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箱庭の小人

 いつものように肴を用意して、樹玄は蜜秀の家をたずねる。


 接客したのは蜜秀の妻のチャルで、歓迎してくれた。


「今日は他にもお客様が来る予定なんです」


「ほう、酒盛りはできないのかな」


「分かりません。すいません」


「ああ、いや、大丈夫、大丈夫。気を使わせてすいません」


「本当に旦那の友達があなたで良かったわ」


「ん?」


「いい、いい。お気になさらないで。これからも旦那をよろしく」


「うんうん」


 通されたいつもの部屋で、蜜秀はすでに酒を飲んでいた。


「なぁ、蜜秀・・・」


「ん?おお。来たか。肴はなんだ?」


「茄子と厚揚げ豆腐の炊いたやつ、だ」


「まぁ、座れ。お母上にお礼を言っておいてくれ」


「今回は俺が作って来た」


「ほう、座りたもう」


「それで、蜜秀」


「ん?なんぞ」


「貴殿、仕事はしておらぬのか?」


「気づいていなかったのか。仕事とまではいかんが、妖退治の協力をしている」


「あ、なるほど」


「何で炊いたんだ?」


「肴か。鰹出汁だ」


「うんうん、賞味。うんうん。そちも呑みたも」


「うんうん。気になってることがあるんだ」


「なんぞ」


「出会った時の三つ目の黒牛、どこにいるんだ?」


「ほぅ」


 蜜秀があまりにも意外そうな顔をしたので、樹玄は小首を傾げた。


「どうした?」


「あれは箱庭に収めてある」


「箱庭・・・?」


「摩訶不思議なる箱だ」


「神とか何か関係あるか?」


「うん?知らん。我、何故か不思議なものと縁があるなりよ」


「ほう・・・」



 そこに茶瑠が、「お客様ですよ」と言って部屋に小人を通した。


 水干を来た幼児かと思ったら、小背の男で、成人しているらしい。


「件の客人?」


「そうである。酒は?」


「いい、いい。すぐに帰りたいから」


「うんうん。それで、相談とは?」


「うん。連れてきた」


 そう言って小背の男が斜めがけのカバンから出したのは、小人だった。


 小背から見ても、小さい人。


 赤子ではなく、妖精や精霊を思わせる小人だ。


 きょとんとしていて、不思議そうにこちらを見上げている。


 どうも骨格や風体から男性の小人であり、小さな狩衣を着ている。


「ほぅ」


 周りの様子を見て、小人がそうぼやいた。


 蜜秀が両手ですくい上げるようにして持ち、顔の前で見る。



「ほう」


「ほう」


「ほう」


「・・・ほう」


「ほうほう」


「・・・ほ?」


「ほーほー。どこの生まれなり?」


「知らぬ」


 小背の男が、「どうも頭を強く打ったらしくて、記憶喪失中なんだ」と言う。


「名前は?」


「マキト、なり」


「何か言いたいことはあるか?」


「うわさを聞いて、話しかけたのなり」


「僕に、だ」と小背の男。


「なるほど・・・仲間とかはいないのか?」


「・・・分からん」


「この調子で、どうしていいのか分からないんだ」


「どこで見つけたんだ?」


「家の中」


「うーん・・・」


 樹玄は「家の中?台所とかにいるのかの」とぼやく。


「夜中に甘い物が欲しくなって起きたら、僕のクッキーを食べていたんだ」


「・・・ほう」


「妻が怖がってね。それで相談を」


「しょうがない。行く当てがないなら、こちらで預かろう」


「ほう!良かった、良かった。マキト、きっと自分を手に入れろ」


「ありがとう」


「うんうん。じゃあ僕は帰るよ。お金はどうしたらいいの?」


「そういうのよく分からないから、妻に声をかけてくれ」


「分かった~」


 客は帰り、茶瑠がやって来る。


「最近、みかんが流行ってるらしいですよ」


「何故であろ?安いのか?」


「よく分からないです。お護りになる、って」


「・・・ふぅん」



「それで、マキトはどこで暮らすんだ?」


「三つ目の黒牛の箱庭でどうだろうな?」


「ほう」


「大丈夫だ。やつは食べたものを全部吸収して出さないから」


「ほうほう」


「小さいが気分的に家も作ってあるから、そこで暮らしたらいい」


「ありがとう」



「箱庭、見たい」と樹玄が口をはさむ。



 立体模型のような箱庭が卓の上にあり、そこに三つ目の黒牛がいた。


「《あれ?いらっしゃーい》」


 樹玄は「うんうん、どうも、ね」と返事をする。


 摩訶不思議なる箱庭には、盆栽が生えている。


 小さなかやぶき屋根の中に入ったマキトは、中の様子を見て出てきた。


「ありーがとー!!」


「うんうん」


 樹玄と蜜秀が酒を飲んでいると、箱庭から奇妙な音が聞えてきた。


「なんぞ」


「大丈夫じゃ」


 ふたりでそろりそろりと近づいて、取り外しのきく屋根を持ち上げる。


 すると中には、ベッドの上で眠っているマキトがいびきをかいていた。


 ふたりは苦笑し、屋根をそっと戻して酒盛りを再開した。


  

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