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1015 プラス3スッキリ









「お待たせ~。いやぁ、ちゃんと教えて貰えると、料理も楽しくなってくるな~ って、どうしたの?」


 鍋に落とし蓋をして弱火にした後、30分程そのままで良いって言うのでリビングに戻ると、智樹の前で智下はグッタリとテーブルの上に突っ伏していた。


「どうしたもこうしたも...こんな簡単な問題に時間を取られるなんて、思ってもみなかったぞ?」

「う゛う゛~。まさか二年の時の内容にまで戻る必要があるとは...」

「それはオレの言葉だ。何で三年にもなって連立方程式どころか一次方程式を教える羽目になるんだよ。それはそれとして...」


 テーブルの上の智下を見ながら愚痴る智樹。成る程、数学か。確かに二年の時の授業が分からないと三年の授業はキツいかもな。

しかし、智樹は言葉を止め顔を上げると、再度俺を睨んだ。



「で?土曜日に二人が襲われてたのを真実が助けたってのは本当なのか?なんでも複数の暴漢を千切っては投げ千切っては投げしたって...」


 ...はぁ?複数の暴漢?千切っては投げ?何か大袈裟な話になってないか?

と思ったら、横の黒生がコクコクと頷いて肯定している。


「ほらぁ。嘘じゃないでしょ?光輝も頷いてるし」

「いやちょっと、待て待て!何かニュアンスが違うんじゃないか?俺は襲われそうになってた二人を相手の三人から逃がしただけだぞ?確かに殴り掛かられたから、その勢いを利用して三人とも投げたけどさ」

「真実...お前、何を照れてるんだ?智下の話に黒生も頷いてるぞ?」

「...ん。間違ってない。真実くん、投げ飛ばして二人を助けてくれた。あの時の真実くん、格好...良かった」

「いやいやいや!それ、言葉としては間違ってないかも知れないけど、何か間違って伝わってるって!!」


 二人とも、そんな風に言ったら智樹が誤解して、誤解が真実になってしまうぞ?それに黒生、俺の事を格好良いだなんて...冗談言う奴じゃないと思ってたのにっ!!って、何で黒生は顔を真っ赤にして俯いているんだ?



「真実...いつからお前は正義の味方になったんだ?自分の身の危険を顧みずに助けに入るなんて...」

「仕方ないだろ?綾乃が大声で俺の名前を呼んで助けを求めたんだから!それを知らないフリして二人に何かあったら、俺が恨まれるんだよ?そんなん学校で言い触らされでもしたら、また俺、何されるか...」

「はぁ?まだそんな言い訳を?よく考えて見ろ、真実。お前さ、助けを求めたのがこの二人じゃなくても助けに入ったろ。違うか?」

「ぇ...ええっと?う~ん...」

「何でそんな考えるんだよ。真実って、そこまで薄情な奴じゃないだろ?実際に助けを求められて、この二人を助けたんだろ?」

「いや、それは名指しされたからで...」

「じゃあ、知らない女子が襲われてたとしたら、見て見ぬフリが出来るか?」

「...たぶん出来ない...と思う」


 ほら見ろ、と智樹が鼻息を荒くする。確かにあの時、他の人だったとしても俺は助けに入っていたかもしれない。大声を出して人を呼ぶと言う選択肢があったとしても。

...道場では、とことん逃げる事を教えられてるのに、な。それにしても、何で智樹は、そこまで俺がそうするって言い切れるんだ?そこまで俺の事が分かる程、付き合いは長くはない筈なのにな。

この中では俺だけが第一小学校で、他の三人は第二小学校。中学でも、この三人と同じクラスになったのは今の三年が初めてで、まだ二ヶ月も経ってない。因みに今回の修学旅行の班で、残りの二人、布田と和田野は俺と同じ二小。と言っても二人ともずっと同じクラスだった訳ではないし、つるんでいた訳でもないから、よく知った仲とも言い切れない。

ま、小学校でも中学校でも、仲の良かった友達がいた試しはないけど。





「ほら、これなら足して5、掛けてマイナス14になるだろ?」

「...足して5?足したら9じゃないの?それにこの式だと足すんじゃなくて引いてるよ?」

「いや、プラス7足すマイナス2で、括弧を外すと引き算になるだろ?ほら」


 ハッとする黒生。どうやら黒生も中二の段階で躓いていたようだ。いや、黒生の場合はプラスとマイナス、足し算と引き算の区別が曖昧だったようで、マイナスが入ると途端に弱くなっていた。しかしプラスばかりなら問題が解けていたので、試しにマイナスの混じった簡単な問題を解いて貰ったら案の定の結果だった、という事だ。中一だよ?それ。


