約束の地
食後、店の看板娘に「水花」の名前を出した。
するとビックリして、ここらを締めている土地主の娘だと言う。
「ほう」
「会いに行ってみるか?」
「秘密裏にこちらに会いに来たのなら、まずいかもな」
「なるほど」
「もう一度、砂漠を見に行こう」
「分かった」
夕暮れ近くに、空の色が変わりだした頃。
薄暗くなってきた砂漠の温度も下がってきて、妙に眠いような気がしてきた。
そこに、ぼんやりとした情景が浮かんでくる。
「そこに誰かいるのかい?」
蜜秀が優しい声で聞く。
「《いるよー》」
そう答えた存在が、今はまだ姿がとれないんだ、と言っている。
「まさか、妖?」
樹玄がいぶかしそうにすると、無邪気な声が「《精霊だよ》」と言った。
「あいや、すまなんだ」
「精霊よ、貴殿らが花の幽霊の正体なりか?」
「《夢を見てるんだよ》」
「「夢?」」
「《そう。ここは約束の地》」
「何の約束?」
「《砂漠はその約束の時を待ちわびて、夢を見てるんだよ》」
すると、砂漠に半透明な花畑が現れ、風に揺れているような情景が見えた。
「・・・まさか、砂漠にも意思があるのか?」
「砂漠の見た夢・・・花のオバケ・・・おそらくこの事だな」
「・・・どうしたらいい?」
「《約束を守って叶えて欲しい》」
「それはどんな約束だったんだい?」
「《砂漠に植物を植えて、いつか花を咲かせる事。花畑をきっと作るって》」
「なるほどね、心当たりに相談してみるよ」
「《ありがとう・・・》」
空気がどこからか抜けるような感覚がして、気配が消えた。
樹玄は蜜秀を見る。
蜜秀は樹玄を見て、「土地主に会いに行こう」と言った。
――
―――・・・
土地主の家に通され、日焼けした肌の中年男が書斎にいた。
「事情は聞いた・・・娘がすまんかったね」
「いえ。少しでもお役に立てれば、と思っただけです」
「ほう・・・砂漠の夢について、思い当たる節がある。先祖が言っていた」
「じゃあ、花を植えたらいい!」
樹玄が嬉しそうに言う。
「それが、あいにくと砂漠で育つ花を知らない・・・損はしたくない」
蜜秀が微笑する。
「シヴァーと言う植物をご存じですか?」
「私は死を拝んでいるが、それと何か関係あるかな?」
「砂漠でも育ちやすい植物。砂漠用に掛け合わされた芝植物です」
「ほう!どこで手に入るのかすぐに調べよう!死んだ親父が最期に言ってたやつだ」
――
――――・・・
数週間後、蜜秀の家に手紙が届いた。
その時も樹玄はベニーレの様子を見に来ていて、その場にいた。
手紙を読んだ蜜秀は微笑して、樹玄に声をかけた。
「どうした?」
「水花からの手紙だ。シヴァーが砂漠に適合して、本格的に緑化計画が始まったと」
「ほう!」
「芝が張れば他の植物も植えられるかもしれんのじゃと」
「ほうほう」
「それから、計画が始まってから、花のオバケは出てこなくなったそうだ」
「ほーう、ほうほう」
「うんうん」
樹玄は口角を上げた。
「いつか砂漠が花畑になるのを見たいなぁ」
「もう、あっても意味の無い地区だしなぁ・・・ウィーザードボードがなつかしい」
「持ってるのか?」
「少年期に砂漠で乗っていた」
「それは少しうらやましい」
「うんうん。あんまりにも事故が続くので禁止されたんだ」
「なるほど・・・」
「花畑の上をウィーザードボードで飛んでみるのも楽しいかもなぁ」
「それ、いいな!」
「うんうん。まぁ、これで解決の糸口はできたわけだ」
「呑むのか」
「そうだな。茶瑠よ~、酒と肴を用意してくれ~っ」
少し遠目から、はーい、と蜜秀の妻の声が透った。




