てがみ
お久しぶりです。
クリスマスに向けて、初枝が便箋と鉛筆を用意して……。
秋も終わり、冬の気配が近付いてきているこの頃。
保育ルームでは、クリスマスに向けて準備を始めていた――。
「はーい、皆サンタさんに手紙書いてねー」
と初枝が便箋と鉛筆を持ってやってくる。
床でそれぞれ本を読んでいた子どもたちは、初枝の方に顔を向けた。
「サンタさんくるの?」
「来るわよ〜、今年もお菓子持ってきてくれるって――」
薫からの問いに、初枝は笑顔で答える。
すると辰が「おれいの てがみだな!」と言って、初枝から便箋と鉛筆を受け取った。
それに続いて彩と杏、薫も便箋と鉛筆を受け取って、子どもたちはテーブルに移動する。
彩と杏が並んで座り、向かいに辰と薫が並んで座った。
「せんせーがとどけるの?」
「そうよ。私が責任をもって渡してくるわ」
とんと軽く胸を叩いて見せる初枝に、彩と杏は顔を見合わせてから口を開いた。
「せんせーは サンタさんと ともだちなの?」
「え?」
「わたすってことは しりあいってことでしょ?」
彩と杏からキラキラとした瞳を向けられて、初枝はこれはまずいと方向転換する。
「あー、渡すんじゃなくて……、ポストに入れてくるんだったわ! サンタさん行きのポストが、私の家の近くの森の中にあってね、皆に教えてあげたいところなんだけど、とても高い所にあるの。だから私が持っていくわね!」
「そうなんだ!」
「きをつけてね、せんせー」
納得したように笑う彩と杏に、初枝はほっと胸を撫で下ろすのだった……。
*
ちょうど子どもたちが手紙を書き始めた頃、平太は初枝にクリスマスに使うツリーと装飾を持ってきてほしいと頼まれ、取りにいっていた。
「……ここか――」
と、平太はとある部屋の前で足を止める。
用がなければ入ることもない、校長室だった。
去年サンタ役をやってくれた校長が「来年も使うなら保管しておきますよ」と提案してくれたらしく、初枝も「よろしくお願いします」と頼んだらしい。
悪い事をしたわけでもないのに、校長室に入るのは緊張する。
なんなら、今までの高校生活で校長室に入る用など一度も無かった気がする。
一つ深呼吸して、平太は扉を三回ノックした。
扉の向こうから「どうぞ」という声がして、平太はゆっくり扉を開ける。
「失礼します……」
「何か用かな?」
資料を見ていたのか、手元のファイルをそっと閉じて、校長は平太に顔を向けた。
平太はおずおずと中に入り、校長に説明する。
「えっと、梅田さ……先生に、クリスマスツリーとその装飾を取ってきてほしいと頼まれたのですが、ありますか……?」
「あぁ、あるよ。ちょっと待っててくれ――」
校長は席を立ち「もうそんな時期か、早いものだな」と呟きながら、隣の部屋に入っていく。
それからツリーの入った箱と、装飾の入った袋を持って戻ってきた。
「はい、これだね」
「ありがとうございます――」
受け取ってから、平太は気になったことを校長に訊く。
「あの、今年もやってくれるんですか?」
「ん? あぁ、やるよ。梅田さんに頼まれてね――子どもたちにお菓子を持ってきてくれますかって。去年もやったが、あんなに嬉しそうな顔を見られるなら、またやってもいいと思ってね」
思い出したのか、校長は穏やかな笑みを浮かべ、それから続けた。
「今頃また手紙でも書いているのかな?」
「はい、書いてると思います。保育ルーム出る時に、梅田先生が便箋と鉛筆準備してたの見たので」
「そうか、それは楽しみだな。まぁ、本当のサンタクロースじゃないんだが……」
そう苦笑いする校長に、平太は「そんなことないですよ」と続ける。
「あの時の校長先生は、紛れもなくサンタクロースでした。子どもたちにとっても、良い思い出ですよ」
「そうか、ならいいんだが――」
安心したように微笑むと、校長は時計を見てから言った。
「引き留めて悪かったね。今年のクリスマスも良いものになるように、私も微力ながら手伝わせてもらうから、よろしく頼むよ」
「いえいえそんな……! ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。それでは、失礼します――」
と平太は校長に頭を下げてから、校長室を後にした。
*
「戻りました――」
平太が保育ルームに戻ると、子どもたちはテーブルに集まったまま、真剣に手紙を書いていた。
「平太くんおかえり。ありがとね」
「いえいえ――」
出迎えてくれた初枝に箱と袋を渡して、平太は真剣な子どもたちを見て呟く。
「一生懸命だ……」
「でしょ? お礼の手紙書くんだって辰くんが言ったら、ちゃんと書かなきゃって皆意気込んでね。集中して書いてるのよ」
「なるほど――」
