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未来への頼み-アパートの鍵を握りしめたまま、俺は旧日本海軍士官になった-【異世界年間最高104位/歴史日間最高9位/チート無歴史IF】  作者: 山口灯睦
第7章 1935年4月-

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その約束

12月、呉の山崎から一通の手紙が届いた。


「頼、三陸の荒波で艦首を失った駆逐艦を見たか。電気溶接を過信した結果だ。友鶴の時、お前が『数字が死んでいる』と騒いだ意味が、ようやく現場の馬鹿どもにも分かったらしい。ところで、年明けから横須賀への異動が決まった。今はその準備で休暇にしている。正月、お前の新居も一度見せて欲しい。燈さんと子どもたちにも挨拶がしたい。山崎」


「山崎らしいな」


頼は独りごちて、手紙を机に置いた。


海軍が第四艦隊という尊い犠牲を払って得た教訓を、陸軍の狂った熱量に飲み込ませてはならない。


懐の計算尺は、どれだけ洗っても目盛りの奥底に黒ずんだ「歴史の染み」を残している。それをなぞるたび、永田が死に際に託した「真理ロゴス」が、冷たく、だが確かに頼の指を焼いた。


1936年(昭和11年)正月


上大崎の自宅に、豪快な笑い声が響いた。


「いい家だな、頼! お前が計算尺一本でこの城を建てたと思うと、俺も誇らしいよ」


横須賀へ着任する直前の山崎が、手土産を抱えて現れたのだ。


「山崎のおじちゃま、あけましておめでとうございます」


四歳半になった長女・あやが、燈に教わった通り丁寧にお辞儀をする。


「おお、絢はすっかりレディだな! 頼に似ず、燈さん似で良かった!ははは!」


山崎が笑いながら、絢の頭を撫でる。


その後ろから、二歳半のつぐるがお姉ちゃんの裾を掴んで顔を出した。まだ言葉はおぼつかないが、山崎の迫力に目を丸くし、精一杯に指を差す。


「ちゃ、ちゃ!」


「ははは! そうだ、やまざきのおじちゃんだぞ、継!」


山崎が継を軽々と抱き上げると、継はその力強い腕の感覚に驚いたのか、きゃらきゃらと声を上げて笑った。


「山崎さん、ようこそお越しくださいました、立ち話もなんです、お上がりください。お食事の用意もできております」


燈が穏やかに迎え入れ、広間には華やかな正月料理が並んだ。


山崎は、絢が一生懸命に運んできた取り皿を


「おお!絢!!えらいな、ありがとう」


と受け取り、頼の向かいにどっかりと腰を下ろした。


「なあ頼。あの呉での日々、お前と『神通』での時間が、なんだか遠い昔のようだよ」


猪口を傾け、山崎がふと遠い目をした。


「横須賀への異動は決まったが、実際の配属はまだ先だ。今は宙ぶらりんな身分だよ。だがな、あの時のお前の計算に基づいた指示で、俺たちが寸分の狂いもなく動く。あの心地よい規律の感覚が、今になって懐かしくてな」


山崎は酒を煽り、庭で追いかけっこを始めた絢と継を見つめた。


「現場ってのはな、熱狂だけじゃ動かんよ。お前のような奴が弾く数字があってこそ、俺たちの命は繋がる。この平和な景色だってそうだ。なあ頼。俺はまた、お前の指示であの頃みたいに動きたい気分だよ」


「彼が暴走しなければ、その必要もないんだがな」


頼の脳裏に、石原莞爾の不敵な笑みがよぎった。


燈が継を寝かしつけ、絢を連れて奥へ下がった後、深夜の広間には二人だけの時間が流れた。


山崎が声を潜め、真剣な眼差しを頼に向けた。


「しかし頼、、、今の帝都の空気はおかしい。呉にいた時よりも、喉の奥がヒリつくような不穏さを感じる。もし、この街で何かが起きたら、あの時と同じだ。俺が現場の盾となり、お前がその背後で勝利の数式を書け。海軍同期の意地、見せてやろうじゃないか。2月の休暇には、またゆっくり話そう」


「ああ、2月にな」


頼は短く答えた。


庭の暗闇で、溶けかけた正月の残雪が、静かに、しかし確実に崩れ落ちる音が響いた。


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