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池の前に現れる謎の美女

 なんだか片手にみかん1個を持て余しながら帰宅中の樹玄。


 そこに、可憐な歌声が聞こえる。


 中々大きな池の側で、真っ白な腰布と胸元にさらし、羽衣をまとう美女がいた。


 片手にはヒョウタン型のうちわを持っていて、へそが見えるその体は曲線を描いている。


 長いつややかな黒髪に、薄桃色の潤んだ唇、黒い虹彩をふちどる長いまつげ。


 蝶や花や猫の獣に例えられてもおかしくはない美女との対面に、樹玄は「おお」と言った。


 美女は樹玄に微笑んだ。


「私と遊んでいかないかい?」


 樹玄は数秒沈黙して、イヤだ、と言うと歩き出し、無事に家に帰った。



 ――

 ――――・・・後日。



 蜜秀の家にはルナと樹玄が来ていた。


 ルナからはどぶろく、樹玄は肴である屋台から買った天ぷらを持参した。


「何の天ぷらですか?」


「白身魚、イカ、れんこん、大葉、茄子、オクラ・・・あ、ホタテの貝柱も」


「「ほうほう」」


 酒を呑みながらの会話になる前に、蜜秀の嫁であるチャルが挨拶をした。


 どうも年上らしいが、なかなかの童顔だ。


 何か作りましょうかと言われたが、天ぷらがあるのでいいと蜜秀が言った。


 三人で酒盛り。



「出た、らしいですね・・・」


「うん・・・」


「妖?」


「「そう」」


「あれって妖だったのか?」


「なんでお前は無事だったんだ?」


「分からない」


「逃がしてもらったとか?」


「いや、本当に分からない・・・あれは妖なのか?」


「美女だったんだろう?」


「美女だったよ」


「うわさには、夢のような美女」


「うんうん。分かるよ」


「誘惑の術で普通の男は動けなくなるらしいんだが・・・」


「なんで俺は無事?」


「知らん」


「不思議だなぁ・・・そんなに魅力的なら見てみたい」


「顕著な変わった事はないのか?」


「みかんを持ってたくらいだよ」


「みかん・・・?ほう。その妖はみかんが苦手かもしれんのか」


「・・・皮の油分とかですか?あれ、苦手なんです、私」


「分からんくもない」


「どうするんです?」


「退治班から協力の依頼が来てるんだ。なんでも美しい男にしか興味がないらしい」


「「ほう」」


「どうする?」


「協力してもいいですよ。わたくし、破魔の剣を持っていますし」


「我も協力するぞ」


「みかん、持っていくか?」


「「うん」」


「袖にでも入れておこう」



 夜。


 退治班と合流し、三人はあまっていたみかんを退治班に渡した。


「お守りに」


「うん?うん。ありがとうね。今、仕事中だからあとで食べるよ」


「うんうん」


 みかんを袖の中にいれる退治班たち。



 池の側に現れると言うその美女は、何を恨んでか美しい男を溺れ死にさせるらしい。


 誘惑の術を使う妖らしいが、歌声が聞こえてきた。



「来た・・・」



 現れた女はすでに面々に気づいていて、蠱惑的な声で「遊びましょうよ」と言った。


 誘惑の術がかかっているが、破魔の弓矢を番える蜜秀。


 その前面に立ち、両手を広げたルナ。


 放たれた弓矢をどうにか避けた妖は、腕を傷つけていた。


「おのれ!なにゆえ、誘惑の術が効かぬっ・・・?」


 形相を変えた美女が、闇雲に駈けて来る。


 その速さに驚いている樹玄の目の前にルナが現れ、妖を破魔の剣で斬り付けた。


「自分は目が見えません」


「ちくしょう!」


 長い爪の攻撃をルナが避けると、そこに退治班の弓矢複数。


 それに交じって、蜜秀の弓が放たれ、妖の心臓を射る。


 声を失い驚愕の顔をした妖が、砂や灰のようになって消えていく。



 どうも事前の退治班の調べによると、そのあやかしは元人間。


 しかも十四歳らしい。


 二十歳くらいにしか見えない件で、悲しい恋愛の過去があるらしい。


 だからって犯行は認めない、と、退治班は言い切った。



 帰りにみかんを一同で食べて、皮の汁を飛ばす話で少し和んだ。


 どうも不思議な事であった誘惑の術の無効化。


「どうして樹玄には術がかからなかったんでしょう・・・?」


「俺、心当たりがあるんだ」


「なんだろう?」


「・・・俺、ぽっちゃり系しか好みじゃないんだ」


「「なるほど」」


 ルナは目が見えず、蜜秀は特殊な体質。


 樹玄が術にかからなかったのは、どうもあの美女が好みじゃなかったから、らしい。



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