それぞれ便箋にお礼の言葉を綴って、たまに字が間違ってないかと皆で見せ合ったり、わいわいと楽しそうにしていた。
その様子をぼんやり見ていた平太に、初枝が「そうだ」と便箋を渡す。
「平太くんも、今年も書いてくれるでしょ?」
「え? あぁ、はい、書きますよ」
校長の話を聞いたのもあるが、子どもたちが書いているのに、自分だけ書かないのも気が引ける……。
初枝から便箋を受け取り、平太も子どもたちの居るテーブルに向かった。
「平太もてがみ かくのか?」
「おう、書くぞ――」
四人が見える真ん中に椅子を移動させ、平太は腰掛ける。
それから子どもたちに混ざって、平太も自分のシャーペンを取り出して、便箋にすらすらと書いていく。
それを見て、杏が「すごい……!」と目を輝かせた。
「平太お兄ちゃんはやいね、わたし はやくかけない」
「こういうのは慣れだから。杏ももう少ししたら、すらすら書けるようになるぞ――というか、俺は何も考えないで書いてるだけというか……」
と平太は自分で書いた文に目を通して、定型文だな……と少し苦笑する。
ありきたりなお礼の言葉、これでも感謝は伝わるだろうが、子どもたちのと比べると真面目すぎる気がしないでもない――。
「平太お兄ちゃんも え かこ! じだけじゃ さびしいでしょ」
と平太の便箋を覗いた彩が、自分の便箋を見せて提案する。
彩の便箋には、平仮名で一生懸命書いたお礼の言葉と、その近くに花や星などがカラフルに描かれていた。
「おお、これは気持ちが伝わる。いいな」
「でしょー!」
「わたしも、マネしていい……?」
彩の便箋を見た杏が、おずおずと彩に訊く。
彩は「もちろん!」と笑顔で頷いて、杏に色鉛筆を渡した。
「何色がいいかな……?」と相談する杏に、彩は「杏ちゃんが すきないろにしよ!」と答える。
すると近くで書いていた辰が近付いてきて、平太の目の前に便箋を突き出して言った。
「平太、みろ! じしんさく!」
と辰は胸を張って自信満々というように鼻から息を吐く。
平太は「どれどれ」と便箋を受け取って見る。
そこにはほぼ便箋を占領するように大きく怪獣が描かれていて、左下にぎり読める文字で「ありがとうございます」と小さく書かれていた。
「……おい辰、これ先に絵 描いたろ――。これじゃお礼っていうより、絵がメインじゃねえか」
「ちゃんと おれい さきにかいたし、えがメインのおれいでもいいだろ! だいじなのは きもちだ!」
辰の言葉に、平太は口から炎を吐く怪獣を見て、これはこれで面白いからいいのか?と少し考えてから、辰らしいっちゃ辰らしいか、と納得して便箋を返す。
「……そうだな――辰の気持ちが伝わるなら、これでいいな」
「おー!」
満面の笑みで便箋を受け取って、辰は初枝に見せに行く。
彩と杏が楽しげに描いているのとは対照的に、黙々と鉛筆を走らせる薫の手元を覗くと、ちゃんとお礼の言葉を書き、便箋の空白にはサンタクロースの絵を描いていた。
「さすが薫、ちゃんと書けてるな」
「ふつうでしょ」
そう言いながらも、薫は嬉しそうに少し笑みを浮かべ、それから便箋を平太に渡す。
「じ、まちがってない? だいじょうぶ?」
平太は受け取って、ちゃんと目を通して頷いた。
「ん、大丈夫だ。ちゃんと書けてる。よく出来たな」
「ほんと? ならよかった、ありがとう――」
そう照れたように笑ってから、薫は便箋を受け取って初枝に持っていく。
気付けば彩と杏も書き終えて、便箋を初枝に見てもらっていた。
平太は自分の便箋に目を落とし、これじゃ寂しいよな……と思う。
それから校長の言葉を思い出して、平太は「そうだ」と呟いてシャーペンを走らせた。
それから書き終えて、平太は便箋を初枝に渡しにいく。
「――あ、平太くんも書けた?」
「はい、書けました。よろしくお願いします――じゃあ子どもたちと遊んでますね」
「ありがとう。よろしくね」
子どもたちの方に向かう平太を見送って、初枝は改めて皆に書いてもらった便箋に目を通した。
それぞれ一生懸命書いたのが伝わってきて、これなら校長先生も喜ぶわね、と初枝は思う。
「あら……? ふふ、よく描けてる――」
初枝は平太の便箋を見て、思わず笑みをこぼした。
そこにはお礼と労いの言葉にプラスして『去年の子どもたちの反応を描いておきます』と書いてあり、近くに子どもたちの似顔絵であろう絵が名前と共に描かれている。
皆にっこりと笑顔で描かれていて、それだけで楽しかったことが伝わってくるようだ。
「……今年のクリスマスも、きっと楽しくなるわね」
「ふふふ」と初枝は楽しそうに笑って、子どもたちから貰った便箋を、丁寧に封筒にしまうのだった――
その後、手紙を貰った校長
校長「これは……(一通り目を通して)――頑張ろう(微笑み)」




