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未来への頼み-アパートの鍵を握りしめたまま、俺は旧日本海軍士官になった-【異世界年間最高104位/歴史日間最高9位/チート無歴史IF】  作者: 山口灯睦
第7章 1935年4月-

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絶望への解法

最後の1秒、、、。


この暗号化されていない無防備な平文がデータの末尾に刻印された瞬間、国家の運命をひっくり返すための『最強の弾丸』は、国際有線ネットワークを裏からハックし、海底電信ケーブルの底を伝って数千キロ離れた帝都・海軍省へ――歴史を修正するための、深夜の不気味な二つの脈動ツイン・パルスを完遂させたのだった。


その信号の余韻が消える間もなく、帝都の地下通信室では――。


海軍省・地下通信室。


湿った冷気が充満する中、原田と結城が命懸けで送信した二つの脈動ツイン・パルスが、電送機から断続的な音となって出力される。


同期モーターの唸りが止まり、静寂が戻った暗室で、頼はゆっくりと回転ドラムから、受信し終えたばかりの湿った印画紙を剥がした。


そこには、彼方の大陸から届いた【カ-四七一二・昭十】の数字が、走査線のノイズを纏いながらも、その無骨な存在感を剥き出しにして浮かび上がっている。


頼は海軍省の重厚な門をくぐり、自宅へと向かった。


あの二月騒乱の余韻冷めやらぬ帝都の街は、憲兵の巡回が激しい。


街灯の下を、重厚な軍靴の音が規則正しく通り過ぎる。


頼は、憲兵の視線を背中に感じながらも表情一つ変えず、淡々と、しかし足早に自宅の玄関を開けた。


玄関を抜けると、そこには血生臭い外界とは無縁の、微かな畳の匂いと家族の気配がある。


薄暗い居間、燈がそっと出してくれた冷たい麦茶のグラスを、頼は少し震える手で受け取った。


喉を通り抜ける冷たさが、今日一日、霞ヶ関で神経をすり減らした脳をわずかに鎮める。


頼は寝室へ入り、子どもたちの寝顔を覗き込んだ。


穏やかな寝息。


無防備な手のひら。


頼の脳裏をよぎるのは、計算尺が弾き出した確率、、、――この子らが成長した後、この空は誰の爆撃機によって焼かれるのか。


この平穏を、陸軍の傲慢な「兵站計算ミス」で破壊させてなるものか。


頼は、子らを起こさぬよう静かに書斎のデスクへ座った。


そこには、先ほど手に入れたばかりのシリアルナンバーと、陸軍造兵廠が参謀本部へ公式提出した「在庫月報」が並んでいる。


「誤差がある、、、」


頼は計算尺を手に取った。


竹とセルロイドの擦れ合う、小さく乾いた音。


計算尺が刻むのは、帝国が大陸で引き起こす泥沼へのカウントダウンだ。


頼は計算尺を弾く。


カチリ。


それは、単なる計測の音ではない。


彼の中で、陸軍という巨大なシステムを封殺するための「論理のロック」が掛かった音だ。


「石原がいくら高潔な戦略を描こうとも、現場がこの『数字』で動き出せば、防ぐ術はない」


頼はデスクに広げた海軍の兵站予算案を、ビリリ、と半分に引き裂いた。


もはや迷いはない。


「バグは修正されるのを待っているのではない。この瞬間も、帝国を内側から食い破っている」


頼は計算尺を机の端に叩きつけるように置き、立ち上がる。


窓の外には、暗い帝都が広がっている。


憲兵の巡回音が遠ざかるのを聞き、頼は懐から小さな手帳を取り出した。


そこには、山本五十六への「説得の要点」が簡潔に書き込まれている。


「数値なき理想にすがる思考停止の政治家連中、、、綺麗事ばかり並べる平和論者どもには、この数字が導き出す破滅の意味は分かるまい、、、ならば、俺がこの手でシステムの再起動リブートをかけてやる。帝国の屋台骨を腐らせる前に、この【カ-四七一二・昭十】という異物を摘出する」


頼が手帳を閉じると、そこには淡々としたスケジュールのみが刻まれていた。


もはや夜は明ける。


頼は一睡もしないまま、海軍省の自席で軍務をこなしていた。


山積する書類の山。


保身と権益にまみれた、陸海軍の不毛な予算配分案。


「陸軍は兵站を偽装して戦線を拡大し、海軍はそれに便乗して『予算の増額』を勝ち取ろうとしている。国家予算という名のプログラムは、今や矛盾だらけのバグの塊だ」


頼は深夜に解析した【カ-四七一二・昭十】から導き出した「兵站崩壊の数値」を、極小の文字で書類の余白に書き込む。


立ち上がった頼の足取りは正確で、迷いはない。


彼が向かった先は、海軍省奥深くにある山本の執務室だ。


ノックもそこそこに扉を開けると、山本五十六が執務机に向かい、何かを書き留めていた。


その小柄な身体は、しかし、海軍という巨大な組織を掌握するに十分な威圧感を纏っている。


「吾妻、、、お前、まるで亡霊のような顔色だぞ」


頼は、手元の書類の中から一枚を抜き取ると、山本の背後に歩み寄った。


「閣下。陸軍が北支で動きます。演習の皮を被った、侵攻のカウントダウンです」


頼は簡潔に、しかし鋭く、解析結果を耳打ちした。


山本の目が、一瞬で獲物を狙う「戦場の眼」に変わる。


「貴様、これが本気か、、、!?」


頼は、山本の問いを鼻で笑うように切り捨てた。


「深夜に計算尺を叩き続けるほどの数値です。陸軍の首根っこを締め上げ、この大陸の泥沼を回避するためのデバッグ。その手順と結果、すべて揃っています」


頼が言い切った瞬間、山本の指先が机の隅の小皿へと伸びた。


山本は柿の種を一つまみ、傍らの湯飲みに張られた砂糖水へ放り込む。


カリリ、という微かな音を立てて、彼はそれを口へ運んだ。砂糖と醤油の香りが、沈黙する部屋に広がる。


山本はゆっくりと咀嚼し、嚥下してから、初めて頼の顔を見た。


頼の背筋を、氷のような緊張感が通り抜ける。


山本は短く頷いた。


その目には、もはや私情はない、あるのは戦場の眼だ。


歴史というプログラムの、運命を書き換えるコードが起動する。

いつも応援ありがとうございます!物語も、山場、ひとつの佳境にさしかかっています!また、おかげさまで間もなく1000ptの大台が見えてきました。もし『続きが気になる』『面白い』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援してもらえると、執筆の大きなモチベーションになります!どうかこれからもよろしくお願いいたします致します!!

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