怖い話
悪ふざけ。
夏休み最終日の前日。
初枝の提案で、怖い話を聞くことになった。
「じゃあ皆、心の準備はいい?」
と初枝が平太たちを見渡す。
「大丈夫よ。そんな怖くないから」
と初枝は手をひらひらと横に振る。
「俺、ちょっとトイレ行ってきます……」
と平太が立ち上がる。
そんな平太を辰が引き止める。
「平太にげんなよー、こわいのか?」
「べつに怖くねえよ。普通にトイレ行こうと思って……」
と平太が若干顔をひきつらせて言う。
「あ、そういえば──そこのトイレ、出るらしいから気をつけてね」
と初枝が笑って平太を見る。
「あ、嘘です。トイレ行かなくても大丈夫……」
「冗談よ。行ってきて」
「…………いいです──」
と平太は諦めて座り直した。
「いいのに。行ってきても──」
と初枝はふふふと口元に手を持ってくるのだった。
室内は、カーテンを締め切って電気も消してある。
「……じゃ、始めましょうか──これはまだ私が小さかった頃、お母さんに聞いた話なんだけどね……。好きな人にフられて、そのあと事故で亡くなった女性がいたんだって」
と初枝が雰囲気を出して話し出す。
平太はあぐらをかいて、足を両手で掴んでいる。
辰は平気らしく、楽しそうに初枝の話に耳を傾けている。
薫は苦手らしく、ギュッと体育座りをしている。
彩と杏も、お互いの手を握りあっていた。
「……そして、好きな人の目の前に来た女性は言ったの──」
と初枝はためてから言った。
「『迎えに来たよ……──』って」
背筋に寒いものを感じて、平太は身震いした。
「……はい、おしまい。あんまり怖くなかったわね──」
と初枝は立って、カーテンを開けにいく。
「……終わった……」
ほっと平太は息を吐いた。
「平太、こわがってたろ」
「は? べつに……怖がってなん──うわあっ?!」
と辰の方を見ると、辰ではなかった。
いつのまに持ってきていたのか、おもちゃの長髪のカツラを貞子のようにして被っていた。
「何してんだよ!」
「ははは、平太ビビってやんの〜」
「このやろ……」
と平太がカツラを取ろうとすると、辰は避ける。
そして今度は、彩と杏の方に忍び寄っていく。
「ばあ──」
「ひゃっ」
「キャアッ」
と二人は驚く。
「辰くんやめてよ……!」
「辰サイテー」
と杏と彩に言われ、辰は今度薫の方にいく。
「薫〜」
「ひっ?!」
と薫は近寄ってくる辰を見て、逃げ始める。
「薫〜、にげんなよー」
「こないでっ! やだっ!」
「薫〜」
「やっ……平太ああああっ──」
と薫が泣きそうな声で平太に抱きつく。
「辰、やめろよ。薫がマジで怖がってるだろ」
「わかった……。薫、ごめんな」
「……うん」
と薫は平太に抱きついたまま頷いた。
「そういえば梅田さんは?」
と平太は部屋を見回して訊く。
カーテンを開けてから、姿が見えない。
「となりのへやだな! おれおどかしてくる──」
と辰は走っていく。
「……大丈夫か?」
「うん……だいじょぶ」
と抱きついていた薫は離れた。
すると、辰が逃げるようにして走ってくる。
「どうした? てかカツラは?」
辰はカツラを被っていなかった。
それよりも、辰は真っ青な顔をして隣の部屋を指差した。
「何だよ……?」
と平太は隣の部屋を見る。
すると長い髪を垂らして、ふらふらと誰かが歩いてくる。
「……梅、田さ、ん?」
「迎、えに……来、たわ、よぉおおお──」
「「「わあああああっ──」」」
「「キャアアアアア──」」
五人が絶叫する。
すると、その誰かが慌てて謝る。
「ごめんね、ごめんね──私よ、私」
と初枝がカツラを取って顔を見せる。
辰が被っていたのを、初枝が被っていたのだ。
それでも初枝の顔は、口裂け女のような化粧をしているので、普通に不気味だった。
「怖さが足りないかと思って……ごめんね?」
『…………』
五人は何も言わずに、初枝を見つめていた。
このあと初枝は、子どもたちの機嫌を直すのに、結構な時間を費やしたのだった──
悲鳴を聞いたサッカー部。
先輩「ん?覗きか?」
明良「違うと思いますよ……」
夏休みが終わるので、休日投稿になります。




