息抜き
大変ご無沙汰しておりました(_ _)
前回から続き、ハロウィンのお話。
ハロウィン当日。
平太は明良も連れて、保育ルームに向かっていた。
もちろん、両手にはお菓子が入った袋を持って――。
「……俺まで呼んで何かあるのか?」
明良が隣を歩く平太に訊くと、平太はよくわかったなと意味深に笑う。
「まぁ、何もなければ呼ばないよな!」
「おい」
「ははは、大丈夫だ、心配することはない。お菓子をあげることだけ考えろ」
「お前な……」
ぐっと親指を立てて見せる平太に明良が呆れた顔をしていると、目的の保育ルームに着いた。
平太が「じゃ、入るぞ」とドアを開けると、子供たちの視線が二人に集まる。
「よ、来たぞ」
「失礼します……」
おずおずと明良も平太に続いて中に入ると、子どもたちがわいわいと集まった。
「明良だ!」
「ひさしぶりだね」
「げんきだった?」
「……おべんきょうたいへん?」
四人からの質問に、明良は久々だなこの感じ……と思いながら答える。
「久しぶり、まあ、元気だよ。勉強もそれなりに頑張ってる」
そう明良が答えると、四人はそっかーと口を揃えて笑う。
にこにこと笑う四人に、平太が疑問に思ったことを口にした。
「……というか、梅田さんは?」
姿が見当たらないなと平太が周りに視線を向けると、辰が「ちょっとじゅんびしてくるって」と答え、薫が「きがえてくるって」と付け足す。
「きれいになってくるわねって、せんせーわらってたよ」
「あたしたちもあとでしてくれるって」
と杏と彩は顔を見合わせて笑った。
「……なぁ、準備ってなんだ? 聞いてないんだけど」
「ん? あぁ、言ってない」
「は——?」
平太に訊いた明良が眉間に皺を寄せた時、保育ルームのドアが開いて、魔女の恰好に扮した初枝が何やら大きな袋と、手提げを持って現れた。
「まぁ、平太くん来たのね――明良くんもいらっしゃい!」
ぽかんと呆れる二人をよそに、子どもたちはキャッキャと笑って今度は初枝の周りを囲む。
「すげー、せんせーまほうつかえるの?」
「使えないわ。でも皆を笑顔にすることは出来るわよ?」
と辰に答える初枝。初枝は「さ、何かを言えば、皆を笑顔にするわ。でも言えなかったらそれもなし。皆で考えてみて」と笑顔で四人に投げかける。
子どもたちは「なんだろなんだろ」と顔を見合わせて考え始める。
子どもたちが考え始めたのを見守ってから、初枝は平太と明良に身体を向きなおした。
「さて……。ふふ、どうかしら、似合ってる——?」
魔女の三角帽子に、黒いマント、おもちゃのステッキを持った初枝は、るんるんと回って見せる。黒いマントがふわりと浮き上がって、平太と明良は本物の魔女みたいだと一瞬思った。
「……、似合ってますけど、作ったんですか?」
「ふふ、ありがとう。そうなの、ちょっとだけね?」
平太に微笑んでから、初枝は「そうそう!」と思い出したように大きな袋を漁りだした。
がさがさと袋を漁って、初枝は「あったあった」と二人に手渡す。
「「……これは?」」
「二人の衣装よ、きっと似合うわ」
ふふふと口元に手を当てる初枝を見て、二人は受け取った衣装を見てから顔を見合わせた。
目線だけで「どうする……?」「見るだけみるしかないだろ?」とやり取りをした後、平太と明良は渡された衣装を広げる。
「おお……!」
「おお……?」
衣装を見て感嘆の声を出す平太と、少し不思議そうに首を傾げる明良。
平太はドラキュラ、明良は包帯男の衣装だった。
「カッコいいですね!」
「包帯男……」
文化祭であまりいい思い出のない平太は嬉しそうだが、明良はまた子どもたちに怖がられるのでは……ともやっとする。
そんな二人に、初枝は着替えてきてねと隣の部屋に促すのだった——。
そして、二人が着替えを終えて戻ってくると、子どもたちも変身していた。
辰と薫はかぼちゃの被り物。彩と杏は猫と犬のカチューシャを頭に付けていた。ちゃんと両手には犬と猫のモチーフになっている手袋をしている。
