現したのは、ビルを玩具のように踏み潰し、周囲の気温を急激に低下させる超大型ゼノフォーム
――Class-3『カラミティ』。
絶対的な質量を持つ巨大な怪物に対し、人類の部隊はあまりにもちっぽけだった。
「……邪魔だ、消えろ」
瓦礫の山となった交差点に、低く冷徹な声が響く。
直後、赤黒い閃光がスウォームの群れを「点」で貫いた。
かつて東雲彗が命懸けで開発したケイオスが示した『人類の希望』。
その純粋な戦闘兵器として極限まで研ぎ澄ませた単体絶対完結型の正統後継機
**『ケイゼル・鬼刃』**である。
装着者であるゼタクトのエリート軍人・『赤城蓮』の意思とリンクし、漆黒と真紅のナノマシン可変装甲が脈打つように形状を変える。
頭部の禍々しい角と、胸部で妖しく発光するケイオニウム・コア。
それはまさに、戦場に顕現した血塗られた鬼そのものだった。
蓮の動きには、一切の無駄がなかった。
腰部から射出したワイヤーアンカーを崩れかけのビルに突き刺し、振り子の原理を利用して空中で鋭角に軌道を変える。
死角から迫るClass-2に対し、肘部にマウントされたトンファー型ブレイドで打撃と同時に装甲を砕き、すれ違いざまに抜刀した可変ナノ太刀の刀身を瞬時に「長太刀」へ再構築。
強固な生体装甲ごと両断する。
そのまま宙返りし、左腕に備えられた腕部小型レールガンを出力を絞った連射モードで展開。
無音の赤い電磁弾が、直線上に並んだ数十体のスウォームの急所を一度に貫いていく。
アンカーによる立体機動、変幻自在の斬撃、出力を制御したレールガンによる精密射撃。
それらを流れるように組み合わせた洗練された戦闘術は、まさに芸術的とすら言える領域だった。
だが、どんなに蓮が効率よく敵を解体しようとも、黒い波は止まらない。
『警告。マスター、単騎でのClass-3撃破確率は10%以下に修正されました』
蓮の耳に鬼刃に内臓された男性型AI・**Adam**の冷徹な戦況分析が聞こえる。
戦況の確率弾き出しから機体の出力調整までを完璧な論理で統括し、何よりも「装着者の生存」を最優先する戦術演算AIだ。
『仮に撃破に成功したとしても、無限に湧く残存Class-2の追撃を振り切るエネルギーは残りません。生存率が著しく低下するため、速やかな撤退および作戦変更を推奨します』
「……雑魚をいくら倒してもキリがない。あのバカが到着するまで粘るしかないってのか」
群がるゼノフォームと、街を焼き払いながら接近するClass-3の巨体を前に、常に冷静な蓮もついに焦燥と苛立ちを隠せなくなった。
「元凶を潰す……!」
舌打ちと共に、蓮はAdamの効率化プロトコルを無視し、腕部小型レールガンのチャージを最大出力まで引き上げた。
ナノマシン装甲が軋みを上げ、極大の赤い電磁弾が射線上の群れごと巨大なカラミティの頭部を貫き、強烈な爆発を起こす。
しかし、煙が晴れると同時、カラミティの頭部は悍ましい肉音を立てて即座に再生していく。
『稼働可能時間、残り10分を切りました。**生命維持プロトコル**を発動。機能を防御運用へ移行します』
「チッ、勝手にリミッターをかけるなと言っているだろうが、Adam!」
Adamの強制介入により装甲の赤光が明滅し、出力が低下。
蓮の苛立ちがピークに達したその時だった。
「――お待たせぇー!!」
灰色の雲を突き破り、戦場に青い彗星が舞い降りた。
背部に懸架された巨大な滞空・高機動推進ユニット**『天之浮橋』**が轟音と共に逆噴射をかける。
そこに降り立ったのは、東雲彗が遺した対ゼノフォーム戦闘兵器のもう一つの到達点。
『ケイゼル・蒼龍』
悪魔的な鬼刃のフォルムとは完全な対極。
白銀の装甲と、鮮やかな蒼穹の流体思考フレーム。
胸部のリアクターコアを中心に、全身のエネルギーラインが青白く脈打ち、ヒロイックで洗練された騎士のような威容を放っている。
だが、その両腕に標準装備されているはずの『プラズマ・トンファー』は収納状態のまま使われず、代わりに自身の身長の4倍(約7.6メートル)はあろうかという、常識外れの超巨大な兵装が強引に抱えられていた。
「すまん蓮、ちょっとコイツの調整が手間取ってさ。無事だったか?」
「……遅い。死に損なうところだった」
蓮のバイザー内に戦闘中とは思えない緊張感のない青年の声が響いた。
