準備と絵本
お久しぶりです…!
平太「めちゃくちゃ遅くなりましたが、明けましておめでとうございます…!」
子どもたち『ことしも、よろしくおねがいします!』
初枝「ふふ、昨年もありがとうございました」
高校最後の文化祭が終わり、勉強により一層力をいれつつも、普段と変わらず保育ルームに通う平太。
子どもたちは、これからくるハロウィンにもう心を躍らせていた——。
「おかしいっぱい~」
「気が早いな……」
両手を広げて言った辰に、平太が課題から顔を上げて、一旦区切りのいいところでツッコむ。
薫は近くで絵本を読んでいて、彩と杏は二人で人形の着せ替えをしている。
「まだ一週間くらいあるだろ」
「もう、いっしゅうかん、だぞ。おかしいっぱいもらうんだ」
ムフフと笑いを堪えながら言う辰に、平太は釘を刺す。
「お前、貰えるだけだと思ってるだろ」
「え? ……うん」
「お菓子貰えるだけだと思ったら、大間違いだぞ。トリックオアトリート、お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、って意味なんだからな。辰も言われたときにお菓子持ってないといたずらされるかもな」
まぁ、子どもが言われることは多分ないんだけどな、と内心付け足して、平太は辰の反応を窺う。
辰は最初こそルンルンしたようにしていたのが、徐々に険しい顔になった。
「なら……、おれもおかしもってくる! そしたらいたずらされないもんな!」
「どうだかな~、一個二個とかじゃ足りないからな」
「う……、そしたら、いっぱいもってくるからいい!」
「おー、頑張れよ——」
にひひと平太は当日が楽しみだと笑った。
すると絵本を読んでいた薫が本を閉じて顔を上げた。
「平太もおかしもってくる?」
「俺? そうだな、去年は持ってこなかったから、今年は持ってこようかな。皆にあげたいし」
「そっか。じゃあぼくももってくる。こうかん、してくれる?」
「良いぞ」
「やくそくだよ」
「はいはい——」
嬉しそうに笑って、薫は絵本をまた広げる。
彩と杏も人形を持って、何の話かとやってきた。
「おかしのはなしー?」
「たべるの……?」
違う違うと平太は笑って、ハロウィンだよと伝える。
「お菓子持ってくるって話」
「あたしはあまいおかしがいいなー、チョコとかアメとか」
「わたしも、あまいほうがいいな……!」
と彩と杏は頷き合った。
「やっぱり甘い方がいいか、スナックも買ってこようと思ってるけど」
「しょっぱいのもたべたいかも」
「おいしいからね」
と彩と杏は手を合わせる。
貰えるなら何でもいいんじゃないか?と平太は思いつつ「じゃあ両方持ってくるよ」と二人に言った。
「やった、ありがとう平太お兄ちゃん!」
「わたしたちも、おかしあげるね……!」
ニコニコして言う二人に、平太は「ありがとな」と笑いつつ、これじゃあ結構お菓子買わないとだな、と思う。
スーパーかコンビニにでも寄って、お菓子の詰め合わせとポテトチップスとか買えば、大丈夫かなと考えながら、平太は少し離れた所で微笑んでいる初枝を見つけた。
「……どうかしましたか? 梅田さん」
平太が声を掛けると、初枝は「いいえ」と口元に手を当ててクスリと笑う。
「なんだか、今年は楽しくなりそうだと思って——」
「そうですか?」
「ええ。今年は私も頑張っちゃおうと思って」
「……何をですか?」
一人楽しげに笑う初枝に平太が訊くと、初枝はフフフとまた何か企んでいるかのように笑って言った。
「ちょっとね、子どもたちにもサプライズで、変装しようと思ってるの。平太くんも楽しみにしててね」
「……変装、ですか」
「そう。でも怖いのをやるわけじゃないから、楽しみにしててもらえれば、嬉しいわ」
と初枝はフフフとまた笑う。