「わぁ、お兄ちゃんたちかっこいい……!」
「うんうん、似合ってるよ……!」
きらきらとした瞳を向けてくる彩と杏に、平太と明良も笑った。
「彩と杏も似合ってるぞ、可愛い」
「そうだな」
「ふふふ、ありがとー!」
「ありがとう……」
頬をほんのり赤く染めて笑う彩と杏に、二人は可愛いなと思いつつ、辰と薫に顔を向けた。
「……なんでかぼちゃなんだよー! おれもかっこいいのがよかったー」
「かぼちゃ、おいしいよ?」
「そういうもんだいじゃねーだろー?」
「そう?」と首を傾げる薫に、辰は納得いかないと頬を膨らませる。
「きょうりゅうとかのがよかった!」
「……ごめんね、ハロウィンといえばかぼちゃしかないと思って……。でもカッコいいわよ?」
「むーー……」
頬を膨らませる辰を見て困ったように微笑む初枝へ、平太が助け舟を出すように間に入った。
「先生を困らせるやつは、血を吸ってしまうぞ」
「すえるもんならすってみろ」
ぶーぶーと口を尖らせる辰に、平太は残念だと首を振る。
「……ならば仕方ない、あいにく私は血が主食ではないのだ。包帯男にぐるぐる巻きにしてもらおう」
「え」
「さあ、やれ、包帯男」
「マジで? ……仕方ない、ぐるぐる巻きにするぞー」
平太に促され、明良は仕方なく襲うフリをした。
辰はいやいやと首を振る。
「ごめんなさいするから、いやだ」
「……ならよろしい、君にはお菓子をあげよう」
と平太がそっと後ろから来て、お菓子を取り出して辰に渡す。
「いいの……?」
「あぁ、その代わり……、俺にも菓子くれ」
「おい——」
辰にせびる平太にツッコんでから、明良は辰に言った。
「梅田さんにあげたら? ごめんなさいも込めてさ」
「せんせーに?」
「そうそう。平太にあげるより全然いいと思うよ」
「なんだと?!」
後ろで異議ありと手を挙げる平太を無視し、「わかった」と辰は頷くと、彩と杏と話している初枝に向かって歩いていく。
そして準備をしてきたであろうお菓子をポケットから出すと、初枝に手渡した。
初枝は「まあ……!」と少し驚いてから、小さく笑って辰の頭を撫でる。
「……たまにお前、良い奴だよな」
「たまにかよ——お前もな」
と様子を見守っていた平太と明良は、そう言い合って笑うのだった。
「——さ、皆、お菓子食べましょうか」
と初枝はお菓子の入った手提げを掲げて提案する。
子どもたちは「はーい」と手を挙げて頷いた。
「あ、梅田さん、俺たちのも食べてください」
「持ってきたんで——」
平太と明良も初枝にお菓子を渡し、お茶の準備を始める。
子どもたちはもう席に着いて食べる気満々だ――。
「……そういえば、皆はわかったかしら?」
よいしょっと、と初枝がお菓子をテーブルに広げてから子どもたちを見渡す。
「平太くんと明良くんも、わかってるわよね?」
「まぁ、なんとなく、はい」
「ハロウィンといえばってやつだ」
と明良と平太は頷く。子どもたちも顔を見合わせて頷きあった。
『わかったよ!』
「ふふ、じゃあ、皆で言いましょうか」
初枝は笑顔のまま、せーの、と息を合わせる。
『トリックオアトリート!』
子どもたちと平太、明良が口を揃えて言うと、初枝は嬉しそうに頷いた。
「ふふ、正解——。じゃあ、いただきましょうか」
『いただきまーす』
「「いただきます」」
各々が持参したお菓子に手を伸ばし、おいしいと笑顔になる。
子どもたちはきらきらと瞳を輝かせ、平太と明良は「久々にお菓子食べた気する」「確かに」と口を動かしながらお菓子を口に運ぶ。
初枝はそんな皆を微笑みながら見守り、子どもたちはもちろんだけど、二人の息抜きになったかしら……とお茶を啜る。
ふと二人に視線を向けると、二人とも笑顔で楽しめているようで、よかった……と初枝もお菓子に手を伸ばすのだった——
初枝「トリックオアトリート、なんて……」
平太「どうぞ!(和菓子を差し出す)」
明良「どうぞ!(お茶を差し出す)」
初枝「ふふ、ありがとう(微笑み)」




