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吟遊詩人

片胡座かたあぐらの座り方をした吟遊詩人ぎんゆうしじんが、街の広場でハープを奏で始めた。


 耳は少しばかりとがっていて、面立ちはまこと美しい。


 ローブから見えている腕は、男のものであるのにどこか可憐な印象だ。


 長い白髪の頭上部を結ってあって、かんざしで留めてある。


 その美声が歌い出すと、樹玄と蜜秀は立ち止まり、目配せをすると耳を澄ませた。



海辺で潮騒を聞いていた

寄せては返す浅瀬


死んだ珊瑚でできた白い砂

誰も食べない行き着いた海藻


歩いた足跡は波にさらわれた

思い出と一緒に


ふりかえるなと

水底の宮が言っている


魔法をといたらいけないと

秘密をあばいちゃいけないと


夢のようにかすんだ自分を

確かに砂の感触を足に残して


怖い魔女はいらない

人魚姫にもなれない


ただ歩いているのは自分で

やっとそれに気づいたんだよ



 歌が終わって、銭の回収にある程度ひとが集まっている。


「どれ」


 蜜秀が銭を『おそらく専用の帽子』に入れると、吟遊詩人ははっと息を呑んだ。


「すごいっ・・・」


「ん?」


「あなたの命、すごいっ」


「・・・ほう」



「どうした?」



 近づいて来た樹玄に、吟遊詩人は嬉しそうにした。


「こちらの命もすごいっ!素晴らしいなっ。友達になりたいっ」



 ――・・・と言う運びで、蜜秀と樹玄に、急になついた吟遊詩人の友人ができた。


 後日、共に街を回りたいと言うので、興味本位でその案内を蜜秀がすることに。


 越してきて間もない樹玄にもありがたい話なので、同行することになった。


 

 吟遊詩人の名をルナと言うらしい。


 この街の甘いものにも、美味い食べ物屋にも、酒にも案外とくわしい。


 さて、ならばどこに行こうか、と考えあぐねる蜜秀と樹玄。


「そういう店もあるにはあるんだが。最近、キャバレーに花形が新しくなって」


「何だってっ?」


「わたくし、目は見えません」


「「あ、そうか」」


 苦笑するルナは、近くの喫茶店に行きたいと言った。


 何ぞその古い喫茶店に思い出でもあるのか、と蜜秀が言うと、うなずかれた。


 歩いてすぐの場所にあるその喫茶店は、ルナが母親と行った事がある貴重な場所。


 出身がこちらなのか聞くと、どうも違うと言う。


 どうしてこの喫茶店だったのかは知らないが、今でも時々顔を見せては店主と普通に話をしているらしい。


 樹玄にとってそれが何故、意外だったのか分からないが、喫茶店の店主は女性だった。


 普通に煙草を吸っているひとで、ルナの顔を見るとぱっと顔色を明るくした。


 吸い始めの煙草をすぐに灰皿でもみ消し、「いらっしゃい」と嬉しそうに声を透した。


 夜になると酒を出す店らしいが、今は昼。


 ルナのすすめでナポリタンとハンバーガーとメロンソーダを注文して、別けて食べる。


「この光景、なんだかキモい」


 樹玄のつぶやきにルナが苦笑し、「自分は嬉しいです」と言った。


 蜜秀が樹玄に「お若いのね」と茶化し、樹玄も笑う。


「まぁ、いいよもう。美味しいし」


「うんうん」



「お友達なのかい?」


 女店主の質問に、ルナが嬉しそうに「はい」と答えた。




「そう言えば最近、変なのが出るって言うから気をつけなよ」


「変?と、言うと?」


「あやかし、だよ、あやかし。なんでもべっぴんなんだってさ」


「「ほーう」」


「だまされるんじゃないよ!帰り道、気をつけな!」


「「ありがとう」」


「みんな良い子だねぇ。みかん、1個ずつあげるよ」


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