平太は初枝がどんな変装をするのだろうかと思いながら、訊いたら楽しみがなくなっちゃうよな……と考えて、当日の楽しみにしておくかと訊くのをやめた。
「せんせー、なにかするのか?」
「ん? フフ、当日のお楽しみよ」
初枝は訊いてきた辰に、シーっと人差し指を口に当てて笑う。
辰はふーんと言って、薫のもとに行った。
「とりあえず、ハロウィン当日は頑張るわね。お菓子もいっぱい準備して、平太くんにも手伝ってもらうからね」
「わかりました——って、俺は変装とかしないですよね……?」
恐る恐る平太が訊くと、初枝は一瞬真顔になってから少し口角を上げて見せる。
「どうかしらね」
「え……」
「フフフ」
「ほんとにやるんですか?」
「大丈夫、衣装はもう準備出来てるから」
任せといてと胸を叩く初枝に、平太は着せる気満々じゃないかと思いながら引きつった顔になった。
「俺だけですか……?」
「私も着るし、大丈夫よ。なんなら明良くんも連れて来てもいいわね。一応あるから——」
抜かりはないわと微笑む初枝に、最初から着せる気だったんだな……と平太はスン……となる。
とりあえず、明良も絶対連れてこようと思う平太だった。
「平太あ、本読んでー」
「お?ああ、わかった——」
辰に呼ばれて振り返ると、いつの間にか四人が真ん中にスペースを開けて座っていた。きっとそこに平太が座るのを見越してのことだ。
辰と薫の横に二冊、彩と杏の横に二冊、きっと各々読みたい本を文化祭の時に司書さんから貰った本の中から選んで持ってきたのだろう——。
「よし……、じゃあどれから読むんだ?」
平太が真ん中に座って訊くと、まずはこれと薫が本を差し出した。
「お、何だ、辰じゃないのか」
平太が本を受け取りながら「珍しいな」と呟くと、辰が胸を張って答える。
「平太がせんせーとはなしてるあいだに、きめといたんだ。そうすればけんかにならないだろ」
「ちょっとけんかみたくなっちゃったけど……」と苦笑いする杏。
「あ、それはないしょだっていったろ!」と辰が慌てる。
「でもほんとだもん、杏ちゃんのいうとおり。ね」と彩は頷いて薫に同意を求める。
「うん、辰ゆずらないから」と薫も頷く。
「やっぱな——。でも、来年からは皆知らない奴らとも仲良くしなきゃいけないんだからな、思いやることは大切だぞ。でも合わない奴もいるだろうから、そこは自分との話し合いだな」
と平太は自分で言いながら、少し苦笑いして四人の頭を撫でた。
四人とも平太を見つめて、少し不思議そうな顔になる。
平太は気を取り直すように、手を一回叩いた。
「さて、薫のやつから読んでいくか——」
そう平太が言うと、四人は平太の広げた本に顔を向ける。
そして読み始めると、四人とも静かに話に耳を傾ける。
途中「どういうこと?」と訊かれることもあるが、あとは楽しそうに話を聞いていたので、平太は成長したんだなとしみじみする。
平太が来たばかりの頃はすぐに「なんでなんで」と質問攻めにされたものだ——。
「……おしまい」
読み終えると、四人は満足そうに笑った。
それから杏が「つぎは、これよんで」と本を差し出す。
余韻に浸らないのか……と他の三人を見ると、皆キラキラと目を輝かせていて、そんなに楽しみなのかと少し驚きながら、平太は本を受け取った。
「……面白いか?」
『うん、面白い!!』
ふいに口から漏れた言葉に、四人があまりにも笑顔で返してくるので、平太は少し恥ずかしくなりながら「そっか……」と呟いて、また本を広げる。
「よし、二冊目いくぞ」
『はーい!』
嬉しそうに笑う子どもたちにつられて、平太も思わず笑顔になって読み始めた。
読み聞かせながら、司書さんから貰った本、全部読めそうだな……と平太は微笑むのだった——
明良(なんか、寒気がする…風邪か…?)




