1019 期末テスト終了
「はあ~~~~終わったぁ!!」
あちらこちらで背を伸ばしながらそんな言葉が聞こえて来る。七月に入り早々、三日間の期末テストで皆クタクタだ。部活に精を出す連中は、これで部活禁止令が解除になるとあってソワソワしているけど、三年生だけは学級活動が給食・掃除の後にある。面倒な話だ。しかし丸々一時間ではなく、短縮の30分であるが。
「テストはどうだった?」
「ああ、いつもより手応えはあったかな?テスト期間中、みんなで勉強した成果じゃないかな。と言っても教える事の多かった智樹にとっては結構しんどかったんじゃないか?」
「ん?そうでもないぞ。寧ろいつもよりサクサクと解けて見直しを二回しても時間が余ったくらいだ。家庭科が梃子摺って見直しが一回しか出来なかったけどな」
はぁ~、何だろ。俺たちとは頭の出来が違うんだろうか。同じ中学生とは思えないな。
「確かに家庭科は教科書外からの出題が多かったけど、寧ろ普段から家事をやってる俺は他の教科よりサクサク解けたくらいだったよ」
「ああ、やっぱり。普段手伝いをしているかどうかって感じの問題ばかりだったからな。」
「それにテスト勉強とかしようがなかったしね。あれ、イジワル問題じゃないの?」
他にも気になっていた所の答え合わせをしながら給食を食べる俺たち。
給食の時間は皆それぞれで好きなように机を移動して食べている。そういう俺は今まで智樹と机を合わせて二人で食べていたが、テスト勉強を皆でするようになってからは俺、智樹の他、智下、黒生に、布田、和多野の六人で机を合わすようになっていた。修学旅行の班で一緒にならなければ有り得なかった組み合わせだ。特にこの中に智樹がいる事自体が異様なのだが。それに智樹以外はある意味ボッチな者ばかりだ。
俺は夢の話がキッカケで。智下は話してみると明るいが普段は人と距離を置くタイプ。黒生は普段から大人し過ぎて机から離れない。布田は...いつも机に突っ伏して寝ている。そして和多野はそのあけすけな性格が災いして男女ともに嫌われていた。なので、俺と智樹以外は皆給食の時間は一人で食べていたのだが、和多野が半強制的にみんなを集めた。智下と黒生は応じたが、布田は寝る時間が少なくなると抵抗した。結局、和多野の強引な勧誘により半強制されてだったが、期末テストが終わった今日もこうして机を合わせているという事は少しは気を許したのだろうか。
「でもよ。みんなで勉強するのがああもテストに影響するとは思わなかったな」
「あ~。それ、あたしも思った。ここが出るって教えて貰った所、殆どみんな出るんだもん。びっくりしたよ」
「ああ、それはワタシも思ったね。もしや先生に賄賂でも渡したのかと...」
布田が思い出しながら染々と言うと、智下がウンウンと頷くけど、和田野...その感想はちょっと酷くね?冗談で言ってないんじゃないか?
俺、智下、布田の眉がハの字になるけど、テスト問題を予想した当の智樹は肩を竦めただけでそれをスルーした。唯一、黒生だけがそのやり取りを黙って見ていた...と言うか、モグモグとまだ口を動かしていた。食べるの遅いな。よく噛んでいると言えるけど。
「で?ちゃんと解けたんだろうな」
目を細めてみんなに問い掛ける智樹に、だいぶん、と頷く俺と黒生。しかし、他の三人は顔を横に向けた。ああ、この三人は俺と黒生が料理をしている間、智樹が咎めても遊んでいたな、と思い出した。集中力が足りないのだろう。対して俺と黒生は、僅かな時間ではあったが料理で抜けていた事もあって、智樹のアドバイスを忠実に聞き、真剣に取り組んだ差が出たのだろう。
「はぁ~~~。大丈夫か?お前たち。来年から高校だそ?」
智樹の指摘に首を傾げる三人。おいおい、嘘だろ?まさか三人とも分かってないのか?
「大丈夫か?中学までは勉強がいくら出来なくても卒業できるけど、高校では留年とか容赦なく有り得るんだぞ?」
「りゅ...留年!?それって...卒業できないって事?」
お。ここまで言って漸く気付いたみたいだ。狼狽える三人に智樹が続ける。
「いや、それ以前に無事入れたとしても、同じ学年を何度もやり直す事になるぞ?」
「ええっ!?そんなのは嫌よっ! 」
「高校、大学ってすんなり行けると思ってた...」
「いや、でもよ。スポーツ特待生とかあるじゃんか。それに選ばれれば...」
布田が得意のスポーツに期待をするが、それはちょっと...