「...でもよく分からない。プラスマイナスって何?」

「ん?そうだなぁ...プラスは黒字の月、マイナスは赤字の月で、式は年間の合計と考えたらどうだ?家計簿を付けてると黒字の月、赤字の月がどうしてもあるんじゃないか?表にして計算する時、赤字の時って自然に引き算してるだろ?あれって、マイナスを足してるんだよ。それと同じ」

「...ん。何となく分かった。でも、マイナスとマイナスを掛けるのがよく分からない」

「あ~、あれな。今、引き算とマイナスを足すのは同じってのは分かったろ?じゃあ、普通の掛け算が、前の数を何回足すのかって計算だってのは知ってるよな。例えば2×3は2を3回足しているって。じゃあ、マイナス2掛けるマイナス3は?」

「...マイナス2を...マイナス3回足してる?ん?よく分からない」

「う~ん、説明が難しいな。こうしたら分からないか?」


 そう言ってノートに書き出す俺。


(-2)× 3 =-6

(-2)× 2 =-4

(-2)× 1 =-2

(-2)× 0 = 0

(-2)×(-1)=2

(-2)×(-2)=4

(-2)×(-3)=6


「ほら、足し算で書こうとするとよく分からなくなるけど、連続した数字を掛けて行くと2づつ変化していくでしょ?」

「...あ。ホントだ。でもまだよく分からない。なんでこうなるんだろ」


 黒生がまだよく分かって無さそうなので、先程の式の横に書き足していく。


(-2)× 3 =-6  = (-2)+(-2)+(-2) =-2-2-2

(-2)× 2 =-4  = (-2)+(-2)    =-2-2

(-2)× 1 =-2  = (-2)       =-2

(-2)× 0 = 0  = 0         =0

(-2)×(-1)=2  = 0-(-2)      =0+2

(-2)×(-2)=4  = 0-(-2)-(-2)   =0+2+2

(-2)×(-3)=6  = 0-(-2)-(-2)-(-2)=0+2+2+2


「ほら、さっき言ったでしょ。マイナスを足すのは引き算と同じって」

「...ん。んん??」


 一度頷きかけた黒生が、少しだけ傾げていた首を更に傾げた。

ありゃ、これでも駄目だったか。



「赤字はマイナスって分かるんだよな?じゃあさ、嫌いな奴って自分にとってはマイナスだろ?その嫌いな奴が赤字になったら何となく嬉しくないか?ほら、マイナスとマイナスが掛け合わさればプラスだ」


 自分でも何か強引な説明だな、とは思うけど...。


「「ブフッ!!」」


 横で聞き耳を立てていたらしい智樹と智下が噴き出して笑う。


「くはははは!何だその説明はっ!確かにマイナスとマイナスでプラスだけどよっ!!」

「くぷぷぷぷっ!そんな説明、初めて聞いたわ!ウケるー!!」


 どうやらこの説明はこの二人にはウケた様だが、ウケる為の説明じゃないんだがな。仕方ない、じゃあこの説明ではどうだ。


「じゃあさ、誰かに投げ飛ばされるのって痛いから自分にとってはマイナスだよな。土曜日の襲い掛かって来た男達って黒沼にとって良い人だった?悪い人だった?」

「...悪い人」

「じゃあそれも黒生にはマイナスで良いよな。それじゃあ、俺があいつらを倒してどう思った?」

「...スッキリした」

「じゃあそれはマイナスでは無くてプラスって事だよな。男達を投げ飛ばすと黒沼にとってはプラスになった。男達は三人だったから-3、投げ技を―1とすると―3×(-1)だから...」

「...!!スッキリが3回で、プラス3だ!!」


 おおっ!やっと分かったか!黒生が今までにないくらい目を見開いて、スッキリした!というような顔をする。そして、やっと笑い止んだと思ってた二人は...。


「くぷぷ!ぷはははは!!その例え、全く例えになってないよ!!まんまじゃん!プラス3スッキリwww!マイナス掛けるマイナスはプラスって何となくそう言うもんだと思ってたけど、今のであたしでもすっごく分かったwww!!」

「ブハッ!!な、何だその説明はwww!!すげぇな真実はwww!千切っては投げをここに繋げるかwww!!」


 大ウケだった。

嗚呼、こうして誤解が真実になっていくんだな...。










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『近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)』
~2017.12.28 完結しました。

お時間がありましたら、合わせてご覧ください。
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