48 祖父の願い
48 祖父の願い
サンダース侯爵が王宮へ入ることを禁じられたのは、それから三日後だった。
最初は、買収に応じた使用人の取り調べだけだった。
侯爵は、知らぬと言えば済むと思っていた。
だが、王妃殺害の捜査で押収されていた王妃宮の記録から、侍女ナタリーを解雇する手続きの書類が見つかった。添えられていた指示書から、あの日、彼女を王妃と二人きりで残すよう伝えたのは、侯爵家に出入りする侍従だったと分かった。
国王ネルソンは捜査を広げた。
身に覚えのある者ほど、自分以外の者の罪をよく知っている。
イサドラが持っていた毒の仕入れ先。
パトリシアを預かっていた屋敷の目撃者の証言。
王太子を襲わせた傭兵への金。
一度は閉じられた帳簿が、次々に開かれた。
侯爵を守っていた者たちは、自分を守るために口を開いた。
「ネルソン陛下は、ご自身のなされたことをお忘れか!」
縄を打たれた侯爵は、拘束を告げに来た宰相に怒鳴った。
宰相はしばらく黙っていた。
「お忘れではないでしょう」
宰相の後ろから、マイクが姿を現した。
侯爵は縄をかけられた両手を持ち上げた。
「マイク。よく来てくれた。お前から陛下に言ってくれ。わたしはお前のためを思って……」
「そうですね。アレク兄上を殺せば、わたしの順番が来る」
侯爵は口を閉じた。
「その前にネルソン陛下を片づけなければなりませんが。どうなさるおつもりでしたか」
「わたしは、お前に」
「王になってほしかった。それはよく伺いました」
マイクは椅子を引いて座った。
「わたしがなにを望んでいるか、お尋ねになったことはありませんね」
孫の銀の髪が、窓から入る光を受けた。
あの女と同じ色だ。エミリーが嫌っていた色。
「お前は、わたしの孫だ」
「ええ。ですから、最期まで立ち会います」
それは助命の約束ではなかった。
取り調べは長く続いた。
罪を一つ認めれば、次の証人が呼ばれた。昨日まで頭を下げていた者が、今日は侯爵の命令だったと訴えた。
娘を見捨てた時に口にした言葉を、家臣たちは少しずつ変えて使った。
「止めたのですが」
「逆らえば家族が」
「まさか、本当におやりになるとは」
ある日、面会に来たマイクへ、侯爵はかすれた声で聞いた。
「エミリーを殺したのも、お前たちなのか」
マイクは返事をしなかった。
[教えてやる?]
ウィリアムの声が尋ねた。
[まだいい。自分で考えている顔の方がおもしろい]
マイクは小さくうなずいた。
侯爵には、それが問いへの肯定に見えた。
「お前の母だぞ」
「母でしたね。わたしを殺せと、パトリシアにお命じになった」
「それは、あの女が……」
「その時、あなたはパトリシアを助けると約束して、彼女の口を塞いだ。今度は誰が、あなたを助けるのでしょう」
侯爵は扉を見た。
誰も来なかった。
やがてサンダース家は爵位と王都の屋敷を失った。
領地の政務は王室から派遣された役人へ引き継がれ、侯爵の命令書と送金記録が判決文に添えられた。
家名で守られていた者たちは、それぞれ自分の罪で裁かれた。
毒杯を運んで来た役人を見て、侯爵は叫んだ。
「わたしだけではない。ネルソンもだ! 王を殺したのは、あいつだ!」
壁際にいたマイクが、そっと近づいた。
「存じております」
老侯爵の顔から、最後の血の気が引いた。
「では、なぜ」
「ただの順番です。お祖父様が、先でしたから」
侯爵は杯を見た。
イサドラにも、こんな杯が運ばれたのだろうか。
「マイク……」
助けを求める声に、孫は静かに一礼した。




