49 王の切り札
49 王の切り札
国王ネルソン目線
サンダースが死んだ。
これで一つ片づいたと、わたしは思っていた。
あの男の財産を押さえ、王子を後ろ盾にした一派を散らした。王家に手を出した者を、王として裁いたのだ。
重臣たちも、わたしを見る目を変えるだろう。
だが、翌日の会議で、宰相は別の書類を出した。
「先王陛下とガルシーナ公爵閣下が襲撃された件について、再度ご報告申し上げます」
なぜ今だ。
わたしが問いかける前に、扉が開いた。
騎士団長が入ってきた。後ろには、知らない男がいる。
「傭兵の仲介をした者です」
宰相が言った。
「侯爵家の支払いを調べる過程で、身柄を確保いたしました」
知らない男。だが、宰相が広げた帳簿には、見覚えのある数字が並んでいた。
サンダースの送金と、わたしが渡した前金。別々に渡したはずのものが、同じ帳簿に載っている。
仲介の男にしてみれば、報酬が滞れば困る。記録を残す理由があったのだ。
「偽物だ」
わたしは言った。
「侯爵が、わたしを陥れるために作らせたのだ」
「陛下の私印がございます」
「盗ませたのであろう」
宰相は次の紙を出した。
警備の変更。父の供回りの名簿。城の裏門を通すための許可状。
どれも、わたしの執務室から出たものだ。
「捜査を、わたしに隠して進めたのか」
声を荒らげた。
宰相は初めて、わたしをまっすぐに見た。
「先王陛下を殺した者の捜査でございます。現王陛下のお許しを得る必要はございません」
立ち上がろうとすると、騎士が両脇を固めた。
その向こうに、アレクがいた。
マイクも、ウィリアムもいる。
助けろと言おうとして、やめた。
三人は、同じ目をしていた。怒りでも憐れみでもない。もう決まったことを見る目だった。
「お前たちが、わたしを推した」
アレクは頷いた。
「はい。父上を失い、判断を誤りました」
下げた頭が憎かった。
あの時と同じだ。自分の落ち度を認めているようで、なにも失わない。
「知らなかったとは言わせぬぞ」
「なにをでしょう」
「襲撃だ。お前たちは、あの日なにが起こるか知っていたのであろう」
マイクが首を傾げた。
「陛下は、襲撃について事前にご存知だったのですか」
しまった。
会議室の誰もが、こちらを見ている。
わたしは奥歯を噛んだ。
まだ手はある。
「銀灰妃を呼べ」
三人の顔から、表情が消えた。
やはり、そこだ。
「彼女に話がある。王の命だ」
「その命には従えません」
アレクが答えた。
「母上を、ここへお呼びするつもりはありません」
扉の方から女の声がした。
「もう来ておりますよ、陛下」
銀灰妃だった。
わたしは自分でも驚くほど、ほっとした。
この女なら話が通じる。三人の母だ。母親なら、息子をいさめることができる。
「銀灰妃。この者たちは国を混乱させようとしている。わたしを廃せば、後継をめぐって争いが起こるぞ」
「三人は争いません」
「そう決めつけられるものか。王座とは……」
「あなたには、三人が争ってくれないと困るのですね」
彼女は、机の前まで来た。
わたしを見下ろす。
「わたしを救えば、お前の望むものを与えよう」
言ってしまってから、後悔した。弱みを、よりによってこの女に見せたのだ。
銀灰妃は笑った。
「では、お父様とお母様とウィルを返してください」
誰も動かなかった。
「できないことを、軽々しくお約束なさらないで」
冷たい声ではなかった。
無理なお願いをした子供に、言い聞かせるような声だった。




