その時は
お久しぶりです…!
高校最後の文化祭。
文化祭二日目。これが本当に、高校最後の文化祭。
平太は保育ルームに向かっていた。
廊下を歩きながら、せっせと準備をする生徒たちを横目に見ながら、こうやって準備もしないで子どもたちと回れるって、改めて考えると凄いな……と平太は思う。
「委員長に感謝だな……」
そっと手を合わせて、平太は心の中でフリーにしてくれた委員長に感謝した。
「……よっし、楽しむぞー」
と平太は一人笑って、保育ルームに急ぐのだった。
*
「失礼しまーす──」
保育ルームに入ると、キャッキャとはしゃぐ子どもたちと、初枝が準備をしているところだった。
「あら、平太くんもうこっちに来ても大丈夫なの?」
「はい、もう最初から楽しんできなさいって、委員長から言われたんで」
と平太が笑うと、初枝も「そう、なら良かったわね」と優しく笑う。
「……じゃ、平太くんも来たことだし、皆も準備出来たし、行きましょうか」
「はい」
『はーい』
と子どもたちは元気よく返事をして手を挙げた。
廊下に出ると、やはり一般の人たちも来ているので、少し混んでいる。
去年のようにならないよう、平太は辰と薫の手を繋いでいる。
彩と杏は初枝と繋いでいるので、はぐれることはないだろう──。
去年、平太は辰と杏とお化け屋敷を出た後、はぐれてしまったのだ。
平太は思わず、二人の手を握り直す。
「……平太、どうした?」
「ん? ……いや、ちょっとな」
「平太、だいじょうぶだよ、まいごにならないから──」
薫がそう言うと、辰も思い出したのか平太を見上げて言った。
「そうだぞ! おれがて、にぎってるんだからな!」
自信満々というように言った辰に、平太も笑って頷く。
「ははっ、そうだな──」
そして平太たちは、気になるクラスを回り始めた。
最初は駄菓子屋。懐かしいお菓子に初枝が「まあ!」と目を輝かせ、子どもたちも「はじめてたべる……!」と興味津々。
平太も懐かしいのと初めて食べる駄菓子を楽しんだ。
次はステージを見に行き、生徒が練習してきた成果を見る。
曲に合わせて楽しそうに踊る生徒を見て、彩と杏は「すごーい!」と楽しそうに手を叩いていた。
辰と薫はぽけーっとダンスに魅了された。
それから料理研究部でオムライスを食べ、お昼を済ませた。
「……あ、そういえば司書さんに時間があったら図書室に来てくださいって言われたんだけど、これから行ってみる?」
初枝の問い掛けに、平太と子どもたちは頷く。
「図書室って確かイベントやってましたよね?」
一息吐きながら平太が初枝に訊くと、初枝も「ふぅ」と息を吐いて答えた。
「そうね。確か廃棄になる本の販売とかだったかしらね」
「ですよね。何か面白いのあったら買おうかな──」
「ぼくも、かいたい……!」
と薫がキラキラした瞳を平太と初枝に向ける。
「そうだな。欲しいの何か見つかればいいな」
「うん!」
嬉しそうに頷いた薫に微笑んで、初枝は「それじゃ」と手を合わせた。
「休憩も済んだし、そろそろ行きましょうか」
「ですね──」
わくわくとした顔をする薫に微笑んで、平太は「じゃ、図書室行くぞー」と先導する。
子どもたちと初枝は『おー』と平太の後に続くのだった。
図書室に着くと、それなりにお客さんが図書室に入っていた。
平太たちが室内を見ていると、司書さんが気付いて近付いてきた。
「来てくれたんだ、楽しんでる?」
司書さんに訊かれ、平太は頷く。
子どもたちも「たのしー!」「たのしいよ!」と口々に答えて、司書さんは微笑んだ。
「そっかそっか。楽しめてるならいいんだ──そう、で、今日来て貰ったのには訳があって……。ちょっと待っててね」
と司書さんは裏に入って行く。
それから少しして、段ボールを抱えて戻ってきた。
「お待たせ──っと、これ、保育ルームに寄付しようかと思いまして」
「え、いいんですか?」
「はい。もう置く場所もなくて……。捨てるのも忍びないので、よければぜひ」
そう司書さんに言われ、初枝は「ありがとうございます」と軽く頭を下げる。
「大切にしますね」
「……ってことは、俺が保育ルームまで運ぶ……?」
「そう、なるわね」
「ごめんね、僕が運べれば良かったんだけど、この後の片付けもあるから……」
「申し訳ない……」と司書さんは苦笑いした。
平太も「大丈夫ですよ……頑張ります……」と苦笑いする。
「皆に読み聞かせてあげてね、難しい本も少しあるから」
「わかりました。……じゃあ、先置いてきますね──」
と平太は段ボールを抱えて、がんばれーという子どもたちからの声援を背中に受けながら、図書室を後にした。
*
「……っしょっ、と──はぁ……疲れた……」
段ボールをテーブルに置いてから、平太は大きく息を吐いて、ふう、と一息吐く。
それから段ボールに入れられた本を見て、ぼんやりと考える。
「……何冊、読み聞かせ出来るかだな──」
段ボールの本を数冊手に取って、これは辰が好きそう、これは薫が好きそう、こっちは彩で、こっちは杏かな、そう考えながら、平太は「ははっ」と一人笑った。
「ま、読み聞かせ聴いてくれるかなんだけどな……」
そう呟いて、平太は本を段ボールにしまう。
「…………」
「平太あ? まだー?」
呼ばれて振り向くと、辰がドアの前に立っていた。
後ろには初枝と三人も窺うように平太を見ている。
「おー、今行く──」
ま、読み聞かせてって言われたら、その時は楽しんでやればいいかと思いながら、平太は皆の元に向かうのだった──
平太「……全部読めたらいいな──」




