頼むよ!
サッカー部が出てきます。先輩も。
ある晴れた日。
平太は、明良とサッカー部の先輩に頼まれていた。
「頼むよ! ちょっとだけでいいんだ。一緒にやってもらえないか? 一年が最近、怠けてきててな。それで、何の部活にも入ってない君に試合に入ってもらって、一年に『何の部活にも入ってない人に負けた……』という危機感を与えたいんだ」
「……はぁ」
と平太は先輩を見る。
先輩は折れる気がないようで、真っ直ぐ平太を見ている。
ちらっと明良を見ると、頼む。という目をしていた。
「あら、何の話?」
と初枝が窓越しで会話をしていた平太たちに気づいてくる。
「梅田さん、ちょっと平太借りてもいいですか?」
「え?」
と明良の問いに初枝は首を傾げる。
そこに平太が口を挟んだ。
「悪いですけど、俺手伝いに来てるからできませんよ。すいません」
「それはその人に決めてもらうことだ。あのですね……──」
と先輩が初枝に向かってさっきの話をし始めた──。
「なるほどね……。それで平太くんを……」
聞き終えてから、初枝は腕を組んで頷く。
そして、そうね。と初枝は言ってから、
「いいわよ。平太くん貸すわ──」
と微笑む。
「えっ!?」
隣で驚く平太をよそに、話は進んでいく。
「じゃあ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。平太くんをよろしくね」
「もちろんです! じゃ、準備してくるから。伊川、あと頼んだ」
「はい──」
先輩は軽い足取りで、サッカー部の部室に向かって走っていった。
「平太、頑張ろうな!」
「…………」
平太は、何でこうなった……? と内心もやもやしている。
明良はそんな平太に耳打ちする。
「まさか、一年に負けるとかないよな?」
「は? 当たり前だろ。何もやってないとはいえ、二年だぞ?」
「そうこなくっちゃな! じゃ、来いよ」
「やってやるよ──!」
明良と平太が話していると、初枝が遠慮がちに会話に入ってきた。
「私たちも、見に行ってもいいかしら? ……子どもたちにも聞こえてたらしくて──」
初枝が見た視線の先には、わくわくと平太を見つめる四人がいた。
「もちろんですよ。ぜひ──」
と明良が笑って頷く。
「良かった。じゃあ皆準備しましょう」
『はーい!』
そして準備を始めた初枝と四人を見て、平太は負けられないんじゃね……? と思った……。
*
校庭に移動して、平太はゼッケンを貸してもらった。
「とりあえず、五点先取したら終わりね。先に点取って勝とうな。よろしく」
と先輩が親指を立てる。
「……頑張ります──」
と平太も頷いた。
二、三年と平太対一年。
一年はこれから何をやるのかわからず、ただ不思議そうに明良の隣に立つ平太を見ている。
「……じゃ、これから五点先取の試合やるから──一年、本気で勝ちにこい。わかったか」
『はい……!』
「平太、準備運動したか?」
「ばっちり──」
足首をくるくる回して、平太は明良の問いに頷いた。
そして、試合開始の笛が鳴った──。
*
それから、二点は先輩が決め、一点が明良。一点が平太と上手くいっていた。
だが、一年も頑張り三点取っている。
初枝たちは日陰で応援している。
「平太ー! がんばれー! あといってーん!」
「がんばれー!」
辰と薫が声を張る。
彩と杏は、初枝としゃがんで何かを準備していた。
「平太ー! もっとはやくー!」
と辰が指摘する。
平太はその声に反応して、速度を上げる。
「平太はやい!」
と薫が言っているとき、平太に追われていた一年は、気が気ではなかった。
「ヘイパス!」
「はい! あ──」
思わず一年は、明良にボールを渡してしまった。
「何やってんの?!」
「ごめん──つい……」
と一年が言葉を交わしている間も、
「伊川、そのまま行け!」
と先輩の指示が飛ぶ。
明良はそのまま走って行くも、一年が邪魔してくるので、平太にボールを回す。
「平太っ──!」
「おっし!」
受け取って、そのままシュート──
平太の蹴ったボールは、キーパーの手をすり抜け、ゴールの隅に吸い込まれた。
「よっしゃあっ!」
「やったな!」
と平太と明良はハイタッチをする。
一年は悔しそうな顔をしていた。
「くそっ……」
「……負けた──」
ボールを渡してしまった一年と、もう一人の一年は汗を拭う。
そこに先輩が来て言った。
「悔しかったか?」
「……はい」
「じゃあ……、本当の試合ならもっと悔しいだろうな──」
と先輩は二人を見る。
二人は一瞬目を見開いてから、視線を地面に落とした。
「今みたいな気持ちにならないために、俺たちは練習してるんだ。本当に悔しいと思ったんなら、練習試合でも何でも、本気でやれ」
「「はいっ……」」
二人は真剣な顔で頷く。
明良たちサッカー部員も、はいっ! と返事をした──。
*
平太は一足先に、初枝たちのもとに戻っていた。
「お疲れ様」
「はい……意外と疲れますね……」
と初枝に言ってから、平太はタオルで顔を拭く。
そんな平太に、辰と薫が興奮しながら話す。
「さいご、めっちゃすごかったぞ!」
「ゴールに、ボールがスッ……て! 平太、かっこよかった!」
「あはは……ありがとな」
と平太は笑う。
すると彩と杏が飲み物を平太に渡した。
「おつかれ」
「さまです」
「おお。サンキューな──」
と平太はその飲み物を飲む。
「急だったから、スポーツドリンクは用意出来なかったけど、二人が一生懸命ボトルに容れたのよ」
と初枝が微笑んで言う。
「……美味しい」
と平太は飲んでから笑った。
それはいつも家でも飲んでいる麦茶だったが、いつもより少し美味しく感じた平太だった──
帰ってきた平太を見て。
凌平「お前……焦げた?」
平太「焦げた!?(驚)」