『マスター、再三の警告です。この電磁壊滅型アンカー**「雷」**はデータベースに正式登録されていません。使用後の機体へのバックドラフトは予測不能です』
蒼龍のヘルメット内に、澄ました女性型AI・**Karen**の呆れ果てたような声が響く。
軍事論理の塊であるAdamとは異なり、無茶ばかりするマスターの魔改造に対して常に毒舌を吐きながらも、その要求に極限まで応えようとする相棒だ。
「何とかなるだろう。いや何とかしてくれ、Karen!」
スーツの中の青年は、どこ吹く風といった様子で満面の笑みで言い放った。
『……バカすぎてAIコアがショートしそうです。了解しました。ここまできたら、毒食わば皿まで。過剰出力、リアクターコアで私が抑え込みます』
「オッケー! いくぜ新装備……おりゃああーッ!」
青年の絶叫と共に、リアクターコアの輝きが頂点に達し、巨大砲身から極大の「槍」が射出された。
空を切り裂く轟音と共に放たれた『雷』は、推進器の火を噴きながらclass-3の分厚い生体装甲を強引に打ち破り、その胸部深くへと突き刺さる。
槍の末尾は、太い鉄線で蒼龍の機体と繋がっていた。
その瞬間、規格外の質量を撃ち出したえげつない反動が、蒼龍の流体思考フレームを激しく襲う。
「うおぉぉッ!?」
機体が後方へ吹き飛びそうになるのを、背部の『天之浮橋』が凄まじい轟音を立てて全力逆噴射し、空気を焼き焦がしながら力ずくで空中に押し留めた。
『姿勢制御だけで演算領域が焼き切れそうです! 』
「そこを耐えるのがお前の腕の見せ所だろ! Karen、電圧最大!」
『……了解しました。――消し炭になりなさい』
Karenの冷ややかな宣告と共に、蒼龍の全身のエネルギーラインが発光。
天を焦がすほどの超高電圧が鉄線を通じてclass-3の体内に直接叩き込まれた。
外からの物理攻撃を無効化する巨大な怪物も、内部から直接再生核を焼き尽くされてはひとたまりもない。
鼓膜を破るほどの断末魔の叫びを上げ、数万度の熱量に焼かれて黒焦げの塵となり、粒子となって霧散した。
戦煙が風に流され、静寂が戻った交差点。
大仕事を終えて立ち上がる蒼龍の背後に、パワードスーツのヘルメットを脱いだ蓮が不機嫌そうに歩み寄る。
「なんだそのイカれた装備は。データベースにないものを戦場に持ち込むな。作戦系統が混乱するだろうが」
「倒したんだからいいだろ。結果良ければ全てよし! 実弾ベースで電撃の指向性も絞ったから市街地への被害も最小限だ。全部上手くいったじゃないか」
蒼龍のマスターも首元のロックを外し、プシュリという排気音と共に鋭角的な青いヘルメットを脱いだ。
汗ばんだ前髪の下から顔を出したのは、父・彗の無謀な天才性と、母・藍の深い優しさをそのまま受け継いだような、屈託のない笑みを浮かべる青年――
**東雲蒼**だった。
『私はやめたほうがいいと強く反対しましたよ、蓮。彼が勝手に持ち出したんです』
蒼龍のヘルメット内のスピーカーから、Karenの澄ました声が漏れる。
「嘘つけ、さっき研究室では『Class-3の内部構造を焼くには良い案かもしれない』って言ってただろうが!」
『事実の歪曲です。私はマスターの無謀を常に嘆いている悲劇のAIですよ』
「お前なぁ……!」
まるでコントのような一人と一機のやり取りを前に、蓮は深く、深くため息をついた。
「……バカが。せいぜいマシな始末書の言い訳を、その間抜けなAIと一緒に考えておくんだな」
蓮は踵を返し、振り返ることなく夕闇の迫る戦場を歩き出す。
「おい蓮! 待てよ! ……ったく、あいつ何に怒ってんだろ?」
『……100%、マスターのその無神経さが原因だと思いますよ。』
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は主人公・東雲蒼と、もう一人の重要人物・赤城蓮が初登場しました。
同じケイゼルの装着者でありながら、真逆の戦い方と性格を持つ二人。そして、毒舌AI・Karenと超合理主義AI・Adam。この凸凹コンビが、この先の物語を大きく動かしていきます。
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それでは、次話でお会いしましょう。