「スポーツ特待生か。まあ、それに選ばれればあるいは。でも、そんな幻想は直ぐ棄てろ。一年の頃から優秀な成績を修めて注目されてるとか、インターハイで抜群の成績を出せば或いはだけど、そもそもスポーツ特待生を採るような学校は近くにはないだろ?それに、もしそうなったら寮に入って朝から夜中まで休みもなく陸上漬けの毎日だぞ?」
「うぐっ!で、でもよ!可能性は0じゃないだろ?」
「ああ、0ではない...けど、限りなく0だな。お前、インターハイで優勝争いできるような成績を出した事あるのか?そもそも地方大会で何位獲れるんだよ?連中は地方大会なんて目じゃない数字を出してくるんだぞ?」
「むぐっ!くそっ!見てろよ!?絶対全国に進んでやる!」
ほぉ。珍しく智樹が布田を焚き付けたな。見てた女子たちはその剣幕に圧されて黒生なんかは涙目なんだが...って、口にしたおかずをろくに噛まずに飲み込んでしまったのか。胸をトントンしている。
「でも、スポーツ特待生かぁ。それならワタシにもチャンスはあるって事よね?なんたってフダですら可能性が0じゃないくらいなんだから」
「...おい、ワタ。そりゃどういう意味だ?おれですら?お前、学校の中じゃ一番かも知れないけど、県大会じゃ埋もれてるじゃないか。まんまブーメランだぞ?」
ワイワイギャァギャァと騒ぎ出した二人を肩を竦めて見やる智樹。どうやらいつもの事のようだ。
そんな智樹の様子に智下も気付いたのか、背もたれに体を預けて残っていた牛乳を飲み干した。対してオロオロする黒生。いや、そんなの気にせず早く給食を食べちゃいなよ。
「ふ、二人とも、喧嘩しちゃ駄目なんだよ?ね?」
「む。クロが言うなら仕方ないな」
「そうね。キラリに言われちゃ黙るしかないわね。フダとはグラウンドでケリを着ければ良いしね」
「ああん?まだやるつもりか?ワタ。いつでも受けて立つぞ?」
「かこちゃん!布田くん!」
「「...はい」」
おお~。黒生が問題児二人を止めたぞ?俺の家での勉強会でも時々そんな事があり二人とも驚いて争いを止めはしてたけど、勉強でイライラしていたのか完全には鎮火しきれなかった。ハッキリ言って布田と和田野は脳筋だからなぁ。
そんな事を考えていると、教室の中が静寂に包まれている事に気付いた。ん?何だ?と見回すと、みんな何やら信じられない物を見たような表情で、こちらを見ていた。何で?と思ったけど、そうか黒生が二人を止めたからか、と思い至る。黒生が何かするのが珍しいのに、いつも騒ぎ出すと止まらない問題児二人が黒生の一言でピタリと止まったのだから、みんな驚いたのであろう。早く給食を食ってしまえよ黒生。
「みんな席に着け~。時間が少ないから手短かに済ますぞ~」
給食と昼休みが終わった後、席を戻して掃除を終えると三年だけ学級活動がある。それも通常の50分ではなく30分の短縮で、だ。
「この時間で各自の進路希望と、修学旅行の自由行動の計画表を書いてくれ。勿論、今日中じゃなく来週の水曜までで良いぞ~」
担任がそう言うと、教室内からブーイングが沸く。えらく性急な話だけど、期末テストの期間に言われていた方が面倒な話だった事を考えると、一応気を遣ってくれたみたいだ。教室の外からも同じようにブーイングが聞こえてくる。
「それと、夏休み中に学力テストがある。これは参加は自由だが、高校受験で希望校に合格出来るかどうかの判断材料になるから、出来るだけ受けるように。申し込み用紙を回すから、これも水曜までに出せよ~」
え~!?とまたもやブーイングが上がる。夏休みなのに、どうしてテストなんか...とみんな口々に言うけど、俺たち三年は受験生なんだぞ?まぁ、これはみんな参加の方向だろうから、名前書いて提出すれば良いか...おおう、費用が2100円掛かるのか。だけどこれは仕方ないな。それにしても、ついさっきまで一緒だったあの六人でまた集まるのか、と溜め息を吐いた。
「そう言やぁ、真実。例のは今夜出発だったよな?」
「ん?ああ、夢の中の話か。そうだね。やっと何とかラバが大人しくなってくれたからね。全く、いちいち宥めてから乗らないと暴れるなんて、手の掛かる話だよね」
「でも、その甲斐あって出発できるんだろ?取り敢えず帰省するのか?」
「うん。そうなるだろうね。兎に角、商材の石が無ければ他の物を扱うしかないんだけど、仕入れも売り先も当てがないから。石なら競合する物も無いし各地の宝石屋を相手に行商すれば良いけど、他の物になると...」
俺が言葉を詰まらせれば智樹はああ、とその意図を汲んでくれる。他の物だと既に業者なりが入っていて潜り込める余地は少ないだろうし、馬車ではないので嵩張る物は商売出来る程は運べないと想像は難くない。それに先ずは今出来る事を精一杯やるのが先だ。
それにしても結局、牧場に丸々二週間留まってしまった。お陰でテスト期間中に智樹から質問責めに遭う事はなかったから良かったが。
っと、みんなが集まって来たから、この話はお預けだな。智樹も俺が他の人に話すのを躊躇しているのは知っているから、それ以上は聞いてこなかった。もし、この話をしようとすると、かなり込み入った話をする事になって、小学校の時のように引かれるからな。だから今は興味を持った智樹以外には話さない事にしている。例え聞かれても、うやむやにするのはいつも通りだ。
この後、このメンバー全員が地元の同じ高校を希望している事が分かり、先程のスポーツ特待生の話はどうしたんだ?と馬鹿騒ぎが再燃するのだった。黒生、怒ってやってくれ。




