平安時代編第十三話 : 蒼龍、飛翔
地鳴りのような咆哮を上げ、四体の巨体が同時に振り下ろそうとした破壊の剛腕。
景行が死を覚悟し、刃を強く握りしめたその瞬間――
夜空の明星が地上へ疾走したかのような、圧倒的な蒼い閃光が戦場を覆い尽くした。
ガアアッ――轟!!
鋭利な衝撃波が平原を薙ぎ払い、景行に襲いかかっていた巨大な物怪の腕が、肩口から一刀両断されて宙を舞う。
黒い血の雨が降る中、着地の衝撃で土煙を巻き上げながら一人の少年が立っていた。
「……ハッ、間一髪……! 間に合った……っ!」
左腕のデバイスを光らせ、荒い息を吐きながら立ち上がったその背中。
その軌跡の先にいるのは、己が命を賭して守るべき主人を、その未来ごと託したはずの男だった。
「なぜ……お前が……ここにいる……!?」
理解が追いつかず、景行の途切れ途切れの声が掠れる。
蒼はゆっくりと振り返ると、傷だらけの景行の凄惨な姿に一瞬胸を痛めながらも、この緊迫した戦場には不釣り合いなほど眩しい笑顔をニカッと浮かべた。
「景行、お前……本当にすごいな。生身の人間だけの力で、こんな化け物の群れをここまで食い止めるなんてさ」
脳天気に聞こえるその言葉に、景行の中で張り詰めていた感情の糸が、プツリと弾け飛んだ。
「なぜ……なぜお前がここにいるんだぁっ!!」
景行の腹の底からの叫びが平原に響き渡る。
「お前には葵様を託したはずだ! 共に守ると……相棒だと言っていたのはお前だろうっ! だから俺は信じて、村を、葵様を……お前に託したというのに! キサマは、なぜ……っ!!」
怒りと、悲しみと、行き場のない不甲斐なさがぐちゃぐちゃに混ざり合い、武芸者として一度も弱音を見せなかった景行の目から、ボロボロと大きな涙が溢れ落ちた。
死を賭した己の覚悟を踏みにじられた悔しさと、それでも目の前の男が無事であったことへの安堵。
そのすべてが涙となって頬を伝う。
「――うるせぇえええええっ!!」
景行の叫びを遮るように、蒼が大声を張り上げた。
「俺は東雲蒼だ! 都から派遣されてきた忍びでもなければ……今はゼタクトのシステム適合主任研究員、兼・戦術実証装着者でもねぇ! 守りたいものは、俺の意志で決める!!」
胸を叩き、血を吐き出すような勢いで、蒼もまた感情のすべてを曝け出す。
「葵もお前も、この村も……全部俺が守ってやるんだよっ!!」
言葉の理屈を超えた圧倒的な熱量。
その咆哮に、涙を流す景行すら一瞬あっけにとられて言葉を失った。
『……マスター。今の発言は文脈が全く定まっていませんよ? 景行様も呆れておられるご様子です。要約して私からお伝えしましょうか?』
K-GEARから響くKarenの無機質で呆れたような音声に、蒼は思わず「ぶっ」と肩の力を抜いた。
「いや、要約はいらない。……まあいいや。とりあえず葵のおかげで吹っ切れたしな。うだうだ後のことばっか考えてないで、今は思いっきりやってやる!」
蒼は不敵に口端を上げると、左腕のデバイスへ意識を集中させた。
「Karen、《蒼龍》の復旧率は!?」
『景行様が命懸けで稼いでくださった時間により、流体思考フレームの復旧率は【82%】に到達。基本武装はすべて正常稼働、制限解除プロセスへと移行可能です』
「ようやくか……長かったな。……さて、魅せてやろうぜ、Karen!」
蒼は左腕に巻かれたK-GEARに右手で触れ、空間のエネルギー回路を同期させると、正面に向かってまっすぐに突き出した。
「ケイゼル蒼龍・東雲蒼………飛翔!!」
蒼の宣誓とともに、K-GEARから未知の量子エネルギーが噴出。
周囲に激しい蒼いイナズマが走り、大気を振動させる破砕音が轟いた。
爆発的なエネルギーが閃光となって解き放たれ、夜の平原を昼間のように照らし出す。
見たこともない異常事態に、狂暴だった物怪どもが一斉に足を止め、恐怖に慄いて引き下がった。
次の瞬間、周囲に広がる高次元粒子が蒼の肉体を包み込んでいく。
蒼穹の如き深遠な青と、重厚な白銀の超金属層が幾重にも重なり合い、少年の体を「鋼の鎧」として覆っていく。
散乱していた光の粒子が一気に収束し、天へと駆け昇る龍の如き一筋の巨大な蒼光となった。
「蒼い……龍……」
景行が息を呑む。
目の前にいた、少し頼りなくも真っ直ぐな瞳をした異邦の友。
彼がいま、人智を超えた「龍の化身」となり、光の渦の中から姿を現したのだ。
『ケイゼル蒼龍、装着完了。メインドライブ、出力安定』
Karenの静かなアナウンスとともに、装甲の隙間から溢れ出る光粒子が夜空を蒼く染め上げる。
ケイゼル蒼龍。
未来の地球人類が誇る超科学の叡智と、絶対なる意志を結集し、異星体ゼノフォームを駆逐するために創り上げられた最高峰の戦術兵装。
失われていた未来の光が、この平安の地に、一人の戦士としてついに完全なる顕現を果たした。
ようやく、この瞬間を書けました。
この「蒼龍・飛翔」は、この物語を考え始めた頃から頭の中にあった、一番の変身シーンです。
ここまで蒼龍を完全に使わせなかったのも、この一瞬のため。不完全な装甲で苦戦を重ね、景行が命懸けで時間を稼ぎ、そのすべてが復旧率「82%」という数字に繋がっています。
そして、景行が初めて見る「蒼い龍」。
この世界の武士が、人類の未来が生んだ最高峰の兵装を目の当たりにした時、どんな景色に映るのか。それを想像しながら書いていました。
ここから先は、ケイゼル蒼龍の本領発揮です。
ぜひ、決戦を最後まで見届けてください!
本日21時にこの戦いの決着を掲載します。




